ラベル パームシュガー/Gula Palem の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示
ラベル パームシュガー/Gula Palem の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示

2017/03/24

ブンブ/Bumbu

ブンブ色々 Bandung_West Java, 2017

日本語化しずらい単語って、あるんですよね。今回のブンブ/Bumbuもそんな感じです。

調味料、なんです。ブンブは。
ただ、日本語の調味料というと味噌醤油砂糖塩…など、その字の如く、後から加え味を整えるものなのですが、
ブンブは、味の土台となる素材から風味出しのスパイス等々まで含み、
なので「調味料」と言ってイメージされる範囲より、もうちょっと広い意味を持っています。
なので、ブンブはブンブということで、そのままいきましょう。

まず、ブンブ・ダサール/Bumbu Dasarと呼ばれる、まさに「基礎」のブンブ。
(ダサールはインドネシア語で「基礎、土台」という意味です)

ブンブ・ダサール Bandung_West Java, 2017

バワン・プティ(ニンニク)とバワン・メラ(シャロット)。
以前この記事に書いた通り、インドネシアではバワン・メラがメインとなり、バワン・プティはアクセント。
この組み合わせを基本とし、様々なスパイスや調味料を重ねて、チョベッですり潰し、味を作ります。
昆布に鰹節を合わせたり、煮干しを使ったり、干し椎茸を使ったり、という出汁の組み合わせと同じ感じです。

例えば、
ブンブ・ダサール・メラ。メラ/Merahは「赤」を意味します。
バワン・メラとバワン・プティに、唐辛子、トマトなどを加えた、赤いブンブ・ダサール。
ブンブ・ダサール・プティ。プティ/Putihは「白」。
バワン・メラとバワン・プティに、クミリ(キャンドルナッツ、後述)やガランガル(後述)を加えたもの。
ブンブ・ダサール・クニン。クニン/Kuningは「黄」。
プティの素材に、ターメリックを加えたもの。
のような感じに。
組み合わせは、地域、料理、そして家庭ごとに違いますが、いずれも掛け合わせで味を作っていきます。

では、ブンブ・ダサールに掛け合わせていく、ショウガその他の根類たち。

根類 Bandung_West Java, 2017 

左上から、時計回りに。
ショウガ/Jahe、ガランガル/Lengkuas、ターメリック/Kunyit(粉末+根)、
フィンガールート/Temu Kunci、バンウコン/Kuncur。

ショウガは、説明するまでもないですね。
インドネシアでもスープの煮込みに使ったり、温かいドリンクにしたり、何かと出番が多いのがショウガです。

そして、ガランガル。ナンキョウとも言います。
ショウガに似て、でもショウガよりも赤味がかってつるりとした肌感。
ガランガルを頻繁に使用するのは、ジャワとスマトラの料理。タイなどでもよく使われています。

追記
バリでもよく使うとのことです。
他の地域でも、使うことは使っているのでしょうが、メインでよく使用するのは、
スマトラ、ジャワ、バリあたり、という感じでしょうかね。

見た目は似ているし、味も確かにショウガと同類と言えば同類かもしれませんが、でもだいぶ違います。
とても独特の風味を持っていて、なかなか代用が見つからないのがガランガルです。

……味の説明って難しいですよね。
ミョウガを食べたことない人にミョウガの味の説明するような感じです。
「独特」としか言いようがないというか(笑)。

続いて、ターメリック。こちらももうお馴染みですね。
フレッシュな状態でも、粉末にした状態ででも、使われます。
ジャムー/Jamuと呼ばれるインドネシアの漢方にもよく使われるターメリックですが、
料理では、魚などの臭み消しなどでも重宝がられます。

そして、フィンガールートとバンウコン。これも、味の説明が難しい。
フィンガールートはタイでクラチャイと呼ばれているもの。
インドネシアでは、中部〜東ジャワで使われる場合が多いそうです。
そして、バンウコンはジャワ島全域からバリ島にかけてが使用頻度の高いエリアだそう。
これは、ターメリック同様、ジャムーにも使われます。'

グラ・メラ Bandung_West Java, 2017

そして、甘味。
定番はグラ・メラ/Gula Merah。椰子の樹液を煮詰めた砂糖です。
インドネシア、特に中部ジャワの料理には欠かせないのが、グラ・メラ。
ジャワの砂糖、グラ・ジャワ/Gula Jawaと呼ばれる場合もあります。

一方、西ジャワでよくみかけるのが、アレン砂糖、グラ・アレン/Gula Aren。

グラ・アレン Bandung_West Java, 2016

アレンの木の葉で包まれているのがお約束。
グラ・メラの椰子はココナッツですが、アレンは、日本語でサトウ椰子と呼ばれる椰子の木。
アレンの木は、ある程度標高が高い土地の、森の中に生えています。
砂糖を作るプロセスは、ロンタル椰子と同様。花軸から樹液を採取し煮詰めていきます。

ということで、せっかくなので味比べ。

パームシュガー Bandung_West Java, 2017

上から、グラ・アレン、グラ・メラ、グラ・レンペン(ロンタル)です。

3つ比べると、グラ・レンペンが一番、日本の黒糖の味に近い気がします。
グラ・メラは3つの中で一番明るい甘さ。爽やかで酸味と塩気に近い旨味も若干感じます。
グラ・アレンはずっと重さのある甘み。そして、製造工程を反映してか、煙の風味がとても強いです。
わが家ではアレンを使うことが多いのですが、グラ・アレン、だいたいが煙の味がするんです。
(結構、好きです)

続いて、塩。

塩 Bandung_West Java, 2017

これだけ海に囲まれていますので、インドネシアで塩と言えば海の塩ですね。
有名なのは、バリの塩。わが家ももうずっとバリ塩です。

旅先で見かけた製塩と言えば、東ヌサトゥンガラ地方のサヴ島。

製塩 Savu_East Nusa Tenggara, 2011

夕暮れ時に、おばちゃんが天秤で海水を担いでやってきます。
塩を作る容器として使われているのは、シャコ貝の殻なんです。

製塩 Savu_East Nusa Tenggara, 2011

とても地道な作業。

製塩 Savu_East Nusa Tenggara, 2011

こうして作られた塩は、じんわり、色んな味が混ざったワイルドな味わい。

砂糖にしても塩にしてもそうなのですが、
インドネシアで手に入るこれらはとても美味しくて、それはやっぱり雑味の美味しさなのだと思います。
精製糖精製塩ももちろんありますが、すっきりしてない、色んな味が混ざっているからこその旨味が好きです。

続いて、酸味。

タマリンドとカンディス Bandung_West Java, 2017

タマリンド(手前)、インドネシアではアサム/Asamと呼ばれます。
酸味を意味するアサムがそのまま名称として使われている、その名に恥じない酸っぱさです。
豆科の植物であるタマリンドの、サヤから外した果肉を集めた状態で売られているのが通常。
これを必要量だけ水の中でもみほぐし、酸っぱい水を作って料理に使います。

もう一つ、カンディス/Kandis(奥)。西スマトラでよく使われる酸味料です。
マンゴスチンなどと同種のフクギ属で、和名はキヤニモモと呼ばれる植物の果肉を乾燥させたものです。
わたしも果実そのものは見たことがありません。

酸味を出す材料は地域特有のものもふくめて他にも色々あるので、手に入り次第また追々。

そして、旨味出しと言えば、のトラシ/Terasi(またはTrasi)。

トラシ Bandung_West Java, 2017

料理はもちろん、サンバルにも多用される、エビの発酵調味料です。食欲をそそる香り。
発酵後、味噌程度の固さまで乾燥させあり、必要量を焼くなどして加熱し、風味を十分出してから使います。

ただ、今は便利な時代なので、既に「そのまま使える」状態の顆粒状のトラシも売られていたりします。

トラシ Bandung_West Java, 2017

トラシをよく用いるのは、やはりジャワの食卓でしょうか。
また東ジャワでは、よりペースト状に近い類似の「ペティス/Petis」という調味料もあります。
いずれも、旨味系。がっつり。

ナッツ&スパイス Bandung_West Java, 2017

そして、最後、色んなスパイスやナッツ系。

左上から時計回りに、
シナモン/Kayu Manis、クミリ/Kemiri、コリアンダー/Biji Ketumbar、カルダモン/Kapulaga、
丁字(クローブ)/Cengkeh、ナツメグ(ニクズク)/Pala、クルアッ/Keluak。


シナモンと言えば、南カリマンタンの山中で、とても立派なシナモンを干しているのを見たことがあります。

シナモン干し Loksado_South Kalimantan, 2016

小枝くらいあるこのシナモンは、恐らく工場などで粉末にされるものだと思うのですが、
こうやって採れる割りに、インドネシア料理でのシナモンの使用頻度は、実はあまり高くない気がします。
お菓子であったり、温かい飲み物などにはよく使われるのですが、
料理では、と言うと、インドからの影響が強い地域などでは使うのかもしれませんが、
少なくとジャワでは、それほど前に出てくることはありません。

そして、クミリ。キャンドルナッツです。
高い油脂が特徴のクミリ。ブンブ・ダサールと共にペースト状にして、汁物などに使ったりします。
味が強いものではないのですが、さすが油脂、あるとないとでは、味の深みというか厚みが違う気がします。

ちなみに、クミリは巨木になります。
わが家の裏に生えている巨木クミリ、雨の時など大量のつぶてのように実を屋根に落としてくれ、
お陰で、わが家は雨漏りに悩まされています(落ちてきた実はメイドさんが集めて干して売っています)。
余談でした(笑)。

次に、コリアンダー。
爽やかな香りが好まれ、炒め物、揚げ物などによく使われています。
なのに、葉(パクチー)は全くと言っていいほど、使われないんですよね。不思議です。

カルダモン。
このずんぐり丸くて白いのは、ローカルカルダモンと言われ、緑のカルダモンより若干香りは弱め。
南アジアの香りのカルダモンですが、なにげに、汁物などにぽろっと使われていたりします。

そして、丁字とナツメグ。
かつて各国の貿易船が往来し、欧州列強がこの南洋地域に乗り出してきたのも、
元はと言えば、このスパイスがあったから。

インドネシア、マルク諸島原産の丁字。
現在も同地域を始め、北スラウェシなどでも栽培されています。

丁字 Sangir_North Sulawesi, 2015

丁字の花の蕾を採取して乾かしたのが、スパイスとして目にする、あの「丁字」です。
花開いてしまうと、一気に香りが落ちるのだとか。

丁字 Ternate_North Maluku, 2012

なので、年2回の収穫の季節は大忙し。
何本もの木に登って降りて、手摘みで収穫していきます。

そして、南国の陽射しのもと一気に乾燥させるのです。

丁字 Sangir_North Sulawesi, 2015

丁字が干されているところを通りかかると、ふわんと甘い香りがします。

かつてと変わらず、今でもせっせと収穫され乾燥されている丁字ですが、その割に料理での使用頻度は高くなく、
一部肉料理や、あとはお菓子などに使われるくらいでしょうか。
インドネシアで丁字といったら、タバコなのです。
甘い香りのする、クレテックと呼ばれる丁字タバコ。
今のように禁煙化が徹底される前のバリやジャカルタの空港で、飛行機を降りた時に嗅いだあの香り、です。

一方のナツメグ。
こちらは、同じマルクの中の、バンダ諸島原産。
広い海の真ん中にぽつんとある小さな火山島と周辺の島。元々はそこにだけ生えていた植物だったんですね。

ナツメグ Banda_Central Maluku, 2012

一年を通して収穫できるアプリコットのような実。その中央に見える外皮に覆われた種。
赤い外皮がメースと呼ばれる部分。
そして、種の殻を割った核の部分がナツメグと呼ばれるスパイスになる部分です。

ナツメグ Banda_Central Maluku, 2012

ナツメグの使用頻度は、丁字とあまり変わらないかもしれません。肉料理や汁物で時々使うかな、という感じ。
この2つのスパイス、こうも地域に密着している割に現地の料理にもさほど利用されていないのが面白いです。
恐らくは、薬扱いだったのか、そして貿易品として出荷するのがメインだったのか、という気がします。
バンダの市場ではナツメグもメースも目にすることがなく、ただ果肉の部分が砂糖漬けで売られていました。
とても酸っぱいナツメグの果肉ですが、これを煮詰めたジャムは酸味の中にナツメグの風味があって逸品です。

ナツメグ Banda_Central Maluku, 2012

そして、最後。クルアッ。ブラック・ナッツとも呼ばれます。
クルアッを使うのはジャワとスラウェシ南部。
この木の実の殻の内部を使うのですが、生の状態だとシアン化合物を含む危険な食べ物なのです。
キャッサバに続いて、またもシアン化合物!)

クルアッ Tana Toraja_South Sulawesi, 2011

生の状態では白いこのクルアッ、毒抜きの作業を終えると、真っ黒に変わります。
ジャワでは茹でて土や灰に埋めておくことで毒抜きをするそう。
わたしが見たスラウェシのトラジャでは、袋で包んで寝かせておく、という方法でした。
いずれも、発酵させる、ということなのだと思います。

クルアッ Tana Toraja_South Sulawesi, 2011

トラジャのクルアッ(トラジャではパマルラサン/Pamarrasanと呼びます)は指でこすり合わせると脂が滲み、
おじさん曰く「帰郷してきたトラジャ人はみんな持って帰る。ジャワのとは味が違うんだ」のだそうです。

この当時、せっかくこうして見ていたのに、クルアッを使った郷土料理は食べ損ねたんですよね。
お祝い事や葬儀など、特別な時にしかなかなか出会えないものではあるらしいのですが、心残り。

クルアッ Tana Toraja_South Sulawesi, 2011

ということで、駆け足でざっとのつもりがかなり長くなってしまった、ブンブのお話でした。
あ、スパイスの中に入れ忘れましたが、胡椒はインドネシアでもよく使われています。

もちろん、この他にもそれぞれの土地特有のブンブなども色々あるわけですが、
とりあえず、ざっとこのくらい紹介しておくと、
この先に各地の料理の話しをするのに、分かりやすいかなあと思った次第です。






2017/01/06

ロンタル/Lontar

ロンタルの木 Rote_East Nusa Tenggara, 2016

ここ数年のあいだ偏愛してきた木、ロンタル。満を持して(?)のご紹介です。

なんでこんなに惹かれるのかわからないのですが、ロンタルの木が大好きで、
今回の旅行先だったロテ島も、そもそも一番最初に行きたいと思ったのは「ロンタルがあるから」でした。
思い入れの分だけ長めの記事になりますので、お時間ある時にどうぞ(笑)。

さて、ロンタル。
英語ではPalmyra、日本語ではパルミラヤシもしくはオウギヤシと言われています。
原産は熱帯アフリカ、東南アジアからインドにかけて栽培されている椰子の一種です。
カンボジアのアンコールワット周辺でも、いっぱい目にしました。
遺跡と共にポストカードめいた風景を作り出している椰子の木、あれがロンタルです。
インドネシアでは東ヌサトゥンガラ及び南スラウェシに多く、
乾燥が強い土地でよく育つため、石灰質の島にも沢山植えられています。
逆に、湿度の高い森や山側ではあまり見かけず、
その辺りにはアレン/Arenというサトウヤシが多くなります(アレンのことは、また後日まとめますね)。

ロンタルの森 Rote_East Nusa Tenggara, 2016

ロンタルは、ジャワからバリにかけてはシワラン/Siwalanとも呼ばれ、
インドネシア語のロンタルは、ジャワ語のRon(葉)+Tal(パルミラヤシ)から来ているのだとか。
ちなみに、Talはインド名でもあり、
恐らくはそちらが先でジャワに入って来たのが、その後インドネシア語化したのでしょう。

そのロンタル。今回訪れたロテ島や、その隣のサヴ島では「生命の木」とも言われ、
島の暮らしのあらゆる部分で、ロンタルの木が活用されています。

黄色:サヴ 水色:ロテ 赤:クパン

食べ物についてのブログですので、まずはその「食」における活用について。

ロンタルと言えば、砂糖、です。

ロンタルの砂糖3種

パームシュガーですね。樹液を煮詰めた液糖、固形と粉末の3つのタイプがあります。

砂糖を作るためには、まずは樹液採取。
木のてっぺんにある花軸を削ぎ、そこから滴る樹液をバケツにため、日に2度(朝と夕)回収します。
高いもので樹高30mにもなるというロンタルの木ですが、その木のてっぺんまで登るのは男性の仕事。

ロンタル Rote_East Nusa Tenggara, 2016

足場がついてるの、わかりますか?
この足場もまたロンタルの葉と葉軸を活用したものです。
人によりますが、一人前ともなれば30〜50本の木を日に2度ずつ毎日登るのだそうです。
かなりの重労働。

樹液採取 Savu_East Nusa Tenggara, 2011

この写真はサヴ島で樹液採取の見学をさせてもらったときのもの。
比較的若い木で樹高もそれほど高くなかったので、下から見ることが出来ました。

樹液採取 Savu_East Nusa Tenggara, 2011

おじさんが手で押さえているのが花軸を束ねたもの。この先端をナイフで削ぎ樹液が出やすくします。

樹液採取 Savu_East Nusa Tenggara, 2011

削いだ花軸たちに樹液を受け止めるバケツ(これもまたロンタルの葉製)を被せ、

樹液採取 Savu_East Nusa Tenggara, 2011

そのバケツにまたロンタルの葉で編んだバスケットをかぶせて仕込みは終了。

樹液採取 Savu_East Nusa Tenggara, 2011

半日後にまた木にのぼり、回収します。

ニラ Savu_East Nusa Tenggara, 2011

こうして採った樹液がニラ/Niraと呼ばれるもの。
うっすらと白濁し、微かに発泡味のある、甘い樹液です。
発泡しているのは発酵が始まっているから。少し乳酸風の味がするのもそのせいでしょう。
砂糖を作る場合は回収してそのまますぐに火にかけて煮詰めていくのですが、
ここで火にかけずに発酵が進んだものがトゥアック/Tuakと呼ばれるパームワイン。
更に発酵すると、お酢になります。

樹液を煮詰めていく作業は、今度は女性たちの仕事。

かまど小屋 Rote_East Nusa Tenggara, 2016

庭の片隅から煙が上がっている家があれば、それは液糖を作っているしるし。
かまど小屋があります(小屋の屋根もまたロンタルの葉)。

液糖のかまど Rote_East Nusa Tenggara, 2016

2穴のかまどの下には、ロンタルの葉軸の根元側を燃料として赤々と火が焚かれていました。

この時(12月末)は既に雨季に入っていたため、樹液収集の時期はほぼ終了。
最盛期と違い数本からのみ採っていたため、数日に渡ってその都度樹液を足しながら液糖作りをしていました。
その数本もそのうちに終了するのでしょうね。
樹液採取と液糖作りは基本的に乾季の間の仕事となります。
雨季になると雨水が混ざってしまうから、というのももちろんありますが、
それ以前に、雨で濡れた状態であの高い木に登るのは、あまりにも危険です。
なので、雨が降り始めてからの3〜4ヶ月間は砂糖作りはお休み、お米作りの季節になるのだそうです。

液糖のかまど Rote_East Nusa Tenggara, 2016

そんなわけで、液糖作りにぎりぎり間に合った今回のロテ島訪問。
通りすがりながら、数件のお宅にお邪魔してかまどを見せてもらい、色々教えてもらった上に、
5Lのポリタンク1つ分を売ってもらいました。
液糖はそのまま、グラ・アイル/Gula Air(液糖)と呼ばれています。

ロンタルの液糖 Rote_East Nusa Tenggara, 2016

ロンタルの液糖は、わたしが住んでいる西ジャワではまず手に入らない貴重品。
なので、大事にもって帰ってきましたよ、5L。

同じロンタルの液糖でも、ロテ島のものとサヴ島のものではまた違いがあります。
ちょうどクパンの友人がサヴの液糖も分けてくれたので食べ比べてみました。
味に関しては、恐らく樹液採取のタイミングだったりで差が出るでしょうし、
単純に島と島の違いとして比較することは出来ないと思うのですが、
サヴの方が粘度が高く、糸を引くくらいにとろっとしているのが特徴です。
対するロテの液糖は緩やかな蜂蜜、という感じです。

ロテの液糖

こうして手に入れたロテの液糖の味とは。

蜂蜜のようでもあり、キャラメルのようでもあり、レモンシロップのようでもあり。
とても複雑な味なのです。
口に含んだ最初に感じるのは、キャラメルに近い若干塩気すらあるような味なのですが、
そのすぐ後を追うようにして、ロンタルの樹液でも感じた酸味が立ち上がってきて、爽やかな後味。
全く精製されていない、白砂糖の対極にあるような、色んな雑味が混ざったこの味が、わたしは大好きです。

この液糖を作っていたお家の奥さんとご主人は、自分たちも毎朝液糖を飲むのだそう。
身体にいいし、胃炎などはすぐ治るよ、とご主人。
このお家に限らず、ロテでは毎朝液糖を摂っている人はたくさんいるようです。

一方のサヴでは、米が育ち難い土地でもあることから、以前はロンタルの液糖が主食だったのだと聞きます。
今でも、米、トウモロコシに次ぐ代替主食の位置にあるようですし、
その昔、サヴを訪れたクック船長はそのロンタルの液糖の美味しさに滞在を延ばしたとかなんとか。

そんな液糖は、島内の市場などで売られているほか、ロテから船でスラウェシまで売りに行く人たちもいます。
また、ソピ/Sopiと呼ばれる地元の蒸留酒の原料として買い付けられる場合もあるそう。
ロンタルというのはなかなかに実利をもたらす農作物なのだと言います。

さて、その液糖から作られるのが、固形の砂糖と、粉末の砂糖。
固形の方は、グラ・レンペン/Gula Lempeng、粉末の方はグラ・スムット/Gula Semutと呼ばれます。
レンペンは平たい、スムットは蟻、という意味です。

椰子の実の鉢 Kupang_East Nusa Tenggara, 2016

グラ・レンペンとグラ・スムットを作る際に使う椰子の実の鉢を、
クパンに住むロテ人のお家で見せてもらいました。
この鉢の中に液糖を入れ撹拌し、輪にしたロンタルの葉の枠に流し込んで固めたのがレンペン。

レンペンの輪 Kupang_East Nusa Tenggara, 2016

旅の間、丸い板状になった砂糖を小さく割って時々食べていました。チョコレートのように。
暑さや移動でたまった疲れが癒されるような、しみじみと沁みていく美味しさなのです。
たまたまロテ島で一緒になったカナダ人女性にグラ・レンペンを一つ分けてあげたところ、早速味見をし、
「あら、メープルシュガーみたい」と言いました。
確かに、作っていく過程も含めて、似ているかもしれません。

さて、グラ・レンペン用に固い液状になったところから、
また更に撹拌を続け、すっかり固まったのを細かく粉末にしたのが、スムットとなります。
なんで「蟻」なのか。
蟻が巣を作る時に出す土のかたまりに似ているから、なんだそうです。

実は、このクパンのロテ人のお宅には、ロンタルのお酢をもらいに行ったのでした。
液糖にするために煮詰めず、採取したニラをそのまま置いておくと発酵が進み、最終的に酢になります。
その酢を少し分けてくださいな、とお邪魔したところ、
これまた5Lのポリタンクを「いいから全部持っていけ」と分けてくれました。気前のいいこと。
これまた西ジャワ的には貴重なものなので、ペットボトルに移して少し持ち帰ってきました。

ロンタルの酢

色味は液糖と変わらないのですが、さらさらとした液状で、はっきりと発酵臭を感じます。
舐めてみると、なんとも丸みのある柔らかいお酢。
酸味の尖りがなく、ロンタルの甘さがふんわりと残っています。
ロンタルのお酢で魚を料理したりするんだよ、とは、ロテのお母さんの弁。
いつか、ロテのお母さんの所にホームステイして料理を教えてもらいたいものです。

さて、樹液とその加工物以外の可食部分と言えば、実ですね。
(新芽も食べるところがあると聞いたのですが、未確認なのです)

ロンタルの実 Kupang_East Nusa Tenggara, 2016

小さな椰子の実のようでもありますが、割ると中からジェリー状の果肉が出てきます。

ロンタルの実 Kupang_East Nusa Tenggara, 2016

微かな甘さと弾力のある食感が美味しいです。

さて、食材としてのロンタルを長々と書いてきましたが、
せっかく(?)なので、食材として以外のロンタルの活用についても駆け足で説明させてください。
「生命の木」と言われるだけのことはあり、捨てるところのない、その全てが活用されるのがロンタルなのです。

まずは、その葉。

樹液を煮詰めるかまど小屋の屋根もそうですが、乾燥させて屋根を葺くのに使われます。

ロンタルの林の中のロンタルの家 Rote_East Nusa Tenggara, 2016

このお家は、壁までロンタル。回りもロンタルに囲まれていて、なんだかツワモノ感。

ロンタルの葉のカゴたち Rote_East Nusa Tenggara, 2016

そして、カゴたち。同じ感じでゴザなどの敷物も編みます。

ロンタルの葉 Savu_East Nusa Tenggara, 2011

では、葉を舟形にしたこれは何でしょう。

製塩 Savu_East Nusa Tenggara, 2011

塩を作るのに使っていたのでした。
海水を注ぎ、水分を蒸発させて結晶化させます。

塩 Savu_East Nusa Tenggara, 2011

塩を入れるバケツもロンタルの葉(ハイ/Haikと呼ばれます)。

その他、ロテの男性が民族衣装を着用する際に被る帽子もロンタルの葉から作られていたり、
ロテ〜ティモール島で使われるササンドという楽器もまた、ロンタルの葉を活用したものだったりします。

そもそもこのロンタルの葉というのは、硬くて丈夫。
その昔は文書を記す素材として使われていました。貝多羅葉と言われるものですね。
西ジャワ地方の慣習村のような所で見られる古文書も、ロンタルの葉が使われています。
また、バリ島は今でもお祝いの際に掲げる飾りなどにロンタルの葉を頻用し、
それ用の素材として、ロテの村から葉っぱをバリに出荷していたりもするのだそうです。

そうして葉の部分を使った、その残りの葉軸の部分を家の垣根に活用しているのをロテで沢山目にしました。

葉軸の垣根 Rote_East Nusa Tenggara, 2016

この垣根にするために切りそろえた葉軸の根元の部分は、樹液を煮詰めるかまどの燃料です。
木そのものは、まっすぐに伸びた丈夫な建材としても使われます。
全ての部分が余すことなく活用されるロンタルの木。
東ヌサトゥンガラの乾いた島に生きる人たちにとって、生活に密着し共に生きていく植物なのです。

最後にもう一つ、おまけ。せっかく(??)なので、カンボジアのロンタル砂糖を。

ロンタル砂糖 Siem Reap_Cambodia, 2014

アンコール遺跡の並ぶシェムレアップ郊外で、ロンタルの樹液を煮詰め型に入れて売っている一角がありました。
なにせ、ロンタル好きなものですから、そういうのは見過ごせず、立ち寄って見学。
(ミャンマーでもロンタルだ!と停止したことがあります)

ロンタル砂糖 Siem Reap_Cambodia, 2014

煮詰めてだいぶかたくなったものを、やはりロンタルの葉で作った型に流し込んでいました。
輪の作り方は同じですが、カンボジアのものはだいぶ小さいですね。
これもいわゆる、グラ・レンペンです。この時も、旅行中時々この砂糖を齧っていました。

ということで、これで終わりにします。
ロンタル愛が溢れてしまうので、書きだしたらキリがない。
なんでこんなにロンタルが好きなのかわからない、と最初に書きましたが、
この木の、島の人々の暮らしに密着しているその感じが、なんとなく好きなのかもしれません。
共に生きていく植物としての、ロンタル。
すっと高く伸びて、今日もザワザワと風に葉を揺らしているのでしょう。

ロンタルの木 Rote_East Nusa Tenggara, 2016