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2018/12/23

茶/Teh

ジャワの茶葉 Bandung_West Java, 2018

ジャワティーってありますよね。あれは、本当にインドネシアのジャワ島産茶葉を使っています。
ちなみに、ジャワカレーはジャワ島とは関係ありません。

ということで、インドネシアのお茶について。

インドネシアのお茶の生産量は、2017年には157,388トンで世界第6位(日本は8位)。
そのうち約65%は、国外輸出用で、輸出される茶葉は主に紅茶。
インドネシア茶として流通するのではなく、輸出先でブレンドティーの材料とされる場合が多いそうです。

では、国内で消費されるのはどういうお茶なのか。

その前に、ざっとインドネシアでの茶葉生産の歴史を。

記録によると、インドネシアに初めて茶の木が持ち込まれたのは1684年。
ドイツ人が日本から種を持ち込み、バタビア(現ジャカルタ)で庭木として植えたと言われています。
それ以降、茶の木はしばらく庭木としてのみ植えられ、茶葉栽培として植えられたのは、
1827年に西ジャワのガルット/Garutで、オランダ東インド会社が量産を目的とした茶畑を開いたのが始まり。
同年、西ジャワのプルワカルタ/Purwakartaと東ジャワのバニュワンギ/Banyuwangiでも茶畑がスタート、
翌年より茶葉生産を開始し、アムステルダムの記録に初めて「ジャワティー」の文字が記されたのは1835年。
1877年にはアッサム種をセイロンから導入し、茶葉のプランテーションは一層拡大していくことになります。
1910年にはジャワ島外初のプランテーションが北スマトラにでき、
1941年、インドネシアの茶葉生産量は世界第3位となりました。
しかし、日本占領下にその生産量は低下。1950年以降、徐々に回復していって現在に至ります。

茶の木の栽培に適した土地は、火山性で水はけの良い土壌。
国内の産地はジャワ島とスマトラ島にほぼ限定され、現在は西ジャワ州が圧倒的な生産量を誇っています。
続いてスマトラ北部、東ジャワ、中部ジャワと西スマトラはほぼ同量、という感じです。

で、インドネシア国内で消費されているお茶の話しです。

ジャワのジャスミン茶 Bandung_West Java, 2018

生産量に対し国内消費量はぐっと下がるインドネシアですが、それでも人々の暮らしの中に浸透しているお茶。
インドネシア、特にジャワで好まれるお茶は、ジャスミン茶なのです。
インドネシア語では、テー・ムラティ/Teh Melatiと言います。ムラティがジャスミンです。
地域差はありますが、家庭で淹れるお茶も、ボトルなど売られているお茶飲料もジャスミンのものが人気。

なぜか。

この茶葉生産の歴史にその理由があります。

最初から、インドネシアでの茶葉生産は輸出のためのものでした。
今でも65%と言われていますが、ましてやオランダの植民地支配下のプランテーション時代。
グレードの高い茶葉は全て輸出にあてられ、土地の人々が口にすることが出来たのは低グレードの茶葉のみ。
枝なども混ざり込んだ茶葉に、本来のティーの香りや風味は望むべくもなく。
そこで風味足しとして使われ始めたのがジャスミン。そのジャスミン茶が広く庶民に浸透して行きました。

1910年代、日本統治下の台湾からジャスミン茶がジャワに輸入されていた記録があります。
(包種茶という香りのいいお茶、という説も)
これによってジャスミン茶が庶民に広がったという記述を目にしたのですが、それはちょっと疑問。
同じ頃、中部ジャワ北岸のスマラン/Semarangに、ビジネスで成功を収めた福建出身の華人がいました。
彼の主力商品がジャワの砂糖と台湾茶で、それらをオランダ東インド会社へ販売していたのだそう。
なので、輸入した茶葉はそのままオランダに流れたと見るのが妥当ではないかなと思っています。
当時の庶民に輸入茶を飲む財力があったのか、
また閉鎖的な華人社会で消費されるお茶がそんなに簡単に庶民に広がるのか、という気がします。

ジャワのお茶 Bandung_West Java, 2018

この、紙に包まれたお茶たち、みんなジャワ産のジャスミン茶です。
各家庭ごとに好みのブランドがあるんだろうなと思います。
クラシックな絵柄が魅力ですね。
なんでお茶なのに、釘抜き印とか、サッカー印とか、ほうきがけ印とかなのか、想像が広がって楽しいです。

ジャスミン茶 Bandung_West Java, 2018

茶葉はこんな具合。
葉の色など微差はあるものの、いずれも不揃いでざっくりとした茶葉。かなり太い枝も入っています。

そしてお茶の色。

ジャスミン茶 Bandung_West Java, 2018

いわゆる、紅茶の色。

ですが、緑茶/Green Tea/Teh Hijauベースなのです、ジャスミン茶は。
インドネシアで主流の緑茶の製法は、日本より中国の製法に近いのですが、それにしても茶色すぎます。
その理由はプロセスに。

ジャスミン茶に加工されるのは、水分量が最高で10%までの緑茶葉。
その茶葉を、まずは150−170度の高温ドライヤーで1−2時間かけて乾かします。
インドネシアでは「焦がし」と呼ばれるこのプロセスにより、ジャスミンの香りが吸収されやすくなるのだそう。
その上で、改めて茶葉を水で湿らせ、水分量30−35%とします。葉が開いて香りが入りやすくなります。
そこにジャスミンの花を混ぜ、香りを移します。
ジャスミンの花は、蕾の状態で朝摘みし、花が開いて強く香る夜に茶葉と混ぜる行程を行います。
香りが十分移ったら、花を取り除きます。
とはいえ、きちんと花で香りづけをした証として、意図的に取り除かずに残す場合もあるようです。
そして、最後に100−110度ほどのドライヤーで、水分量4%程まで乾かして、完成。

通常の緑茶のプロセスは、生の葉を加熱→揉んで→乾燥です。紅茶は、生の葉をまず発酵→揉んで→乾燥。
このジャスミン茶のプロセスには発酵はないので、紅茶ではありません。
途中の「焦がし」と呼ばれている過程を考えると、
この茶色は、日本茶で言うところの焙じ茶と同じ茶色と言えるのかもしれません。

ちなみに、友人にもらった台湾の茉莉花茶。

台湾茉莉花茶 Bandung_West Java, 2018

台湾の茉莉花茶製造工程でも、香りを移す前の乾燥プロセスはあるらしいのですが(湿らせはしないよう)、
茶色くないですねえ。……まあ、別物ということで(笑)。

台湾茉莉花茶 Bandung_West Java, 2018

まるで口の中で花が開いたかのような、まったく素晴らしくジャスミンなお茶でした。ごちそうさま。

さて、インドネシアのジャスミン茶の、そのお味は。

ジャスミン茶 Bandung_West Java, 2018

台湾茉莉花茶に比べると、かなり、だいぶ、ワイルドフラワーな感じの味ではあります。
雑味が多いのですが、中でも強く感じられるのが「渋味」。
こわそうな茶葉な上に無骨な枝入りですので(包装を突き破っているときもあります)、渋いのも納得。
ですが、この渋さが今では逆に「ジャスミン茶の味」として定着したという向きもあります。

中部ジャワ北岸の街、テガル/Tegalは、ジャスミン茶のメーカーが集まる街でもあります。

テガルから東に行ったプカロンガン/Pekalonganが、加工用のジャスミンの産地であることからも、
インドネシアの中でも、この地域の人々は、とりわけジャスミン茶を好むと言われています。
そして、テガル周辺で見られる喫茶習慣が「モチ/Moci」と呼ばれるもの。

モチのセット Bandung_West Java, 2018

モチとは、ティーポットを意味するポチ/Pociに由来し、Pociを動詞化したMemociを短縮したもの。
「お茶する」みたいなものでしょうかね。

モチでは素焼きのポットでジャスミン茶を淹れ、同じく素焼きのカップでいただきます。
この地域でお茶とは「熱く、香りよく、甘く、濃く」と言われるのだそうです。
抽出時間30秒でも渋みが出てくるテガルのジャスミン茶ですが、
それをこのティーポットに入れたまま、ちびちびと飲んでいくわけです。
当然かなりの濃さと、かなりの渋みですが、それが「茶の味」となるのだそう。

だからこそ、しっかりと甘さをつけます。

氷砂糖 Bandung_West Java, 2018

モチの甘味は、氷砂糖。これは、決まり事です。
この氷砂糖をカップに入れて、お茶を注いでいただくのですが、混ぜてはいけないという説があります。
「最初は苦く、やがて甘く。まるで人生を表わすようなお茶の味を味わうのだ」とか。
まあ、飲んでる人を見てみると、みんな普通にくるくる混ぜて最初から「人生の甘さ」を堪能していますが。

このモチの習慣と茶葉メーカーは、当然切っても切れない関係。
ティーポットには茶葉ブランド名が入っているのがお約束です。

社名入りポット Bandung_West Java, 2018

このモチに限らず、中部ジャワでお茶というと、とにかく甘いものです。
東ジャワも同様かもしれません。
お茶そのものまでもがとろりとして感じられるほどに、砂糖を沢山いれたものがジャワのお茶。
全国で市販されているお茶飲料もかなり甘めの味なので、
「インドネシアのお茶は甘い」と言われる方もよくいらっしゃるのですが、実はそうとも言い切れません。
同じジャワ島でも、西ジャワでは砂糖を入れないストレートティーもまた好まれるからです。

またオランダ東インド会社に話しが戻るのですが、
中部〜東ジャワは砂糖プランテーションが広く展開された土地で、砂糖と庶民は比較的近かったのに対し、
砂糖プランテーションはほとんどなく、また中/東ジャワからの砂糖の輸入も制限されていた西ジャワでは、
庶民にとって砂糖とは、あくまでも高級品でそんなに日常使いできるものではなかったからだと言われています。
そのため、西ジャワ地方ではお茶はストレート(甘いのも飲みますが、もちろん)。

ただその分(かどうかわかりませんが)、西ジャワ地方の食堂ではご自由にどうぞとお茶がおいてあります。

屋台のお茶 Bandung_West Java, 2018

道ばたの屋台ですら、コップにお茶を入れて出してくれます。
この習慣ゆえ、ボトル入りのお茶を生産している大手お茶メーカーがノンシュガーティーを発売した際に、
「西ジャワじゃ売れないよ、ノンシュガーのお茶はタダなんだから」と言う声が聞かれたほど。
ただ、こうして出されるお茶は、ごくごく薄く、お茶としてというよりは、
湯冷ましを出すのに「ちゃんと沸かした」印として茶葉で色を付けているのではないかと思っています。

さて、ささっと、ジャスミン茶以外のお茶について。

まずは、紅茶/Black Tea/Teh Hitam。

ジャワ紅茶 Bandung_West Java, 2018

西ジャワのボゴール/Bogorでつくられているワリニ/Waliniと、
中部ジャワのウォノソボ/Wonosoboでつくられているタンビ/Tambi茶。ジャワティー組です。

ワリニは最近ティーバッグのものしか見かけなくなりましたが、わが家の定番です。
茶葉はタンビ茶。右は友人が分けてくれたタンビの茎茶で、ちょっと珍しいもの。通常は左側。
パッケージに「ペコ・スーチョン」と書かれているので、茶葉の等級から言えば4番目ですかね。
それを細かく切断したものです。
ワリニは香りはそれほど強くないですが、紅茶らしい味わい。
タンビはかなりすっきりとした味わい(茎茶は更に)で、食事の時にがぶがぶ飲めるタイプのお茶です。

国内の茶葉の流通はかなりドメスティックで、ジャワでジャワ島外の茶葉をみることはあまりないのですが、
こちら、スマトラとバリのお茶。

スマトラ&バリ茶 Bandung_West Java, 2018

良質な茶葉として知られるカユ・アロ/Kayu Aroは、スマトラ西部のクリンチ/Kerinci地方産。
イギリスのエリザベス女王のお褒めに授かったことがある茶葉だとか、なんとか。
なお西スマトラではタルア/Taluaというお茶の飲み方があるそうです。
白っぽくなるまで泡立てた卵黄に砂糖を加え、沸かした紅茶を注ぎ、練乳とライムで味を整えるというもの。
試したことがないので、味の想像がつき難いです。

カユ・アロ茶葉 Bandung_West Java, 2018

カユ・アロもタンビに似た茶葉で、茎状の部分が目立ちます。
枝も葉も、ジャスミン茶に使われているのと変わらないのではないかと思うのですが、
このカユ・アロはほとんど渋みを感じさせない、明るい香味のお茶です。

北スマトラにも有名な茶葉があるのですが、国内にはほとんど流通していない様子。
パッケージに大きく「スマトラ」とあるお茶はメダンの会社が製造元なので、
恐らく茶葉自体は、北スマトラの茶葉ではないかと思います。
このスマトラ茶は、ちょっとスモーキーな味わい。
北スマトラはマレーシアに似て、練乳を加えて甘くして飲む飲み方も人気らしく、
たしかにそういう飲み方に合いそうな味です。

それからバリ茶。これは、初めて見ました。
バリというとコーヒーが主力で、茶葉はほとんど耳にすることはありませんでしたが、
近年いくつかの茶園がバリのお茶を製品化しているようです。
このブランドのは……ちょっと、苦手な味。スモーキーなバニラというか、香料なのかな?

国内で消費される茶葉は基本的にジャスミン茶と紅茶ですが、
近年、その他の茶葉も一部で生産されるようになってきました。

ジャワ産中国茶 Bandung_West Java, 2018

台湾や日本で技術を学び、それを反映させて製造された、
高級ラインの国内ブランドが出す緑茶や烏龍茶。白茶(シルバーニードル)は西ジャワの茶園から。
他に煎茶などもあり、それはヨーロッパ方面へ輸出もされているのだそうです。

その白茶の製造も行っていた茶畑が、西ジャワ州のレンバン/Lembangの茶畑。

茶畑 Lembang_West Java, 2016

工場も見学させてもらえたりします。

茶葉工場 Lembang_West Java, 2016

茶葉工場 Lembang_West Java, 2016

茶葉工場 Lembang_West Java, 2016

ここでも、輸出がメインらしいです。

工場の外側には大量の薪が。

茶葉工場 Lembang_West Java, 2016

茶葉の乾燥などに使う燃料で、ゴムの木が火脚が長く火力も強いのでいいのだそうです。

ということで、ざっとインドネシアのお茶事情でした。

ボトル入りや、インスタント、またはフレーバーティー、そして「お茶の木」ではない葉を使ったお茶など、
キリがないので、今回は茶葉について。他のものは、またいずれ、追々で。

ジャワの茶葉 Bandung_West Java, 2018

決して、ハイグレードのお茶ではない、インドネシアのお茶たちですが、
渋い渋いジャワのジャスミン茶も、飲み終わると不思議と爽やかさが残ったりします。
そしてなにより、インドネシアのごはんには、やっぱりインドネシアのお茶が合うのです。



2018/03/04

沈殿コーヒー/Kopi Tubruk

沈殿コーヒー Bandung_West Java, 2018

ここ数年、インドネシア、特にジャカルタ周辺ではコーヒーが熱いのです。
インドネシア各地から集められた豆、独自の焙煎、こだわりの抽出法、を謳う、
いわゆるサードウェーブ系のコーヒーショップがあちこちに。
そして、最近ではカジュアルなアイスコーヒー店が人気です。
かつては、良質な豆は全て輸出され、国内に流通するのは下位グレードの豆だとも言われましたが、
現在は国内でもよい豆が出回るようになっているようです。

が。

今回お話するのは、そういう「カフェ」で「おしゃれ」なコーヒーではなく、
道ばたの茶店でおじさんたちがお喋りしながらちびちびと飲んでいるような、昔ながらのコーヒー。
ガラスのコップに入れられた、底にカスが残るような沈殿コーヒー(とわたしは呼んでいます)です。
バリなどへ旅行に来た際、コーヒーをくいっと飲んだら口の中にカスがわーっと入ってしまって、
慌ててぺっぺと吐き出した、なんて経験をしたことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか。
あれです。あのコーヒーです。

沈殿コーヒー Jakarta, 2018

インドネシア語でコーヒーはコピ/Kopi。かわいい音ですよね。
元々はアラビア語で「強さ」を意味するカフワ/Qahwahが語源と言われています。
カフェインの作用からくるのでしょうかね、強さ、って。
それが、トルコの言葉でカヴェ/Kahvehとなり、オランダ語のコフィー/Koffieとなり、
インドネシア語でコピとなったのだそうです。
インドネシアに初めて、植物としてのコーヒが持ち込まれたのは、1696年だとか。
オランダ政府によって、東ジャカルタのジャティヌガラ近辺でまず植えられたのが最初だそうです。
その地域は現在、コーヒー小屋を意味するポンドック・コピ/Pondok Kopiという地名になっています。
その後、やや間をおいて、1830年のオランダ東インド会社の強制栽培制度の開始を受け、
ジャワ島内、そしてスマトラ島などにプランンテーション展開されていきました。

現在、インドネシアは世界第4位のコーヒー豆産出国。産地は国内各地に広がっています。
アチェ、ガヨ、スマトラ、ジャワ、バリ、キンタマーニ、トラジャ、フローレス、ティモール、パプア、など、
コーヒーのパッケージに書かれている地名に見覚えがあるかもしれません。

コーヒーの産地に行くと、市場などで生豆を売っているのを見かけることもあります。

生豆 Tana Toraja_South Sulawesi, 2011

これは、日本でもコーヒーの産地として知られている南スラウェシの、タナトラジャの市場。
粒も不揃いな豆たちなのですが、地元も市場となるとそういうものなのだと思います。
ここの市場では、生豆だけでなく、焙煎した豆、既に挽いてある豆などもあちこちで売られていて、
コーヒーの根付いた土地だなあという感じでした。

市場のコーヒー売り Tana Toraja_South Sulawesi, 2011

こういう土地では、
例えば街を散策していると、家庭で豆を煎っているのか、どこからともなく香ばしい香りが漂ってきたり、
また、森を歩いていると、ジャスミンにも似た甘くて微かなコーヒーの花の香りに包まれることがあります。
幸せな気分で、空気の中の香りを辿りたくなります。

トバ湖畔のコーヒーの花 Toba_North Sumatra, 2014

で、この沈殿させて上澄みを飲むコーヒー。
インドネシアではコピ・トゥブルック/Kopi Tubrukと呼ばれています。
トゥブルックとはジャワ語で「ぶつかり合う」というような意味を持っているようで、
コーヒーを粉にする際に、アルとレスンと呼ばれる搗き臼を使って潰す行為に由来すると思われます。

コーヒー挽き Flores_East Nusa Tenggara, 2016

こちらは、東ヌサトゥンガラ州のフローレス島の山中にある、ワエレボ村でのコーヒー挽き。
臼で潰しています。

挽き上がったコーヒー Flores_East Nusa Tenggara, 2016

かなり細かく潰すんですね。
沈殿コーヒーの粉は、とても細かいのが特徴。ペーパーフィルターだとすぐに詰まってしまいます。

ちなみに、このワエレボという村。
電気は通っていないし、バイクも通れない道を3時間ほど登ってたどり着く村です。

ワエレボ村 Flores_East Nusa Tenggara, 2016

ちょっとおとぎ話みたいなビジュアルの村なのですが(笑)。

この村の主要作物もまたコーヒーなのです。村にたどり着く道々にはコーヒーの木が沢山。

コーヒーチェリー Flores_East Nusa Tenggara, 2016

山間ゆえに、午後になると雲に包まれてしまいがちなのですが、
朝の陽射しがあるうちに、村人たちはせっせとコーヒーを広げて天日干しにしていました。

コーヒーの天日干し Flores_East Nusa Tenggara, 2016

このとんがり屋根の伝統家屋の中央には囲炉裏場があるのですが、
そこで大きなフライパンを使って自分たちが飲む用の豆をローストしていました。ふんわりいい香り。

この村のコーヒーはジャワ島の契約業者がまとめて買い取りにくるのだそうです。
バイクも通れない道だけど。

この村に限らず、フローレス島も美味しいコーヒーの産地として知られている島です。

フローレスコーヒー Flores_East Nusa Tenggara, 2016

話しを戻して。
沈殿コーヒーは、細かく挽いた粉にお湯を注いでしばらく待ち、粉が沈んだところを飲みます。
とてもシンプルでベーシックな飲み方です。
ジャワやバリでよく飲まれる飲み方、という説明も目にしますが、
わたしが各地を旅して回っている範囲では、全国区でみられる飲み方だと思います。
(一部、布フィルターで漉して淹れる地域もありますが、それらの地域でも沈殿コーヒーは飲まれます)

家庭で煎って挽くだけでなく、
全国区からローカルまで様々なコーヒー会社から、この沈殿コーヒー用の粉が発売されています。

コーヒー粉 Bandung_West Java, 2018

有名どころでカパル・アピ/Kapal Api。
インドネシア国内ほぼどこででも目にする大手コーヒー会社のコーヒーです。
アロマ/Aromaはバンドンの老舗コーヒー店。わが家の定番コーヒーです。
同じくバンドンの老舗ジャヴァコ/Javacoは、クラシックなパッケージがぐっと来ます。
目を引くパッケージといえば、のナガ・サンヒエ/Naga Sanghieはメダンのブランドです。
この他、バリの蝶のマークのコーヒーなど、沢山のご当地ブランドがあります。

アロマコーヒー店内のコーヒー豆 Bandung_West Java, 2014

道ばたの茶店で目にすると言えば、
この小さいサシェットに入ったコーヒー+砂糖、もしくはコーヒー+砂糖+ミルクが既に混ぜられているもの。

個装コーヒー Bandung_West Java, 2018

このタイプの既にミックスされている商品は、いずれ劣らず、あまーーーーーーーーーーいです。
普通に家で飲むと「うはあ」となるのですが、不思議と、旅先の島、海辺、山などシチュエーションが変わると、
「ああ美味しいなあ」と感じてしまうマジック。わたしの中では「旅の味」という感じです。

アーベーセー/ABCはミルク入りの3イン1タイプ。
トラビカ/Torabikaはミルクなしの砂糖のみ。
このトラビカというブランドは、2015年に公開され、
ジャカルタのカフェブームを加速させた映画「Filosofi Kopi(邦題『珈琲哲学』)」のオフィシャルスポンサー。
せっかくなので、トレイラーをどうぞ↓



では、この沈殿コーヒーを飲む際の手順を。
まず、ガラスのコップを用意します。必須ではないのですが、その方が「それらしい気分」が出ます。
で、そこに粉を入れます。
カパル・アピのパッケージに書かれている分量は大さじ1杯の粉に対して200mlのお湯。まあ、ここはお好みで。

沈殿コーヒー Bandung_West Java, 2018

砂糖を入れる場合は粉と一緒に先に入れておきます。

で、そこに、沸騰したてのお湯を注ぎます。
沸騰したて、というのが肝心で、ディスペンサーなどの温度の低いお湯を使うと、ちゃんと沈殿しないのです。
お湯を注いだらくるくるとかき混ぜて、しばし待ちます。3分とか。5分とか。5分はかからないかな。
おおよその粉が沈殿したのが見えると思います。でも、表面にはまだうっすら浮いているかもしれません。

沈殿コーヒー Bandung_West Java, 2018

この浮いているカスは、ふうふうと息を吹きかけてよけます。そうすると、沈んで行くんですね。
で、あちあちとカップの縁をもって、召し上がれ。
まあ、3分とか待っているので、そこまで「あちあち」ではないのですが。

コピ・トゥブルック Jakarta, 2018

お店で、ソーサーが蓋になって出されることもありますが、これもご愛嬌。
沈殿コーヒーの正しいお作法的には、このソーサーにコーヒーをこぼして飲む、という話しもあります。
これ、もしかしたら古いヨーロッパの作法に由来するのかもしれないですね。
以前、ヨーロッパのアンティークのティーカップで、ソーサーが深いものを見たことがあり、
その際、当時はソーサーにこぼして冷ましながら飲むのがマナーだったという話しを耳にしました。
実際にこぼして飲むか、そのまま飲むかは、各自のご判断でどうぞ(笑)。

そして、飲み終わり。ここの見極めは大事です。
最後まで飲み切ろうとは、決してしないこと。口の中がカスカスになって泣きたくなります。

沈殿コーヒー Bandung_West Java, 2018

ほどよく、上澄みを残したところで、飲み終わりとしてください。

ところで、このインドネシアのコーヒーですが、混ぜ物がある場合がよくあるんですね。
生豆を買うと分かるのですが、大豆とか、トウモロコシとか。あと煎る段階で米とか。
これ、ズルしているわけではないのだと、北スマトラでコーヒーを栽培している方が教えてくれました。
沈殿コーヒーとして飲む際に、そのままだと苦すぎてしまうから、という理由なのだとか。
なるほど。
わたしはコーヒー好きですが、味にうるさいわけではない雑食(飲)な口なので、
大豆入りと聞いても、きな粉風味も美味しいかもしれない、くらいにしか思っていませんでした。
(実際には、きな粉の味はしません、笑)

さて、コーヒーついでにこちらも。
コーヒーの葉っぱのお茶について、せっかくなので紹介しておきましょう。

カワ・ダウン Bandung_West Java, 2018

カワ・ダウン/Kawa Daunと呼ばれるこちらは、西スマトラ地域の伝統的な飲み物です。
コーヒーの葉を乾燥させて、お茶のように飲む飲み物。

その発祥に関しては、
一粒たりともコーヒー豆を残さない厳しいオランダの強制栽培制度ゆえに、
どれほど栽培し収穫しようとも、自分たちは一切コーヒーを飲むことが出来なかった現地の人々が、
その葉にもカフェイン効果は残っているのではないかと期待して飲み始めた、という説が一番よく聞かれます。
ですが一方で、西スマトラ内陸部ではオランダ統治以前からコーヒーは栽培されており、
その地域ではそもそも豆ではなく、葉を消費していたのだという説もあります。
西スマトラ内陸部でコーヒーのプランテーションが展開され始めたのが、ジャワに10年遅れた1840年、
その頃には既に、このカワ・ダウンの飲用習慣はあったとする歴史研究家の説に基づいています。

で、このカワ・ダウンの飲み方。
乾燥させたコーヒー葉を水から沸騰させて5分ほど煮立てた後、漉して、砂糖などを加えて飲みます。

カワ・ダウン Bandung_West Java, 2018

現地では、半分に割った椰子殻を器にして飲むのが流儀なのだとか。
味は、コーヒーというよりお茶ですね。
葉を乾かすプロセスの中に燻す過程があるようで、スモーキーな香りと味がします。
プーアル茶が一番近い気がします、味も香りも。

そして最後に、これもまたインドネシアらしいコーヒーを。

生姜入りコーヒー Bandung_West Java, 2018

生姜入りコーヒー。違う、コーヒー入り生姜飲料と言った方がいいかもしれない。
熱帯地方ではあるのですが、インドネシアのひとたちは身体を冷やすことをとても嫌がります。
なので、生姜のような身体を内側から温める食材は好まれ、温かくて甘い生姜の飲み物は定番です。
で、そこに、コーヒー。これも決して珍しい飲み物ではありません。結構美味しいんですよ。

今回地名が出てきた土地は、だいたいこの辺りです。


A:メダン
B:西スマトラ(ブキティンギ周辺)
C:ジャカルタ
D:バンドン
E:タナトラジャ
F:フローレス(ワエレボ)

インドネシアはコーヒー天国です。
シングルオリジンな選りすぐりの豆から好みのローストで味わうのもあり、
マレー系で見かけるコピティアムもあり、
そして、インドネシアらしい沈殿コーヒーもあり。

沈殿コーヒー Bandung_West Java, 2018

ふうふうとカスを吹いてよけながら、ちびちびと沈殿コーヒーを飲み、道行く人々を眺めてほっと一息入れる。
そういうひと時がなんとも言えず、とてもインドネシアらしい時間に思えるんですよね。
機会があればぜひ、お試しください。