2017/01/29

タペ/Tapai(Tape) ②

タペ入りエス Bandung_West Java, 2017

前回のタペ・シンコンの続きで、今回は餅米のタペ。

餅米のタペはタペ・クタン(Tape Ketan)と呼ばれます。
発酵によって糖度があがり、その甘さの中に発酵由来の酸味が混ざった独特の風味。
採れた液体は微かに甘酒のような味わい(実際、タペはアルコールを含みます)。
米麹、もしくはもろみのようなものと説明される場合もあります。

タペ・シンコン同様、発祥はインドネシアではないかと言われますが、詳細はよくわかりません。
ただ、西ジャワを中心としたジャワ島を主として食べられているタペ・シンコンに比べて、
この餅米のタペはインドネシア国内でも比較的広く食べられています。
また、インドネシアに限らず、インド、マレーシアからカンボジアまで分布しているとのこと。
カンボジアでは黒餅米のタペがTapae Kmaoと呼ばれているとか。
(東南アジア各地での呼称がタペに類似しているのに対し、インドは音が異なるので発祥は別かも?しれません)

そんな餅米のタペですが、使う餅米によって2種類に分かれます。

まずは、白い餅米を使ったもの。

木の葉などで包まれているのがかわいらしい。
写真はキャンドルナッツの葉ですが、他にバナナやグアバの葉などが使われます。

葉に包まれたタペ・クタン Bandung_West Java, 2017

ラギ(菌)を仕込んだ餅米を個別にくるみ、葉っぱの中で発酵させているんですね。

タペ・クタン Bandung_West Java, 2017

開くと、こんな具合。小さな一口大のタペ。ぎゅっと絞ると甘いお酒が滴ります。

この写真は白い餅米の色そのままですが、緑色に着色されたものもよく見かけます。

タペ・クタン Bandung_West Java, 2017

この緑は葉をすり潰して採った汁を使うことで出る緑。
インドネシアで一般的に緑色というと、パンダン(ニオイタコノキ/パンダナス)の葉が基本という印象ですが、
このタペの緑は一概にパンダンとは言えないらしく、ナンキョウ(ガランガル)の葉だったり、色々です。

そして、もう一つは黒餅米を使ったもの。タペ・クタン・ヒタム(Hitam=黒)。

タペ・クタン・ヒタム Bandung_West Java, 2017

黒というか赤紫色に見えますね。
白い餅米のものよりも、プチプチとした食感が残っているのが特徴です。

中〜東ジャワでは、ブレム(Brem)と呼ばれる、餅米のタペから採れる液体を加熱し固形化したものもあります。

ブレム Bandung_West Java, 2017

水分を飛ばして残った澱粉を板状にした(円盤状のものもあります)このブレム、落雁を思わせます。
口に入れた途端に滑らかに溶けて、タペ特有の酸味を含んだ甘さが広がります。

ブレム Bandung_West Java, 2017

とても甘いので、たくさん食べられるものではないのですが、でも大好きです。

ところ変わってバリでは、ブレムというと液体そのものをさします。
バリのライスワインとして、お土産にもよく見かけますが、
現地では、ヒンドゥーの寺院での捧げものとして、信仰行事の中で使われるものなのだそうです。
(バリというのは、本当に食にまつわるあらゆるものが神事につながっていて興味深いです)

固形のもの、液体のもの、どちらもそれぞれの土地では「ブレム」と呼ばれますが、
差別化するために、ジャワの固形のブレムはブレム・パダット(Padat=固形)、
バリの液体のブレムはブレム・チャイル(Cair=液体)と呼び分ける場合もあります。

さて、餅米のタペそのものの方に話しを戻し、その食べ方。

一番よく目にするのは、エス(冷菓)に入れられたものでしょうか。

タペ入りエス Bandung_West Java, 2017

写真はうちで作ったものですが、緑のタペ、黒餅米のタペ、そしてタペ・シンコン入りです。

それから、ドリアンのアイスクリーム。これに、黒餅米のタペは必須です。

ドリアンアイスクリームとタペ Bandung_West Java, 2017

ドリアンの、もしくはエスの椰子糖とココナッツミルクのような濃厚な甘さに、タペの酸味はよく合います。

また、これは西スマトラのブキッティンギで食べたラマン・タペ(Lamang Tape/Tapai)というもの。

ラマン・タペ Bukittinggi_West Sumatra, 2016

ココナッツミルクを加えてバナナの葉と竹を使って蒸した餅米に、たっぷり黒餅米のタペをかけたもの。
つゆだくです。タペ好きにはたまらない。

実際に食べたことはないのですが、このライスケーキ+餅米のタペという組み合わせはロンボクにもあるようで、
ポテン・ジャジェ・トゥジャック(Poteng Jaje Tujak)と呼ばれているそうです。
ポテンというのがタペのことらしいですね。こちらは、白餅米のタペが主流のようです。
ポテン・ジャジェ・トゥジャックは、イスラムの断食明けの大祭の折りなどに食べられるとか。
ロンボクに限らず、ざっと見た限りでは、
南カリマンタンや南スラウェシなどでも、同じようなシチュエーションでタペを用いることがあるらしく、
そう考えると、餅米のタペというのは「ハレ」の食べ物と言えるのかもしれません。
(タペ・シンコンは、より日常的な「ケ」の食べ物ですね)

ちなみに、タペはアルコールを含むのにイスラムの大祭で食べていいのか?という疑問もあるかもしれませんが、
まあ、いいんじゃないでしょうか(笑)。
タペというのは、イスラムの習慣が定着しその戒律が浸透していくよりも先にあった土着の食べ物であり、
信仰が伝搬していったその先で、土地固有の食べ物や習慣などと混ざり合っていくというのは当然で、
なので、一般的なビールやお酒などのアルコールは避けるムスリムであっても、タペは除外される。
そういうのは、ありなんじゃないかなと、わたしは思います。異教徒ですが。

タペ入りエス Bandung_West Java, 2017

また、これはインドネシア的なタペの食べ方とは異なりますが、
日本人的な観点からみると、この餅米のタペ、味醂みたいなんですよね。
なので、和食をつくる時にタペを投入、というのは結構よくやっています。味に丸みがでて美味しいんです。
ジャカルタの情報誌「+62」のサイトに、このタペ活用方法の記事があります。
インドネシアの発酵食品 タペの実力
わたしもレシピを出させていただいた記事です、ご参考ください。
(タペ、はじめて食べたら「うっ」となるかもしれないけど、慣れたら美味しいですよ。笑)



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