2023/12/02

西スマトラの食卓①

パダン料理 Padang_West Sumatra 2023


今年の、8月末から9月の頭にかけて、西スマトラに旅行に行っていました。
美味しい美味しい、西スマトラのごはんを食べに。そして、気づけば12月。今年の記事は今年のうちに。


西スマトラ州沿岸のパダン/Padangという街から、ブキティンギ/Bukittinggiという山の街にかけて。
パダン料理/Masakan Padangは、インドネシアごはんが好きな方ならすぐピンとくるかと思います。
インドネシア各地のみならず、世界各地で出会うことができる、
インドネシア料理の中では最もポピュラーな地域料理がパダン料理です。
白いごはんにスパイスフルな肉料理や魚料理、カレーのようなソース、そして唐辛子のサンバルがパダン料理の基本。
在インドネシアの外国人たちも、母国への一時帰国後インドネシアに戻ってきて最初に食べたいものとしてよく挙げます。

パダン料理 Jakarta_2023

かく言うわたしも、時々無性に食べたくて居ても立っても居られなくなります。
今も、写真を見返していて、本当につらい(笑)。

店先に料理を盛った皿を積み上げて陳列し、
店内に入ったお客さんのテーブルにもずらっと料理の皿を並べるのが圧巻のパダン料理です。

パダン料理店の店頭ディスプレイ Padang_West Sumatra 2023

パダン料理 Jakarta_2023

スパイスフル、と先に書きましたが、
インドネシアの中でもスマトラ島、特に西スマトラは、とりわけふんだんにスパイスを使います。
どれをどれだけ使うかは、料理によって、また作り手によって異なりますが、
コリアンダーシード、クミンシード、ナツメグ、クローブ、シナモン、胡椒、のようなドライスパイスや、
生姜、ニンニク、シャロット、タマリンド、ターメリック、ガランガル、カンディスなどのフレッシュスパイス、
そして、レモングラス、ターメリックの葉、サラムリーフ、コブミカンの葉などのハーブ類。
などが、西スマトラ料理の調味料として挙げられます。多分もっとあるけど(笑)。
そして、欠かせないのがココナッツミルクと唐辛子。これらを使わない西スマトラ料理はほぼありません。

市場の唐辛子とフレッシュスパイス売り Padang_West Sumatra 2023

この多彩なブンブ/Bumbu使いには歴史的・伝統的な背景が見られます。

西スマトラ沿岸は、古くから西方諸国との交易地として発展してきました。
約半年ごとに向きを変える東西の貿易風に助けられ、
西スマトラから現インド南部、アフリカを結ぶ船のルートはかなり早い時期から確立されており、
ポルトガルの記録にも、16世紀には西スマトラにグジャラートの船が来たとあるそうです。
とはいえ、ポルトガルが出てくるよりはるか以前からこの地域はインド商人との交易を持っていたわけで、
遡ること、13〜14世紀にはインド商人が既に西スマトラに来ていたのであろうと言われています。
スパイスをふんだんに使うインドとの交易が、この地での調理方法に大きく影響したのだというのが歴史的背景。
(当然ながらその当時は「インド」という名前の国はなかったわけですが、便宜的にこのまま)

そして、この西スマトラ地域に暮らすミナンカバウ人たちは、伝統的に遠方へと出稼ぎに出る文化があります。
ミナンカバウは母系社会。
母から娘へと家が継がれていく一方、男子たちは土地を離れて遠方へ働きに出ることが多いのです。
優秀な商売人としても知られるミナンカバウ人。地方へ出稼ぎに行き、そこで一旗挙げて故郷に錦を飾る、的な。
これが、インドネシア各地、世界各地にパダン料理屋がある理由でもあります。
で、その長距離を移動する際の携帯食として、日持ちするよう調理するという文化があり、
その保存料としてのスパイス、ブンブであったとも言われています。

市場のフレッシュスパイス Padang_West Sumatra 2023

素材という意味では、沿岸部から高地ににかけてという土地柄、植生はとても豊かな西スマトラです。
ココナッツ、米、もち米が実り、若いジャックフルーツやシダ、タケノコなども豊富に採れ、
タンパク源としては、海川で魚が獲れるの加えて、牛や水牛なども食用とされます。
ミナンカバウ人は厳格なイスラム教徒が多く、なので豚が食材とされることはありません。

市場の肉屋 Padang_West Sumatra 2023

市場の魚屋 Padang_West Sumatra 2023

西スマトラの料理に欠かせない素材の、そして地元でも豊富に採れるココナッツ。
料理におけるココナッツミルク使いもまた、インドの影響という説があります。

西スマトラと交易を行なっていたのは、インドも南の沿岸部の商人。
南インドは調理にココナッツミルクを多用します(北インドはヨーグルト)。
そのココナッツミルクで煮込む、という文化もまた西スマトラに流入したのではないかと言われているのです。

シダのココナッツミルク煮とライスケーキ Padang_West Sumatra 2023

実際、ココナッツの木だらけなのです。
飛行機でパダンの空港に着陸する際の眼下にもたくさんのココナッツ。

パダン上空 Padang_West Sumatra, 2023

民家の庭にも、沿岸部から高地へ向かう沿道にもたくさんのココナッツ。

ココナッツの木 Padang_West Sumatra 2023

庭に植えているのはもちろん、市場でも、ココナッツ専門店がしっかり。

ココナッツ売り Padang_West Sumatra 2023

希望する熟れ具合に合わせて実を選んでもらい、奥の機械で白い果肉を掻き出します。

ココナッツ売り Padang_West Sumatra 2023

果肉としても買えますし、そこに水を加えて絞ったココナッツミルクも買えます。
一番搾りの「濃いココナッツミルク」と、

濃いココナッツミルク Padang_West Sumatra 2023

二番搾りの「薄いココナッツミルク」。使い分けるのです。

薄いココナッツミルク Padang_West Sumatra 2023

ちなみに、料理にココナッツミルクを多用するのは、ここ西スマトラがダントツではありますが、
他は、マレー系の人々(北スマトラのデリ、ジャカルタのブタウィなども含む)は結構使いますね。
シンガポールやマレーシアのプラナカン料理もココナッツミルクでコクが出したものが多い気が。
また、中部ジャワでもココナッツミルクはよく使います。
一方で西ジャワはそれほどでもない。
これは西ジャワは山がちな地域が多く、植生としてココナッツが少ないというのがあるのだと思うのですが、
バリもココナッツは使いますが、ココナッツミルクは少ないかな。
インドネシア東部でもココナッツミルクを多用する地域はあまりありません。
北スラウェシでは、西スマトラ以上に一面のココナッツ林が広がりますが料理の中での利用はそれほど顕著ではなく。
(基本的に、乾燥させてココナッツオイルの原料として出荷される換金作物扱い)
この地域差は面白いですよね。いつかちゃんと調べてみます。

で、西スマトラのココナッツに戻って。
ココナッツの木って、すごく背が高いんですよね。真っ直ぐなので足場もよくなく、収穫が大変。
ということで、この↓、前を走ってるの。わかります?

ココナッツ収穫猿 Padang_West Sumatra 2023

ココナッツ収穫猿 Padang_West Sumatra 2023

バイクのサイドカー的リアカーに乗っているのが、お猿です。
バナナの収穫に猿を使うのは、西スマトラでは一般的なようで、きちんとそれ用の学校もあるのだそう(猿の)。
きちんとトレーニングをして、技術を身につけた後に売られて、
ココナッツ収穫業者+お猿のチームとして契約した農園に出向き、収穫量の何割という取り決めで働きます。
おりこう。とか言うと「プロを舐めんな」とか思われるのかな(猿に)。

一方、もう一つの欠かせない素材である唐辛子。

市場の唐辛子売り Padang_West Sumatra 2023

唐辛子はヨーロッパ人によって持ち込まれたので、使われ始めたのは16世紀以降。
インドの影響云々と比べると後発ですが、それでも、今じゃ唐辛子のない西スマトラ料理は考えられません。

西スマトラで主に使われるのは、細くて長いチャべ・クリティン/Cabai Keritingの赤く熟れたもの。
西ジャワなどでよく使われる小粒のチャべ・ラウィット/Cabai Rawit等、他の種類はほとんど使われません。
これを、石臼で細かくペースト状にすりつぶしたものが市場で売られているのです。

擦り唐辛子 Padang_West Sumatra 2023

ちなみに、他のブンブたちも単独で、もしくはブレンドされて、ペースト状になったものが売られています。
便利。

擦りブンブ Padang_West Sumatra 2023

この唐辛子ペーストをココナッツミルクに合わせて火にかけるところから、西スマトラの料理は始まるのです。
とはいえ、強烈に辛いかと言うと、そうでもないのが不思議なところ。
まあ、辛さの感じ方は個人差がありますし、添えられたサンバル/Sambalはもちろん辛いのですが、
料理全体は、唐辛子の辛味だけが突出することなく、いろんな風味が複雑に合わさり、
それら全てを、ココナッツミルクが奥行きを持ってまとめているのです。

ということで、西スマトラごはんの予備知識はそのくらいで、次回からは、お料理を詳しく。
ほんと、お腹空いてる時に見たら悶々としてしまうくらいの、お料理たちを詳しく。

この麻薬的な魅力はなんなんでしょうね。
旅行中にひたすら食べたので「当分食べなくていい」ってなるかと思いきやそんなことはなく、
戻ってきても、地元の美味しいパダン料理屋などに行ってはがっつり食べています。

パダン料理 Bandung_West Java, 2023

この写真だけでもうつらい。食べたい。




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