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2023/12/07

西スマトラの食卓④

テ・タルア Padang_West Sumatra, 2023

西スマトラのごはん、最後は甘いものとか飲み物とか、〆系で。

まずは飲み物。テ・タルア/Teh Talua。
玉子入りのあったかいミルクティーです。

玉子入り??と思っていたのですが、実際に飲んでみると生臭みはほとんど感じられず、
濃く出したお茶とコンデンスミルクの甘さとコクで、
マレーシアなどにもあるテ・タリッ/Teh Tarik(マレーシアのはテ・タレというカタカナ表記なのかな)みたいな、
ぎゅっとした強いミルクティ、という感じです。

テ・タルア Padang_West Sumatra, 2023

注文してから観察してみると、お湯を沸かしてお茶を煮出している間に、
コップで砂糖と生の卵黄を、それはそれは高速で、カチャカチャカチャカチャッ!!とかき混ぜ、
ふんわりと泡立つくらいの感じにしています。
スポンジケーキ作る時の白っぽくなった卵黄、まさにあんな感じの。
そこに熱くて濃いいお茶を注ぎ、コンデンスミルクを注ぎ、上にパパッとシナモンパウダー。
卵黄は浮いて表面の泡になり、コンデンスミルクは底に沈んでいるので、3層に見えますね。
ライムを一切れ添えて出来上がり。このライムは生臭さを消すため、ということでした。
ミルキーなあったかいお茶にライムっていう組み合わせが独特の風味になり、これは結構クセになる。
わたしは朝ごはんの際に飲んだのですが、夜に友人とかと集まってまったりしている時とかに好まれそうな感じです。

コピ・タルア Padang_West Sumatra, 2023

紅茶だけでなく、コーヒーのももちろん。コピ・タルア/Kopi Talua。
これは、コンデンスミルクではなくて、砂糖入りのコーヒーですね。
が、沈澱コーヒーなんですよね。なので、カスが入っています。
上の泡部分と混ぜると、沈澱しかけてたコーヒーのカスはまた混ざってしまい、
そして泡状のためカスが沈澱せず止まってしまうのです。
なので飲むと口の中にカスが。これは、どうするのが正解だったのでしょうか。
味についてはライムフレーバーの甘い練乳コーヒーのようで、個性的だけど好ましい味でした。

朝ごはんには、甘いものを食べたくもなります。

これは、ブキティンギで食べた、ラマン・タパイ/Lamang Tapai。

ラマン・タパイ Bukittinggi_West Sumatra, 2023

ラマンというのは、竹筒の中でココナッツミルクと調理された餅米のことです。
むっちりと炊き上がったライスケーキは、ココナッツの滋味あふれる美味しさ。

ラマン Bukittinggi_West Sumatra, 2023

巻いてあるのはバナナの葉。取り出しやすく、香りよく。
そこにかけるのが、黒餅米のタペ/Tapai。シャビシャビなのが美味しいのです。

米+ココナッツの組み合わせといえば、ブキティンギに向かう途中で売られている焼き菓子、ビカ/Bika。

ビカ Bukittinggi_West Sumatra, 2023

すりおろしたココナッツに米粉を混ぜて、砂糖を加えたものをバナナの皮の上にペタンと落として焼く。
素朴で美味しい焼き菓子ですが、焼き方が豪快です。

ビカ Bukittinggi_West Sumatra, 2023

ビカ Bukittinggi_West Sumatra, 2023

ビカ Bukittinggi_West Sumatra, 2023

調理穴を天面に開けたオーブンにずらっと並べた素焼きの鉢に、ぺたぺたとビカを起き、
その上に同じ鉢を重ねて、その鉢の上でも薪をばんばん燃やしていきます。
下のオーブンでももちろん炎は燃え盛っていて、上下から強力な火力で熱せられて焼き上げるのです。
火力のコントロールに熟練の技とかありそう。
焼きたては最高に美味しくて、これはお土産に買うとかっていうより、その場で食べてこそだと思います。

ブキティンギからもうひとつ。

アンピン・ダディア Bukittinggi_West Sumatra, 2023

市場のお土産売り場で、柱にくくりつけられるようにして売られていたこれ。
アンピン・ダディア/Amping Dadiahと呼ばれる、竹筒にいれた水牛ミルクのヨーグルトです。

アンピン・ダディア Bukittinggi_West Sumatra, 2023

発酵食品はインドネシアもあちこちに色々ありますが、これも面白いですね。
特にヨーグルトになるための何かを加えているわけではなく、
水牛の乳を竹筒にいれ、バナナなどの葉で口を覆って2、3日おくだけで自然に発酵が進み、
保存期間が長いほど、酸味が強く、しっかりしたテクスチャーになるのだそうです。

そのままスプーンですくって食べてみました。
発酵みが先にくるので、一瞬構えますが、口の中で溶かして味わうと確かにヨーグルト。
地元のひとたちはこれに椰子砂糖の蜜と削った氷をかけてデザート的に食べるのだそうです。

ということで、西スマトラの食い倒れ、これにて。
実は、ここにご飯を目的で旅行したのは二度目なのですが、三度目、余裕でやれます。何度でも。

ロントン・グライ・サユール Padang_West Sumatra, 2023

どこででも食べられるパダン料理ではあるのですが、
どこででも食べられるパダン料理であってもなお、こんなに「現地で食べる」ことの喜びがあるのがマジック。
やっぱり違うんですよ、ジャカルタやバンドンで食べるのとは。
で、「もう一回行ったしいいや」とは思わないんですよ。
インドネシアに住んで、こんなに何度も食べているのにも関わらず、
それでもやっぱり「また行きたい、できれば未達の近隣にも行きたい」と思ってしまう。
風光明媚な観光地を巡りたいというのではなく、ただ真っ直ぐに「ごはんを食べに行きたい」。
恐ろしくも魅惑の、西スマトラです(きっとまた行きます)。



2021/05/30

バッピア/Bakpia(ピア/Pia/Piah)

バッピア Bandung_West Java, 2021

自分で買うことはあまりなくても、何かと口にする機会はあるのがバッピア/Bakpia。
もしくは、ピア/Pia/Piah。 
誰かが国内旅行をして帰ってくるとお土産にもらいがちな、あれです。 

以前、こちらの記事で少し触れたこともありますが、バッピアも中国に由来する食べ物。
豚肉を意味するBakと、小麦粉の皮で包まれた焼きものを指すPia(餅)、
インドネシアに伝わった当初は豚肉を甘く炒め煮にした餡を包んでいたようですが、
それが現地化していく中で、中の餡が甘い緑豆などに変化し、
現在は、バッピアというと基本的にはこの緑豆餡や派生して生まれた他の甘い餡のものを意味します。
(豚のバッピアは最後にご紹介します)

バッピア Bandung_West Java, 2021

油分を練り込んだ生地で、甘く炊いた緑豆餡を包んだ一口大の丸くて平たい焼き菓子。

そんなバッピアはジョグジャカルタ/Yogyakartaの名菓。
ジョクジャカルタに、現在のバッピアに繋がる食べ物を持ち込んだのは、
1940年代に中国から移住してきたKwik Sun Kwokという人物だったと伝わっています。
前述の通り、当初は豚の肉や油脂を使うものだったバッピアを、
イスラム教徒が多数である現地のタブーや嗜好に合わせて、緑豆餡に変えた訳ですが、
緑豆餡を使った菓子ならTou Luk Piaと呼ばれるものが、彼ら移民の出身地である福建にあったと言われ、
なのになぜ、Bakのままにしたのかはちょっと謎。

で、
その緑豆餡のバッピアを商品化して、
一般に小売販売始めた元祖が、創業1948年のバッピア75という店だと言われています。

バッピア75 Yogyakarta_Central Java, 2016

現在は数多くあるジョクジャカルタのバッピア屋ですが、屋号に数字を使う店が多いのは、
ブランディングという意識もなかった時代に、店の番地が口コミで広がっていったからだと言われています。

当初は緑豆餡で売り出されたジョグジャカルタのバッピアですが、現在では様々なフレーバーが出ています。
紫芋、チョコ、チーズ、などはもう基本のラインナップに含まれている印象。

ジョグジャカルタ以外にも、ジャワを中心としたインドネシア各地にこのタイプの名菓はあります。
ただ「バッピア」という呼称はジョグジャカルタのものを指し、それ以外の土地のものは基本的にピアと呼ばれます。
ジョグジャカルタでのバッピアの成功を受けて生まれた、日本で言うご当地饅頭的なものもあるでしょうし、
また、別のルートで中国から伝わったとされるピアもあり、なかなか個性的で面白いのです。

まず、中部ジャワ北岸の街、テガル/Tegal。
お茶で知られる街ですが、ここにもピア店が並ぶエリアがありました。
この街では、クエ・ピア/Kue Piaと呼ばれるのが主流のようです。
ちなみに、クエは「菓子」全般を指すインドネシア語ですが、福建の言葉「Koe/粿」に由来します。

クエ・ピア Tegal_Central Java, 2019

ここは、ハリハリっとした層のある皮に、チョコ味、ミルク味、フルーツ味、とバリエーションも色々。

そのテガルからまっすぐ南下して、インド洋に当たるちょっと手前、
バニュマス/Banyumasという地域には、ノピア/Nopiaと呼ばれるピアがあります。
そして、そのノピアによく似ているのが、西ジャワ州内陸の街バンドン/Bandungで売られているソピア/Sopia。

ノピアとソピア Bandung_West Java, 2019

上の丸っこい方がソピアでやや楕円なのがノピアです。
バッピアとは皮が違うのです。
油分を含んで折り込みパイのような層なる生地ではなく、しっとりつるんとしたクッキー生地。

バニュマスのノピアは、1980年代に中国からの移住者によって作られ始めたと言われ、
餡は、パームシュガーに炒めたバワン・メラ/Bawang Merah(シャロット)を入れたものが元祖。
インドのタンドリーのような窯で、内壁に貼り付けて焼いているのだそうです。

また、バニュマスには同じくノピアと呼ばれながらも、形状が異なるピアがあります。

ノピア Bandung_West Java, 2019

別名テルール・ガジャ/Telur Gaja(象の卵)と呼ばれ(ネーミングセンス…)、
その名が表す通り、他のピアよりも大きくてぷくっと膨らみ、中が空洞なのです。
ねっとり溶けたパームシュガーが内側を覆っていて、素朴ながらも滋味深い味わい。
この大きなノピアに対して先の楕円のノピアは、小さなノピア=ミニ・ノピア=ミノ/Minoと呼ぶことも。

一方、バンドンのソピアは、由来は調べてもよくわからない。
なんなら、バンドンの北に位置するレンバン/Lembangというところには、
同じソピアという名で、でもパイ状の皮のピアがあったりする。
土産物のご当地饅頭状態っていうのは、こういうことですよね。
全ての饅頭に、明確な由来や由緒が必要なわけではないように、ピアだって自由です。
ただ、王道の緑豆餡以外の、今風なチョコやチーズなどの餡を使ったものは、
バッピアと区別してソピアと呼ぶという記述をみたこともあるので、
名前はその辺りに由来するのかもしれません(写真のはチョコ餡)。

バンドンのピアで、もうひとつ。

ピア Bandung_West Java, 2019

ピア Bandung_West Java, 2019

「スラバヤ生まれ」と大きく書かれた、バンドンで売られているピア。
バンドンなん?スラバヤなん?なんなん??
ほろほろはらはら、な皮に包まれているのは、緑豆餡ではなく黒豆餡。
って、カチャン・ヒタム/Kacang Hitam(=黒豆)と書いてはありますが、豆沙かな。

さて、またジャワ島北岸に戻って東に移動し、あと少しで東ジャワという、中部ジャワの端っこのラセム/Lasem。
ここには、先の象の卵に似た空洞のピアがあります。その名はヨピア/Yopia。

ヨピア Bandung_West Java, 2019

ヨピア Bandung_West Java, 2019

ヨピア Bandung_West Java, 2019

同じ中部ジャワのスマラン/Semarangで買ってきたモチ/Mociも一緒に写ってますが。

薄くて歯応えのある皮がぷくっと膨らみ、内側に溶けたパームシュガーが染みています。
同じパームシュガーでも、ノピアほどの層にもならず、すっかり染みてしまっているのです。
素朴さ、さらにマシマシ。
ジョグジャカルタのバッピアに比べると、知名度はなかなか及ばないヨピアですが、
その歴史は古く、初代は1800年代に生産を開始し、現在は3代目が店を継いでいるのだそうです。
ラセムのあたりは、インドネシアの中でもかなり早い時期に中国からの移民があった地域でもあり、
ラセム自体も小さな町ではありますが、現在でも他の街とは異なる、独特の中国風のたたずまいを残しています。
潰さず持ち運ぶのはなかなか難しい、そしてなんとなくずっと食べ続けてしまいそうになるヨピア。
今後も、継承されていきますように。

そして、もうひとつ。ティオン・チウ・ピア/Tiong Ciu Piah。
ピア・ブラン/Pia Bulan、またはクエ・ブラン/Kue Bulanという呼称の方が一般的な「中秋餅」。

クエ・ブラン Bandung_West Java, 2020

月餅です。
中秋節が近くなると、わらわらわらっと店頭に出てきます。
例えばホテルなどが売り出す高級月餅ももちろんいいのですが、それとは別物として、
この、遠い昔に故郷を離れすっかりしっかりローカライズされ、だけど魂はまだそこにある的な月餅が、
特に右の大きな平たいのが、好きです。たまらない。
イラスト付きの旧式綴りで記された餡は、ドリアンだったりチェンぺダッだったりのドメスティック餡。
なんだかんだ言って、毎年買わずにはいられないのです(そして愛でる)。

クエ・ブラン Bandung_West Java, 2020

と、ざっとピアを見てみましたが、最後にまたバッピアに戻ります。

ジョグジャカルタのバッピア食べ比べ。

バッピア各種 Bandung_West Java, 2021

じゃん。

バッピア各種 Bandung_West Java, 2021

参加選手は、上左から、
フレーバー系代表で、Merlinoの紫芋餡、Wong Premiumのチョコナッツ餡、
正統派代表で、Patuk 75、Patuk25、Kurnia Sariの緑豆餡。

バッピア各種 Bandung_West Java, 2021

切ってみて、実食。
まず、ベーシックな緑豆餡チームから。

バッピア Bandung_West Java, 2021

元祖と言われている、パトゥッ/Patuk75。
友人から「バッピアなら75」と教えられてきたわたしですが、実際食べ比べると納得します。
程よくしっとりした厚すぎず薄すぎずの層になる皮に、塩気のある味がしっかりついた緑豆餡。
確かに、ど真ん中、って感じの美味しさです。間違いがない。

バッピア Bandung_West Java, 2021

続いて、パトゥッ/Patuk25。
甘さのない、固めではりっとした厚めの皮は粉感もしっかりあり、
それに対して、中の緑豆餡は粘度が高くくっきりとした味付けです。このバランスが特徴かも。
75と並んで人気のあるお店で、好みがはっきりわかれそうなくらいに違いも明確。
ちなみに、バッピア店によくあるPatuk(パトゥッ)というのは、
現在バッピア店が集まる中心地となっているジョクジャカルタ内の地区の名前で、
そこで一番最初(1980年代)にバッピア販売を始めたのがこの25だと言われています。

バッピア Bandung_West Java, 2021

3つ目が、クルニア・サリ/Kurnia Sari。
75を推していた友人が「でもこっちも美味しい」と言っていたブランドのもの。
というか、これを食べてみたかっただけのはずが、なぜか食べ比べになってしまったのでした。
食べてみて、これまた「ああたしかに」と納得。
75よりもさらにしっとり、でもさらりとした繊細な皮に、甘さ控えめの緑豆餡はほくほくしていて美味。

それぞれに個性があるけど、この3つの中で選ぶなら、わたしは最後のクルニア・サリかも。

そして、フレーバーチーム。

バッピア Bandung_West Java, 2021

メルリノ/Merlinoの紫芋。
元々はベーカリーだったお店が2000年からバッピアの販売を開始したのだそう。
これも、おすすめしてもらったんです。
薄くて、しっとりしっとりした皮の中にみっしりの紫芋餡。
「うわ、めっちゃ芋!」というくらい芋の味がしっかりしてて、ふくふくと嬉しくなります。
ころんと小さな形なのと、皮の存在感が控えめなおかげか、ぽいぽいっと食べられてしまいそう。

バッピア Bandung_West Java, 2021

最後、ウォン・プレミアム/Wong Premiumのナッツ入りチョコ餡。
レイヤーをはっきりさせた皮が素敵な、なんか垢抜け系のビジュアル。
味は、うーーーん。悪くはないけど、せっかくのチョコなのにチョコみが足りないというか。
甘さは控えめで、その分風味も控え目になってしまっている感じ。
皮はハラハラとほぐれてしまう。うーーーーん。

そして、おまけ。

バッピア Bandung_West Java, 2021

トゥグ・ジョグジャ/Tugu Jogjaのバッピア・ククス/Bakpia Kukus。蒸しバッピア。
え、きみそれでもバッピアを名乗るの?という気がするのですが。

バッピア Bandung_West Java, 2021

中はチョコ餡。
チョコはちゃんと美味しいし、油っけを感じる(マーラーカオ風の)皮もふんわりで、いいんだけど、
でも、バッピアなのか、きみは??

ところで、肉餅という意味での(元祖)Bakpiaも、あるところにはあります。
バンドンの華人エリアにあるバッピアは、いつ行ってもブレのない安定感のある美味しさ。

肉餅 Bandung_West Java, 2018

奥に写っているのは、コピア/Kopiahと呼ばれる、硬くて詰まったパン。

外側は小麦粉の皮で、その中に、韮と豚肉と海藻(海苔かな)を入れ、しっかりと揚げてあります。

肉餅 Bandung_West Java, 2018

肉餅 Bandung_West Java, 2018

肉餅 Bandung_West Java, 2018


肉餅 Bandung_West Java, 2018

肉餅 Bandung_West Java, 2018


お玉の上で次々に作られていく肉餅。この作業、延々眺めていられます。
かりっと揚がったバッピアは、じんわり染みる旨味に海藻の風味が個性的な味わい。
時々食べたくなって、出向きます。

肉餅 Bandung_West Java, 2018

わたしを初めてこの店に連れてきてくれた友人(バンドン生まれの食い道楽でオレ様な華人)が、
コピアでバッピアを挟んで食べるんだ、ほーら中国風バーガー(どやっ)。
と言ったのでした。
いやサイズ感おかしいし、と思ったのですが、十数年たった今でも、やっぱり挟んでみてしまうあたり、
わたしは素直です。

ということで、インドネシアのバッピア。
中国からジャワに伝わり、そこから各地に広がり根を張り、いま土産物屋に積み上げられているピア。
有名なインドネシア人のトラベルブロガーが、いつだったか、
「今までで一番美味しいピアはゴロンタロ(スラウェシ北部)にあった!」
と書いていたこともありました。

ピア Bandung_West Java, 2019

午後のお茶のお供に、この小さなお菓子が辿ってきた道のりと時間を思うのもまた味わいかと。
口の中の水分をごっそり持っていかれるのが基本ですので、お茶はレフィルも用意してどうぞ。


2020/05/03

マルタバ/Martabak

マルタバ Bandung_West Java, 2020

お久しぶりです、こまめにアップしようとすると書き手がどんどん太るという恐ろしいブログです、こんにちは。
普段はテーマを思いついたら、それを集中的に食べて調べてとするのですが、
そんなことしたら取り返しのつかないこと(体型)になると、ゆっくりじっくり準備するしかなかったのが、今回のテーマです。

マルタバ/Martabak。

脂肪のかたまり、糖のかたまり、ジャンクの極み。
なのに抗えない、その一切れ。もう一切れ。さらにもう一切れ。

マルタバには2種類あります。
パンケーキ状の甘いマルタバはマルタバ・マニス/Martabak Manis(呼称の地域差は後述します)、
おかず系のマルタバはマルタバ・テロール/Martabak Telur(テロールは卵の意味)。
まずは、マニスの方から。

マルタバ・マニス Bangka_Bangka Belitung, 2019

たっぷり厚みのあるパンケーキ生地にたっぷりのマーガリン、それがマルタバ・マニスの基本。
この生地の、気泡の抜けた後の霜柱のような質感がマニスのシズル感、だと思っています。
生地をふくらませるのに、ベーキングパウダーを使うのが基本ですが、イーストもよく併用されているようです。
それによって、軽いふわふわ感だけではない程よい食感が生まれます。

鉄製のどっしりした鍋に生地を流し、表面にふつふつと気泡が上がってくるのを待ち、

マルタバ・マニス Bangka_Bangka Belitung, 2019

マルタバ・マニス Bangka_Bangka Belitung, 2019

外カリッ、内フワッと焼き上がったところに、
これでもかという量のマーガリンの塊を落として、溶かしながらまんべんなく伸ばしてゆきます。

マルタバ・マニス Bangka_Bangka Belitung, 2019

そこに、バナナ、チョコ、チーズ、ピーナッツ、白ごま、などなどお好みのトッピングを。

マルタバ・マニス Bangka_Bangka Belitung, 2019

で、仕上げに練乳をだーーーーっとかけ、パタンと半分に折り、外側にも追いマーガリンをし、完成です。

まるでシロップに浸したかのようなしっとりとした食感。
練乳の甘さ、チョコのビター感、ピーナッツのクランチーさ、チーズの旨味、それらをまとめるマーガリンの脂分。
一切れつまんで食べた、その後の指のべったり感。
カロリーが、とか、身体に悪そう、とか、それはもう当然そうなのですが、
マルタバの魅力というのは、この身体に悪そう加減というか、悪魔の食べ物的なところだと思っています。
ひとことで言うと「やばい」。

このマルタバ・マニスの発祥は、バンカ島だと言われています。


というか、
このマルタバ・マニス状のものはインドネシアに限らず、シンガポールやマレーシアでも食べられており、
ある時マレーシアが「これはマレーシア発祥」と発表し、インドネシアが反発ということがありました。
まあ、マレーシアVSインドネシアはこれに限らず時々やっているので、既視感あるとも言えますが、
決着のつけようがないものなので、今回はインドネシアにおいてのお話ということで。

バンカ島は錫の産地で、かつてその錫産業に従事するために中国から移民があった島です。
その時の流れと名残で、バンカには客家系華人が今でも多く暮らしており、
このマルタバ・マニスも客家系華人が作り出したものだと言われています。
ただ明確な記録が残っているわけではなく、年代やいきさつは、諸説ありというか、不明というか。

マルタバ・マニス、バンカでは元々ホック・ロー・パン/Hok Lo Panと呼ばれていたのだそうです。
ホック・ロー人の菓子、という意味だとか。
ホック・ロー/Hok Loは、この客家人同様このバンカ島に移民として入ってきた福建省出身の人々。
漢字では福佬、日本語読みだと「ふくりょう」となるようですね。
で、そのホック・ロー人の菓子ですが、実はホック・ローのひとは一切関わりがないと言われています。
あくまでも、客家人が作り出した食べ物で、
当時のバンカで客家より上にあったホック・ローの社会的地位にあやかろうとして名付けられただけなのだとか。

今でこそあれこれ色々トッピングされているマルタバ・マニスですが、
最初のホック・ロー・パンは白胡麻に白砂糖のみというシンプルな焼き菓子だったようです。

マルタバ・マニス Bandung_West Java, 2019

そしていつしか、ホック・ロー・パンは、元々あったマルタバ(今のマルタバ・テロール)の仲間として、
マルタバ・マニスと呼ばれるようになったのだそうです。
マルタバ・テロールについても後述しますが、マニスとテロール、全然違う食べ物なのです。
なのにどうして、ホック・ロー・パンはマルタバを名乗ることにしたのか。
それが調べても分からない。悔しい。ご存知の方がいたら是非教えていただきたいです。

そのマルタバ・マニスという呼称も、実は地域差があり、
西カリマンタンのポンティアナク/Pontianakではアパム・ピナン/Apam Pinangと呼ばれます。
アパムはイーストを使った米粉のお菓子、ピナンはバンカ島の中心地パンカル・ピナン/Pangkal Piangに由来します。
ピナンの菓子、というくらいの意味なのでしょうね。
また東ジャワ以東ではテラン・ブラン/Terang Bulanという名称が一般的です。
明るい月、を意味するテラン・ブラン。由来はその見た目であることは明白です。
一方、中部ジャワのスマラン/Semarangでは、クエ・バンドン/Kue Bandungと呼ばれているのだそう。
バンドンの菓子、という意味です。
実際、スマランに限らず、マルタバを売っている屋台でバンドンの地名を掲げているところはよくあるのです。

マルタバ屋台 Jakarta_2018

これは、バンドン発祥のマルタバがあるという意味では全くなく、
スマランでマルタバを売り始めた客家人が、
隣店舗で繁盛していたミー・バンドン/Mie Bandung(バンドン麺)屋の景気にあやかろうと、
自分たちも「バンドンの菓子」と名乗りだしたからだそう。
ホック・ローにしろバンドンにしろ、なんとも客家系の人々の商売における聡さが伺える話しです。

マルタバ屋 Bandung_West Java, 2019

こうしてマルタバ屋は、バンドンとバンカそれぞれの地名を掲げる二大流派ができたわけです。
その味に違いがあるのかについては、それぞれの見解が分かれるとこではありますが、
バンカ出身の知人は「他のところのより、バンカで食べるマルタバの方がしっとりしている」と言います。
生地がしっとりなのは、「油分で」しっとりだというのがさすがという感じ。

マルタバ・マニス Bangka_Bangka Belitung, 2019

ちなみに最近は、マルタバ・サンフランシスコとかマルタバ・シカゴとかも登場し、いったいなんのことやら。
トッピングも、ベーシックなものだけでなくベリー系が加わったり、ピザ風だったり、
生地もパンダンリーフで緑色だったり、レッドベルベッドだったり、自由型です。

以前、北スマトラの都市メダンでみかけたのは、マルタバ・ピリン/Martabak Piring。

マルタバ・ピリン Medan_North Sumatra, 2018

見ての通り、ホーローのお皿で焼くマルタバ・マニスです。

マルタバ・ピリン Medan_North Sumatra, 2018

マルタバ・ピリン Medan_North Sumatra, 2018

普通のマルタバ・マニスより小振りで薄型です。

また、発祥の地バンカのパンカル・ピナンのお土産屋で見つけたのはマルタバ・ティピス/Martabak Tipis。

マルタバ・ティピス Bangka_Bangka Belitung, 2019

薄くてパリパリの甘いおせんべいのようなマルタバ。美味しかったです。

さて、そろそろ、もうひとつのマルタバ、マルタバ・テロールを。

薄く伸ばした生地で、名前が表わす通りに卵、鶏肉、刻みネギを合わせたものを包み、揚げ焼きにしたもの。
作り方を動画でどうぞ。(なんか小さいけど、大きなサイズに出来ない…)



マルタバ・テロールのルーツは西側、アラブ地方。
サウジやイエメンあたりのストリートフードとされるムタバ/Mutabbaqが原型だと言われています。
アラブの言葉で「折り畳む」という意味らしいムタバがインドネシアに伝わり、マルタバとなったそう。

アラブ地方にルーツとはいえ、恐らくインドネシアに持ち込んだのはインド系移民でしょうね。
そして、ジャワよりもスマトラに先に入ってきたのではないかと。
スマトラで食べるマルタバ・テロールは、ジャワのよりも西側に近い気がします。
(オリジナルを知らないので、印象ベースで言ってます、笑)

マルタバ・テロール Batam_Riau Islands, 2019

シンガポールの対岸、バタム島で食べたマルタバ・テロール。

マルタバ・テロール Batam_Riau Islands, 2019

マルタバ・テロール Batam_Riau Islands, 2019

ここは、店自体がマルタバ屋兼インド料理屋という感じで、
具のお肉も、ヤギ、マトン、鶏、シーフード、マッシュルームなどから選べるようになっています。
そして、アチャール(野菜の浅漬け的なピクルス)とカレーソースがついてきます。
このカレーソースをびゃーっとかけていただくんですね。

マルタバ・テロール Palembang_South Sumatra, 2019

こちらは南スマトラのパレンバンで食べたマルタバ・テロール。
やはりカレーソースがかかっていて、中の卵は溶いてないタイプ(これはお店による気がします)。

いずれも、様々なスパイスでしっかり味付けされた具とソースという印象。

一方、ジャワのマルタバ・テロールはというと、これは先のクエ・バンドンで登場したスマランが最初のようです。
スマランは中部ジャワ北岸の都市で、古くから交易で栄え、それゆえに外国人も多く居住していた街。
そんなスマランのアラブ系(インド系という説も)移民が作り始めたマルタバは、
ジャワの人々の嗜好に合わせて、よりあっさりとしたものに変化したのだと言われています。

マルタバ・テロール Bandung_West Java, 2020

現在、ジャワの各地で食べられているマルタバ・テロールは基本的にこのスマランの流れのもの。
使われる肉は鶏か牛、スマトラのマルタバで多用されたスパイスはごく控えめになり、
より旨味があると鶏卵が家鴨卵に変化したり、ソースがあっさりとした甘酸っぱいタレになったり。
刻みネギだけは、変わらなかったようです。

マルタバ・テロール Palembang_South Sumatra, 2019

わが家がマルタバを買うとき、マニスかテロールどちらかだけ、というのはないのです。
どっちも買います。塩っぱいと甘いの法則で。
毒食らわば皿までの法則かもしれないですが、とにかく、両方買ってこそなのです。

もうひとつ、明確な答えがわからないマルタバの謎があります。
「マルタバ屋台はなぜ夜なのか」

マルタバを売る屋台は、だいたいマニスもテロールも扱っているのですが、
基本的に夕方になると店を開き、夜中まで営業します。
人々がマルタバを食べるタイミングも、当然夕方から夜、それも結構遅い時間が多いのです。

マルタバ・マニス Bandung_West Java, 2019

これは、
バンカの華人の食生活サイクルに基づき、ホック・ロー・パンの時代から夜に売られていたのだという説や、
マルタバ屋は屋台が基本なので、商店なりオフィスなりが昼間の営業を終えた後の敷地で営業するからという説、
高カロリーなものは夜に食べたくなるからという、ホント??という説まで。
ただスマトラの、オリジナルに近いマルタバ・テロールを売る(マニスは取り扱わない)店では、
別に朝でも普通にマルタバ・テロールが食べられます。
なので、マニスの習慣に引っ張られたか、それとも「屋台だから」が正解なのか、という感じですね。

マルタバ・マニス Bandung_West Java, 2020

年に数回お仕事を一緒にさせていただく会社があります。
そこの現場で、どうしても作業が押して押して押してしまうと、
てっぺんが近づくあたりで、マルタバの差し入れがあります。夜中のマルタバ。
「もうそんな時間か」というのと「こんな時間にこんな高カロリー」というのと「禁断の…」というのが混ざり合った気持で、

一切れ。もう一切れ。ついついさらにもう一切れ。