2019/03/22

麺/Mie ②

バクミー・ホシット Jakarta, 2019

麺です。
以前に一度、インドネシアの麺についてまとめてるので、先にその記事をご参考いただければ幸いです。

今回はご当地麺を、勢いにまかせてだだだだっと。


この丸の範囲内で。
このエリアは、比較的華人の影響の強いエリアでもあり、それゆえにご当地麺が豊富です。

まずは、シンガポールのすぐ対岸のバタム/Batamから。

バタム

ミー・レンディル Batam_Riau Islands, 2019

最初のご当地麺、ミー・レンディル/Mie Lendir。

バタム島の隣のビンタン/Bintan島がそもそもの発祥の地のようです。
ジャワからの移住者が最初に作ったのだとか。

麺は普通のたまご麺、具は茹でたもやしとコロンとゆで玉子というシンプルさ。
この麺は、かかっているタレ(スープではない)が特徴。

ミー・レンディル Batam_Riau Islands, 2019

とろみのあるタレは、ピーナッツと潰したサツマイモを使っています。
ピーナッツは微かに粒感を残し、サツマイモはなめらかにマッシュされていて、食感はほぼなし。
ただ、優しい甘さはサツマイモに由来するのでしょう。
ゆるりとマイルドなタレに、添えられたグリーンチリを塩梅するとメリハリがでていい感じです。

ピーナッツのタレでは、もうひとつ、ジャワでも見かけたことのない麺がありました。

サテ・ミー Batam_Riau Islands, 2019

サテ・ミー/Sate Mee。店によっては、ミー・カチャン/Mie Kacangとも。カチャンはピーナッツのことです。
粒感も増し、コクのあるこのタレは確かにサテのピーナッツソースを思わせます。

中国の廈門に沙茶麺というのがあり、それは、
サテのピーナッツソースを、華人たちが故郷の広州や福建に持ち帰り、そこで麺化したものなのだそうです。
ただ、もっと汁っぽいみたいですね。
インドネシアから渡って沙茶麺になったものが、またインドネシアに戻ってきて、
その際に「サテって言ったら、汁じゃないだろ、タレだろ」という具合にこういう形になったのかも?
とも思いますが、真相は不明です。

サテ・ミー Batam_Riau Islands, 2019

具は、歯ごたえよく茹でた空芯菜やもやしに、エビやイカなどのシーフード。油条がつくのがそれっぽいです。

もうひとつ、バタムで出会った麺がこちら。

ミー・タレンパ Batam_Riau Islands, 2019

ミー・タレンパ/Mie Tarempa。
タレンパというのは、リアウ諸島州のアナンバス/Anambas諸島の地名で、つまり本来はそちらのご当地麺です。

アナンバス諸島

南シナ海に浮かぶアナンバス諸島。
このアナンバスより更に北東に行ったナトゥナ/Natuna諸島に行ったのですが、
恵まれた漁場であるため、香港を含む中国方面への魚の出荷が活発で、
どこの陸地からも遠い立地でありながらも、予想以上に中国系の商売人がいたのが印象的。

おそらくアナンバスも似た環境にあり、それを背景にご当地麺が生まれたのかもしれません。

漁業の地らしく、魚がベースで、唐辛子と胡椒でダブルにピリッとさせたトマト風味のスープ。
海魚には酸味を利かせる、というのはインドネシアの他の地域にも共通しますね。

ミー・タレンパ Batam_Riau Islands, 2019

ミー・タレンパは基本全て「ゴレン/Goreng」つまり「炒め」と言われるのですが、
その中で「ドライ」「ウェット」「スープ」を選ぶようになっています。写真は「ウェット」。
この感じは、ミー・アチェ/Mie Acehに似ています。

先のナトゥナ諸島で意図せず注文したミー・ゴレンも同様で、ゴレンと言いつつ汁気のある状態で出てきました。

ナトゥナ諸島

ミー・ゴレン Natuna_Riau Islands, 2019

色が悪いですが、これは光りのせい(泣)。麺は普通のたまご麺です。
刻んだ青菜と裂いた鶏肉というシンプルな具材ですが、八角などのスパイスの風味が効いていて、
予想外に美味しかったひと皿。

スパイス使いと言えば、ナトゥナから南東へ行ったポンティアナク/Pontianakの麺。

ポンティアナク

思い出すとうっとりしてしまうポンティアナクの食べ物の中でもふれた、クエ・キア・テン/Kwe Kia Theng。

クエ・キア・テン Pontianak_West Kalimantan, 2018

豚肉+臓物の旨味とケチャップの風味、その奥に微かに感じる八角や丁字が心憎いスープ。
ポンティアナクは広州福建系華人が多いインドネシアにあってちょっと珍しい潮州系華人の多い街。
その影響だと思うのですが、米粉使いが他の地域より顕著で、この麺もつるんとした喉ごしの幅広米麺です。

クエ・キア・テン Pontianak_West Kalimantan, 2018

ルーツ違いでいくと、バンカ/Bangkaの場合は客家系華人がメインの島。

バンカ島

このバンカ名物の麺として、でも地元ではなくジャカルタで出会ったのがバクミー・ホシット/Bakmi Hosit。

バクミー・ホシット Jakarta, 2019

この名前は「美味」を意味する客家の言葉 ”Ho sit” に由来するのだそうです。
(Ho sitは「好食」なのだと、ツイッターで教えていただきました。感謝)

一見普通の鶏肉使いのバクミーに見えるのですが、擦った白胡麻を使っているのが特徴。
ひと口食べてみて「あ、」と気づく程度の、決して主張しすぎない胡麻加減。
そこに、フィッシュボール、練り物、茹でた青菜ともやしが具に加わります。

バクミー・ホシット Jakarta, 2019

たっぷり散らされた揚げシャロットの香りもよく。
そして、そこに絞るのがジュルック・クンチ/Jeruk Kunciと呼ばれる柑橘類。カラマンシーですね。

ジュルック・クンチ Jakarta, 2019

今回のご当地麺圏では、このカラマンシーをよく使っていました。
ジャワではあまり使わないんですよね、不思議と。
爽やかな香りと酸味が味を引き締めてくれます。

一方、バンカ島の現地で食べたバクミーはこちら。

ジャ・ミエン Bangka_Bangka-Belitung, 2019

バンカではバクミーのことをジャ・ミエン/Ja Mienとも呼びます。
ジャ・ミエン自体は、茹でもやしと豚ひき肉を具としたシンプルな麺なのですが、そこに添えるスープが特別。

タフ・コッ Bangka_Bangka-Belitung, 2019

魚のすり身を豆腐に挟んだタフ・コッ/Tahu Kok。すり身団子や湯葉なども一緒に入っています。
これも、バンカ名物。

このすり身に使われるのはサバ科のサワラ。インドネシアではテンギリ/Tenggiriと呼ばれます。
そのテンギリを使った麺で素晴らしく気に入ってしまったのが、こちら。

ミー・コバ Bangka_Bangka-Belitung, 2019

バンカ島のコバという町の名物麺、ミー・コバ/Mie Koba。
テンギリを使った甘めの出汁、茹でたもやしと香りのいい葉セロリ、揚げシャロット。
そこに、カラマンシーをぎゅうと絞り入れると、旨味と香りと酸味で思わず唸る美味しさ。

ミー・コバ Bangka_Bangka-Belitung, 2019

先日のラクサの記事の中にも書いたラクソ/Laksoの出汁もテンギリです。

ラクソ Bangka_Bangka-Belitung, 2019

このラクソもカラマンシーを絞ることで美味しさ更にアップ。
ミー・コバもラクソも、シンプルな美味しさは何度でも食べたくなりますね。
やはり、青魚系の出汁というのは強いなあと思います。

最後、南スマトラに上陸してパレンバンの麺を。

パレンバン

パレンバンに来たら外せないご当地麺と言えば、ミー・チェロル/Mie Celor。

ミー・チェロル Palembang_South Sumatra, 2019

ココナッツミルクにエビの旨味がぎゅっとなった、滑らかでいて濃厚なコクのある麺です。
具は茹でもやしと茹で玉子、揚げシャロットとワケギにエビの身をぱらり。

ミー・チェロル Palembang_South Sumatra, 2019

この旨味×滑らか、なソース(スープとは言えない)は、ほぼカルボナーラだと思います。すごく美味しい。

おまけで、パレンバンのバクミー。

バクミー Palembang_South Sumatra, 2019

豚ひき肉の汁別麺で、なにが特別というわけでもないのですが美味しかったバクミーです。
幅広麺がしっかりとした歯ごたえで。
ただ、ボリュームがすごく、食べても食べてもなくならなくて(気のせい)大変でした。

たいがいの麺にはもやしがつくんですよね。ジャワでもなくはないですが、ここまで定番ではない感じです。
しゃきっとしたもやしの歯ごたえは、確かに麺料理によく合います。

バクミー Palembang_South Sumatra, 2019

ということで、駆け足のご当地麺。
ジャカルタで食べられるものもありますが、やはり現地で食べるのが至福ですね。




2019/03/11

ラクサ/Laksa

カトン・ラクサ Singapore, 2018

ラクサ、と言うと、どういう料理をイメージしますか?
わたしはずっと、上の写真のような、シンガポールで食べるココナッツミルク+エビ風味のイメージでした。
でも、実は、ラクサってすごく幅の広い食べ物なんですね。

ラクサの発祥は、マラッカ海峡地域であると言われています。
いわゆる、プラナカン料理。ニョニャ料理と呼ばれることもありますね。
英領マレーの時代に中国(主に福建省と周辺)からこの地域に移住してきた人々は、圧倒的に男性が多数。
それゆえ、中国人男性とマレー女性との婚姻が進み、
その家庭において、マレーと中国が融合した生活文化が生み出されていきました。
食に関しては、ココナッツミルクや椰子油の利用し、酸味料としてタマリンドや柑橘類を活用、
そして、エビの発酵調味料や、南洋独自のハーブやスパイス使いなどが見られます。
そういったプラナカンの料理の中にラクサは位置づけられます。

流れとしては明らかに中国からの流れにありつつ、その土地に合わせて変化したプラナカン料理としてのラクサ。
その変化は、一地点にとどまるものではなく、各地の土壌に合わせてバリエーションが出てきます。
スープのベース、出汁、麺、そして具材など。
そのバリエーションを、これまでわたしが食べてきたものを中心に、ささっと。

やはり王道なのは、冒頭のココナッツミルクを使ったものでしょうか。

カトン・ラクサ Singapore, 2018

シンガポールのカトン通りに店が集まっていることから、カトン・ラクサ/Katon Laksaと呼ばれています。
東南アジア特有のスパイスとして、ガランガルやターメリックその他に干しエビを加えてペーストとし、
エビの頭や皮を使ってとった出汁で溶いたところにココナッツミルクを加えて、スープの完成。
タピオカ麺が基本ですが、麺自体はぶつぶつと切れて短く、なので箸ではなくレンゲで食するものとされています。

カトン・ラクサ Singapore, 2018

具に関しては店舗による差はあるでしょうが、エビや練り物(フィッシュボール)の他、剥き貝が入っていたり。
ココナッツミルクのコクと、魚介の旨味がポイントになります。

そして、風味として仕上げに使われているハーブがラウ・ラム/Rau Ram。
ベトナミーズ・コリアンダーと呼ばれることもあるハーブで、蓼の仲間になります。
ベトナムで食事をする時にどさっと出されるハーブの山の中にありますね。
コリアンダーと言うより、ドクダミに近い風味ですが、これがいいアクセントになっています。

カトン・ラクサ Singapore, 2018

このスープ麺に、チリペーストがつくのもお約束。
そのペーストにも干しえびを使っていて、ラクサペースト、スープ、具、そしてチリペースト、と、
エビの旨味を何層にも重ねて行くような、贅沢な料理ですね。

で、このシンガポールから海を渡ってすぐの、インドネシア領バタム島。

バタム島

街の中でも「ラクサ」の看板はよく出ています。

ラクサの表示 Batam_Riau Islands, 2019

バタムのラクサは黄色いたまご麺かビーフンかの選択制。

ラクサ Batam_Riau Islands, 2019

エビ出汁+ココナッツミルクなのは、カトン・ラクサと同じようですが、
ハーブはなく、具はフィッシュボールと揚げ豆腐、ゆで玉子、そしてジャコがトッピングされています。
(繰り返しますが、具は、まあ店舗差が大きいとは思います)

ラクサ Batam_Riau Islands, 2019

この時は、ビーフンをセレクト。

バタム島は、インドネシアではリアウ諸島州に区分されます。
そして、そのリアウ諸島には、ラクセ/Lakseと呼ばれるラクサがあるのだそうです。
語尾がセになっているのは、この辺りに暮らすマレー系の人々の発音のクセで、
”a”を”e”に近い音で発音することから、ラクサがラクセと表記されるようになったのだとか。

リアウ諸島

(この地図じゃ見えないですが、小さい島が丸の中に散らばっているのです)

このラクセは、サゴ椰子の澱粉を使った麺に、
ココナッツミルクと魚もしくはエビ、そして唐辛子やスパイス類を主な材料としたスープをかけていただくもの。
あいにく、リアウ諸島でこのラクセに出会うことは出来なかったのですが、
そのすぐ南のバンカ島で、恐らく類似しているのでは、と思われるものに出会いました。

バンカ島

ラクサ→ラクセと来て、今度はラクソ/Laksoです。

ラクソ Bangka_Bangka Belitung, 2019

ラクソは、サゴ椰子の澱粉と米粉の麺。
タネをお湯の中に直接押し出してそのまま湯がき、冷水にとって〆たらバナナの葉に乗せておきます。
注文する時に、バナナの葉っぱいくつ分かでお願いするシステム。

ラクソ Bangka_Bangka Belitung, 2019

これは、葉っぱふたつ分。

そこに、温かいココナッツミルクのスープをかけます。

ラクソ Bangka_Bangka Belitung, 2019

一気にシンプルになりました。

スープは魚ベース。サワラの身を潰したところに、ココナッツミルクやターメリックなどを加えたもの。
ココナッツミルクも、シンガポールやバタムのものに比べると、あっさりめになります。

ラクソ Bangka_Bangka Belitung, 2019

ゆるりとした麺に、旨味のつまった温かいスープは、優しい味わいで朝食にぴったり。
そこに、カラマンシーをぎゅっと絞ると更に美味しさが増します。
海魚ベースに柑橘類というのは、裏切らない組み合わせですね。

そして、このバンカからほど近い、パレンバン。

パレンバン

ペンペの記事でも少しふれましたが、パレンバンにはラクサン/Laksanがあります。
ラクサ→ラクセ→ラクソ→ラクサン、です。

ラクサン Palembang_South Sumatra, 2019

濃厚なココナッツミルクと魚出汁のスープに、魚のすり身とタピオカ粉を合わせたペンペ(フィッシュケーキ)。
ペンペ自体はパレンバン独自のものですので、
ラクサというプラナカン料理に、更にパレンバンのテイストが加わった料理と言えると思います。
唐辛子の辛味を感じるコクのあるスープ、もっちりとした歯ごたえのフィッシュケーキ、揚げシャロットの香り。
これもまた、クセになりそうな味わいです。

ココナッツベースのラクサは、ジャカルタにも、そしてジャカルタのすぐ隣の街ボゴールにもあります。

ジャカルタ-ボゴール

ラクサ・ブタウィ/Laksa Betawi(ジャカルタ)と、ラクサ・ボゴール/Laksa Bogor。
土地が近いだけに、このふたつはかなり似ています。

ラクサ・ブタウィ Jakarta, 2018

パンレンバンやバタム、またはシンガポールのような唐辛子由来の赤味はなく、
どちからというとラクソのスープと同類の、優しいココナッツミルクのスープなのですが、
ラクサ・ブタウィの出汁は、エビ+チキン。鶏が出てきました。

ラクサ・ブタウィ Jakarta, 2018

麺はビーフン、茹でもやし、裂いた鶏肉、ゆで玉子、揚げシャロットなどが具になり、
たっぷりとホーリーバジルが乗せられています。

一方、ラクサ・ボゴールは。

ラクサ・ボゴール Jakarta, 2018

スープの風味などはほぼ同じ印象。

ラクサ・ボゴール Jakarta, 2018

茹でもやしや裂いた鶏、ゆで玉子などの具は同じなのですが、
ビーフンの他に、ロントン/Lontongというライスケーキも入っています。
お米なので、しっかりお腹にたまります。

ラクサ・ボゴール Jakarta, 2018

そして、もうひとつの違い。
オンチョム/Oncomと呼ばれる、西ジャワ地域で好んで使われる大豆発酵食品が入っています。
独特の風味のあるオンチョムによって、味にアクセントをつける感じですね。

というのが、ココナッツミルクベースのラクサ。
本当はまだまだあるんですけど、まだ食べていないので、とりあえずここまで(笑)。

そして最後に、ココナッツミルクを使わないラクサを。

メダン

北スマトラの都市、メダンの、ラクサ・メダン/Laksa Medan。

ラクサ・メダン Medan_North Sumatra, 2018

麺は米粉の押し出し麺。スープの出汁はグルクマ(サバの仲間)で、ぎゅっと酸味が効いています。
メダンのほぼ対岸にあるマレーシアのペナンを中心に食べられているアッサム・ラクサ/Assam Laksaに近く、
ただ、ペナンの酸味がタマリンドなのに対し、メダンの酸味はゲルグル/Gelugurなのが違いなのだとか。

ゲルグル Bandung_West Java, 2019

(パイナップルを酸味料として使う場合もあるそうです)
酸味の他、トーチジンジャーの花やレモングラスを使い、仕上げにミントをのせることで、
海魚の独特の臭みとバランスをとっています。

マレー半島東側のラクサとはギャップがあるこのラクサ・メダンですが、
青魚の風味が生きていて、さすがの美味しさ。

ラクサン Palembang_South Sumatra, 2019

以前、わたしは「ラクサのどこが美味しいのかよくわからない」と言い放っていました。
単に美味しいラクサを食べていなかっただけでした(反省)。

インドネシア国内、これらの他にもまだラクサのバリエーションはありますし、
マレーシアからタイ南部にかけても、また別のラクサが存在するのだそうです。

どこかで出会ったら、その時にまた、ご当地ラクサを味わいたいですね。