サテ・パダン Medan_North Sumatra, 2018 |
前回の終わりに「次回は中国系の」と書きましたが、やっぱやめます。それはまた次回で。
今回は、メダンに集まったスマトラ島内と近隣地域からの影響について、ちょっと。
そもそも、メダンという土地の土着の人々はと言えば、ムラユ人です。
ムラユとは、インドシナ半島南部、カリマンタン島沿岸部、
そしてスマトラ島東部の主に沿岸部に広く居住しているマレー系の人々。
ムラユ料理は、それぞれの地域色はあるものの、ざっくり括ると、
ガランガル(ナンキョウ)やターメリック、バワンメラ(シャロット)やニンニクなどのブンブに、
コリアンダーを始めとした各種スパイス、レモングラスやコブミカンの葉のようなハーブ類を組み合わせ、
フレッシュな唐辛子を効かせて、ココナッツミルクでコクを出す、という感じですかね。
(もちろん、ココナッツを使ってないものもあるし、酸味をきかせたものもあったりはします)
ガランガルなどは東南アジア地域特有のブンブですが、例えばニンニク使いは中国から、
そして、スパイスやココナッツミルク使いは南インドから、というように、
この地域の位置関係が表すように、北は中国、西はインドから影響を受けて発展したのがムラユ料理と言えます。
マレーシアを旅行したことがあるひとなら、ナシ・レマッ/Nasi Lemakを食べたことがあるかも知れません。
ナシ・レマッ Jakarta, 2018 |
ココナッツミルクで炊いたご飯(ジャカルタ界隈だとナシ・ウドゥッ/Nasi Udukと言われます)に、
スパイスとココナッツミルクで煮込んだ牛肉や、味付けした小魚などおかずを添えたもの。
これはもう、ムラユ料理ど真ん中じゃないかと思います。
で、そんなムラユの土地ですので、
メダンの料理の分布の様相は、例えばジャカルタなどよりもむしろ、マレーシア西部によく似ているし、
メダンのあらゆるご飯たちの土台に広がっているのが、ムラユ料理と言えるのではないかと思うのです。
メダンのムラユ料理と言えば、以前レシピでご紹介したアニャン/Anyangなどがまず挙げられます。
アニャン Bandung_West Java, 2017 |
他に、ココナッツミルクのスープをライスケーキにかけた、ロントン・サユール/Lontong Sayurとか。
ただ、今回は残念ながら、正統派(?)メダンのムラユ料理を出すお店は見つけられませんでした。
(時間切れだったのです)
ですが、そのメダンのムラユ料理と親和性が高そうなスマトラ島内の料理を出す店は、街のあちこちに。
同じスマトラ北部の料理として、まずはこちら。
ミー・アチェ Medan_North Sumatra, 2018 |
ミー・アチェ/Mie Aceh。その名の通り、スマトラ島北端のアチェから来た麺です。
太めの黄色いたまご麺を、辛味のきいたスパイシーな汁であえてあるのですが、
パンチのある辛さと、どどんと入ったカニ(エビやイカもあり)が特徴です。
シーフードの出汁がきいた麺は、その辛さに大量の汗が噴き出すものの、止まらない美味しさ。
アチェもまた多様のスパイスを使う地域で、例えばこのミー・アチェは、基本のブンブ以外に、
カルダモン、胡椒、クミン、フェンネル、コリアンダー、チリ、などが使われています。
そこには、明らかにインドからの見られるのですが、インドルーツのものとして、もうひとつ、こちら。
ロティ・チャナイ Medan_North Sumatra, 2018 |
ロティ・チャナイ/Roti Canaiと呼ばれるこれ。マレー半島でも目にする、しっとりパイ状のパン。
ルーツはインドのポロッタと呼ばれるレイヤー状の生地の平たいパンだそう。
インドネシアではアチェのロティ・チャナイが有名で、通常はヤギ肉のカレーなどに浸して食べます。
ただ、たまたまなのか、この鉄板で焼いてるロティ・チャナイは、「くださいな」とお願いしたら、
鉄板の上でフォークとヘラを使ってわしわしと崩し、バナナの葉に乗せてパラパラと白砂糖をかけられました。
ロティ・チャナイ Medan_North Sumatra, 2018 |
美味しかったけど、カレーじゃないんだ、甘いんだ、みたいな。
タミル系インド人のコミュニティがあり、市内に立派なヒンドゥー系寺院があったりもするメダン。
実際、このロティ・チャナイを売っているのもインド系のおじさんでしたし、
市場での売り子のおばさんでビンディをしている女性がいたりします。
そんなところもまた、インドネシアというより、マレーシアっぽいですね。
西スマトラのパダン。
パダン料理屋はインドネシア各地どこにでもあり、
それはもう、いち郷土料理という枠を超えインドネシアを代表する料理となっているのですが、
メダンももちろんその例外ではなく、そしてかつ、それらが独自に変化していたりするのが面白いのです。
感動したのは、ソト。
インドネシア国内で決してメジャーというわけではないものの、なかなか味わい深いソト・メダン/Soto Medan。
これはパダンからの持ち込まれたソト・パダン/Soto Padangがローカライズされたものだと言われています。
ソト・パダン Bukittinggi_West Sumatra, 2016 |
ソト・パダンは、一般的なのソトと比べて使用するスパイスが多く、
カルダモンや丁字、八角のようなエキゾチックな香りをもたらすものが使われていたりします。
そんなソト・パダンがメダンに持ち込まれ、現地化して定着したのがソト・メダン。
ソト・メダン Medan_North Sumatra, 2018 |
スパイス使いはそのままに、ココナッツミルクを足して、この土地の人の好みに合わせているのだそうです。
スープと具に関しても、鶏だけでなく、牛スープ+肉+内臓というバリエーションがあり、
牛肉を好んで食するパダンの特徴が残っている気がします。
それから、プルケデル/Perkedelと呼ばれる衣なしのジャガイモコロッケのようなもの(写真右奥)を、
スープの中に入れて崩しながら食べるというのも、ソト・パダンからの流れですね。
で、そのソト・メダンが更にアレンジされたのが、こちらのエビ入りソト。
エビのソト Medan_North Sumatra, 2018 |
ココナッツミルクを使いつつも、くどさはなく、優しいコクのスープにエビの旨味が素晴らしい。
エビのソトっていうのは、初めて食べました。
シーフードが得意な沿岸の街+エビの旨味上手な華人が多い街、という特性を生かしたようなソトですね。
同じく、パダンルーツでもう一つ、びっくりしたのがサテ・パダン/Sate Padang。
西スマトラで食べたサテ・パダンも、ジャカルタでよく目にするサテ・パダンも、牛肉のサテでした。
サテ・パダン Bukittinggi_West Sumatra, 2016 |
スパイスを使ったとろみのソース(まるで日本のカレーのような味)をかけて食べるサテ・パダン。
これが、メダンの街では。
サテ・パダン Medan_North Sumatra, 2018 |
どういうことでしょう。
なんでこんなにバリエーションがあるのでしょう。
サテ・パダン Medan_North Sumatra, 2018 |
ざっと、牛肉、モツ、レバー、貝、イカ、ウズラの卵、鶏のツメ、鶏、鶏皮、という感じ。
こんな種類豊富なサテ・パダン、初めて見ました。びっくり。
サテ・パダン Medan_North Sumatra, 2018 |
旨味のきいたカレーソースに、揚げシャロットをまぶして。下にライスケーキが入っています。
貝は味わい深いし、イカはジューシーだし、牛肉は柔らかいし。
サテ・パダン Medan_North Sumatra, 2018 |
くわえて、肉が大きい(ジャカルタやバンドンなどで食べるサテ・パダンは肉が小さいのです)。
メダン式サテ・パダンにふるふると震えたところで終わりにしようかと思ったのですが、
西方からの影響ということで、おまけでもう一つ、ヤギのスープ。
ソップ・カンビン Medan_North Sumatra, 2018 |
ソップ・カンビン/Sop Kambing。
ヤギ肉料理というのは、西方イスラム諸国からの影響なわけですが、アラブから直接来たというよりは、
恐らく南インドのイスラム圏を経由してインドネシア各地に伝わっている気がします。
で、スープは肉を使った後に残る骨などの部分を利用して作られるのですが、
メダンのヤギのスープは、ジャワのものに比べるとあっさりとしたクリアめ(比較的、です)のもの。
頭蓋骨がどーんと入ったヤギのスープもあったりします、メダン。次回はそれも挑戦したい。
そして、メダンのヤギスープは、ジャガイモ入り。
ジャガイモというのは、やはりインド経由の西方諸国の影響ということも出来ますし、
かつてインドネシアを当地していたオランダからの影響ということも出来ますね。
ちなみに、ジャワで似た感じのヤギ料理というと、グレ・カンビン/Gule Kambing。
グレ・カンビン Jgogjakarta_Central Java, 2016 |
もしくは、トンセン・カンビン/Tongseng Kambing。
いずれも、多種のスパイスとブンブ、ココナッツミルクを使って煮込んだもの。
トンセンの方はケチャップ・マニスも足されます。
グレ・カンビン Jgogjakarta_Central Java, 2016 |
おまけな上に余談ですが、なんかこの辺の料理、混乱するんですよね。
スパイスとココナッツミルクで煮込んだヤギ料理、として、グレ、トンセンがあって、
別途、グライ/Gulaiとか、カリ/Kariとかもある。どう違うのか。
いずれ、また整理しますね。
メダンに話しを戻して。
つまりはこの街、あらゆる地域の料理とあらゆる国からの影響が混ざり合って変化して、
沢山の「美味しい!」が生まれた土地、という感じなのです。
それはやはり、かつて交易船が盛んに行き交ったマラッカ海峡に面した街という立地の優位性。
ミー・アチェ Medan_North Sumatra, 2018 |
そんな、メルティングポットなメダンの食文化において、
それはそれは大きな役割を担っている中国系の「美味しい」については、次回(こんどこそ、ホントに)。
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