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2025/11/02

アチェの食卓②

クママ調理中 Aceh_North Sumatra 2025

ということで、アチェのおかあさんたちと一緒にお料理です。

まずは買い出し。
鶏は丸っと一羽、羽を焼いてもらってから適当にぶつ切りにしてもらいます。
魚はトンコル/Tongkolと呼ばれる、サバの仲間をいくつか。
そして、アチェ名物のクママ/Keumamahと呼ばれる、茹でてから日干ししたトンコルも。

クママ Aceh_North Sumatra 2025

とはいえ、この時に手に入ったクママは、まだそれほど乾いていないもの。
クママというのは、漁師たちが余剰のトンコルやツナなどで作るものらしく、
それはつまり、漁獲量がそれほどではない時期には、あまり出回らないということなのです。
クママはイカン・カユ/Ikan Kayu(イカン=魚、カユ=木)とも呼ばれていて、
せっかくだったら、カユほどしっかり乾いたものを調理してみたかったのですが、残念です。

ビリンビとレモングラスとトーチジンジャー Aceh_North Sumatra 2025

フレッシュなビリンビと一緒に、レモングラスも購入。それからトーチジンジャーも。
この時に買ったのは、写真の上の方にある花ではなくて、右上にある芽の軸の方。
これを、レブン・カラ/Rebung Kalaと呼んでいました。
レブンはタケノコのこと。
カラは、北スマトラを中心にトーチジンジャーをチカラ/Cikalaと呼ぶので、そこからではないかと思います。

余談ですが、トーチジンジャーって、実はインドネシア各地でかなり広く使われている食材だと思います。
これまでスマトラ各地、カリマンタン内陸部、ジャワ、バリ、ロンボク、そしてスラウェシでも出会いました。
インドネシア語ではケチョンブラン/kecombrangと呼びますが、
それとは別に各地で独自の呼称があるのも、食材として地域に浸透しているからこそではないかと。
エキゾチックな香りが魅力で、使用部位は新芽の柔らかい芯の部分や、花、そして果実など。
わたしも大好きです。

ブンブ Aceh_North Sumatra 2025

ブンブ Aceh_North Sumatra 2025

ドライスパイス Aceh_North Sumatra 2025

使ったブンブ(調味料)たちはこんな感じでしょうか。もちろん、アサム・スンティもあります。
それから、パウダースパイスとしてターメリックとチリも。あとは塩かな。
それからもう一つ、ココナッツのブンブがあるのですが、それは後述します。

さて、どれからにしようかな。

まずはクママからにしましょう。

ブンブ Aceh_North Sumatra 2025

使用するブンブは、シャロット、ニンニク、緑の小さいチリと、赤い長いチリ、アサム・スンティ、コリアンダーシード、トマト。
これらを全部ブレンダーにかけてペーストにします。

油で、薄切りにしたシャロットを炒めて香りを出したところに、このペーストにしたブンブとカレーリーフを加え、
炒め合わせて火を通します。

クママ調理中 Aceh_North Sumatra 2025

全体にしっかり火が通ったら、丸くて小さい茄子を入れます。
これは、テロン・ピピ/Terong Pipit、もしくはタコカッ/Takokakと呼ばれる野菜で、
グリーンピースより少し大きめの、緑の実です。プチッと弾ける感じが美味しいです。

そして、ソースがほどよく煮詰まったあたりで、ほぐして水ですすいだクママを投入。

クママ調理中 Aceh_North Sumatra 2025

クママ調理中 Aceh_North Sumatra 2025

これをさらに煮詰めたら出来上がり。

クママ Aceh_North Sumatra 2025

インドネシアでは、広く各地で、海魚の調理には酸味を合わせる傾向が見られます。
このクママの場合は、トマトとアサム・スンティ。
青魚の旨みに酸味のソース、美味しくないわけないのです。ごはん泥棒。

つぎに、お魚をもう一品。

フレッシュなトンコルでスープです。

トンコル Aceh_North Sumatra 2025

この、魚の下処理がかなり特徴的でした。
まず、鱗はないのですが、銀の表皮があると生臭みが出るからと、その部分をこそげてしまいます。
そして、エラから顎、頬にかけての部分から内臓までを、ごそっと抜き取ります。
が、なぜかその時に、目は残すのです。技術的に難しいのでは、と思うのですが。

トンコル Aceh_North Sumatra 2025

独特なビジュアル。ちょっと怖い、笑。

それを、食べやすい大きさに切っていきます。

トンコル Aceh_North Sumatra 2025

さて、ブンブの用意。

ブンブ Aceh_North Sumatra 2025

シャロットとニンニクに、緑の小さいチリと、赤くて長いチリ、それからアサム・スンティでペーストにします。

魚の方は、まず、ざっと塩をまぶしてライムの果汁を絞っておきます。海魚には酸味の法則、ここでも発動。

トンコル調理中 Aceh_North Sumatra 2025

フレッシュのビリンビも薄く切って加えます。

トンコル調理中 Aceh_North Sumatra 2025

加熱する前ですが、ライムとビリンビの酸ですでに表面が白っぽくなっているのがわかります。
そこに、ペーストにしたブンブとターメリックパウダーを加え、適量の水を注いで煮ていきます。

トンコル調理中 Aceh_North Sumatra 2025

あとはぐつぐつと煮込んでいくだけ。酸っぱい魚のスープのできあがり。
目が合うけど。

トンコルのスープ Aceh_North Sumatra 2025

器によそっても、やっぱり目玉がちょっと気になるけど。味はいいのです、当然ながら!

フレッシュなビリンビは、果物らしい透明感のある酸味なのですが、
塩漬けにしながら日干ししたアサム・スンティになると、酸味に深みが出ます。
緑茶とほうじ茶、みたいなイメージです(わかりにくい?)。
南東スラウェシのブトン島にはパレンデ/Parendeと呼ばれる酸っぱい魚のスープがあり、
それは、タイの仲間など白身の魚にフレッシュなビリンビを合わせて作ります。
一方で、このトンコルなど、風味が強い青魚にはアサム・スンティなどアーシーで深みのある酸味が合うのです。
以前記事にしたバンガイ諸島の食卓でも、青魚にはタマリンドを合わせていました。
酸味の使い分けです。

では、続いて。チキンにいきましょう。

これは単純にアヤム・ブンブ・アチェ/Ayam Bumbu Aceh(アチェ風チキン)と言われたのですが、
使うブンブからして、確かにこれぞ「アチェ料理」という感じかもしれません。

まず、ペーストにするブンブですが、
トンコルのスープと同じ材料に(アサム・スンティは少なめに)、コリアンダーシードとライム果汁を少し足し、
そこに、クラパ・ゴンセン/Kelapa Gongsengという、ココナッツのブンブも加えます。

クラパ・ゴンセン Aceh_North Sumatra 2025

削ったココナッツの果肉部分をカラカラになるまで乾煎りし、それを石臼などで油が出てくるまで擦り潰したものです。
聞くと、乾煎りの段階でコリアンダーシードを混ぜる場合もあるらしく、
ココナッツの香ばしさと、爽やかなコリアンダーシードの香り、豊かな油脂の味わいが一体となって、
それはもう、魔法のペーストみたいに美味しいのです。

これはアチェ特有のブンブ。ココナッツミルクでは出せない香ばしさが魅力です。うっとり。

アヤム調理中 Aceh_North Sumatra 2025

ということで調理開始。
少量の油に、シャロットとドライスパイス(シナモン、八角、カルダモン)を加えて熱します。
インドネシアのカルダモンは、インドなどのグリーンカルダモンと異なり、丸っこくて白っぽい色をしています。
香りは、グリーンカルダモンほど強くはないかな。

香りが立ってきたら、ぶつ切りにしたチキンと、クラパ・ゴンセンと一緒にペーストにしたブンブ、適量の水を加え、
そこに、叩いて風味が出やすくしたレモングラス、カレーリーフ、パンダンリーフ、
刻んで塩しておいたトーチジンジャーの茎(中の柔らかい部分だけ)を足して煮込んでいきます。

アヤム調理中 Aceh_North Sumatra 2025

途中で、おかあさんが「なんかもうちょっと赤みが欲しいわよね」と、チリパウダーを加えました。
辛味が欲しいから、ではなく、色味が欲しいから、の唐辛子使い。

アヤム調理中 Aceh_North Sumatra 2025

とはいえ、ペーストのブンブの中にもたくさんチリは入っていますが、料理はそれほど辛味を感じません。
わたしの舌が辛味に慣れてしまったが故に、知覚が鈍っているという可能性もなくはないですが、
おそらくはココナッツも含めた油分と合わさることで、辛味の刺激がだいぶ抑えられているのではないかと。

そして、チキンがほどよく煮えた頃合いで、小さなジャガイモたちをころころっと足し、柔らかくなったら出来上がり。

アヤム・ブンブ・アチェ Aceh_North Sumatra 2025

スパイスの香りがあり、ハーブの香りもあり、ココナッツのコクと、その奥の方にある酸味。
動物性の旨みとバランスが取れる強さもあり、かつくどくならない。
なんて複雑で贅沢なおいしさなのだろうと感動します。

さてもう一品。
チキンを買う時に、半分にするか丸ごと一羽にするか迷って、結局一羽を買ったのですが、
その時に「じゃあ半分はアヤム・ゴレンにしよう」と思いついたのでした。

市場の一角に、ブンブのペーストを売っているおかあさんがいて、頼むとブレンドもしてくれます。

ブンブ屋さん Aceh_North Sumatra 2025

フレッシュのガランガル、ターメリック、ニンニク、シャロットのペーストを合わせてくれたのですが、
このおかあさんのアヤム・ゴレン用のブレンドが、もう天才的に最高でした。

アヤム・ゴレン Aceh_North Sumatra 2025

アチェに限らず、アヤム・ゴレンは、揚げる前にまずは下味をつけるために煮込みます。
一口大に切ったチキンに、ブレンドしてもらったブンブとカレーリーフ、ターメリックリーフを合わせ、
適量水を加えて煮込んでおきます。

市場などでペースト状にされているブンブは、加工しやすいように塩を加えられている場合が多いです。
なので、こういう形で使う時の塩加減は、そのへん注意が必要です。塩辛くなりすぎないように。

基本のブンブは、ある意味とてもインドネシアらしいブレンドなのですが、
そこにカレーリーフの香りが加わると、一気にアチェらしくなります。
ターメリックリーフは西スマトラでもよく使われますが、これもまたとてもいい香りがするハーブなのです。

アヤム・ゴレン Aceh_North Sumatra 2025

このくらい、水気が無くなるまで。
ブンブの繊維質や葉っぱなどが残っていますが、これをこのまま油であげることで、
例えば唐揚げなど、粉をつかった「衣」とはまた違う、サクッと軽い「衣」を纏うことになります。

アヤム・ゴレン Aceh_North Sumatra 2025

じゅわーーーー。
アヤム・ゴレンに「ジューシー」という概念はあまりないように思います。
それよりは、しっかりカリッとカラッとなるまで揚げます。
周りに残っていた繊維質たちも美味しい衣になって、出来上がり。

アヤム・ゴレン Aceh_North Sumatra 2025

なんなら、このカリカリになってる繊維質の部分だけで白ごはん食べられる感じ。

アチェごはん Aceh_North Sumatra 2025

お野菜も炒めてもらって、豪華なお昼ご飯になりました。

パッと見は、他の地域と似たような、茶色いインドネシアごはんに見えると思います。
けれど、一口食べるとわかるんです。
スパイスの香りやココナッツのコクを感じつつ、抜けのある軽やかさがある、アチェならではの味わい。
ちょっとクセになる、これらの味のせいで去り難いような、そんな素晴らしいアチェの旅でした。

クママ Aceh_North Sumatra 2025

アチェの食卓が、2025年最初の記事になってしまいましたが(スローですみません、汗)、
実は今年は、北スラウェシのマナドにも行っていたのでした。

タイミングは前後しますが、
スパイスフルなスマトラの料理から一転、フレッシュハーブがふんだんのマナドのごはんを次回から。


アチェの食卓①

グライ・クルマ Aceh_North Sumatra_2025

アチェに行きました。
インドネシアの最西端に位置し、古くから西側との交易地として栄えた地。


そのアチェで、朝食に食べたのが写真の一皿。

アヒルのブンブ・プティ/Bumbu Putihと書かれていました。
プティは白という意味で(実際の見た目は茶色いですが)、
キャンドルナッツやニンニクなどを使い、赤い唐辛子やターメリックなどを使わないことを表しているのだと思います。
一口食べた瞬間、ああこれはもう南アジアの味じゃないか、と思いました。
馥郁と鼻に抜けるスパイスの香りとココナッツのコクが、クセの強いアヒルの肉の旨味とマッチしていて、感動的でした。

調べると、ドライハーブはシナモンや八角、カルダモン、コリアンダーシード、
そこにニンニク、キャンドルナッツ、グリーンチリを合わせて、カレーリーフなどのハーブで香りづけするのだとか。
そして、ブンブ・プティはグライ・クルマ/Gulai Kurmaという名もあるようです。
Gulaiは以前、西スマトラの記事でも書きましたが、ココナッツミルクとスパイスで煮込んだカレーのようなもの。
クルマは、なんだかインドのコルマ/Kormaを思わせて、やっぱり南アジアの雰囲気。

実際、アチェの料理はとても南アジアに近いと感じます。それも、スリランカや南インドの味に。
ドライスパイスに加えて、カレーリーフやパンダンリーフを多用することからくる印象だと思います。

カレーリーフ Aceh_North Sumatra_2025

位置的に見ても、歴史的に見ても、西側から多大な影響を受けてきた土地ですので、
料理の中に南アジアの気配を感じることは不思議ではありません。

とはいえアチェでは、マスタードシードはコリアンダーシードに、
タマリンドはアサム・スンティ/Asam Suntiと呼ばれるビリンビ(ナガバノゴレンシ)の塩漬けに、
そして、ダールはココナッツに、と置き換わりますが。

コリアンダーシード Aceh_North Sumatra_2025

アサム・スンティ Aceh_North Sumatra_2025

民家の庭先には、カレーの木とビリンビの木が植えられ、この二つがアチェの食卓に欠かせないのだと伺えます。
カレーリーフはアチェではテムルイ/Temuruiとも呼ばれます。
南アジアでは一般的なこのハーブも、インドネシア国内で多用するのはアチェくらいではないかと思います。

カレーの木  Aceh_North Sumatra_2025

ビリンビの木 Aceh_North Sumatra_2025

ビリンビについて少し触れておきますね。
緑の小さなこの果実は、スターフルーツの仲間。でも、すっっっっっごく酸っぱいのです。歯に染みるほど。
その酸味を生かし、インドネシアの他の地域でも、スープなどの酸味付けに使われることがあります。

ビリンビ Aceh_North Sumatra_2025

このビリンビを、天日干しと塩漬けを3日繰り返してできたのがアサム・スンティ。
あまりドライになっても美味しくないそうで、ほどよくしっとりしたのが好まれるそうです。

アサム・スンティ Aceh_North Sumatra_2025

朝ごはんを食べた帰り道で、ちょうどアサム・スンティを干しているのを見かけました。
手前から、1日目、2日目、3日目。だんだん色が変わっていくのがわかりますね。
(椰子の葉を編んだ敷物も素敵です)
出来上がりのアサム・スンティは、日本の昔ながらの酸っぱい梅干しによく似た味がします。

このアサム・スンティはアチェの味を構成する大事な要素の一つ。
酸味使いは限定的になりがちなインドネシアにあって、これほど幅広く酸味を活用する地域も珍しいです。

アチェ滞在中にとても気に入った一皿があります。
クア・プリエッ・ウ/Kuah Pliek Uと呼ばれる、野菜をたっぷり使ったスープです。

クア・プリエッ・ウ Aceh_North Sumatra_2025

クアはスープ/汁を意味し、プリエッ・ウはココナッツオイルの搾りかすを発酵させたものを意味します。
アチェの言葉で、ココナッツは「ウ」なんです。かわいいですよね。

プリエッ・ウ Aceh_North Sumatra_2025

このプリエッ・ウ、小さな小さなひとかけらを口に含むだけで、それはそれは強烈な味と香りが口腔に広がります。
ココナッツの油脂が持つ独特の香味と、発酵由来の酸味を帯びた旨味。
そして、芳香と異臭のギリギリのキワを攻めるような、インパクトのある香りなのです。
これが、アサム・スンティを含むその他のブンブやスパイス、そして柔らかく煮えた野菜と合わさることで、
なんとも優しく染み入る、味わい深いスープになるのです。

クア・プリエッ・ウ Aceh_North Sumatra_2025

朝ごはんでも食べられるような、
あるいは味噌汁的に、毎日の食卓にあってもいいんじゃないかというくらいの滋味な美味しさ。
あの強烈なプリエッ・ウが、と思うほどです。

アチェ料理の食堂に行った時、パダン料理の食堂のようにずらっと皿を並べて出してもらえました。

アチェ料理 Aceh_North Sumatra_2025

全体的に茶色いですが、ここは「茶色いは美味しい」の法則発動の場です。どれも本当に味わい深い。
アチェの料理は概ね、複雑で重層的な風味を持ちながらも、角がなくて優しい印象で、白いご飯がとの相性も抜群。
インド洋に向かう土地柄、そして訪れたのも海辺の街バンダ・アチェだったので、海産物が充実しています。

貝のグライ Aceh_North Sumatra_2025

この貝のグライにうっとり。小粒の貝なのですが、旨みが素晴らしかった。

そして、アヤム・ゴレン/Ayam Goreng(鶏のフライ)は、たっぷりのカレーリーフと共に揚げられています。

アヤム・ゴレン Aceh_North Sumatra_2025

カリカリの葉っぱの香りが、とにかく食欲をそそるのです。
アヤム・ゴレンはもう全部これでいいよ、と思うくらいに好きな味でした。

それからもうひとつ、アチェと言えば。

ミー・アチェ/Mie Aceh。

ミー・アチェ Aceh_North Sumatra_2025

ホット&スパイシーなソースが絡んだ麺に、カニ。
具材は、カニやエビ、シーフードミックス、そして牛肉から選べるのですが、
わたしは、このソースに海鮮の風味が合うと思っているので、そしてやっぱり美味しいしでカニを選びがちです。
初めてアチェに来た時に、泊まったホテルの前の屋台で人生初のミー・アチェを食べ、
その時に「カニ2杯入ってる」と感動したのですが、時を経てのこのミー・アチェも2杯入っていました。
オスとメス(卵あり)それぞれ。うふふ。

わたしの中で、アチェのごはんはもっと辛い印象だったのですが、今回行った限りではそうでもなく、
それよりも、このスパイスとココナッツの組み合わせに酸味が入ることで生まれる軽やかさに夢中でした。

アチェ料理 Aceh_North Sumatra_2025

写真を見返しただけでも、味を思い出してお腹が鳴りそうなアチェの料理。
そんなアチェの家庭料理を、地元のお母さんたちに習ってきた時のことを、次回に。

2021/05/17

ケチャップ/Kecap - 2

ケチャップ Jakarta_2019

ということで、インドネシアのソイソース、ケチャップについて、再び。
このブログを始めて間もない頃に、一度ケチャップについて書いているので、まずはそちら(→)をどうぞ。
 
ケチャップって、ご当地ものがすごく多いんです。
もちろん、大手がどかんと市場を大半を持っていってはいるのですが、
それでも、各地に世代を超えて続く家内制手工業的なケチャップメーカーがあり、地元の人に愛されている。
ケチャップ・ファナティックなひともいたりする。
となると、やはり、ケチャップってそんなに違うものなの?という疑問が生じます。

ので、味比べ。そう、今回はテイスティングです。

ケチャップ Bandung_West Java, 2021

続くコロナ禍でどこにも行けず、おうちにお邪魔してキッチンを覗かせてもらうなんてあり得ない状況で、
自宅にいながらにしてできること、ということで各地のケチャップを取り寄せたのでした。
ケチャップ・マニスをメインにして、10種類。せっかくなのでケチャップ・アシンも6種類。
選抜基準は:
・評判がいいもの
・歴史が古いもの
・手頃なサイズのボトルで販売しているもの
3つ目は、現実的な理由で。
試してみたかったメーカーは他にもあったのですが、大瓶でしか販売していないとか、多いんです。
もちろんできるのなら、大瓶で揃えたかったのですが、
(ケチャップ・コレクター(っているんですよ)も大瓶で揃えるのが基本、ラベルがかわいいから)
その後、消費しなくちゃいけないことを考えるとやっぱり無理…という苦渋の決断です。

では、選手紹介。

まずは、ケチャップ・マニスの定番、バンゴ/Bango。

ケチャップ・バンゴ Bandung_West Java, 2021


ケチャップ・マニスという調味料を知ったその時から「美味しいのはバンゴ」と刷り込まれているので、
わたしの中で、ケチャップ・マニスの味の基準はバンゴ。家でも常備していたのはずっとバンゴでした。

西ジャワ州のスバン/Subangで生産されていますが、発祥はジャカルタのタナ・アバン/Tanah Abang。
ラベルには1928年とありますが、実際にはそれ以前から製造販売はしていたようです。
中国の福建省からの移民であったご主人と、中国系3世の奥さんが、ガレージで甕から販売していたケチャップ。
当初は中国で使われている、日本の醤油と同系統の塩味のソイソース、ケチャップ・アシンのみだったのを、
奥さんが、ジャワの人の舌に合わせたケチャップ・マニスの製造を勧めたのが始まりだとか。
ロゴのバンゴはコウノトリのこと。世界に羽ばたくケチャップになることを夢見て名付けたのだそうです。

着実に評価を得て伸びてきたバンゴ、1992年にユニリーバの傘下に入ったのがきっかけでその販路を一気に拡大。
現在、インドネシアのケチャップ・マニスの市場は、
このバンゴと、もう一社、大手食品メーカーABCブランドで65%が占められていると言われます。
ロゴに込められた願いが現実となって、世界に羽ばたいているバンゴ。
それなのに、あれこれアイテムを増やすことなく、ケチャップ一本でやっているところも好感が持てます。

ちなみに、ABC。
わたしはバンゴ派なのでABCにはあまり興味がないのですが(言っちゃった)(ご贔屓ってそうそうもの)、
ここは、ハインツ傘下にあり、チリソースやケチャップなども製造しているメーカーです。

ケチャップABC Bandung_West Java, 2021


今回のテイスティングの選手には入れていませんが、冷蔵庫にいつかのデリバリーについてきたのがあったので。
ABCのケチャップは、黒大豆ではなく黄大豆、パームシュガーではなくカラメル化した普通の白砂糖を使用、
そして、多くのメーカーが味の鍵として各社独自のブレンドを行うスパイスを一切使わないのが特徴。
でも、わたしバンゴ派なので。扱いに差をつけてごめんなさいね、ABC派のみなさん。

続いて、次の選手は、西ジャワ州タンゲラン/Tangerangで「伝説のケチャップ」と呼ばれている、SH。

ケチャップ・SH Bandung_West Java, 2021

ケチャップ・べンテン/Kecap Bentengの名でも親しまれているオレンジのラベル。
1920年創業と言われています。
SHとはSiong Hienの頭文字。
創業者のLo Tjit Siongの名に、中国語で「ブランド」を意味するHienをつけ(「標」かな?)、
つまりは「シオン・ブランド」という、まっすぐなネーミング。
そのレシピは書き記されたことはなく、このブランドを守るひとたちの手を通じて次世代に伝わってきた、
まさに秘伝のレシピなのだそうです。
どんな料理にも合うと言われるSHですが、焦げにくいという特徴が特に焼き物にちょうどいいと聞きます。

続いて、今回のラインナップの中ではいちばん古い、インドネシアの記録では2番目に古いと言われている、
オラン・ジュアル・サテ/Orang Jual Sateブランドのケチャップ。

ケチャップ・オラン・ジュアル・サテ Bandung_West Java, 2021

東ジャワ州のプロボリンゴ/Probolinggoのケチャップで、創業は1889年。
そもそもケチャップ・マニス自体がいつから製造され始めたのか、文書上の正確な記録というのは発見されておらず、
なので、根拠となりうるのが各社のラベルに書いてある創業年。
最も古いのはケチャップ・ベンテン/Kecap Benteng社の1882年だと言われています。

オラン・ジュアル・サテ=サテ売り、の名の通り、串焼きのサテに合う緩めの液状。
(創業当時はビンタン・ビダダリ/Bintang Bidadariという名前だったらしいです)
このチャップは友人に「美味しかった」と聞いて、先に買ってみてたんですよね。
サテだけでなく、どんな料理にも合わせやすい、確かに美味しいケチャップでした。

次は、中部ジャワ北岸の街、パティ/Patiの伝説のケチャップ、レレ/Lele・

ケチャップ・レレ Bandung_West Java, 2021

こちらは1954年創業。
周辺地域の多くのケチャップメーカーがこのブランドの元で学んだとも言われる、パイオニア的存在。
拠点となっているパティはケチャップのブランドが多く、
地元のひともローカルのブランドを好む傾向がとりわけ強いのだそうです。
なので、大手もなかなか入り込めない強固な土地柄なのだとか。
そんなパティで、口コミで評判が伝わり県外からも取り寄せられたり、お土産の定番となったりしているのが、
このレレブランドのケチャップなのだと言われます。
レレはナマズなんですが、ナマズは別に原料に含まれていません。
インドネシアの食品メーカー、特にケチャップ系って、こういう紛らわしいのが多い(笑)。

元々は、結構緩めな液状だったのだそうですが、
顧客であるソト屋たちからの要望で、より濃いものに改良していったのだそうです。
緩いとケチャップをたくさん使うことになるので、採算が合わなくなるということだとか。
このパティという街のすぐ近くにはスープで有名なクドゥス/Kudusという街があります。
以前記事にしたソトの旅でも立ち寄った街。
ソトを食べる時に、各自がテーブルにあるケチャップで好みの味に整える。
ケチャップとソトは、切っても切れない関係にあるのです。

選手紹介だけでだいぶ長くなりそうなので、あとはちょっと駆け足で。

まず、ジャワ島外からの参加者として、
北スマトラのメダン/Medanからハティ・アンサ/Hati Angsa、バンカ/Bangka島からシオン/Siong。

ケチャップ・ハティ・アンサ Bandung_West Java, 2021

ケチャップ・シオン Bandung_West Java, 2021

ケチャップ、特にケチャップ・マニスはジャワ島が圧倒的な中心地で、
ジャワ島外となるとそのブランドの数がぐんと減ってしまいます。
でも、せっかくだから、他の島の味も知りたいじゃないですか。
メダンもバンカ島もどちらも華人の多い地域なので、そいういう意味でケチャップが疎遠なはずはないのです。
ただ、どちらかと言えば、アシンの方が身近な存在かな、とは思います。

ハティ・アンサからはケチャップ・マニスとケチャップ・アシン両方を。
クンタル/Kental (濃)とエンチェル/Encer(薄)という表現なのが、独特です。
シオンも、マニスとアシン両方製造しているメーカーですが、今回はマニスだけ。

この2つのブランドは、原料に小麦を含んでいます。
これは、大豆を発酵させる際に麦麹を使うということみたいですね。
この2社以外だと、先のABCも麦麹(ラベルのデザインにも麦が)使用。台湾式のやり方だと言われています。

あと、この2つのブランドは、わたし的「チーム・ラベルがかわいい」でもあります。
アンサ(白鳥)は、もっと小さいプラボトルになるとハートの白鳥しかいないデザインになるので、
あえてちょっと大きめのボトルを選びました(なのに破けちゃってるのが届いて、泣きたい)。
シオンの象さんも、めちゃかわいい。しかもバラがあしらわれている。象とバラの組み合わせって、レア。

ケチャップ・シオン Bandung_West Java, 2021

あと、この二つのブランド、ジャカルタあたりのお粥屋さんでよく見かけるのも共通点です。
トップの写真も、ジャカルタのお粥屋さんで撮ったもの。

続いて、西ジャワは、バンドン/Bandung。わたしの地元。
バンドンも、ケチャップのブランドは結構あるのですが、選んだのはこの3つ。

ケチャップ Bandung_West Java, 2021

マニスにアングル/Anggurとサピ/Sapi、アシンはパパヤ/Papayaで。
ラベルのデザインで選んだことは否定しません。

同じ西ジャワのタンゲランのケチャップ・アシン、チュ・トゥン・ヒン/Cu Tung Hinは友人のおすすめ。

ケチャップ チュ・トゥン・ヒン Bandung_West Java, 2021

ダイヤモンドと金魚のラベル。ここまでしっかり漢字を表記しているブランドも珍しいです。
マレーシアやシンガポールなどにも輸出しているのだそう。

続いて中部ジャワからもう1ブランド、ロンボク・ガンダリア/Lombok Gandariaのマニスとアシン。

ロンボク・ガンダリア Bandung_West Java, 2021

先ほどのパティが中部ジャワの北岸代表だとしたら、こちらは内陸代表ということで。
ソロ/Soloが発祥の地ですが、近年徐々に全国区に進出してきているブランドです。
パッケージに唐辛子(=ロンボク)がありますが、唐辛子は配合されていません。

東ジャワからも、もう1社。これも内陸の街で、先のソロに結構近いマゲタン/Magetan発祥のサウィ/Sawi。

ケチャップ・サウィ Bandung_West Java, 2021

創業1935年のケチャップメーカー。
トマトケチャップなども販売していますが、スタートはこのケチャップから。
マニスとアシン両方揃えてみました。
サウィとは菜っ葉のような葉野菜のことですが、菜っ葉は配合されていません(もういい)。

で、最後。やっぱり入れておいてあげよう。キッコーマン。

キッコーマン Bandung_West Java, 2021

日本の醤油とはまた別物の、ケチャップ・アシン・オリエンタル。
これは、キッコーマンがアク/Akuというインドネシアのメーカーと組んで製造販売しているもの。
アクは決して古いメーカーではないのですが、
ケチャップやトマトケチャップなどのブランドとして、最近ファストフード店などでよく見かけます。

はあ。長かったですね。でも、あとは、味見するだけです。

まずは、マニスのチーム。

スマトラから順番にならべました(最後のサウィとサテは地理的には逆だけど、まあいい)。

ケチャップ ・マニス Bandung_West Java, 2021

①ハティ・アンサ:
色が濃厚で、塩の味が結構鋭く強い。後からカラメル味。
②シオン:
これも色が濃厚で、塩みが鋭い。カラメル味は①より若干弱めだけど、やや焦げの風味がある。
③SH:
色が薄くて明るい。濃度はしっかりとしたとろみ。
八角、シナモン、コリアンダーなど、配合されたスパイスの風味が特徴的で、ふんわりとした後香が続く。
④バンゴ:
くっきりとしたカラメルの風味とまろやかな甘味。スイーツに使ってもいいんじゃない、というくらいの風味。
⑤アングル:
粘度の高い、かなりとろりとした液状。五香粉のような風味が微かに残る。塩味も結構くっきり。
⑥サピ:
同郷の⑤に似るが、スパイスの香りも塩味もやや強め。
⑦レレ:
やや浅い色味。味はどことも全く違う。
スパイスとハーブの風味なのか、ウスターソースを思わせるような複雑な味わい。
⑧ロンボク・ガンダリア:
どちらかというと、ハーブ系の風味で、後味がフルーティー。
⑨オラン・ジュアル・サテ:
液状は一番緩い。カラメルの風味に心もち強めの塩気。
⑩サウィ:
濃いめの色味。八角が香り、やや苦味のある味。

ケチャップ・マニス Bandung_West Java, 2021

正直、10種類も揃えちゃって、味の違いわかんないんじゃないの?とか思いもしたのですが、
予想以上に、違います、みんな。ちょっと、びっくり。

メダン(スマトラ)とバンカのケチャップの塩味が強いというのは、
逆に言うと、ジャワの甘味に対する指向性の強さが現れているともとれます。
そもそも、元々は塩味ソイソースとして伝来したケチャップになぜ甘さが加わったのかというのは、
え、ここでその話し入れる?みたいな感もありますが、要はジャワ人の甘さを好む舌ゆえなんですよね。
以前、ジャワ料理について書いた中でも少し触れましたが、
オランダの植民地時代に中〜東ジャワで行われたサトウキビの強制作付けが、地域の食糧不足を招き、
ジャワ人たちが米に変わるエネルギー源としてサトウキビや椰子からの糖分を摂取するようになり、
結果的にジャワ人の味覚を、甘さを好むように変化させたという背景があり、
その甘味好みに合わせてケチャップが変化したというものが、腑に落ち感のある説ではないかと思っています。
なので、ケチャップ・マニスは主にジャワ島で多く生産消費され、
スラウェシのマカッサルなどではケチャップ・ジャワと呼ばれたりするに至るわけで、
ジャワ島外では、ここまで甘さに振り切ることがなかったのかもしれないな、と思います。

で、10種類味見をした、結論。
ベーシックに使い、料理にコクと深みを出すならオールマイティーなバンゴ、アングルあたり、
でも、ちょっと他にはない風味を求めるなら、SHかレレ。この二つは他に替えの効かない美味しさがあります。

では、お水を飲んで、舌をもどしてから、ケチャップ・アシンへ。6種類。

ケチャップ・アシン Bandung_West Java, 2021

①ハティ・アンサ:
だいぶ薄い色。原料に砂糖を含まず、かなりシャープな塩味。
②チュ・トゥン・ヒン:
色の濃さのわりに、味は比較的マイルド。塩気は控えめで、椰子糖由来のカラメル風味の甘さがある。
③パパヤ:
色はだいぶ薄い。原料に砂糖を含まず、かなりはっきりとした発酵味がある。魚醤を思わせるくらいの旨味。
④ロンボク・ガンダリア:
マイルドな発酵味に、塩気とカラメルの風味。甘味もある。
⑤サウィ:
椰子糖由来の甘味、配合されたニンニクやスパイスのいずれも突出することなく、バランスよくまとまっている。
⑥キッコーマン:
濃いめの色。とろりとした甘味はコーンシロップ由来。

ケチャップ・アシン Bandung_West Java, 2021

これまた、それぞれ結構個性が出ました。
ハティ・アンサは、マニスにしろアシンにしろ、お粥屋によくあるっていうのはなんか分かる気がしますね。
インドネシアのお粥は基本鶏粥(Bubur Ayam)で、出汁や味も結構しっかり目についているものなのです。
そこに加えるなら、出汁の風味や、胡椒やネギ葉セロリのようなハーブの風味を殺す旨味マシマシ系ではなく、
底上げ系の塩味だったりコクだったりなのだろうなという。

アシン6種類の中では、
料理で焦がし醤油的に使うと美味しそうなのは、チュ・トゥン・ヒン、
わたし好みでは、発酵旨味ぎゅうぎゅうなパパヤでナシゴレンとか作りたい感じです。

味比べ、面白かったです。
ケチャップ・ファナティックなひとたちがいるのも納得しました。これだけ違うんだもの。

ケチャップのパッケージって、No1って記載されがちなんですよね。

ケチャップ Bandung_West Java, 2021

レレにも大きくNo1ってありましたよね。
これは、もちろん「うちのが一番」っていう意味もあるのでしょうが、
それぞれが「唯一無二」であるという意味合いもあるんではないかなという気がしてきました。

本当はもっといろんなご当地ケチャップ(特にマニス)を取り寄せて比べてしたかったんです。
各地の「伝説のケチャップ」を競わせてみたい、みたいな。
でも、やる前から分かってたんですが、この大量の茶色い液体たちを、まずは頑張って消費してしまわなくては。

ケチャップ Bandung_West Java, 2021

うちの食卓、この先当分は、茶色い料理が並びそうです。