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2017/08/21

チョト・マカッサル/Coto Makassar

チョト Makassar_South Sulawesi, 2017

バンガイ諸島へ向かう途中で、南スラウェシのマカッサル(ウジュンパンダン)に立ち寄りました。
数時間の滞在ではあったのですが、マカッサルで時間があるとなったらならば、
なにをおいてもまずは、チョト/Coto を食べに行くのがわたしの決まりです。優先順位最上位。

以前、インドネシアのスープについて書いた際にもさっとご紹介したチョト。
牛の臓物を使った、マカッサル名物のスープです。

臓物をカットする Makassar_South Sulawesi, 2017

臓物というと苦手なひともいると思いますが、
このチョトで使うあらゆる部位の内臓は、丁寧に下処理をされているので臭みを感じることもほとんどなく、
むしろ、色んな食感を楽しめるという意味で、お肉だけで食べるのはもったいない気がするほどです。

コロン・ブッタ/Korong Buttaと呼ばれる素焼きの鍋で調理するのが伝統的なチョトの流儀なのだそう。
滋味深くも複雑なその味を生み出すのは、土地の言葉でAmpah patang puloと言われる40種のスパイス。
40種とは。
バワン・メラ、ニンニク、生姜、ピーナッツ、クミリ、ガランガル、コリアンダーシード、クミンシード、
シナモン、丁字、ナツメグ、メース、胡椒、砂糖、塩、赤唐辛子、青唐辛子、タマリンド、
レモングラス、コブミカンの葉、サラムの葉、ターメリックの葉、ネギ、セロリの葉、
そして、内臓を処理するのに石灰。とにかく「たくさん」なのでしょう。

このチョトは、なかなか自分で作ってみるのは大変な気がしますね。

で、きれいに下処理をして臭みを抜いた内臓と、若いパパイヤの実を使って柔らかくした牛肉を、
これらのスパイスと共にしっかりじっくり煮込んだ後に、小さく刻んでいきます。

臓物をカットする Makassar_South Sulawesi, 2017

オーダーする際に、例えばどこの部位は抜いて欲しいとか、肉だけにして欲しい、などの注文も可能です。
(わたしはいつも、全部混ぜにしてもらうのですが…笑)

そして、チョトと言えば、小さなお碗。

チョト Makassar_South Sulawesi, 2017

例えばどこか別の街で、レストランのメニューにあったからとチョトをオーダーしたとして、
そこで、大きなボウルになみなみと入ったものを持って来られたら、わたしはきっとがっかりしてしまいます。
チョトは「こんなに美味しいのにこんなに小さいお碗で、足りないかも…」と思ってしまうくらいがいいのです。

このお碗に、旨味ぎゅうぎゅうのスープを注いで、ネギの葉と揚げたバワン・メラと散らして、いただきます。

チョト Makassar_South Sulawesi, 2017

牛肉と内臓の旨味もちろんのこと、ピーナッツの風味がまた素晴らしく、食欲をそそります。
好みでライムを絞ったり、タウチョのサンバルを加えて味を調整して、もしくは途中で味変して楽しみます。

そして、このチョトと一緒に食べるのがクトゥパッ/Ketupatとブラス/Burasです。

クトゥパッ Makassar_South Sulawesi, 2017

クトゥパッ(マカッサルではカトゥパ/Katupa)は椰子の葉を編んだ中にお米を詰めて茹でたライスケーキ。
インドネシアだけでなく、フィリピンやマレーシアなどでも見られる調理法です。

この椰子の葉の真ん中に切れ込みがあるので、そこをぱかっと割って、ごはんを食べます。

クトゥパッ Makassar_South Sulawesi, 2017

ごはんを食べながらチョトを食べてもいいですし、チョトの中にごはんを入れてしまってもいい。
お好みの食べ方でどうぞ。

そしてもう一つはブラス。

ブラス Makassar_South Sulawesi, 2017

ブラスは、ココナッツライスです。
ココナッツミルクを使って炊いたごはんを、バナナの葉ですこし平たく包んで再び蒸したもの。

ブラス Makassar_South Sulawesi, 2017

旨味ライスケーキですね。こちらを齧りながら、チョトを食べるのもまたよいものです。

こうして、ごはんを食べつつ、お碗の中の具を楽しみ、スープを味わい、
ああどうしようなくなっちゃう、もっとたくさん食べたいのに、おかわりしようかな、とか思い始め、
それでも、最後までスープを飲み切る頃には、なんとなくちょうどいい腹具合になっています。
(とはいえ、3杯おかわりした日本からのお客さんもいましたけどね…笑)

さて、このチョトの始まり。

16世紀前半にはもうあったのではないかという説もあるようですが、実際にはまだよく分かっていない様子です。
サンバルにタウチョを使うあたり中国の影響が見えるとされ、そもそもインドネシアのソト等の汁物が、
17世紀に盛んだった中国からの移民とその影響から生まれたと言われていますので、
なので、チョトもその頃に生まれたのではないかなという気がします。
ただ、その当時でここまで複雑なスパイス使いをしていたのかどうか。
なんとなく、始めはもっとシンプルで、徐々に色んな文化を取り入れつつ、複雑化して行ったように思えたり。
とは言え、西洋との交易品であったナツメグや丁字などを使う辺りは、
古くから航海交易の中継地として栄えたマカッサルという土地柄を反映しているようで興味深いです。

チョト Makassar_South Sulawesi, 2017

マカッサルはチョトに限らず、色んな美味しいものがある土地なのです。
沿岸の街ですので、当然シーフードは美味しいですし、
牛肉使いの上手い民族なのか、牛ベースのスープはこのチョト以外にもまだあるのです。
また、交易地らしく華人たちの食文化もしっかり根付いているようです。
(マカッサルほど道ばたに豆乳売りのスタンドをみかける土地はなかなかない気がします)
なので、本当はもっと色々食べ歩きたいのです。
けれども何故か、いつもマカッサル滞在はごく短時間。
よって「まずはチョトを食べてから」という思考回路である以上、なかなかチョト以外にたどり着けません。
いつか、きちんと時間を割いて、マカッサル及び周辺の南スラウェシ巡りをしてみたいと思います。
(その時もきっと、まずはチョトを食べてから、となるだろうと自信をもって言えますが)


2017/08/19

バンガイ諸島の食卓⑦

パペダ Banggai Islands_Central Sulawesi, 2017

さて今回は、芋類とはまた別の、もうひとつの主食枠の食べ物について。

パペダ/Papeda、って聞いたことありますか?
サゴヤシの澱粉から作る、糊状の食べ物なのです。
粘度の高い味のない葛湯、みたいな感じだというと想像つきますか(余計分からないですか、笑)。
インドネシアの中でも、スラウェシ、マルク、パプアあたりでしか食べられていないと思います。
そのパペダを町のお母さんが作ってくれました。

ですが、その前に、まずはサゴヤシの澱粉について。

サゴヤシ Banggai Islands_Central Sulawesi, 2017

サゴヤシはパプアニューギニアが原産と言われている椰子で、
スマトラ島からニューギニア島間に位置する、東南アジア島嶼部を中心に植えられています。
幹の中に大量の澱粉を含んでいるのが特徴で、
この澱粉が、米食以前の東インドネシア地域での主食のひとつとされていました。

スラウェシもサゴヤシが多く植えられている土地で、
バンガイ島の北側を回っていた際に、道ばたの水流近くで澱粉採取しているところに出くわしました。

サゴヤシ澱粉採取現場 Banggai Islands_Central Sulawesi, 2017

手前に転がっている丸木がサゴヤシの幹です。

サゴヤシ Banggai Islands_Central Sulawesi, 2017

真っ白。

この真っ白い、幹の内側部分を粉砕器に投入していきます。

粉砕器 Banggai Islands_Central Sulawesi, 2017

で、ここで砕かれたサゴヤシの繊維が出て来るところに、ひたすら水を流す。

サゴヤシ澱粉採取 Banggai Islands_Central Sulawesi, 2017

この水を流している部分の下に、この繊維に含まれていた澱粉質があつまっていく仕組みです。

サゴヤシ澱粉採集 Banggai Islands_Central Sulawesi, 2017

で、この澱粉質を、今度はわきの溜め池に流し込みます。

サゴヤシ澱粉採取 Banggai Islands_Central Sulawesi, 2017

その溜め池、たっぷり水を張っているように見えますが、水は徐々にその先に流れるようになっていて、
一番手前の大きなスペースは、ほとんどが沈殿した澱粉質なのです。

サゴヤシ澱粉採取 Banggai Islands_Central Sulawesi, 2017

手を入れると、ごくごく浅く張った水の下にたっぷり分厚く、澱粉が沈殿しています。

サゴヤシ澱粉 Banggai Islands_Central Sulawesi, 2017

この澱粉を更に乾燥させて、サゴ粉として東ジャワのスラバヤに出荷しているのだそうです。
その先、何になるの?と聞いてみましたが、
「さあなあ、もうサゴって名前じゃないものになってるかもなあ」という答え。
色々な加工品となって、販売されるのでしょう。

サゴヤシを使った食品というと、シノレや板状にして焼いたものなど、食事の際に食べるものの他、
キャッサバから作られるタピオカ同様、粒状になってデザートに使われるサゴパールなどもあります。

サゴパール Banggai Islands_Central Sulawesi, 2017

別の島で泊めてもらった村長さんの家にあったものなんですが、なんともクラシックなパッケージ(笑)。

サゴパール Banggai Islands_Central Sulawesi, 2017

食べ方などは、タピオカと同じだそうです。

そして、サゴヤシクッキーのバゲア/Bageaも、東インドネシアでよく目にします。大好物。

バゲア Bandung_West Java, 2017

このバゲアは、バンガイ諸島の帰りがけに、南スラウェシから買って帰って来たもの。
ボリっとした歯ごたえと、それでいてほわんと口の中でゆるくとろける感じが特徴の、素朴な焼き菓子です。

バゲアとバンケッ Sangir Island_North Sulawesi, 2015

一方こちらは、北スラウェシのサンギル島で買ったバゲアとバンケッ/Bangket。
棒状の方が、バゲア。
平たい方がバンケッで、こちらもサゴ澱粉を使って、スパイスなどを足した焼き菓子です。

もう一つ、サグ・レンペン/Sagu Lempengというのもあります。
サゴヤシの澱粉をかりっかりの板状に乾燥させたもの。

サグ・レンペン Wakatobi_Southeast Sulawesi, 2015

コーヒーや紅茶などに浸して、ふやかしながら食べるもので、カチカチに硬い、保存食のようなものでしょうね。

さて、そして、肝心のパペダです。

バンガイ諸島では、パペダはオニョッ/Onyopと呼ばれるのだそうです。
通常、汁気のものと一緒に食べられることが多いパペダ。
酸っぱい魚のスープを作った際に、一緒に用意してもらいました。初パペダ、ひとり静かに大興奮。

サゴ澱粉 Banggai Islands_Central Sulawesi, 2017

市場では、このおからみたいなモロモロの状態で売られています。

これを買って来て、まずは適量水を足して異物が入っていないかを漉して確認します。

サゴ澱粉 Banggai Islands_Central Sulawesi, 2017

キレイな状態になったサゴ澱粉。余分な水分は一旦捨てます。

サゴ澱粉 Banggai Islands_Central Sulawesi, 2017

ここからは、一気です。
(というか、パペダの準備はあっという間なのです)

撹拌作業がしやすいように、床にどんとボウルを置き、固まった澱粉を適当にほぐします。

パペダ調理 Banggai Islands_Central Sulawesi, 2017

で、そこに熱湯を適量注ぎます。

パペダ調理 Banggai Islands_Central Sulawesi, 2017

そして、すかさず、とにかく間髪入れずに、ぐるぐるぐるぐると撹拌していきます。

パペダ調理 Banggai Islands_Central Sulawesi, 2017

パペダ調理 Banggai Islands_Central Sulawesi, 2017

パペダ調理 Banggai Islands_Central Sulawesi, 2017

パペダ調理 Banggai Islands_Central Sulawesi, 2017

パペダ調理 Banggai Islands_Central Sulawesi, 2017

白濁していたのが、徐々につやのある半透明状になっていくの、お分かりいただけますか?
ぐるぐるぐるぐる、たぷたぷたぷたぷとかき混ぜて、均一な糊状になったら出来上がり。
熱々のうちにたべるのが美味しいので、大急ぎで食卓へ。

パペダ Banggai Islands_Central Sulawesi, 2017

お箸を刺して。

このお箸を両手に一本ずつもって、ぐるぐるぐるぐる!っとパペダを巻き取るのです。

パペダ Banggai Islands_Central Sulawesi, 2017

楽しいです、これ。お母さんに「やらせて!」とねだりました。

で、巻き取ったのを、ぽとんとスープに落とします。

パペダ Banggai Islands_Central Sulawesi, 2017

で、両手のお箸で一口大にちぎっていくのです。

パペダ Banggai Islands_Central Sulawesi, 2017

味のあるものではないんです。ただ、つるんとしたのどごしがなんともクセになる。
食べてはぐるぐる巻き取って、また食べて、ぐるぐる巻き取って。
お母さんは「ごはんも食べなさい」と言ってくれたのですが、
「米なんてジャワでも食べられます!」と、断固パペダ。わたしはかなり好きです、これ。

南スラウェシだと、このパペダは魚/鶏出汁にたっぷり野菜を入れたスープで食べるのだそうです。
また、北スラウェシでは、椰子砂糖を使って甘く仕上げ、小さな塊にココナッツをまぶして食べるのだとか。
オンゴル・オンゴル/Ongol-ongolと言われるこのスイーツ、ちょっと気になりますよね、いつか作ってみます。

パペダ Banggai Islands_Central Sulawesi, 2017

食べてみたいなあと思っていたものを食べられて大満足。
つるんとしたパペダは、小さい子からお年寄りまで、みんなの大好物なのだそうです。
「オニョッ作るの!」と、準備中からみんな待機。
出来上がりを、いそいそわいわい食べるのもまた楽しく。いい経験になりました。


2017/04/01

スープ②/Soto, Sop, Coto

ソト・クドゥス Magelang_Central Java, 2017

中部ジャワのスープ自慢をした一つ前の記事ですが、インドネシアのスープについてもうちょっと詳しく。

まあ、これまで食べた「美味しい」自慢と言えばそれまでですが。

でも、その前に。まず、インドネシアのスープの名称について。
ソト/Soto、ソップ/Sop(時にスップ/Sup)、チョト/Coto、クア/Kuah、その他。
汁物を表す言い方は幾とおりかあるんですね。
一番よく使われるのはソトかもしれません。ソト・アヤムなどはインドネシアごはんとしてはメジャー級。

そもそものソトの由来は、中国だと言われています。
オランダ植民地時代の17世紀頃に、
中部ジャワのスマラン辺りの中国からの移民たちの間で食べられていた料理に「Caudo」というものがあり、
そこから派生して、広く一般にソト、中部ジャワ北岸の一部地域ではタウト又はサウト、
そして南スラウェシのマカッサルでチョト、と呼ばれるようになったという説があります。
残念ながら、そのCaudoがどのような料理なのかが分からないのですが、
ソトによくビーフンや春雨などが使われることを思うと、華人由来というのは腑に落ちます。

また、ターメリックを使うソトがあることからインドの影響もある、という説もありますが、
これに関しては、直接インドの影響というよりは、インド由来のターメリックの使用がインドネシアに定着して、
それがソトの調理の中でも使われるようになった、という程度ではないかなと思います。
このターメリックに限らず、ソトは定着する過程で現地の材料を取り込んでいき、
キャンドルナッツ、レモングラス、コブミカンやサラムの葉などを多用します。

ソト・アヤム Bandung_West Java, 2016

では、ソトとソップはどう違うのか。
よく目にする疑問であり、わたしもしょっちゅう人に訊いていますが、なかなか答えが出ません(笑)。

中国に由来するソトに対し、ソップは西洋由来(スープ)のものを指す、という説。
スープが濃厚でスパイスを多用するのがソト、あっさり澄んだスープがソップ、という説。
またはその逆。
具を先に入れておいて汁を後から注ぐのがソト、一緒に煮込んでいるのがソップ、という説。
いずれも「そうかも」と思える一方で、どうにも「例外」が出てきてしまう。
なので、最近は「そう呼ばれているからソト/ソップなんだ」というところに落ち着き(諦め)ました。

ちなみに、クアに関してはどうなのか。
これはソトやソップと違い、メインは具なのだと思います。汁が多めではあるのですが。
例えば、ミー・クア/Mie Kuahは、メインはミー(麺)の汁麺のことです。
とはいえ、スープ的に出されるクアもあるので、今回は一応含むことにします。

ということで、まずは、定番中の定番、ソト・アヤム/Soto Ayamから。
アヤム=鶏、なので、要はチキンスープ。

ソト・アヤム Jakarta, 2016

鶏出汁のスープに、ゆで玉子、野菜(キャベツ、トマト、モヤシなど)に、春雨をいれたものがベーシック。
ターメリックを使った黄色っぽいスープのものが多いですが、必須ではありません。
写真のは、コヤ/Koyaと呼ばれる、エビのクルプック(揚げ煎)を粉にしたものがのっています。
このコヤをトッピングに使うのは、東ジャワのラモンガン風ソト・アヤムの特徴なのだそう。
旨味増し増しになります、このコヤ。

ソト・アヤム Jakarta, 2016

これは、ご飯に最初からかけてあるタイプ。
汁かけご飯が「お行儀悪い」とされないの、とても嬉しいです(笑)。

中部ジャワのソトの中でも、ソト・ガディン、ソト・カディピロ、そしてソト・クドゥスはソト・アヤムです。
(クドゥスに関しては、水牛の場合もありますが)
ソト・アヤムはインドネシア各地で、時にその名を変えつつも、広く親しまれているスープ。
去年訪れた、フローレス島の山の中、3時間ほどのトレッキングでたどり着く電気も通ってない村の晩ご飯も、
ソト・アヤムでした(さっきまでそこらへんを歩いてた鶏で作ってくれました)。

南カリマンタンのバンジャルマシンの名物、ソト・バンジャル/Soto Banjarも、ソト・アヤムの流れ。

ソップ・バンジャル Banjarmasin_South Kalimantan, 2016

裂いた鶏、春雨、ゆで玉子に野菜、そしてターメリックは使わない澄んだスープ。
ソト・バンジャルはスパイス使いが特徴で、ナツメグや丁字、時に八角やシナモンなども使って風味を出します。

ちなみに、ソト・バンジャルはライスケーキと一緒に食べるのが決まり。
それがご飯になったら、それはソト・バンジャルではなくてソップ・バンジャルなのだそうです。
(なので、上の写真はソップ・バンジャルなのです)

鶏肉は宗教的タブーにも触れず(例外はありますが)、安価で、そして手に入りやすいということから、
インドネシア各地の肉料理における鶏度は必然、高くなるわけですが、
次いでよく使われるのは、やはり牛肉。

わたしの住むバンドンの名物、ソト・バンドン/Soto Bandungは牛ベースのスープです。

ソト・バンドン Bandung_West Java, 2016

使う牛肉はスジの混ざったソト用とされる肉で、赤身とスジ部分それぞれの旨味がスープに出て美味しいのです。
レモングラス、サラムの葉、コブミカンの葉などを使い、臭みを抑えつつ、
(ソト・バンドンに限らず、ジャワのソトはこのハーブ使いが基本になります)
仕上げに更にネギや葉セロリを足すことで、肉っぽさとのバランスをとります。
トッピングの大豆と、具の大根がソト・バンドンの特徴。
大根を使った料理というのは、インドネシアでもだいぶ珍しく、
周囲を火山に囲まれた高地で、野菜豊富なバンドンという立地を反映しているのでしょうね。

そんなバンドンでソト・アヤムを頼むと、

ソト・アヤム Bandung_West Java, 2017

時々、かなりソト・バンドンに引っ張られたものが出てきてびっくりします(笑)。

同じ西ジャワ地域からもう一つ、牛ベースのスープ。

ソト・ミー Jakarta, 2017

コクの牛スジのスープに麺が入ったスープ、ソト・ミー/Soto Mie。
麺はあくまで「具」扱いなので、汁麺のミー・クアとはまた別物になります。

ソト・ミー Jakarta, 2017

ジャカルタ及びボゴール辺りで有名なソト・ミーですが、シンガポールやマレーシアにもあるんですね。
知りませんでした。

また、牛テール使用のソップ・ブントゥット/Sop Buntutも、牛の旨味たっぷりのボリュームあるスープ。

ソップ・ブントゥット Bandung_West Java, 2016

ホロホロのお肉、トマトやニンジンなど野菜も入って食べ応えがあります。

そしてそして、牛スープと言ったら外せないのが、東ジャワ名物のこのラヲン/Rawon。

ラヲン Jakarta, 2015

クルアッを使った黒いスープで、その色にぎょっとする人もいますが、
見た目に反し、至って食べやすい、と言うか非常に美味しい、私的汁物ランキングのトップ3に入る料理です。
生のモヤシや、塩玉子をトッピングにして食べるのがお約束。

ラヲン屋台 Surabaya_East Java, 2016

本場スラバヤの人気店ではこの豪快さで、沢山のお客さんで賑わう店内をラヲン一品で回しています。

同じく東ジャワ、マドゥラ島のソト・スルン/Soto Sulungも、牛肉(と内蔵)を使ったスープ。

ソト・スルン Bandung_West Java, 2016

と言っても、写真はバンドンのお店で食べたものなのですが。
ターメリックを使っているので、黄色っぽいスープになります。

牛の内蔵を使ったスープとなると、これまた私的汁物ランキングトップ3に入るのが、こちら。

チョト・マカッサル Balikpapan_East Kalimantan, 2016

南スラウェシのマカッサル名物、チョト・マカッサル/Coto Makassar。
牛の臓物を臭みがなくなるまで丁寧に茹で、ピーナッツを使ったスープに仕上げたもの。
ソト・クドゥス同様、小さなお碗で出て来ます。
そこに、ライスケーキを入れたり、別々に食べたり。
以前、マカッサルに同行した日本人のお客さんでこのチョト・マカッサルを一度に3杯食べた方がいました。
気持は分かる、というくらいに美味しいのです。

マカッサルからの移民が多い、東カリマンタンのバリクパパンにも美味しいチョト屋がいくつもあります。
写真は、そのうちの一つで食べた時のもの。

南スラウェシは牛肉を上手く使う土地らしく、この他にも、牛リブを使ったスープなどもあります。

もう一つ、今度はスマトラ島から、牛ベースのスープを。

ソト・パダン Bukittinggi_West Sumatra, 2016

これだと、ピンクのクルプックばかりに目がいきますが、
西スマトラのソト・パダン/Soto Padangです(ピンクのクルプックもソト・パダンの主要構成員です)。
ジャーキー状の牛肉と、プルケデル/Perkedel(コロッケ)が入っているのが特徴。

パダンは、インドネシア有数のごはんどころ。パダン料理屋は世界中にあると言われるほどです。
土着の素材、インドの影響を受けたと言われる多彩なスパイス使い、じっくりかける手間と時間。
美味しいごはんが生まれるパダンとその周辺地域は、覚悟して行かないと確実に体重が増える危険地帯です。

さて、インドネシアでのメジャー度からいったら、鶏、牛と来たら次はヤギなのでしょうが、
なぜかわたし、ヤギの汁物を食べた記録がほとんどありません。
なので、ヤギはいつか「ヤギ」としてご紹介します。

で、豚。

たまに「インドネシアはイスラム国家」と書かれているのを目にすることもありますが、間違いです。
インドネシアはイスラムを国教としている訳ではなく、
カトリック、プロテスタント、ヒンドゥー、仏教、儒教が信仰として認められています。
つまり、豚だって、食べます。
バリといえば、バビグリン(豚の丸焼き)ですし!

とはいえ、豚のスープとなると、なかなかバリエーションが思いつかないのですが、
なぜか豚×金時豆、のスープはよく見かけます。

豚と金時豆のスープ Kupang_East Nusa Tenggara, 2016

写真は東ヌサトゥンガラ州クパンの、豚スモークのお店で食べたものですが、
北スラウェシのマナドでスップ・ブレネボン/Sup Brenebonと呼ばれる金時豆のスープも、豚。
豚の肋や足などの骨で出汁をとる、お祝い事には欠かせないスープなのだそうです。

もうひとつ、豚スープ。
バクッ・サユール・アシン/Bakut Sayur Asin。

バクッ・サユール・アシン Bandung_West Java, 2015

バクッはバクテー(Bak kut teh)のバクと同じく、豚の骨(リブ)を意味します。
サユール・アシンはインドネシア語で酸っぱい野菜。
Suan Cai(酸菜)と呼ばれる、高菜漬けにも似た葉野菜の漬け物のことです。
酸菜の酸味が豚の旨味と好バランスなスープです。

そして、魚のスープ。

大好きな、イカン・クア・アサム/Ikan Kuah Asamといわれる、酸っぱい海魚のスープです。

イカン・クア・アサム Rote_East Nusa Tenggara, 2016

魚の種類はそれぞれですが、比較的あちこちで食べられるのがこの酸っぱいスープではないかと思います。
写真は東ヌサトゥンガラのものですが、バリでも海魚の酸味スープの美味しいお店がありますし、
南東スラウェシのパレンデといわれるスープも、酸っぱい魚のスープです。
酸味の素は、トマト、ライム、タマリンド、そしてビリンビ/ナガバノゴレンシと呼ばれるフルーツなど。
魚を〆てからの処理の違いであったり、保冷技術の違いであったりもあるのかもしれませんが、
インドネシアの海魚の調理法は、生臭さをどう消すか、というのがひとつテーマに思えることがあります。
この酸っぱいスープも、酸味の他、クマンギやネギなどのハーブを使ったり、
調理前にターメリックをまぶして下処理をしたりします。

淡水魚からも、ひとつ。
ピンダン・パティン/Pindang Patinと呼ばれる、南スマトラの料理です。

ピンダン・パティン Palembang_South Sumatra, 2017

パティン(カイヤン)という淡水魚を、酸っぱ辛いスープで煮たもの。
酸味には、タマリンド、トマト、そしてパイナップルが使われ、唐辛子の辛さも効いた汗の吹き出るスープ。
ピンダンと呼ばれる酸っぱいスープは、ジャワを含め各地にもあり、素材は海魚であったり色々ですが、
南スマトラの内陸の街パレンバンでは、淡水魚を使うのが一般的なようです。
(あ、でも、アヒル肉のもありました)

最後に、酸っぱいつながりで、サユール・アサム/Sayur Asam。
サユールは野菜、アサムは酸味。そのまま「酸っぱい野菜」と呼ばれているスープです。

サユール・アサム Magelang_Central Java, 2015

特にジャワ島各地で食べられている、この甘酸っぱいスープ。
野菜は、長豆、ハヤトウリ、トウモロコシ、ピーナッツ、ムリンジョ/Melinjoと呼ばれるグネモンノキの実など。
酸味はタマリンドを使い、椰子砂糖少々で甘みを出します。

このサユール・アサムと関係があるのか分からないのですが、
南カリマンタンのバンジャルマシンの食堂で「野菜いる?」ときかれて「いる」と答えたところ、
刻んだ葉野菜が入った澄んだスープが出てきたりました。

ソト・アヤム Bandung_West Java, 2017

などと、徒然に書いてきましたが、
インドネシア各地のご当地スープ、まだまだ、まだまだあるのです。
挙げていったらキリがないのですが、食べに行かなくちゃリストが長々あるのも幸せです。

地方に行くとどうしても、ここのあれを食べておかなくちゃ、というのが先にたち、
例えば、スラバヤに行ってラヲンを食べないとやり残した感がある、とか、
マカッサルに来たのにチョトを食べずに帰るなんてこと絶対避けたい、とか、
そういう「あの味をもう一度」も大事なのですが、
新しい味を試す「インドネシア、スープの旅」って、ちょっとやってみたいです。