2022/09/14

森のバター(西カリマンタン)

テンカワン・オイル Lanjak_West Kalimantan, 2022

フードコンテストで調理中だったダヤックチームの食材に、棒状の油を見つけました。
手触り食感はまさにバター。森のバターです(アボカドではなく)。

このコンテストに先立って、地域の子供たちを対象にした食のワークショップが行われました。
その中で、カリマンタンの森でとれる油はなに?というクイズがありました。
まさかここで「サウィッ(オイル・パーム)」とは答えさせないだろうなと思いつつ、答えを待っていたら、
そして子供たち、特に村に住む子供たちは、なかなか答えられなかったのですが、
テンカワン・オイル/Minyak Tengkawangという聴きなれない名前が飛び出したのでした。
それが、この森のバターの正体。

テンカワンの実 Lanjak_West Kalimantan, 2022

森に生えるテンカワンという木の実の中身を圧搾してとる油で、
体温でとろけるこのバターは、昔からダヤックの人たちの間では調理用油として使われていたのだそうです。
(ダヤックの人たちはあまり油は使わないというのはその通りではあるのですが、まあ、時には)

以下、ざっと、聞いた話し。

テンカワンは13種類くらいある木で、カリマンタン、特に西カリマンタンに多く自生している。
スマトラにも2種くらいあったはず。
川沿いに生えることが多く、動物も魚もこの木の実が大好き。
水中に落下した実を魚が食し、その良質の油を接種した魚は脂ののりがよく美味しくなる。
ダヤックの人々の暮らしに根ざした木で、
畑で種を蒔くタイミングの目安として、テンカワンとリンクさせた時期表現がかつては使われていた。
捨てるところのない有用な樹木で、建材として優秀であったり、葉は染料になったりした。
1970〜80年代まではボゴール農科大学も定期的にリサーチを行い、その活用方法を探っていたが、
オイル・パームの栽培が普及して以降、そのリサーチも無くなった。
やや独特のにおいがある油で、収穫後に一度茹で、それを乾燥した後で圧搾することで改善、
食用の他にもコスメとしても使えるということで、現在商品を本格販売に向けて準備中。
インドネシアに医薬食品監督庁に登録申請も行っているが、認可にはもうしばらくかかりそう。
行政側の認定基準はパームオイルに基づいていて、もちろんパームと同じ用途はカバーできるが、
より栄養価も高いオイルとして、別途指標を設けて欲しいところ。

と。
なるほど。

テンカワン・オイル使用の商品 Lanjak_West Kalimantan, 2022

戻ってきてから調べました。テンカワンって、フタバガキだったんです。

ちょっと引用(『熱帯多雨林の植物誌 東南アジアの森のめぐみ』W・ヴィーヴァーズ-カーター、1986年、平凡社)
「マレーシアや大スンダ列島の低地多雨林は世界でもっとも背の高い多雨林だが、その特徴となっている高さをつくりだしているのがフタバガキ科の樹木である。根元は巨大で、しばしば板根をもち、枝を落としながら生育するので枝のでていない太い幹がはるか視界のかなたまで伸び、その上に特徴のあるカリフラワーのような形の樹冠を広げている。申し分のない形状と、材質がかたくてしかも軽く、大半の種のものは水に浮くということを結びつければ、なぜフタバガキ科の樹木が伐採人や材木商人にとっては理想に近い木なのか容易にわかるし、それゆえに評価がたいそう高いということもすぐに理解できる」

自分の中で繋がった感。

フタバガキは、東南アジアの森林の話題ではよく出てきます。
カリマンタンでは13種と言われましたが(その数字はまた何かしらの基準に基づいてのものなのでしょうが)、
実際にはもっと種類は多く、東南アジアも全域に分布しています。
樹液がバティックの蝋引きに使われたりもして、なにかと馴染みのある木。
木材は、いわゆるラワン材と呼ばれる南洋材で、使いでのある材としてよく売れるのだそう。
カリマンタン/ボルネオで森林を切り拓いてオイル・パーム畑にする際に、
まずそこで伐採した木材を売ってしまう訳ですが、その中でも換金制の高かったのがフタバガキと聞きます。

パーム畑だらけになり、森が減り、村の台所でも料理に使われるのがパームオイルになった今、
子供たちにはほとんど馴染みのない存在になってしまったわけですね。

テンカワン・オイル Lanjak_West Kalimantan, 2022

こうやって竹筒に入れられているんです、かわいいですよね。

このテンカワン・オイルを使った製品開発をしているひとたちは、
伝統的でありかつ成分的にもとても優れているテンカワンをもっと認知してもらおうと努めています。
すでにその数を減らしてしまっている植物であるわけですし、
今から植えて、実をつけるようになるのには数十年、その後も結実は数年単位で間があくというフタバガキ、
パームオイルに取って代わる存在にはなれないと思うのですが(パームは敵としては巨大すぎます)、
長く使われてきたものが消えないために、という努力としてとても大事なことだと思います。
また、少なくとも一部地域にとって、このテンカワン・オイルが現金収入の手段となればいいのにな、とも。

テンカワン・オイル Lanjak_West Kalimantan, 2022

今回の旅は、森の豊かさを実感する旅ではあったのですが、
一方でその森の側で暮らす村の人は「ここの暮らしは大変よ」と言います。それも事実。
日々の食を賄うに十分な豊かな森ではあっても、
人は「日々の食」以上のものを求めるわけで、それが現代社会の「豊かさ」でもあるんですよね。
その結果が、拡大するパーム畑でもある。
パームは絶対悪かというと、まあ善とは言い難いまでも、ひとつの手段であることは事実だと思います。
ただ、むやみやたらと森を切り開くのも違う、と認識しているのが今の時代であり、
そのあたりをどう采配するのか、若い知事でもあるカプアス・フルの行政には期待するのですが。
子供たちのワークショップの開会の際にスピーチをした村長さん(この方も若かった)が、
「伝統を守ることはとても大事だが、伝統を守ることはプリミティブな暮らしに戻るという意味ではない」
とおっしゃっていて、横でまったくその通りだよなあと思いました。
都会に暮らす人が「伝統を守る」と言うのと、
消え行きつつもその伝統的暮らしに身を置き続けている人たちにとっての「伝統を守る」は意味合いが違う。
なんてことも、徒然に考えていました。

そんな村での「現金収入」といえば、これも。

クラトムの葉 Lanjak_West Kalimantan, 2022

クラトムの葉/Daun Kratom。
道端や家家の軒先、庭などにやたらと干されていたんです、この葉っぱ。
聞けば、鎮痛効果だったりいろんな薬効があって、伝統薬として親しまれているんだそうです。
「でも、イリーガル」と言われて「え、ええ??」ってなったけど、汗。

クラトムの葉 Lanjak_West Kalimantan, 2022

調べてみたら、日本ではアヘンボクという別称もある植物らしく、薬物指定されているようです、汗x2。
インドネシアでも、モルヒネ以上の作用があるとか言われて注意喚起が出されていました。

土地のひとたちは体力つけるためとか、頭痛の時とかに普通に飲むよ、と言うのですが。
この写真を撮らせてくれたお家のお母さんは、
ずっと高血圧で悩まされていて、でも薬は飲みたくないからとクラトムを水で溶いて飲んでいたのだそう。
今はすっかりいいのよ、と笑っていました。

湖のほとりの村なので、雨季で水位が上がると家の床下(時には床上)まで水に浸ることもある地域。
そんな土地の庭に、長期間水に使っていても問題ないというこのクラトムは、適した作物なのでしょうね。

クラトムの木 Lanjak_West Kalimantan, 2022

そんなクラトムがこのコロナ禍で、なんとなくコロナに効く的な言われ方をして需要も増して、
(インドネシアの人たちは「薬」をあまり好まない傾向があり、ハーバルな選択肢があればそちらを選びがち)
村のひとたちも、自分たちで消費する以上の量を用意するようになったのだと思われます。
そういう意味での、現金収入。
彼らが伝統的に摂取している量と方法であれば、彼らが言うような効果があるのでしょうが、
容量を間違えたり、別の意図で使用されたりすることがあると危険なのだろうな、と思います。

あともう一つ、アラス/Arasの葉。の粉。
アラスという葉を乾かして粉砕したものをボトルに詰めて売っているのですが、
これは、ダヤックのひとたちが昔から石鹸のようにして体を洗うのに使っていたものなのだそうです。
「森から帰ってきて、なんか痒かったりすることあるじゃない?あれが消えるの」と言われました。
日常的に森から帰ってくるような暮らしではないのでよくわからないのですが、でも1本買ってきました。

アラスの葉 Lanjak_West Kalimantan, 2022

葉っぱのにおいのするスクラブ、みたいな。
アラス効果なのかスクラブ効果なのかわからないですが、すべっとした洗い上がりです。

ということで、西カリマンタン内陸の旅でした。
異文化ってこういうことだー、と実感した日々でした。
これまでカリマンタンって、インドネシアの他の地域と比べてどうにも縁遠い感じがあったのですが、
これを機会に、少しずつ知っていければいいなと思っています。

 

2022/08/28

ダヤックの食卓とムラユの食卓(西カリマンタン)

 
ダヤックごはん Lanjak_West Kalimantan, 2022

ということで、予告の通りフードフェスティバルについて。
ここで、伝統料理コンテストがあったのです。
ルールは、この土地に暮らすふたつの民族、ダヤック人とムラユ人それぞれ4組4人ずつが2時間で調理、
前日に森で採ってきた素材で、市販の化学調味料等は用いず、前菜・メイン・デザートで構成。
「もう絶対楽しいそれ!」って感じでしょう。そう、めっちゃ楽しかったんです。

そのコンテストに参加していダヤック人とムラユ人について、まず。

カリマンタンの内陸部、熱帯の森に元々暮らしていた民族がダヤック人たちです。
(さらにサブグループに分かれるのですが、まあ、大きくダヤックと括っておきますね)
この地域のダヤック人たちは、ロングハウスと呼ばれる伝統家屋に暮らし、焼畑耕作を日々の基本としています。

ロングハウス Batang Lupar_West Kalimantan, 2022

ロングハウス Batang Lupar_West Kalimantan, 2022

ロングハウス Batang Lupar_West Kalimantan, 2022

森の長屋ですよね。
長い廊下とデッキは共有スペース、向かって右側に個別の居住部屋(2間+水場+トイレ浴室)があります。
壁に掛かっているのは、農作業や湖・川での漁に使う用具で、これらも竹やロタンなど森の素材でできています。
彼らの畑というのは、居住地近くの日当たりのいい斜面などで、
それぞれの集落が決まった用地を何箇所か持ち、焼畑を行いながら転地耕作をしていきます。

斜面の農耕地 Lanjak_Kalimantan Barat, 2022

遠くの斜面にぽっかり黄緑のスペースがあって、その下に茶色い部分があるの、わかりますか?
手前側の斜面の上部と中部も木々のテクスチャーが違います。この中腹一体が耕作用地。

まず、用地の木を切り、野焼きを行います。その灰が土地を栄養になるんですね。
で、最初の年に、まずは稲を植えます。水田ではなく陸稲です。
稲作は1年だけだと言う人と数年使うと言う人がいましたが、その稲作の後、数年は畑として使い、
その後、木(ゴム)を植えて森(商業林)に戻し、数年後またそこを焼くというサイクルです。
焼畑農業というと、森を焼いてしまうというイメージもありますが、
その都度原生林を伐採しているわけではないので、彼らの伝統的焼畑はそれほど環境負荷は高くありません。

ダヤックごはん Batang Lupar_West Kalimantan, 2022

ダヤックごはん Batang Lupar_West Kalimantan, 2022

これはロングハウスでいただいたごはん。
ちょっと茶色いご飯が、彼らの耕作地で採れた陸稲のご飯。お腹に重くなくて、本当に美味しいお米です。
以前は赤・茶・黒などいろんな種類の米を栽培していたそうです。
湖で捕った魚と、山で採れた筍、畑のキャッサバ芋の葉やロキオ/Lokio(らっきょう)がおかず。
ピンクのはトーチジンジャーの花と実を合わせたもので、酸味と香りがプレートのアクセントになります。

トーチジンジャー Batang Lupar_West Kalimantan, 2022

ここでは、花の方はチュチュン/Cucung、実はケチャラ/Kecaraと呼ばれていました。
刻んで潰して塩を少し加えたもの。唐辛子を少し足しても美味しいよ、と言われました。
これは、普通に自分の家でもやりたい感じの味です。

一方、ムラユ人は、この地に後から移住してきた人たち。
このあたりだったら、南カリマンタンのバンジャル人や南スラウェシのブギス人あたりかなと思いつつ、
でも、スマトラっぽさもあるし、どういう由来なのかちゃんと聞いておけばよかったと思っています。
彼らの食事はこの地の食材を生かしつつも、
ジャワなど、ほかのムラユ系の人たちの食卓でも見られるような構成を見せます。

ムラユごはん Lanjak_Kalimantan Barat, 2022

滞在していたゲストハウスがあるのはムラユ系の村なので、ゲストハウスのご飯は基本ムラユごはん。
お米は田んぼのお米、唐辛子を使うし、サンバルも使うし、クルプック(揚げ煎餅)もつきます。
わたしはサンバルとクルプックを食事の添える境界線はどこか、を地味に探っているのですが、
これはダヤックには基本的に持ち込まれていない食習慣のようです(パプアもないらしい)。

先の記事でも書きましたが、トマトをほとんど見かけない土地なので、サンバルはトマトなし。

サンバル Lanjak_Kalimantan Barat, 2022

唐辛子に塩とシャロットとニンニク、そこにテラシ/Terasi(海老の発酵調味料)。
テラシはここでは作られていないので、市販品を使用、特に炙ることはせずそのまま使っていました。
そして、油は使わないタイプのサンバル。
まあ、サンバルに関しては家庭によるので、ここのムラユ全般の傾向とは断言しませんが。

あと、テンペもありました。

テンペ Lanjak_Kalimantan Barat, 2022

テンペ Lanjak_Kalimantan Barat, 2022

テンペの葉 Lanjak_Kalimantan Barat, 2022

大豆の発酵食品であるテンペはジャワが発祥のもの。
ジャワからの人々が移住して、インドネシア各地に広がっていったものですが、それがここにも。
包んでいる葉はジャンブー・モニェット/Jambu Monyet(猿のグアバ)と呼ばれている木の葉。
正直なところ味は、ジャワの人だったら文句言うだろうな、という感じなのですが(笑)、
この小さな1つが1,000ルピアという高級品です。

ムラユごはん(調理中) Lanjak_Kalimantan Barat, 2022 

基本的に、ダヤックの人たちは、土地の素材を活用して食事を構成し、
ムラユの人たちは、土地の素材に彼らの出身地の伝統を加えて構成する、という感じです。
先の記事のカンディスやカラマンシーのような酸味の素材も、ダヤックではあまり使われない調味料ですね。
また、森と湖や川で日々タンパク源として鮮魚を得ることに慣れているダヤックの人々に対して、
ムラユの人たちは、塩で保存(塩漬けの干し魚など)したり、それを購入して使用する傾向がある感じ。
これは料理の仕上がりの味にも影響していて、ムラユごはんは塩味強めな印象があります。

では、フェスティバルの会場へ。
まずはムラユごはんのチームへ。

ムラユごはん Lanjak_Kalimantan Barat, 2022

こちらはムラユグループの優勝チームでした。かわいいママたち。

ムラユごはんの素材 Lanjak_Kalimantan Barat, 2022

別のチームの材料。
トマトや玉ねぎ、シャロット、にんじん、ガランガルなど、土地のものではない彼らの食材も。
左手前のは貝。

ムラユごはん Lanjak_Kalimantan Barat, 2022

ココナツミルクとスパイスで煮込まれた貝の料理。
料理していたママは「貝のグライ/Gulai」と言っていました。グライはスマトラ発祥の料理名です。
香り出しにレモングラスとトーチジンジャー。白ごはん欲しくなるビジュアルです。

ムラユごはん Lanjak_Kalimantan Barat, 2022

これまた別のムラユチーム。
手前の丸いのは、クルプック・バサー/Kurupuk Basahと呼ばれるこの地域の郷土料理。
一般的にはクルプックというのは揚げ煎餅ですが、
この料理では、魚のつみれとタピオカ粉を合わせて練り蒸したものを輪切りにしてあります。
南スマトラ、パレンバンのペンぺ/Pempekやラクサン/Laksanに似てる感じですね。

酸味のカンディスやカラマンシー、グライやペンぺなど、やっぱりスマトラ系のムラユ人なのかなあ。

クルプック・バサーの奥にあるのは、ジュクット/Jukutと呼ばれる、これまたこの地の郷土料理です。

ジュクット Lanjak_Kalimantan Barat, 2022

ゲストハウスでも料理してもらいましたが(わたしが「食べたい食べたい」とねだった)、
このフェスティバルでも何チームか用意してきていました。

川魚に塩をして米を合わせて漬け込み、1週間ほどで食べられるようになるというこの料理。
(「豚肉でもいいのよ」というママもいました)
カリマンタンのほかの地域、特に南カリマンタンのバンジャルマシン、または南スマトラでも類似するものがあり、
パカサム/Pakasam、ペカサム/Pekasam、ベカサム/Bekasam、などと呼ばれるものです。
これは、東南アジア山岳部や中国南部あたりに広く分布する、寿司の原型と言われるナレズシの一種で、
中尾佐助の『料理の起源』に「ボルネオ(カリマンタンの別称)イバン族のカサム」としても登場します。
(イバンはこのコンテストにも参加していたダヤックのサブグループのひとつです)
だいぶ前に読んでから記憶にこびりついていて、食べてみたくて仕方なかったんです。

寿司の原型とは言え、そのまま食べることはなく、だいたい炒めるなどの加熱調理をします。
レモングラスで香り付けをしたり、唐辛子で刺激を足したり、ゲストハウスでは酸味もつけていました。
発酵食品特有の旨味と、チーズにも似た芳香があり、かなり好きな味でした。
(ただ、好みははっきり分かれるらしく、苦手な人はすごく苦手っぽかったです、笑)

ムラユごはん Lanjak_Kalimantan Barat, 2022

再び優勝チームのごはん。
主食として右側に並んでいるのが、下から白飯、とうもろこし飯、お米が採れない時のキャッサバのもろもろ。
キャッサバはこの地にすっかり根付いた作物で、ダヤック、ムラユどちらのごはんにもよく登場します。

続いて、ダヤックチームの素材。

と、写真の前に。
ムラユチーム以上に森や湖で得られる食材を多用するダヤックチーム、興味深い食材・料理が並びます。
なので、そのまま載せるのですが、虫が多数出てきます。
わたしは基本的になんでも食べますし、誰かが食材とするものはそれは彼らの文化だと思っているので、
それをして「閲覧注意」的な扱い(ゲテモノ扱いするのは論外です)をするのもどうかと思うのですが、
ただ、虫はやっぱり生理的にダメな人もたくさんいると思うのです。
なので「あー苦手だ」と思う方、ごめんなさいね、この先は、ちょっと薄目で、写真を見てください。

ということで、素材です。

ダヤックごはんの素材 Lanjak_Kalimantan Barat, 2022

ダヤックごはんの素材 Lanjak_Kalimantan Barat, 2022

ダヤックごはんの素材 Lanjak_Kalimantan Barat, 2022

ダヤックごはんの素材 Lanjak_Kalimantan Barat, 2022

葉っぱの種類が豊富ですね。
食べる、香りづける、包む、など、葉っぱをいくつも揃えて活用します。

ダヤックごはんの準備 Lanjak_Kalimantan Barat, 2022

この葉っぱを潰す道具も味わいがありますよね。
キャッサバの葉と一緒に、センクバッ/Sengkubakの葉もとんとん潰されています。
このセンクバッ、ツヅラフジの一種と言われますが、料理に入れると旨味が増すのだと言われ、
ダヤックの人たちはダウン・ミチン/Daun Micinと呼んでいました。
ミチンは、MSG、化学調味料のことなのです。味わいが増す葉っぱという立ち位置が伺える呼び名ですね。

とんとんした葉っぱは、タニシと合わせて、竹に詰めます。

ダヤックごはんの準備 Lanjak_Kalimantan Barat, 2022

調理に竹はよく使うダヤックの人たち。
こうして直に入れたり、大きな葉っぱで包んで入れたり。それを直火にかけます。

ダヤックごはんの準備 Lanjak_Kalimantan Barat, 2022

焚き火の煙で泣いてたわたし。

ダヤックごはんの準備 Lanjak_Kalimantan Barat, 2022

ダヤックごはんの準備 Lanjak_Kalimantan Barat, 2022

ダヤックごはんの準備 Lanjak_Kalimantan Barat, 2022

ダヤックごはんの準備 Lanjak_Kalimantan Barat, 2022

焼き上がりたち。
お魚の丸焼き、奥にあるのはリスの丸焼き。
葉っぱに包まれ、竹で挟んで蒸し焼きにされたものは、ゼンマイと蟻、そして山菜色々。

蟻は、ジャワやバリでも大量発生した羽蟻が羽を落としたところを集めて食べたりするのですが、
ダヤックの蟻は卵も一緒に蒸されています。白い粒々が卵。
食感は麹の粒みたいで、そしてマイルドな酸味があります。ああ蟻酸、と思いながら味わいました。

ダヤックごはんの準備 Lanjak_Kalimantan Barat, 2022

最後の山菜たちの中にある白いのは、サユール・リリン/Sayur Lilin。
以前、スラウェシのバンガイ諸島で、島のママに料理してもらったことがあります。
ほろっとした食感が美味しい野菜です。

ダヤックごはんの準備 Lanjak_Kalimantan Barat, 2022

固く干したお魚とバナナの茎を煮込んだスープ。この葉っぱがダウン・ミチン。だったはず。
(記憶が曖昧で断言できない、泣く)

ダヤックごはんの準備 Lanjak_Kalimantan Barat, 2022

ダヤックごはんの準備 Lanjak_Kalimantan Barat, 2022

そして、かわいらしかったのがこれ。デザート。
ウツボカズラの中に、椰子糖で甘みをつけた餅米やキャッサバ粉、紅芋粉を詰めて蒸したもの。
食べる時にはその花を剥いて中だけいただくのですが、香りがついて美味しいのだといいます。
このウツボカズラを使った料理は、パプアの方にもあると聞きます。
森の植物を活用する調理方法。まあ、確かにこの形状は、何か入れたくなりますよね。

ダヤックごはん Lanjak_Kalimantan Barat, 2022

といことで、出来上がりです。
竹の中には、川エビや、キクラゲ、ヤシオオオサゾウムシの幼虫、などが入っています。
ゾウムシの幼虫は用意していたグループが多く、ここでは串焼きになっていますが、煮込みなども。
ずっと食べてみたいなあと思っていたので、今回はいろんなバリエーションがあってよかったです。
固い部分はエビの尻尾みたいな、胴の部分はゆるんとしたクリーミー感で、なかなか美味しいものです。

ダヤックごはん Lanjak_Kalimantan Barat, 2022

幼虫食は、インドネシアも森がある地域では一般的ですが、
単に一般的なだけでなく、みんな大好きなんです。コンテストでも大人気。
フェスティバル開会時の県知事挨拶の中で、幼少期の思い出話として、
切り倒したアレン椰子の幹を掘っては幼虫を捕まえては、そのまま食べていたと語っていました。
こういう記憶の中にある味って、コミュニティの共通体験として、ひとつの結びつきなのかも、と思ったり。

ムラユごはん Lanjak_Kalimantan Barat, 2022

こちらは蜂の子。ムラユチームが用意していました。
幼虫食はダヤックに限らず、ムラユ系の人にとっても馴染みがあるようです。

テンポヤッ Lanjak_Kalimantan Barat, 2022

それと、もうひとつ。テンポヤッ/Tempoyak。
これもずっとずっと食べてみたかった、発酵させたドリアンです。
ダヤックチームが用意していましたが、発祥は南スマトラだと言われています。
添えられた野菜につけて食べるのですが、これはまた、他にない味わい。
塩を加えて発酵させているため、ドリアンの甘味と濃厚な芳香に塩味と発酵旨味という複雑さ。
たくさん食べられるものではないくらい濃厚ですが、でもまた食べたくなる美味しさです。

ダヤックごはん Lanjak_Kalimantan Barat, 2022

ダヤックごはん Lanjak_Kalimantan Barat, 2022

ダヤックごはん Lanjak_Kalimantan Barat, 2022

ダヤックごはん Lanjak_Kalimantan Barat, 2022

デザートには、豊富なフルーツも。

ダヤックごはん Lanjak_Kalimantan Barat, 2022

ダヤックごはん Lanjak_Kalimantan Barat, 2022

甘いとか、渋いとか、酸っぱいとか、すごく酸っぱいとか。

本当に、いろんな味を味わって、いろんなものを食べて、すごく濃厚な時間でした。
ダヤックチームもムラユチームも、どちらも素晴らしく、各々の個性も出しつつ、
例えば、ムラユ系のテンポヤッがダヤックチームから出ていたり、
ダヤック由来と言われるジュクッが両チームから愛されていたり、
両者の間に明確な線引きがあるというよりは、緩やかに混ざり合っている隣人同士の食文化、という感じです。

普段、旅行中は野菜不足になりがちで、市場で果物を買い込んではせっせと食べたりするのですが、
今回のカプアス・フルでの滞在中は、本当に野菜が充実していて、それも嬉しかった。

そして、もうひとつ、油が少ないのです。

ごはんの準備 Lanjak_Kalimantan Barat, 2022

ムラユ系の人たちはまだ炒めたり揚げたりはしますが、ジャワと比べると圧倒的に油の使用が少ない。
ダヤックの人たちは、さらに少なく、彼らの調理法は蒸したり茹でたり焼いたりが基本です。
なので、すっきりたくさん食べられる、というのもあります。

で、そんなダヤックの人たちの油についてを、次回。