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2020/05/03

マルタバ/Martabak

マルタバ Bandung_West Java, 2020

お久しぶりです、こまめにアップしようとすると書き手がどんどん太るという恐ろしいブログです、こんにちは。
普段はテーマを思いついたら、それを集中的に食べて調べてとするのですが、
そんなことしたら取り返しのつかないこと(体型)になると、ゆっくりじっくり準備するしかなかったのが、今回のテーマです。

マルタバ/Martabak。

脂肪のかたまり、糖のかたまり、ジャンクの極み。
なのに抗えない、その一切れ。もう一切れ。さらにもう一切れ。

マルタバには2種類あります。
パンケーキ状の甘いマルタバはマルタバ・マニス/Martabak Manis(呼称の地域差は後述します)、
おかず系のマルタバはマルタバ・テロール/Martabak Telur(テロールは卵の意味)。
まずは、マニスの方から。

マルタバ・マニス Bangka_Bangka Belitung, 2019

たっぷり厚みのあるパンケーキ生地にたっぷりのマーガリン、それがマルタバ・マニスの基本。
この生地の、気泡の抜けた後の霜柱のような質感がマニスのシズル感、だと思っています。
生地をふくらませるのに、ベーキングパウダーを使うのが基本ですが、イーストもよく併用されているようです。
それによって、軽いふわふわ感だけではない程よい食感が生まれます。

鉄製のどっしりした鍋に生地を流し、表面にふつふつと気泡が上がってくるのを待ち、

マルタバ・マニス Bangka_Bangka Belitung, 2019

マルタバ・マニス Bangka_Bangka Belitung, 2019

外カリッ、内フワッと焼き上がったところに、
これでもかという量のマーガリンの塊を落として、溶かしながらまんべんなく伸ばしてゆきます。

マルタバ・マニス Bangka_Bangka Belitung, 2019

そこに、バナナ、チョコ、チーズ、ピーナッツ、白ごま、などなどお好みのトッピングを。

マルタバ・マニス Bangka_Bangka Belitung, 2019

で、仕上げに練乳をだーーーーっとかけ、パタンと半分に折り、外側にも追いマーガリンをし、完成です。

まるでシロップに浸したかのようなしっとりとした食感。
練乳の甘さ、チョコのビター感、ピーナッツのクランチーさ、チーズの旨味、それらをまとめるマーガリンの脂分。
一切れつまんで食べた、その後の指のべったり感。
カロリーが、とか、身体に悪そう、とか、それはもう当然そうなのですが、
マルタバの魅力というのは、この身体に悪そう加減というか、悪魔の食べ物的なところだと思っています。
ひとことで言うと「やばい」。

このマルタバ・マニスの発祥は、バンカ島だと言われています。


というか、
このマルタバ・マニス状のものはインドネシアに限らず、シンガポールやマレーシアでも食べられており、
ある時マレーシアが「これはマレーシア発祥」と発表し、インドネシアが反発ということがありました。
まあ、マレーシアVSインドネシアはこれに限らず時々やっているので、既視感あるとも言えますが、
決着のつけようがないものなので、今回はインドネシアにおいてのお話ということで。

バンカ島は錫の産地で、かつてその錫産業に従事するために中国から移民があった島です。
その時の流れと名残で、バンカには客家系華人が今でも多く暮らしており、
このマルタバ・マニスも客家系華人が作り出したものだと言われています。
ただ明確な記録が残っているわけではなく、年代やいきさつは、諸説ありというか、不明というか。

マルタバ・マニス、バンカでは元々ホック・ロー・パン/Hok Lo Panと呼ばれていたのだそうです。
ホック・ロー人の菓子、という意味だとか。
ホック・ロー/Hok Loは、この客家人同様このバンカ島に移民として入ってきた福建省出身の人々。
漢字では福佬、日本語読みだと「ふくりょう」となるようですね。
で、そのホック・ロー人の菓子ですが、実はホック・ローのひとは一切関わりがないと言われています。
あくまでも、客家人が作り出した食べ物で、
当時のバンカで客家より上にあったホック・ローの社会的地位にあやかろうとして名付けられただけなのだとか。

今でこそあれこれ色々トッピングされているマルタバ・マニスですが、
最初のホック・ロー・パンは白胡麻に白砂糖のみというシンプルな焼き菓子だったようです。

マルタバ・マニス Bandung_West Java, 2019

そしていつしか、ホック・ロー・パンは、元々あったマルタバ(今のマルタバ・テロール)の仲間として、
マルタバ・マニスと呼ばれるようになったのだそうです。
マルタバ・テロールについても後述しますが、マニスとテロール、全然違う食べ物なのです。
なのにどうして、ホック・ロー・パンはマルタバを名乗ることにしたのか。
それが調べても分からない。悔しい。ご存知の方がいたら是非教えていただきたいです。

そのマルタバ・マニスという呼称も、実は地域差があり、
西カリマンタンのポンティアナク/Pontianakではアパム・ピナン/Apam Pinangと呼ばれます。
アパムはイーストを使った米粉のお菓子、ピナンはバンカ島の中心地パンカル・ピナン/Pangkal Piangに由来します。
ピナンの菓子、というくらいの意味なのでしょうね。
また東ジャワ以東ではテラン・ブラン/Terang Bulanという名称が一般的です。
明るい月、を意味するテラン・ブラン。由来はその見た目であることは明白です。
一方、中部ジャワのスマラン/Semarangでは、クエ・バンドン/Kue Bandungと呼ばれているのだそう。
バンドンの菓子、という意味です。
実際、スマランに限らず、マルタバを売っている屋台でバンドンの地名を掲げているところはよくあるのです。

マルタバ屋台 Jakarta_2018

これは、バンドン発祥のマルタバがあるという意味では全くなく、
スマランでマルタバを売り始めた客家人が、
隣店舗で繁盛していたミー・バンドン/Mie Bandung(バンドン麺)屋の景気にあやかろうと、
自分たちも「バンドンの菓子」と名乗りだしたからだそう。
ホック・ローにしろバンドンにしろ、なんとも客家系の人々の商売における聡さが伺える話しです。

マルタバ屋 Bandung_West Java, 2019

こうしてマルタバ屋は、バンドンとバンカそれぞれの地名を掲げる二大流派ができたわけです。
その味に違いがあるのかについては、それぞれの見解が分かれるとこではありますが、
バンカ出身の知人は「他のところのより、バンカで食べるマルタバの方がしっとりしている」と言います。
生地がしっとりなのは、「油分で」しっとりだというのがさすがという感じ。

マルタバ・マニス Bangka_Bangka Belitung, 2019

ちなみに最近は、マルタバ・サンフランシスコとかマルタバ・シカゴとかも登場し、いったいなんのことやら。
トッピングも、ベーシックなものだけでなくベリー系が加わったり、ピザ風だったり、
生地もパンダンリーフで緑色だったり、レッドベルベッドだったり、自由型です。

以前、北スマトラの都市メダンでみかけたのは、マルタバ・ピリン/Martabak Piring。

マルタバ・ピリン Medan_North Sumatra, 2018

見ての通り、ホーローのお皿で焼くマルタバ・マニスです。

マルタバ・ピリン Medan_North Sumatra, 2018

マルタバ・ピリン Medan_North Sumatra, 2018

普通のマルタバ・マニスより小振りで薄型です。

また、発祥の地バンカのパンカル・ピナンのお土産屋で見つけたのはマルタバ・ティピス/Martabak Tipis。

マルタバ・ティピス Bangka_Bangka Belitung, 2019

薄くてパリパリの甘いおせんべいのようなマルタバ。美味しかったです。

さて、そろそろ、もうひとつのマルタバ、マルタバ・テロールを。

薄く伸ばした生地で、名前が表わす通りに卵、鶏肉、刻みネギを合わせたものを包み、揚げ焼きにしたもの。
作り方を動画でどうぞ。(なんか小さいけど、大きなサイズに出来ない…)



マルタバ・テロールのルーツは西側、アラブ地方。
サウジやイエメンあたりのストリートフードとされるムタバ/Mutabbaqが原型だと言われています。
アラブの言葉で「折り畳む」という意味らしいムタバがインドネシアに伝わり、マルタバとなったそう。

アラブ地方にルーツとはいえ、恐らくインドネシアに持ち込んだのはインド系移民でしょうね。
そして、ジャワよりもスマトラに先に入ってきたのではないかと。
スマトラで食べるマルタバ・テロールは、ジャワのよりも西側に近い気がします。
(オリジナルを知らないので、印象ベースで言ってます、笑)

マルタバ・テロール Batam_Riau Islands, 2019

シンガポールの対岸、バタム島で食べたマルタバ・テロール。

マルタバ・テロール Batam_Riau Islands, 2019

マルタバ・テロール Batam_Riau Islands, 2019

ここは、店自体がマルタバ屋兼インド料理屋という感じで、
具のお肉も、ヤギ、マトン、鶏、シーフード、マッシュルームなどから選べるようになっています。
そして、アチャール(野菜の浅漬け的なピクルス)とカレーソースがついてきます。
このカレーソースをびゃーっとかけていただくんですね。

マルタバ・テロール Palembang_South Sumatra, 2019

こちらは南スマトラのパレンバンで食べたマルタバ・テロール。
やはりカレーソースがかかっていて、中の卵は溶いてないタイプ(これはお店による気がします)。

いずれも、様々なスパイスでしっかり味付けされた具とソースという印象。

一方、ジャワのマルタバ・テロールはというと、これは先のクエ・バンドンで登場したスマランが最初のようです。
スマランは中部ジャワ北岸の都市で、古くから交易で栄え、それゆえに外国人も多く居住していた街。
そんなスマランのアラブ系(インド系という説も)移民が作り始めたマルタバは、
ジャワの人々の嗜好に合わせて、よりあっさりとしたものに変化したのだと言われています。

マルタバ・テロール Bandung_West Java, 2020

現在、ジャワの各地で食べられているマルタバ・テロールは基本的にこのスマランの流れのもの。
使われる肉は鶏か牛、スマトラのマルタバで多用されたスパイスはごく控えめになり、
より旨味があると鶏卵が家鴨卵に変化したり、ソースがあっさりとした甘酸っぱいタレになったり。
刻みネギだけは、変わらなかったようです。

マルタバ・テロール Palembang_South Sumatra, 2019

わが家がマルタバを買うとき、マニスかテロールどちらかだけ、というのはないのです。
どっちも買います。塩っぱいと甘いの法則で。
毒食らわば皿までの法則かもしれないですが、とにかく、両方買ってこそなのです。

もうひとつ、明確な答えがわからないマルタバの謎があります。
「マルタバ屋台はなぜ夜なのか」

マルタバを売る屋台は、だいたいマニスもテロールも扱っているのですが、
基本的に夕方になると店を開き、夜中まで営業します。
人々がマルタバを食べるタイミングも、当然夕方から夜、それも結構遅い時間が多いのです。

マルタバ・マニス Bandung_West Java, 2019

これは、
バンカの華人の食生活サイクルに基づき、ホック・ロー・パンの時代から夜に売られていたのだという説や、
マルタバ屋は屋台が基本なので、商店なりオフィスなりが昼間の営業を終えた後の敷地で営業するからという説、
高カロリーなものは夜に食べたくなるからという、ホント??という説まで。
ただスマトラの、オリジナルに近いマルタバ・テロールを売る(マニスは取り扱わない)店では、
別に朝でも普通にマルタバ・テロールが食べられます。
なので、マニスの習慣に引っ張られたか、それとも「屋台だから」が正解なのか、という感じですね。

マルタバ・マニス Bandung_West Java, 2020

年に数回お仕事を一緒にさせていただく会社があります。
そこの現場で、どうしても作業が押して押して押してしまうと、
てっぺんが近づくあたりで、マルタバの差し入れがあります。夜中のマルタバ。
「もうそんな時間か」というのと「こんな時間にこんな高カロリー」というのと「禁断の…」というのが混ざり合った気持で、

一切れ。もう一切れ。ついついさらにもう一切れ。




2019/12/19

豆腐/Tahu ②

タフ・アチ Tegal_Central Java, 2019

ジャワ北岸のスープの話しのついでに、ジャワ北岸の豆腐料理をちょっと。
インドネシアの豆腐の詳細については、豆腐/Tahuの①を先に読んでいただければ。
今回は、ただひたすら「美味しかったよー」っていうことです。先に要約してしまえば。

に書いたように、インドネシアの中でもジャワ島はとりわけ豆腐の消費が多い地域です。
ある調査データでは、一人当たりの週の豆腐消費量(g)が多いのは、上から順に、
東ジャワ(270)、中ジャワ(180)、ジョグジャカルタ/西ジャワ(170)、バリ(160)、ジャカルタ(130)。
ちなみに、少ない地域は、
中部スラウェシ/西スラウェシ(60)、アチェ/東ヌサトゥンガラ(50)、北マルク(40)。
インドネシアの中でも早い時期に中国からの移民がみられたこと、
オランダ東インド会社による強制栽培制度時の貴重なタンパク源となったことなどが背景となり、
今でもジャワの人々は、食事に軽食におやつにと、豆腐を食べます。

まずは、ジャカルタ。
ジャカルタの人々の朝食もしくは昼食に好まれるのがクトプラッ/Ketoprak。

クトプラッ Jakarta, 2019

名前の由来が、Ketupat(ライスケーキ)+Toge(もやし)+Geprak(叩く)だと言われている通り、
ライスケーキに茹でたもやし、揚げ豆腐、刻みキュウリ、ビーフンを乗せてピーナッツソースをかけたもの。
(叩く、はピーナッツソースを作る際に石臼で叩き付けるようにする動作からでしょう)。

クトプラッ Jakarta, 2019

豆腐がメインな訳ではありませんが、とはいえ、豆腐のないクトプラッなんて、というくらいに大事な存在。

ピーナッツソースつながりで、中部ジャワのスマラン/Semarangで食べたタフ・ギンバル/Tahu Gimbal。

タフ・ギンバル Semarang_Central Java, 2019

インドネシア語でギンバルはドレッドヘアのことなんです。
なので「どのへんがドレット?」とタフ・ギンバル屋のおかあさんに聞いてみたところ、ドレッドは関係なく、
スマランのひとたちは、エビのかき揚げのことをギンバルと呼ぶのだそうです。

タフ・ギンバル Semarang_Central Java, 2019

殻付きでガリッと揚げられたエビと、揚げ豆腐、茹でキャベツにライスケーキとピーナッツソース。

タフ・ギンバル Semarang_Central Java, 2019

エビと豆腐という大陸らしい食材に、程よくチリを効かせたピーナッツソースというジャワらしい味の組み合わせ。
旨味と歯ごたえのエビに対し、ニュートラルな豆腐とキャベツの甘みがいい塩梅です。
豆腐の名を冠している割に豆腐が脇役な感もありますが、それでもこれはまた食べたいひと皿。


タフ・チャンプル Jakarta, 2019

豆腐の名を冠していながら豆腐が脇役つながりで、タフ・チャンプル/Tahu Campur。
これは、東ジャワのスラバヤ/Surabayaあたりが名物なようですね。食べたのはジャカルタだったのですが。

タフ・チャンプル Jakarta, 2019

揚げ豆腐は中がつるんとした、舌触りの優しいもの。
牛スジやたまご麺、茹でもやし、レタス、そして黄色く見えるのはキャッサバ芋のコロッケ。
このコロッケが甘くて美味しいんです。

タフ・チャンプル Jakarta, 2019

かかっているのは牛出汁ベースのスープで、そういうところも東ジャワっぽい気がします。
具だくさんで温まる軽めの晩ご飯、という感じのひと皿。

一方、おやつ枠の豆腐料理として、中部ジャワのテガル/Tegal名物のタフ・アチ/Tahu Aci。

タフ・アチ Tegal_Central Java, 2019

タフ・テガル/Tahu Tegal、タフ・クピン/Tahu Kuping (=耳、確かに耳っぽい)とも呼ばれるタフ・アチ。
アチはタピオカの澱粉のこと。澱粉を練ったものを豆腐の断面にはり付けて揚げています。

タフ・アチ Tegal_Central Java, 2019

こうやってはり付けるわけなんですが、なんで揚げた時にはずれちゃわないんだろう、と思ったりします。
粘着をよくするための細工があるでもないし。

でも、細工はなくてもコツはあるようで、
ここのお店、最初におかあさんがはり付けていったのを後からおばあちゃんがチェックして、
「これはダメ」と全部剥がしてはり直していました(笑)。

タフ・アチ Tegal_Central Java, 2019

おばあちゃんには敵わない。

タピオカ生地にはニンニクとニラなどが練り込まれています。
店の前では、刻んだニラがザルに広げられ、干されていました。ちょっと乾燥、くらいがいい様子。

タフ・アチ Tegal_Central Java, 2019

あとは、油で一気にジューーーッと揚げます。

タフ・アチ Tegal_Central Java, 2019

揚げたてが欲しくて、店先にあるのは無視していたわたし。

タフ・アチ Tegal_Central Java, 2019

だって、これ、絶対揚げたてが美味しいやつだもの。
澱粉生地のもちっとカリッとした歯ごたえと、厚揚げ部分のジューシーさのバランス。
ついつい手が伸びる、心憎いおやつ豆腐です。

そして最後が、西ジャワのチレボン/Cirebonのタフ・グジロッ/Tahu Gejrot。

タフ・グジロッ Cirebon_West Java, 2019

これもおやつ枠の豆腐料理。

青唐辛子やシャロットが見えますが、このタレ自体は「甘い」んです。
やや旨味を効かせたシロップとも言えそうな、甘いタレがボトルから注がれるその音が、
まるで「Jrot...Jrot...」と聞こえるから、タフ・グジロッと呼ばれているのだとか。
タレの甘さ、シャロットの香味、青唐辛子の爽やかでシャープな辛味と香りの不思議な組み合わせ。
それを、厚揚げというより厚めの油揚げという感じの豆腐がスポンジのように吸収しています。
これもなんかクセになる味なんですよね。

タフ・グジロッ Cirebon_West Java, 2019

ピーナッツソースをかけても、エビのかき揚げと合わせても負けないのは揚げ豆腐だからでしょうね。
インドネシアの豆腐自体がそもそもしっかりした風味がある上に、油を通すことでコクも出ます。
揚げ豆腐が主流なのは、当然保存のという要素が大きいとは思いますが、
食べ方もまた、その揚げた特性を生かしたものになっているのだなあと思います。
(素揚げ豆腐も大好き)


2018/04/23

もやし/Tauge (Toge)

もやし Bandung_West Java, 2018

もやし、お好きですか?
わたしは大好きです。

「もやしっ子」とか言う表現がありましたけど、あれ、失礼ですよね。
もやしは、美味しいし、栄養もちゃんとある。発芽した状態、つまりは生命に満ちあふれているんですから。

まあ、それはともかく。

インドネシア、特に、この西ジャワ地方ではもやしに出会う頻度が高いのです。
特に道ばたで売られているちょっとした軽食におけるもやしの存在感は、なかなかのもの。
インドネシア語でもやしは「タウゲ/Tauge(Taoge)」もしくは「トゲ /Toge」と呼ばれます。
この音の由来は「豆芽」の福建語読み、なのだそうです。
中華系の料理屋でもやし炒めなどがよくあるので、中国由来というのは、そうだろうなという感じ。

読んだ本によると、
数百年もしくはそれ以上前から、
華南地方と東南アジアを行き来していた貿易船には、常に大豆や緑豆などの豆が常備されていて、
それらを発芽させて生食することで、航海中のビタミン不足を防いでいたのだそうです。
欧州諸国の貿易船たちが、やはり航海中のビタミンを補う目的で、
寄港する沿岸部にレモンの木を植えて回っていたと聞いたことがありますが、もやしの方が話しが早いですね。
で、そういう由来だからなのか、東南アジアの特に沿岸地域では、もやしの生食文化が多く見られるのだとか。
とっさに思いついたのはベトナムですが、確かに生のもやしが麺の上に乗っていたりします。


もやし Bandung_West Java, 2018

インドネシアで食されるもやしは、基本的に緑豆もやしです。大豆もやしはそんなに多くは見かけません。
華人たちの食文化圏を別とした場合、もやし率が高いのは、西ジャワ>その他ジャワ地域>バリ、という印象。
あ、ロンボク名物の辛い空芯菜炒めにもやしがあることもありますね。だから、バリの東隣まで、かな。
ただ、これはあくまで印象です。もしかしたら、別の地域でもいっぱいあったのかもしれない。
でも、なにせもやしって、さりげなく美味しく存在する食材なので、認識していない場合も多い気がします。

西ジャワの朝ごはんの定番のひとつ、クパット・タフ/Kepat Tahu。


クパット・タフ屋台 Bandung_West Java, 2018

揚げたてジューシーなお豆腐とライスケーキにピーナッツソースをかけたものなのですが、
そこにも、もやしがたっぷり。


クパット・タフ屋台 Bandung_West Java, 2018

以前記事にした、ガドガド/Gado gadoのような、野菜のピーナッツソース和えには、もやしは必須ですし、
中部〜東ジャワでよく食べられる野菜とココナッツを和えた料理、ウラプ/Urapにももやしが使われます。

ウラップ Banyuwangi_East Java, 2017

また、ソト・クドゥス/Soto Kudusなどのスープのトッピングにも、もやし。

ソト・クドゥス Magelang_Central Java, 2017

東ジャワの黒いスープ、ラヲン/Rawonに使うもやしは、他と違って発芽した翌日のような、短いもの。


ラヲン Probolinggo_East Java, 2017

この短いもやし(というか、発芽緑豆)は、クチャンバ/Kecambahと呼ばれることも。
クチャンバは、もやし全体をさす場合もありますが、どちらかというとこの小さいもやしによく使われます。
それ自体が「芽/新芽」という意味の単語です。


クチャンバ Bandung_West Java, 2018

通常のもやしとはまた違う、カリカリとした歯ごたえがいいアクセントになるクチャンバ。
これがないと、ラヲンは物足りないものになります。

これらのもやしたちも、ほとんどは生、もしくはさっと火を通した状態で使われています。

では、もっと、もやしが主役の料理と言えば。

まずは西ジャワ州のバンドン界隈で見かけるのが、こちら。


ルンピア・バサ Bandung_West Java, 2017

ルンピア・バサ/Lumpia Basah。
クレープのような春巻き生地で、炒めたモヤシとヒカマをふんわりと包んだもの。
写真は、ちょうど真ん中を割り開いたところです。


ルンピア・バサ屋台 Bandung_West Java, 2018

これは炒り卵入りですが、他にコンビーフなど、色々具は増やせます。
ただ、メインはあくまでも「もやし」。


ルンピア・バサ屋台 Bandung_West Java, 2018

歯ごたえを残してさっと炒めたもやしのシャキシャキ感、たまりません。

ちなみに、ルンピアの語源は潤餅、これまた福建語由来になります。いわゆる、春巻きですよね。
マレー半島付近でポピア/Popiahと呼ばれるものと同じルーツだと思われます。
インドネシアで一般的にルンピアと言われるものは、もっと細巻きのもの。


ルンピア(揚げ) Jakarta, 2018

揚げたもの、フレッシュなもの、いずれもそこまでもやし度が高いわけでもなく、
バンドンとその周辺のルンピア・バサが特殊なようです。
中部ジャワのスマランという街がルンピアで有名なのですが、それもこの細巻きタイプ。
美味しいんですよ。そのうち、また食べに行きます。


ルンピア(揚げ) Jakarta, 2018

そして最後に、もやし食いとしての真打ちはこちら。

その名も、トゲ・ゴレン/Toge Goreng。
ジャカルタから少し山側に行った、もやしの産地としても知られるボゴール市の名物です。


トゲ・ゴレン Jakarta, 2018

まあ、これを食べたのは、ジャカルタですが(笑)。

オンチョム/Oncom、又はタウチョ/Taucoの発酵食品ならではの旨味を生かして、
そこにトマトなどと合わせたソースがかかっています。


トゲ・ゴレン Jakarta, 2018

たっぷりのもやしと、黄色いたまご麺、ワケギの葉少々、そしてライスケーキ、というシンプルな構成。
これがね、美味しいんですよ。もやしを食べる喜び(?)に満ち満ちた一皿です。

ただ、ジャカルタでもそれほど数多く見かけるわけでもなく、
バンドンなど、ちょっと離れた地域に来てしまうともうほとんど出会わない一皿でもあるのが残念。


トゲ・ゴレン屋台 Jakarta, 2018
見てください、屋台に用意されたこのもやしの量。

ちなみに、名前にゴレン/Goreng(=揚げる、炒める)とついていますが、実際には少量のお湯で茹でています。


トゲ・ゴレン屋台 Jakarta, 2018
で、じゃあどうして、トゲ・ゴレンと言われるようになったのか、気になって調べてみました。
そして出会った、驚くべき「トゲ・ゴレンの起源」。

トゲ・ゴレンは、ボゴールの地で華人の食文化と欧州の食文化が出会い生まれたものである、という説です。
華人の食文化というのは、もやし、麺、そしてタウチョは言うまでもなく、
明確な裏付けはまだないものの、オンチョムもまた華南由来ではないかと言われている食材であり、
なので、まあ疑う余地もないのですが、欧州とは。欧州の入る余地がどこにあるのか、と思うじゃないですか。

これ「スパゲッティ」に似せたもの、スパゲッティ×トマトソースのイメージ、なのだと言うのです。

えーーーーーー。

トゲ・ゴレンの原型となるものは、18世紀にはこの地域に華人によって持ち込まれていたそうで、
一方、イタリアでトマトソースのパスタが普及したのは、トマトが新大陸から持ち込まれた後の16世紀頃からで、
17世紀後半には、イタリア国外にも広まっていったと言われています。
なので、まあ、時系列的には可能な話しではあるのですが。

トマトソースのスパゲッティって。
えええーーーーー。

18世紀ですから、ジャワを含めたインドネシアはもうオランダ東インド会社の時代ですよね。
オランダ人がトマトソースのスパゲッティを食べたがったんでしょうかね?
ていうか、だったら、もやし、別にいらないんじゃないですかね?


トゲ・ゴレン屋台 Jakarta, 2018
まあ、そのトマトソースのスパゲッティ説の真偽はともかく(納得いってない)、
当初は華人たちの間で食されて、「トゲ・ミー/Toge Mi (Mi=麺)」と呼ばれていたものが、
徐々に現地のスンダ(西ジャワ地方の名称)人たちにも広がり、
彼らの間で「ゲチョ/Geco (=toGe + tauCo)」と言う名で親しまれるようになったのだそうです。
その後、この料理がボゴール名物として定着、
ジャカルタなどから来てこの料理を食べる観光客たちから「トゲ・ゴレン」と呼ばれるようになったのだとか。
どうして、ゴレンなのか。それは火を通す時に使っている鍋がフライパンみたいに見えるから。
つまり、見た目からくる勘違い。
実際、今でも現地のスンダ人は「ゲチョ」と呼ぶし、華人は「トゲ・ミー」と呼ぶのだと言います。

なるほど。

名称については、まあありがちですよね、こういう勘違いから定着してしまうのって。
でもなあ、スパゲッティ説がなあ。ええええええ。

今回は、
トゲ・ゴレンを食べて、その由来を調べて、スパゲッティ説にびっくりして、その勢いで書いた記事です。


もやし Bandung_West Java, 2018

シャキシャキと美味しい、インドネシアのもやし。
さ、今夜も、もやしを食べましょうかね。