2019/12/20

モリンガ/Kelor

モリンガの葉をとるママ Alor_East Nusa Tenggara, 2019

モリンガです。インドネシア語では、ケロール/Kelor。
ミラクルツリーと言われる、地球上の可食植物の中で最も栄養価が高いと言われる、300の病を癒すと言われる、
とか、わたしがここで説明するまでもなく、広く誉め称えられているのであとはググってみてください。
な、モリンガです。

モリンガ Lembata_East Nusa Tenggara, 2019

モリンガの種 Lembata_East Nusa Tenggara, 2019

モリンガの花 Bandung_West Java, 2019

原産地は南アジアですが、広く熱帯地域に分布しており、
栄養補助食品として、化粧品の原料として、様々に使われている豆科の植物。
その種の莢の形状からドラムスティック・ツリーとも呼ばれます。
葉も、花も、根も、種も、いずれも食することができ、それぞれに高い栄養価をもつ木。
インドネシアでも、例えばジャカルタの健康食品売り場などでは乾燥粉末のカプセルやお茶などが売られ、
最近の健康意識の高まりと相まって、改めて、その価値を見直されています。

改めて。

そう、もともとモリンガ自体インドネシアでは普通に植えられていた植物。
わが家の近所にもあります(わが家の庭にもあったけど、ある時剪定を失敗して枯らせてしまった)。
栄養があるからとかそういうのではなく、当地ならではの用途があったモリンガ。

それは「憑き物落とし」。
まあ、こういう迷信は、広くインドネシア全土というより、ジャワだけとではないかという気もしますが。
特に亡くなった人に対し、埋葬前のお清めでモリンガの葉を用いて、
故人が生前まとっていた(かもしれない)呪術やら、マジックやらの効果を消して送り出すのだとか。
わが家のメイドさんも、お母さんが亡くなった時にモリンガの葉で沐浴させたらしく、
そのイメージのせいで「モリンガは食べたくない」と言います。

長患いで回復もせず亡くなるでもなく、という場合も「(死ねない)マジック」がかけられていると見なされ、
モリンガの葉で身体を撫で、マジックを消して安らかに逝かせてあげるという話しもあります。
また、憑き物を落とす効果は警察でも期待されているらしく、
追跡する悪者がまとっている銃弾除けの術(!)を無効化するとか、
催眠術による詐欺を行った容疑者の、その術を消す効果があるとか、
匿名のマディウム市(東ジャワ)警察の職員が語ったという記事があったりします(苦笑)。

そういう摩訶不思議な話しは嫌いではないし、インドネシアのある側面を表わしているとも思いますが、
ごはんについてのブログなので、ごはんの話しに戻しましょう。

モリンガの葉をとる Rote_East Nusa Tenggara, 2016

これまで見てきた中で、モリンガを一番日常的に食べていたのは、東ヌサトゥンガラ地域の人々な気がします。
それも、石灰質の土地で農作物の育ち難い島の人々。

モリンガは、とても強い、育てやすい植物なのです(わたしは枯らせたんですけど、それはそれ)。
幹を土にぐさっと刺しておくと、そこで根付いて育っていく。
垣根としてぐさぐさと刺されたモリンガの枝のいくつかが根付き葉を茂らせている姿は、
東ヌサトゥンガラ地域を旅しているとよく目にします。

モリンガの垣根 Lembata_East Nusa Tenggara, 2019

この地域の中でも、火山のある島や保水力のある土壌を有する島では、そうやって生えている植物という感じ。
でも、火山もなく土壌も薄い島では、それ以上の存在。モリンガは貴重な「野菜」です。

市場 Lembata_East Nusa Tenggara, 2019

市場 Adonara_East Nusa Tenggara, 2019

火山のある島の市場には、乾季であっても、つやつやで新鮮な葉野菜が並びます。
一方で、火山のない小島に立つ週に一度の市場では、葉野菜はモリンガだけ。

市場 Alor_East Nusa Tenggara, 2019

この市場は、アロール島の入り江のすぐ外にある小さな島の村。
村のひとたちは、小舟で渡った対岸であるアロール島に畑を持っています。
自分たちの暮らす島には畑はなく、せいぜいが庭先の唐辛子や、パパイヤ、バナナ、
そしてモリンガくらいが、海を渡らずとも採れる食用植物ではないでしょうか。

モリンガ Alor_East Nusa Tenggara, 2019

わたしが「モリンガのスープが食べたい」とお願いしたので、木に登って採ってくれているところ。
まだ若い、柔らかい葉を採るのよ、とお母さんが子どもたちに指示を出してくれました。

モリンガ Alor_East Nusa Tenggara, 2019

ごはんの材料です。

今年の旅行で訪れたこの村、偶然、数年前にも仕事で滞在したことがありました。
その時に作ってもらったモリンガのスープが、わたしの人生初モリンガ。
当時はそれがモリンガだとも知らず、でもインスタントの焼きそばと白ご飯、みたいな食事の中にあって、
とても貴重な緑の野菜で、そして食べたらなんだか元気になった気がしたのでした。

キッチン Alor_East Nusa Tenggara, 2019

お世話になったおうちのキッチン。
トップの写真のママのおうちです。

モリンガのスープは葉の部分だけを使います。

モリンガ Alor_East Nusa Tenggara, 2019

なので、まずは、葉をぷちぷちと取る作業から。小さい茎まで出来るだけ丁寧に取り除きます。
堅そうな葉っぱや、茎の部分は、待機しているヤギたちに。

モリンガを食べるヤギ Alor_East Nusa Tenggara, 2019

モリンガの食べ方は、基本的にスープ。他は、わたしはまだ見たことがありません。
そのスープも、塩と顆粒スープストック(オプショナル)のみで味付け、というくらいのシンプルさ。
ニンニクやシャロットを少し入れていることもあるかな。

モリンガスープ Alor_East Nusa Tenggara, 2019

葉が柔らかくなるまで煮込んだスープ。
やや辛味のある青さが美味しく、今でもやはり、食べるとなんだか元気になる気がします。

モリンガ Bandung_West Java, 2019

わが家のお隣さんから、モリンガの葉っぱを沢山もらったことがありました。
その辺に生えてはいても、バンドンの市場で売られているのを目にしたことはありません。
なので、貴重と言えば貴重な、モリンガの生葉。

柔らかい部分は、ママにならってスープに。

モリンガのスープ Bandung_West Java, 2019

ニンニク少しと塩で、トウモロコシと金時豆入り。

わたしの中でモリンガは、身体にいいのはもちろんですが、
それにもまして、親しみをもって東の島々を思い出す植物です。
通りすがりに見かけると「あ」と振り返って見てしまうくらいに。
カリカリに乾燥した島の青い空のイメージと共に思いだされる、素朴で沁みるスープの味なのです。

乾燥モリンガ Bandung_West Java, 2019

残りの堅そうな部分と花は、お茶用に乾燥させました。
緑みどりしい味がします。

モリンガ Rote_East Nusa Tenggara, 2016

この記事を書き始めて、写真を撮ったあとの種を持ち帰っていたことを思い出しました。
ちょうど雨季ですし、撒いてみます。

育ったらいいな。
今度は枯らさないようにしたいな。
枯れるなんて思わなかったんだよな。


2019/12/19

豆腐/Tahu ②

タフ・アチ Tegal_Central Java, 2019

ジャワ北岸のスープの話しのついでに、ジャワ北岸の豆腐料理をちょっと。
インドネシアの豆腐の詳細については、豆腐/Tahuの①を先に読んでいただければ。
今回は、ただひたすら「美味しかったよー」っていうことです。先に要約してしまえば。

に書いたように、インドネシアの中でもジャワ島はとりわけ豆腐の消費が多い地域です。
ある調査データでは、一人当たりの週の豆腐消費量(g)が多いのは、上から順に、
東ジャワ(270)、中ジャワ(180)、ジョグジャカルタ/西ジャワ(170)、バリ(160)、ジャカルタ(130)。
ちなみに、少ない地域は、
中部スラウェシ/西スラウェシ(60)、アチェ/東ヌサトゥンガラ(50)、北マルク(40)。
インドネシアの中でも早い時期に中国からの移民がみられたこと、
オランダ東インド会社による強制栽培制度時の貴重なタンパク源となったことなどが背景となり、
今でもジャワの人々は、食事に軽食におやつにと、豆腐を食べます。

まずは、ジャカルタ。
ジャカルタの人々の朝食もしくは昼食に好まれるのがクトプラッ/Ketoprak。

クトプラッ Jakarta, 2019

名前の由来が、Ketupat(ライスケーキ)+Toge(もやし)+Geprak(叩く)だと言われている通り、
ライスケーキに茹でたもやし、揚げ豆腐、刻みキュウリ、ビーフンを乗せてピーナッツソースをかけたもの。
(叩く、はピーナッツソースを作る際に石臼で叩き付けるようにする動作からでしょう)。

クトプラッ Jakarta, 2019

豆腐がメインな訳ではありませんが、とはいえ、豆腐のないクトプラッなんて、というくらいに大事な存在。

ピーナッツソースつながりで、中部ジャワのスマラン/Semarangで食べたタフ・ギンバル/Tahu Gimbal。

タフ・ギンバル Semarang_Central Java, 2019

インドネシア語でギンバルはドレッドヘアのことなんです。
なので「どのへんがドレット?」とタフ・ギンバル屋のおかあさんに聞いてみたところ、ドレッドは関係なく、
スマランのひとたちは、エビのかき揚げのことをギンバルと呼ぶのだそうです。

タフ・ギンバル Semarang_Central Java, 2019

殻付きでガリッと揚げられたエビと、揚げ豆腐、茹でキャベツにライスケーキとピーナッツソース。

タフ・ギンバル Semarang_Central Java, 2019

エビと豆腐という大陸らしい食材に、程よくチリを効かせたピーナッツソースというジャワらしい味の組み合わせ。
旨味と歯ごたえのエビに対し、ニュートラルな豆腐とキャベツの甘みがいい塩梅です。
豆腐の名を冠している割に豆腐が脇役な感もありますが、それでもこれはまた食べたいひと皿。


タフ・チャンプル Jakarta, 2019

豆腐の名を冠していながら豆腐が脇役つながりで、タフ・チャンプル/Tahu Campur。
これは、東ジャワのスラバヤ/Surabayaあたりが名物なようですね。食べたのはジャカルタだったのですが。

タフ・チャンプル Jakarta, 2019

揚げ豆腐は中がつるんとした、舌触りの優しいもの。
牛スジやたまご麺、茹でもやし、レタス、そして黄色く見えるのはキャッサバ芋のコロッケ。
このコロッケが甘くて美味しいんです。

タフ・チャンプル Jakarta, 2019

かかっているのは牛出汁ベースのスープで、そういうところも東ジャワっぽい気がします。
具だくさんで温まる軽めの晩ご飯、という感じのひと皿。

一方、おやつ枠の豆腐料理として、中部ジャワのテガル/Tegal名物のタフ・アチ/Tahu Aci。

タフ・アチ Tegal_Central Java, 2019

タフ・テガル/Tahu Tegal、タフ・クピン/Tahu Kuping (=耳、確かに耳っぽい)とも呼ばれるタフ・アチ。
アチはタピオカの澱粉のこと。澱粉を練ったものを豆腐の断面にはり付けて揚げています。

タフ・アチ Tegal_Central Java, 2019

こうやってはり付けるわけなんですが、なんで揚げた時にはずれちゃわないんだろう、と思ったりします。
粘着をよくするための細工があるでもないし。

でも、細工はなくてもコツはあるようで、
ここのお店、最初におかあさんがはり付けていったのを後からおばあちゃんがチェックして、
「これはダメ」と全部剥がしてはり直していました(笑)。

タフ・アチ Tegal_Central Java, 2019

おばあちゃんには敵わない。

タピオカ生地にはニンニクとニラなどが練り込まれています。
店の前では、刻んだニラがザルに広げられ、干されていました。ちょっと乾燥、くらいがいい様子。

タフ・アチ Tegal_Central Java, 2019

あとは、油で一気にジューーーッと揚げます。

タフ・アチ Tegal_Central Java, 2019

揚げたてが欲しくて、店先にあるのは無視していたわたし。

タフ・アチ Tegal_Central Java, 2019

だって、これ、絶対揚げたてが美味しいやつだもの。
澱粉生地のもちっとカリッとした歯ごたえと、厚揚げ部分のジューシーさのバランス。
ついつい手が伸びる、心憎いおやつ豆腐です。

そして最後が、西ジャワのチレボン/Cirebonのタフ・グジロッ/Tahu Gejrot。

タフ・グジロッ Cirebon_West Java, 2019

これもおやつ枠の豆腐料理。

青唐辛子やシャロットが見えますが、このタレ自体は「甘い」んです。
やや旨味を効かせたシロップとも言えそうな、甘いタレがボトルから注がれるその音が、
まるで「Jrot...Jrot...」と聞こえるから、タフ・グジロッと呼ばれているのだとか。
タレの甘さ、シャロットの香味、青唐辛子の爽やかでシャープな辛味と香りの不思議な組み合わせ。
それを、厚揚げというより厚めの油揚げという感じの豆腐がスポンジのように吸収しています。
これもなんかクセになる味なんですよね。

タフ・グジロッ Cirebon_West Java, 2019

ピーナッツソースをかけても、エビのかき揚げと合わせても負けないのは揚げ豆腐だからでしょうね。
インドネシアの豆腐自体がそもそもしっかりした風味がある上に、油を通すことでコクも出ます。
揚げ豆腐が主流なのは、当然保存のという要素が大きいとは思いますが、
食べ方もまた、その揚げた特性を生かしたものになっているのだなあと思います。
(素揚げ豆腐も大好き)


2019/10/28

スープ③/Soto dan lain-lain

サウト Tegal_Central Java, 2019

インドネシアのスープについては、以前にも書いているのですが、→ 
先日、ジャワ島北岸を旅しながらスープを食べ歩いたので、また少し(ではないかも)。


インドネシアの中の、ジャワ島。
スープ②の記事でも触れましたが、インドネシアでソト/Sotoと呼ばれているスープの源流は中国にあると言われ、
インドネシアでは、ジャワ島の北岸にあるスマラン/Semarangという街から広まったという説があります。
起源については諸説あり、断言はできないものではあるのですが、
このジャワの北岸というのは、インドネシアの中でも早い時期に中国からの移民が入った土地であり、
現在も華人が多く暮らし、かつ、スープのバリエーションがとりわけ多い地域ではあります。

まず、その中国の流れを強く感じるスープ、サウト/Sautoから。
サウトは、テガル/Tegalという街の名物。


ソト・タウチョ/Soto Taucoの略がサウトだと言われています。
タウチョ/Taucoはこちらでまとめたことがありますが、インドネシア版豆豉、もしくは豆味噌。
中部ジャワ北岸の街は産地ということもあり、スープにもタウチョが使われます。

サウト Tegal_Central Java, 2019

鶏と牛で選べたので、牛(スジ入り)をオーダー。
辛味の効いた旨味赤出し、のような感じ。牛ベースなのでコクがしっかり。

サウト Tegal_Central Java, 2019

ご飯は底に入っていて、既に汁かけ飯状態。
さっと湯がいたもやし、青ネギ、揚げシャロットがトッピングされています。

このテガルから東に行ったペカロンガン/Pekalonganという街でも、タウチョを使ったスープがあり、
そちらは、Tautoと呼ばれています。

つづいて、ソト・クドゥス/Soto Kudus。
その名の通り、クドゥスという街の名物スープです。


せっかくなので、と、地図を貼っていってますが、正直違いがあまり分からないかもしれません。
ちょっとずつ位置が違うんですよ…。

で、ソト・クドゥス。

ソト・クドゥス Kudus_Central Java, 2019

チキンベースをオーダー。
これも、お碗の底にご飯が沈んでいて、もやしが入っています。
香りはネギではなく、葉セロリ。
また、これは店によるのですが、トッピングが揚げシャロットではなく揚げニンニクの場合があり、
通常、香りが強すぎるためあまりニンニクを前面に出さないジャワにあって、
ルーツである中国系の嗜好を残していると言えるのではないかという話しも耳にします。
実際、華人の影響が強くみられる西カリマンタンの料理には、揚げニンニクがよくトッピングされていますしね。
あ、あと、ソト・クドゥスはレンゲで食べるのが普通で、
通常はスプーンを使うインドネシアの中で、やっぱりちょっと中国っぽい、と思わせる部分であったりします。

このソト・クドゥスは、一般的なジャワのソトの基本形のようなスープだとわたしは思っていて、
使う材料も、ガランガル、シャロット、ニンニク、生姜などの基本のブンブに、
スパイスは胡椒、コリアンダーシード、ターメリック、キャンドルナッツ、レモングラスなど、比較的シンプル。
この中では、ターメリックが北岸のソトの特徴かもしれません。だいたい、黄色みを帯びています。
ただ、東ジャワのソトに比べるとやや甘みがあるのがソト・クドゥス。
そのやや甘い旨味スープに、ライムをぎゅっと絞って食べるのが至福。

サテ Kudus_Central Java, 2019

また、ソト・クドゥスはポーションが小さめなのも特徴。
テーブルに並べられているサテなどをとって、ボリュームを調整します。

もうひとつ、ソト・クドゥスにまつわる話しとして、
元々は水牛を使ったスープだったというのも興味深い話し。

ソト・クドゥス Kudus_Central Java, 2019

この時食べた店でも、鶏でなければ水牛のソトになります。

クドゥスから、西はペカロンガンのあたりまでの地域では、
牛を屠殺することは長くタブーとされてきたという背景があり、その影響なのだとか。
これらの地域は、16世紀以降イスラム化が進むより前は、ヒンドゥー教が栄えていた土地。
イスラムが主流となった後も、ヒンドゥーで聖なる動物とされる牛を殺めることは禁忌としてきたその名残が、
現在でも、伝統料理に牛ではなく水牛が使われる傾向に見て取ることができます。

続いて、ソト・ラモンガン/Soto Lamongan。

ソト・ラモンガン Lamongan_East Java, 2019

クドゥスから更に進み、中部ジャワから東ジャワへ入ります。


ソト・ラモンガンはソト・アヤム/Soto Ayam、つまりチキンスープ。
わたしの中では、ソト・アヤムの王様という位置づけです。
せっかく王様の地元に来たので、ソト・ラモンガン・スペシャルを注文。
何が違うのかと思ったら、臓物ミックスでした。玉ひもとか。

ソト・ラモンガン Lamongan_East Java, 2019

ソト・アヤムの定番、春雨が入っていますね。

地鶏をじっくり煮込んだ濃厚なスープ、ターメリックの黄色がまた食欲をそそります。
そして、ソト・ラモンガンの特徴は、トッピングするこの粉末。

コヤ Lamongan_East Java, 2019

コヤ/Koyaと呼ばれるこの粉末は、揚げたエビ煎を砕いたもの。
タピオカ粉を使って作られるエビ煎なので、スープに落とすとややとろっとした食感になり、
それが丸い旨味となって、スープの味わいに厚みを加えるのです。

もうひとつ、同じ潮流にあるソトが、ソト・マドゥラ/Soto Madura。

ソト・マドゥラ Surabaya_East Java, 2019

実際に食べたのは、スラバヤ/Surabayaだったのですが、マドゥラ/Maduraはその北東にある島です。


ターメリックを使った黄色いスープですが、牛肉になります。
東ジャワに入ると、タブーもなくなり、かなりバンバン食べられています、牛。
ごろっとした牛肉にゆで玉子がソト・マドゥラの基本です。

これら、ジャワ北岸ソトの基本の流れにあるスープ(他にもまだあるのでしょうが)に対し、
ぐんとスパイスなどのフレーバーが豊かになるのが、ソト・ブタウィ/Soto Betawi。

ソト・ブタウィ Jakarta, 2019

ブタウィとは、ジャカルタ/Jakartaのこと。ソト・ブタウィはジャカルタを代表するソトです。


基本は牛肉と臓物、白いのはココナッツミルクや牛乳(時に両方)を使っているから。

ソト・ブタウィ Jakarta, 2019

ソト・ブタウィという名称で親しまれ始めたは1970年代後半だそう。
華人の営む食堂で売り出されたのが発祥だとか。

牛スープに、ニンニク、シャロット、生姜、ガランガル、というところまでは先のソトと同じですが、
ソト・ブタウィはそこに、
丁字、シナモン、クミン、胡椒、コリアンダーシード、チリ、レモングラス、コブミカンの葉などが加わります。
スパイス使いが賑やかになりますね(もちろん、店ごとに違いはあります)。
そして、盛りつけ時にフレッシュトマトと刻みネギを加え、濃厚なスープに軽さを出してバランスをとります。
加えて、ウンピン/Empingと呼ばれる揚げ煎餅も必須です。

ウンピン Jakarta, 2019

やや苦みのあるウンピンが、スープを吸って、カリカリとやわやわの間くらいの食感になっているのが美味しい。

ソト・ブタウィ Jakarta, 2019

かなりこっくりとしたソト・ブタウィですが、食べる時にぎゅっと絞るライムが爽やかさをプラスしてくれます。

ソトはどこでも基本的にライムを絞って食べるのですが、
こういうココナッツミルクの濃厚スープであれ、チキンベースのソト・アヤムであれ、
その酸味の加減というのが、なんとも心憎いほどいい塩梅。
インドネシアごはんにおける柑橘使いというのは、いつも感心してしまいます。

ライム Jakarta, 2019

スープの話しに戻って。

スパイス多用のスープとしてはもうひとつ、チレボン/Cirebonのウンパル・ゲントン/Empal Gentong。


ウンパル・ゲントン Cirebon_West Java, 2019

こちらもココナッツミルクを使った、牛ベースのスープではありますが、
でも、ソト・ブタウィよりは軽く、比較的さらりと食べられる味付け。
スパイス使いもソト・ブタウィに似ていますが、更にカルダモンやターメリックも加わります。

ウンパル・ゲントン Cirebon_West Java, 2019

散らしてあるのは、ニラです。
そしてスープのサンバルとしては、いや、スープじゃなくても、ちょっと珍しい粉末の乾燥チリをトッピングに。

チリ Cirebon_West Java, 2019

結構しっかり辛いです。

ウンパル/Empalとは、インドネシア語でいうところのグライ/Gulai(カレーのようなもの)で、
ゲントン/Gentongというのが、素焼きの鍋を指すのだそうです。
伝統的には、素焼きの鍋で最低でも5時間以上、
タマリンドの木(マンゴーの木という説も)を燃料に、じっくりじっくり煮込むのだそう。

実際、お店の前には煮立つスープが。

ウンパル・ゲントン Cirebon_West Java, 2019

そして、そのお鍋の向こうでは、牛肉を切り分けていました。

ウンパル・ゲントン Cirebon_West Java, 2019

この店に、そして牛に限った話しではないのですが、
スープをとるのに煮込んだお肉を、サーブする時に切る(つまり煮込んでいるときは大きいまま)というのは、
インドネシアではよく見られますね。
ソト・アヤムの具の鶏肉も、供する時に細かく割いてお碗にいれます。

このウンパル・ゲントンにはココナッツミルクを使わない、酸味バージョンもあります。
ウンパル・アセム/Empal Asemと呼ばれるもの。

ウンパル・アセム Cirebon_West Java, 2019

澄んだスープ。
この時は、ご飯ではなくロントン/Lontongと呼ばれるライスケーキに合わせ、そして臓物もプラス。
臭みもなく、食べやすく煮込まれていました。

ウンパル・アセム Cirebon_West Java, 2019

ウンパル・アセム Cirebon_West Java, 2019

酸味の元は、このトマトとナガバノゴレンシ(ブリンビン・ウルー/Belimbing Wuluh)。
タマリンドの酸味に比べるとマイルドですっきりした風味。

インドネシアの、特にジャワのひとたちは「酸味」が苦手というのはよく言われることではあるのですが、
酸味使いのスープというのも、実は結構あります。
このウンパル・アセムもそうですし、ジャカルタや西ジャワ地方発祥のサユール・アセム/Sayur Asemも。

サユール・アセム Jakarta, 2019

サユール/Sayurとは野菜のこと。
その名の通り、動物性のものは使わない、野菜のスープです。
立ち位置としては、サイド。
他のソトがメインメニューなのに対し、鶏料理などを頼んだ時に一緒についてくるような感じです。

サユール・アセムが生まれたのは、オランダの植民地であった時代だと言われています。
使える食材が限られる中、自生していたタマリンドを味付けに使い、少しのチリと椰子糖を加え、
手に入る野菜を具として料理したものなのだとか。
なので、使われる野菜に決まりはなく、今ではその土地ごとの味にアレンジされて各地で親しまれています。

ジャカルタのサユール・アセムでよく使われているのは、
若いジャックフルーツ、トウモロコシ、ハヤトウリ、長豆(ジュウロクササゲ)など。
そして、ピーナッツとムリンジョ/Melinjo(グネモン)と呼ばれる木の実。

サユール・アセム Jakarta, 2019

ムリンジョは東南アジアを中心に栽培、食用される植物。葉も野菜として使われます。
この実の外皮をむくと、中からドングリのような種がでてきて、
このドングリ(?)の殻を割った中にある胚の部分を食べるのですが、わたしは結構それが好きです。

サユール・アセム Jakarta, 2019

この胚を潰して乾かし、揚げたものが、ソト・ブタウィにトッピングされていたウンピンになります。

中部ジャワに戻って、スマラン/Semarangの名物料理に、アセム・アセム/Asem Asemがあります。


アセム・アセム Semarang_Central Java, 2019

牛ベースの酸味系。

ただし、酸っぱいだけではなく、辛くもあります。

アセム・アセム Semarang_Central Java, 2019

大中小の唐辛子が丸ごとゴロゴロと。
ケチャップ・マニスも使っているため、コクのある甘みも感じられ、
酸味はタマリンド、青トマト、ナガバノゴレンシの組み合わせゆえに、角のない穏やかな酸っぱさ。
牛の濃厚ベースに甘辛酸というこの組み合わせはクセになります。

そのスマランからやや西に行った、ペカロンガン/Pekalongan。


で食べたのは、ガラン・アセム/Garang Asem。

元々は中部ジャワでも、クドゥスに近いグロボガン/Groboganという土地が発祥と言われていますが、
各地に伝播するうちに、様々なバリエーションが増えた料理です。
元はスープではなく、バナナの葉に鶏やスパイス類を包んで蒸した料理だったのですが、
ここペカロンガンでは、ほぼ汁物という感じで出されます。

ガラン・アセム Pekalongan_Central Java, 2019

牛出汁に唐辛子をきかせた酸味スープという意味では、スマランのアセム・アセムに似ますが、
こちらは、さらりとした透明感のあるスープで、そしてクルアッ/Keluak(Kluwekとも)を使っています。
クルアッは、以前ブンブの記事の最後の方で触れましたが、インドネシア、マレーシア辺りで使われるスパイス。
ペカロンガンのガラン・アセムのクルアッ使いは比較的軽めで、アクセント使いのような。
けれど特徴的なスモーキーな風味はちゃんと生きています。

クルアッは、ジャワのこの地域で好んで使われるようで、
ペカロンガンではガラン・アセムの他、ピンダン・テテル/Pindang Tetelという料理でも使われていました。

ピンダン・テテル Pekalongan_Central Java, 2019

インドネシアでピンダンと言うと、塩漬けの魚であったり、
または南スマトラのパレンバン/Palembang名物の、魚の煮込みであったりというイメージですが、
このピンダンは魚は関係なく、牛ベース。
テテルとは細切れという意味らしく、牛の皮や余り肉などを刻み、クルアッを使って味付けした料理です。

ピンダン・テテル Pekalongan_Central Java, 2019

かつては、牛を避ける慣習がここペカロンガンまで及んでいたので、
このピンダン・テテルも、以前は水牛の肉で作られていたのだそうです。

部位で歯ごたえが変わる肉と、しゃきっとしたもやし、そして砕いた揚げ煎がトッピングされます。

ピンダン・テテル Pekalongan_Central Java, 2019

汁気を吸ってシュワシュワと音をたてているこの揚げ煎が、丸みのある味わいに仕上げます。

このピンダン・テテルをより濃厚にしたのが、東ジャワはスラバヤ発祥のラヲン/Rawon。


ブラックスープと言われるくらいに、黒々としたラヲンは、ビジュアルで損をしています。

ラヲン Surabaya_East Java, 2019

大きな揚げ煎で隠れてしまっている。

肉ベースのラヲン、調味料は、実は基本のソトの材料と大きくは変わりません。
スパイスが多種使われるわけではなく、ターメリックを含むベーシックなブンブ使いに、
クルアッと、そして肉の臭い消しとしてコブミカンの葉やレモングラスを加えています。

ラヲン Surabaya_East Java, 2019

揚げ煎をどけても、見栄えはしませんが…味は最高なんです。
発芽緑豆と鹹蛋(シエンタン、アヒルの塩卵)をトッピング。
中部ジャワから東ジャワに入ると、料理の味付けは甘みが減って塩気旨味が増すのですが、
このラヲンも東ジャワらしく、甘さのないくっきりとした旨塩系の味付けで、
牛出汁の濃厚さと相まって、いやほんと、美味しいんですよ。
見た目で判断しないでいただきたい料理ナンバーワンかもしれません。

ということで、またも長々と書き連ねましたが、要はジャワのスープは美味しいよ、ということです。


ソト屋の店先 Kudus_Central Java, 2019

ソトのルーツは中国に、とは言いますが、
各地のソトは十分にジャワナイズされていて、それはもうすっかりインドネシアごはんの顔をしています。
地元ジャワのブンブ使いや、同じくこの地域に移り住んで来たアラブ系の人たちのスパイス使いを取り込み、
こんなにもバリエーション豊かな、愛される料理となったのでしょう。

鶏碗 Cirebon_West Java, 2019

ジャワ北岸は海に近いだけあって、暑い土地です。
じりじりと暑い中、汗をかきかき食べるスープは、これがまたなかなかのもの。
あの沁み込むような美味しさを、ぜひ味わってみていただきたいです。