芋の話をしよう。
パプアの、特に山のパプアでは芋が主食です。
たくさん芋を栽培し、たくさんたくさん芋を食べます。
芋主食の地域というのはパプアに限ったものではなく、例えば、太平洋の島々にも多く見られる食文化です。
ハワイの先住民たちもタロイモを主食にしていたと言いますしね。
ジャワやスマトラなどのインドネシア西部は、中国やインド、アラブなどの影響を強く感じますが、
パプアに来ると、この先の東方に広がる太平洋の島々の文化圏にいるんだなと感じます。
(地域分類としては、パプアはメラネシアに入ります)
庭先のタロイモ Baliem_Papua, 2024 |
山のパプアで最初に栽培され始めた芋も、タロイモだと言われています。6,000年前と推定されるとか。
タロイモはパプアではケラディ/Keladi、インドネシア語だとタラス/Talasと呼ばれます。
日本の里芋もタロイモの仲間ですし、タロイモはアジアで広くよく食されていますね。
パプアでサツマイモが栽培され始めたのは300年ほど前ではないかと言われています。
山のパプアでサツマイモは、人々の日々の食事だけではなく、彼らの大事な財産である豚の食糧にもなります。
パプアのサツマイモ、とても美味しいのです。
ちなみに、カリマンタンのポンティアナク/Pontianakの細切りタラスを揚げたお菓子は、わたしの大好物です。
パプアの高地、現在もタロイモ栽培は見られますが、圧倒的主流はサツマイモです。
収穫されたサツマイモ Baliem_Papua, 2024 |
パプアでサツマイモが栽培され始めたのは300年ほど前ではないかと言われています。
タロイモと比べたら、圧倒的にニューカマー。
ですが、土地に合ったのでしょう、現在このバリエム渓谷には39種類のサツマイモがあるのだとか。
ワメナの市場にはゴロゴロとサツマイモが並び、タロイモは負け気味。
むしろ、サツマイモよりさらに新しく入ってきたキャッサバの方がタロイモより多いかも?というくらい。
市場のサツマイモ Wamena_Papua, 2024 |
市場のキャッサバ芋 Wamena_Papua, 2024 |
キャッサバはどんな土地でもよく育つ心強い芋なので、浸透が早いのも納得です。
バリエム渓谷 Baliem_Papua, 2024 |
バリエム渓谷は高地に広がる盆地。
耕作に適した土壌であることからあちこちに畑がみられます。
とにかく芋作。そしてその隙間に他の葉野菜などを植えています。
タロイモ畑 Baliem_Papua, 2024 |
サツマイモ畑 Baliem_Papua, 2024 |
盛り土をして周辺に水路を切る形態が多く見られました。
サツマイモは水はけを好むので、こういう形になったのだと思われます。
みんな、ここの土はとても肥沃だから、肥料などをあげずともなんでも良く育つのだといいます。
「肥料がいらない」をとても強調するのです。
これは、サツマイモは過剰に追肥された畑ではむしろ育ちにくいという話とも一致します。
畑 Baliem_Papua, 2024 |
この畑は、サツマイモとタロイモを混在させ、周辺に葉野菜、バナナ、タコの木の一種などを植えています。
番犬もいる、いい畑だなあと思います。
が、この地域の人たちは、こういう盆地の畑より、山の斜面の畑の方がいいのだと言います。
耕作は大変ですが、斜面の方が水がたまらないので、芋の味が良くなるのだそう。
バリエム渓谷山側 Baliem_Papua, 2024 |
この景色も、実は、手前や向こうの斜面が開墾されているんです。
山の畑は盆地のように水路を切ったりはしないので、遠目だと草原とあまり区別がつきませんね。
山の畑 Baliem_Papua, 2024 |
家の周りを広く開墾していました。わしゃわしゃ見えるのはサトウキビ。
サトウキビもこの地域でたくさん栽培されています。砂糖に精製するのではなく、そのまま齧ります。
山側では、家屋の周辺の耕地以外に、斜面を焼畑で開墾することも多いそう。
3〜4年で移動するという話しでしたが、訪れた集落の持つ畑は既に9年目だと言われました。
農地を焼く煙 Baliem_Papua, 2024 |
山のパプアでサツマイモは、人々の日々の食事だけではなく、彼らの大事な財産である豚の食糧にもなります。
人と同じものを与え、しっかり太らせることで豚の価値は上がっていくのです。
サツマイモ収穫 Baliem_Papua, 2024 |
このおじいさんのサツマイモ。すごく大きくて立派でした。
「大きいねえ!」と感心していたら、その場で小さく切り分け、豚小屋にいる豚に全部あげてしまいました。
芋を大きく育てる手法というのは、インドネシア政府の農業指導のようです。
地を這って広がっていくサツマイモの茎を、高く引き上げてあげることで脇芽から芋ができることを防ぎ、
結果、地中の芋にしっかり栄養がいって大きく育つのだそう。
引き上げられたサツマイモの茎 Baliem_Papua, 2024 |
おじいさんの畑も、そのやり方に従っていました。
うちの庭のサツマイモは地を這いっぱなしにしているので、ちょっとやり方変えてみようと思います。
ちなみに、サツマイモの葉も、彼らの食卓に頻出する野菜です。
サツマイモのない暮らしなんて考えられないというほど、人々の暮らしに浸透しているサツマイモ。
サツマイモの原産地は南米です(ペルー説とメキシコ説があるようです)。
南米からスペイン人の手によって、ヨーロッパ、アフリカ、アジア各地へと運ばれ、
それが東南アジア島嶼部に至り、時間をかけてパプアの高地にも届いたというのが定説です。
斜面の農地と家 Baliem_Papua, 2024 |
ですが、それよりずっと以前に、
太平洋の人々によってパプアにサツマイモがもたらされていたのではないか、という説があるんです。
秀でた航海術を乗っていたポリネシアの人々が、コロンブス到達より以前から南米と交易し、
まずはマルケサス諸島にサツマイモが入り、それが数百年をかけてハワイやイースターなど、
マルケサスより西方の島々に伝わっていったルートがあると言われています。
現時点では、そのルートがパプアを含むメラネシアに達していたという確証はないのですが、
ポリネシア人たちが文字を持たない人々であったために記録がないのであって、可能性はあるのではないか、と。
あくまでまだ仮説ですが、夢がありますよね。太平洋を渡ってやってきたサツマイモ。
茹でサツマイモ Baliem_Papua, 2024 |
パプアのサツマイモ、とても美味しいのです。
ジャワなどから輸入されてきたグレードの低い米よりも、ずっとずっと幸福になる味でした。
ということで、次回は、この山のパプアの伝統的な調理方法(含む芋)について。
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