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2021/01/25

サンバル/Sambal

サンバル Bandung_West Java, 2020

サンバル/Sambalってご存知ですか?
後ろがRではなくLのサンバルです。Sambarは南インドの料理なのですが、そっちじゃなく。
インドネシアの食卓には欠かせない、唐辛子のペーストのことです。ざっくり言うと。
ざっくり言わなかったかったらどうなのか。が、本日のテーマです。お久しぶりです。

薬味とかcondimentとか表現されることが多いですが、まあ、確かに薬味的な立ち位置ではあるのですが、
サンバルがないと色々立ち行かなくなります。というくらいには、大事な存在。
インドネシアのごはんは、盛り付けの最後にひとさじのサンバルを添えて、プレートが完成するのです。
多くの民族と多彩な地域からなり、つまり、何かと一括りにはできないインドネシアで、
サンバルはかなり広範囲−もしかしたらほぼ全域(パプア事情が分からない)かも−で親しまれている、
そういう意味では珍しい存在でもあります。

ナシ・ティンベル Bandung_West Java, 2020

街角に並ぶ屋台や飯屋。
白ごはんに揚げた鶏、ナマズ、豆腐やテンペと、品揃えは各店あまり大差がなくても、
その中からお気に入りの店をさして「サンバルが美味しいんだ」というのはよく耳にします。
この「サンバルが美味しい」って、インドネシアに住み始めた当初は、言いたくて憧れた表現でした。
ビギナー日本人の舌には、まだ唐辛子の辛さだけが強烈で、それ以外の味を知覚できなかったんですね。
だんだん、舌が慣れてくるに従って、その各店こだわりのサンバルの味というのがわかってくるわけですが、
それでも今でも「サンバルが美味しいんだよね」と言う時は、若干、鼻の穴が膨らんでいるかもしれません。

インドネシアのことを「千のサンバルの国/Negara seribu sambal」と言うのを聞いたことがあります。
各地域で、各民族で、さらに言えば各家庭で、それぞれがそれぞれの食事に合わせてサンバルを作る。
サンバルとはインドネシア料理の中で、とてもシンプルな調理法でありながらとても重要な一皿。
「サンバルがないと食事が締まらない」というのが、インドネシアのひとたちの感覚なのだそうです。
そんな大事なものをなんで今まで書かなかったんだって話ですが、だって、すごいいっぱいあるんですもの。

サンバル Bandung_Jawa Barat, 2020

すごくいっぱいあるサンバルですが、大きく分けると3つのタイプがあります。
1.加熱されたもの
2.フレッシュなもの
3.ボトル入りのチリソース

まずは1.加熱されたもの。
主に油を使って炒めたものです。

例えば、サンバル・テラシ/Sambal Terasi。
西ジャワのサンバルと言われますが、これは地域を超えて広く親しまれていて、
サンバルの基本形と言えるのではないかと思います。

サンバル・テラシ Bandung_West Java, 2020

辛さのマイルドな大きめの唐辛子と、しっかり辛い小粒な唐辛子を合わせて使います。
刻んだシャロット、にんにく、トマト、テラシ(トラシ)/Terasi(小海老の発酵調味料)を油で炒め、
チョベッで滑らかに潰したら塩とパームシュガーで整えた後、改めて油で炒め水分を飛ばします。
最初に炒めずに全部をブレンダーで攪拌してしまってから油で炒めるというものや、
最初の加熱は直火で炙るというもの、緑の唐辛子をつかったもの、などバリエーションもあります。
仕上げに、ジュルック・リモ/Jeruk Limoと呼ばれる柑橘類を絞って味を締めるのを忘れずに。
よく似たものに、東ジャワのサンバル・バジャック/Sambal Bajakというものもあり、
そちらはやや甘味が強いのだそうです。

緑の唐辛子を使った加熱タイプのサンバルと言えば、の、
西スマトラのパダン/Padang地方のサンバル・ヒジャウ/Sambal Hijau(Ijo、Hejoなどとも)。

パダン料理とサンバル Jakarta, 2018

基本的な材料や唐辛子を2、3種類組み合わせるのはサンバル・バジャックと同じ。
唐辛子もトマトも青いものを使うのが特徴です。
最初の加熱は茹でるか蒸すものらしく、油を使うのは最後の仕上げの段階。
コブミカンの葉を加えて香りを足すのも多く、あと、ちょっと粗めのに潰す場合が多いかな。
それから、テラシは使わないですね。もちろん、一概には言えませんが。
テラシは基本的にジャワ〜ロンボク辺りで使われることが多い調味料なので、同じ緑のサンバルでも、
西ジャワ地域のサンバル・チビウック/Sambal Cibiukではテラシを使います。
そして、コブミカンではなくてクマンギの葉を使うようになります。地域差。

サンバル・チビウック Bandung_West Java, 2020

中部スラウェシのバンガイ諸島で作ってもらったのも、
(スラウェシではサンバルのことをダブダブ/Dabu dabuと呼ぶ場合が多いです)

サンバル・カチャン Banggai Islands_Central Sulawesi, 2017

また、バリで作ってもらった辛い辛いサンバル・バワン/Sambal Bawangは、
チョベッを使ってペーストにはしないタイプの、加熱サンバル。

サンバル・バワン Bali, 2017


そう言えば、このコロナ禍において「サンバル・バワンがコロナに効く」的な説が流れたことがあり、
どこだったか、えらいところから「それはガセです」とお達しが出てましたね。
いろんなことを思いつくものですねえ(笑)。

サンバルは基本的にマレー系を中心とした、インドネシア土着の民族で広く好まれてるものではありますが、
中国ルーツの料理の中でも、バッソには、サンバルが欠かせません。

サンバル Semarang_Central Java, 2019

そこで使われるのが、このシャビシャビとしたタイプのサンバル。
小粒の唐辛子とにんにくを茹でて潰した後に、塩や砂糖で味を整えつつ水を足して、この緩さに仕上げます。
このシャビシャビ、麺との絡みをよくするためなのではないかなと思っています。

続いて、2.フレッシュなもの。
加熱しないタイプのサンバルは、主にインドネシア東部に多くみられます。

代表的なものは、バリのサンバル・マタ/Sambal Matah

サンバル・マタ Bandung_West Java, 2017

この写真のは、わたしが家で作ったもので、なので、唐辛子度が全く足らないんですけどね。
バリの料理の辛さというのは、なかなかのもので、
なので、実際の唐辛子の量は、こんなものではありません。まだまだですね、わたしは。

フレッシュな唐辛子、シャロット、レモングラスを刻み、テラシなどで風味と味を整えたら、
熱々にした油を注ぐもの。
そう、加熱した油を使うんですよね。
じゃあフレッシュじゃない?とも言えますが、マタ(Matah)はバリの言葉で「生」を表すもの。
つまり、フレッシュサンバル、という名前なんですね、これ。
なので、フレッシュグループに入れます。

このレモングラスをトーチジンジャーの花と置き換えたものが、サンバル・ボンコット/Sambal Bongkot。

サンバル・ボンコット Jakarta, 2019

トーチジンジャーは、インドネシアだとボンコットまたはクチョンブラン/Kecombrangと呼ばれ、
やや茗荷にも似た独特の風味が食欲をそそります。

そして、スラウェシ北部マナドのダブダブ/Dabu dabu。
先ほど書いた通り、スラウェシではサンバル全般をダブダブと呼ぶことが多いようなのですが、
それでもダブダブと言えば、特にマナドのサンバルというイメージが強いです。

唐辛子、シャロット、トマトなどを刻んで塩、レモンなどと合わせて仕上げに熱した油をかけたもの。
唐辛子は、しっかり辛い小粒のものを。これは、中途半端な辛さだと味がぼやけるのです。

ダブダブ Bandung_West Java, 2020

なんて言いつつ、この写真もわたしが作ったので、やっぱり唐辛子が足りない(笑)。
マナドは、インドネシアでもトップランクの「辛い」地域なんです。
甘い甘いピサンゴレン/Pisang Goreng(バナナのフライ)にすらサンバルをつけるような土地柄。
なのでこんなの、眠たい味だと言われてしまうかもしれない。
この時に家にあったのがグリーントマトだったのでそのまま使っていますが、もちろん普通のトマトでも。

このマナドのダブダブが、マルク地方に行くとチョロチョロ/Colo coloと呼ばれるようになります。
ダブダブでチョロチョロ。名前がどんどん可愛くなっていきます。
この二つの違い、それほど明確な線引きはなく土地での呼び方の違いだけなのかもなあっていう気がしますが、
チョロチョロはクマンギなどのハーブを使ったものや、
このフレッシュなサンバルにケチャップ・マニスをひたひたにしたものなどもあります。

同じくインドネシア東部の東ヌサトゥンガラ州、ティモール/Timor島。
この地域のサンバルはとてもシンプルなものが多いんですよね。

セイ・バビとサンバル Kupang_East Nusa Tenggara, 2018

ティモール島クパン/Kupang名物の豚の薫製、セイ・バビ/Se'i Babi。
ここに添えられたサンバルは、小粒の唐辛子を潰して塩とレモン程度のあっさりとしたもの。
でも、これが美味しいんです。

先日、バリのセイ・バビ屋で食べたのが、ライムの皮を使ったサンバル。感動的に美味しかったので、
お店で売っていたのを一瓶買ってきました。

サンバル・ルアット Bandung_West Java, 2021

これは、ティモール地方でサンバル・ルアット/Sambal Lu'atと呼ばれているもの。
調べると、サンバル・ルアットの基本は唐辛子、塩、ライム、のようで、
なので、先のシンプルなサンバルも、サンバル・ルアットということになるのかもしれません。
レシピも色々で、というか基本的にサンバルはどれでも呼び名は同じでもレシピは色々になりがちで、
なので、これが正解です!ということすらナンセンスという感はあるのですが、
とりあえず、わたしが感動したサンバル・ルアットは上記の基本3つに、
ライムの皮を刻んだものとクマンギの葉、それに刻みシャロットが入っています。
そして、このサンバル・ルアット、作ってすぐに食べずに数日寝かすのが特徴。
このライムの皮のサンバル・ルアットも、数日寝かすことで皮の苦味が落ち着き全体に調和するんですね。
地方によっては、数ヶ月寝かせる、つまり発酵させるタイプのものもあるらしく、それもいずれ食べてみたい。

発酵タイプのサンバルと言えば、南スマトラのパレンバン/Palembangには、
ドリアンを発酵させたものを使ったサンバル・テンポヤッ/Sambal Tempoyakというのがあります。
これは加熱系サンバルなんですが、パレンバンに行ったのに食べずに帰ってきてしまったこと、今でも悔やんでいます。

焼き茄子のサンバル Kupang_East Nusa Tenggara, 2017

話を戻して、ティモール島のサンバルですが、以前記事にした焼き茄子のサンバルもこの地域のものですね。
ティモールのサンバルは基本がとてもシンプル。
でもそのすっきりした味が好きで、自分でよく作るのはティモールタイプのシンプルサンバルだったりします。

そして、加熱かフレッシュか、まだよくわからないのが、
北スマトラのサンバル・アンダリマン/Sambal Andaliman。
トバ湖を中心とした地域に暮らすバタック/Batak人たちの料理でよく使われるスパイス、アンダリマン/Andaliman
花椒の一種で、乾燥したものではなく生のものを使うのですが、あの痺れるような辛味を生かしたサンバルです。
片方は緑の唐辛子を使ったもの、もうひとつはキャンドルナッツを足してペースト状にしたもの。

サンバル・アンダリマン Jakarta, 2019

辛味鮮やかな緑で小粒な唐辛子を使うのがポイント。それに、フレッシュのアンダリマンと塩、ライム。
キャンドルナッツは先に乾煎りしておきますし、レシピによってはペーストにした後に加熱するものもあります。
緑の方も、先に加熱しておくというのもあるし、サンバル・マタのように仕上げに油をかけるというのも。

バタックレストランでの唐辛子処理 Jakarta, 2019

実際はどうなのか、北スマトラに行って、バタックのみなさんに教えを乞いたい。
なのに、それがかなわない、コロナめ。

最後、3.のボトル入りのチリソース「サンバル」。
インドネシア外では、このサンバルが一番認知されているかもしれませんね。

サンバル Bandung_West Java, 2021

これは唐辛子ににんにくやシャロットなどの香味野菜を合わせソース状にしたもので、
海外に行くインドネシアのひとたちのカバンに入っていがち。

先のサンバルたちとこのボトルのサンバル、立ち位置はちょっと違うかなという感じはあります。
薬味ではなくソースですし、味もテクスチャもインドネシアご飯に添えるにはちょっと物足りないですね。
実際このサンバルの出番は、インドネシア料理というよりは、洋食やファーストフード、
あとは麺にも、シャビシャビサンバルと合わせて一緒についてきたりします。

ミー・アヤムとサンバル Jakarta, 2018

先日、バーガーキングでチーズバーガーのSセットを注文したら、サンバルソースが9つもついてきて驚きました。

ファストフードとサンバルソース Bandung_West Java, 2020

ああ、あと、バンドン名物のシオマイ/Siomaiやバタゴール/Batagor。
この手の食べ物には、このサンバルソースが合うんですよね。

シオマイ Jakarta, 2020

と、かくも愛されているサンバルなわけです。
こんなものじゃないんですよ、本当は。
土地ごとに、料理ごとに、個性豊かなサンバルがもっともっとたくさん、あるのです。
家庭で作るだけでなく、今はボトル入りで販売されているものもあり、便利。

サンバル Bandung__West Java, 2021

と、かくも、辛味が大事なインドネシアごはん。

インドネシアごはんにおいて、この辛味というのは、味の要素のひとつというだけでなく、
それに加えて、料理の熱さの代わりをなす刺激なのではないかとも言われています。

料理は出来立て熱々を食べる、とは限らないのがインドネシアの食卓。
ご飯もやや冷まして食べますし、お昼前に作りおいておいた料理をその日一日の食事としたりします。
常温で食べるのが割と普通のインドネシアで、「はふはふ」は唐辛子の辛味からくるんですよね。

唐辛子 Bandung_West Java, 2020

とは言え、その唐辛子、以前にも書きましたが、世界に広く伝搬し始めたのは16世紀。
インドネシアの島々にもたらされたのも、同時期です。
一方、サンバルの語源であるとされるSambelという言葉は、唐辛子が伝えられるよりはるか以前、
10世紀頃のジャワ島の碑文に、既に見ることができると言われています。
その中には、現在唐辛子を表すのに使われているCabaiという言葉もあるのだそう。

Sambelは古いジャワの言葉で「味付けソース」というような意味の言葉であったらしく、
なので現在のサンバルとはまたやや形状は異なるのかもしれません。
ただ、やはり辛味を含んだものではあったらしく、
その際に使用された素材Cabaiは、現在意味するところの唐辛子ではなく、
チャブヤ/Cabya(ヒハツモドキ)という、胡椒の一種の植物だったようです。

チャブヤと唐辛子 Bandung_West Java, 2021

そして、ポルトガルによって唐辛子がもたらされるまでのサンバルは、
その辛味の素材として、生姜やこのチャブヤ、または胡椒などを用いていたのだろうと言われています。
もともと辛味を嗜好する土台があったところに唐辛子が伝わり、広く普及して辛味の主流となり、
いつかCabaiという言葉が意味する対象まで変化していったということなのでしょう。

そして、サンバルは様々な素材と組み合わされ、土地ごとの植生や味の嗜好性を反映し、
こんなにもたくさんのバリエーションを持つに至ったのだと思います。
サンバルなしで食べるインドネシアごはんなんて、ちょっと考えられないですし、実際。

ロントン・サユールとサンバル Jakarta, 2018

オランダ東インド会社の管理下にあった時代には、
オランダ人家庭に雇われるメイドも、サンバルを作る腕のある者はより良い待遇を得られたのだそうです。

インドネシアの初代大統領スカルノの肝入りで編纂されたと言われ、1967年に初版が出されている、
インドネシア全土の料理を広く網羅した一大料理本、ムスティカ・ラサ/Mustika Rasa。
その中にはサンバルだけで63のレシピが記録されています。

ムスティカ・ラサ Bandung_West Java, 2021

ところで、去年スリランカに行ったのですが(コロナ直前の駆け込みで)、
その時に、ポル・サンボル/Pol Sambolと出会いました。

ココナッツに、唐辛子やライム果汁などを加えたもの。
スリランカには、サンボル、またはサンバル、と呼ばれる付け合わせがあるのだと知りました。
スリランカ、いきなりすごく、親近感。
見た目は違えども、これもサンバル。

スリランカごはん Negombo_Sri Langka, 2020

ポル・サンボル Negombo_Sri Langka, 2020

きちんとした資料は見つけられなかったのですが、
いずれもオランダ東インド会社の管轄にあった地域であることから、
おそらくオランダ人によって、ジャワからスリランカへ伝えられたのではないかと思います。
方向としては、あちらからこちら、ではない気がするんですよね。断言はできないですが。

ちなみに、冒頭の最後がRのサンバル/Sambar。
南インドの豆と野菜のさらっとしたカレーです(めっちゃ美味)。

サンバル(R) Chennai_India, 2020

なんか繋がりがあるんじゃないかなと思ったんです。
言語が伝わる過程でRとLが入れ替わることだってあるだろうし、と。
でも、まあ、全く別物ですし、関係ないですね、多分。ていうか、きっと。


2017/10/22

バリの食卓④


サンバル作り Bali, 2017

さて、バリの食卓、続いてはサンバルについて。

サンバルは、唐辛子とスパイスやブンブたちを合わせたタレのようなもの。
インドネシアの食卓においてサンバルは欠かせないものではありますが、
それでいて「サンバルって」と一概に括って語るのは難しいほどに、色々あります。
もちろん、いずれも美味しいのですが(笑)。
地域差があり、料理との組み合わせがあり、市販のボトル入りサンバルがあり。
サンバル、と言った時にひとびとが思い浮かべるサンバルの様は、みんな違うかもしれません。

そんな中で、バリを代表するサンバルと言えば、まずはやっぱり、サンバル・マタ/Sambal Matah。

サンバル・マタ Bali, 2017

材料を刻んで、熱した油をかけるだけのシンプルなサンバル。でも、病み付きになります。

まずは、バワン・メラを薄切りに。そして、唐辛子も小口切りに。

さて、そこで唐辛子問題。

市場の唐辛子 Bali, 2017

バリ料理というのは、わたしの主観では、インドネシアの中でもかなり辛い料理だと思うのです。
わたし自身、決して辛いものが苦手なわけではないのですが、それでもちょっとひるむくらい。
なので、お父さんに「辛いの大丈夫?」と聞かれた時には「ほどほど」と答えました。
「大丈夫!」と言ってしまって、バリ的スタンダードで出されたら食べられないかもしれないと思って。

なので、サンバルを含め、この時の料理にはチャベ・ブサールをよく使ってもらっています。
基本的にチャベ・ラウィットを使いたいところ、辛さがマイルドなのに一部置き換えてもらっているんですね。

ということで、このサンバル・マタでも、一部をチャベ・ブサールで。
(自宅で作る際には、自分の好みの辛さに調整してしまいます)

サンバル・マタ Bali, 2017

そして、レモングラスもザクザクと小口切りに。

サンバル・マタ Bali, 2017

家庭によっては、ここでコブミカンの葉や、トーチジンジャーの花を刻んだものを加える場合もあります。

サンバル・マタ Bali, 2017

刻んだ材料に、塩を適量、砂糖とトラシを一つまみ、加えます。
で、油を熱します。
使う油は、出来ればココナッツオイルを、とお父さん。
インドネシアで一般的なパームオイルでももちろん作れるのですが、風味が劣るそうです。

材料をひとかけら、油に落として「ちゅん!」という音がしたら、十分熱せられた合図。
さあ、材料にかけますよ。

サンバル・マタ Bali, 2017

じゅーーーー!

豪快。

サンバル・マタ Bali, 2017

生の材料に熱々の油を注ぐことで程よくしんなりするんですね。
歯ごたえを残しつつ、油でまとめるのが美味しさの秘訣。

サンバル・マタ Bali, 2017

これだけでもご飯が進みます。
レモングラスの爽やかさが、例えばチキンのような肉料理にもちょうどいい風味を加えてくれて好バランス。

ちなみに、お父さんちの家族仕様のサンバル・マタは、こんな感じでした。

サンバル・マタ Bali, 2017

全てチャベ・ラウィットの、かっらーーーいサンバル・マタ。でも、美味しいのです、確かに。

このサンバル・マタ試食中、後だし風に出されたサンバルがありました。
それが、サンバル・バワン/Sambal Bawang。思わずのけぞる美味しさ。

サンバル・バワン Bali, 2017

バワン/Bawangは球根野菜を指すインドネシア語。
タマネギ=バワン・ボンバイ/Bawang Bombai、シャロット=バワン・メラ/Bawang Merah、
そして、ニンニク=バワン・プティ/Bawang Putihに唐辛子です。
ここで使う唐辛子は、辛いチャベ・ラウィットじゃないと美味しくないのだとお父さん。

作り方は簡単、全てを刻んで炒めるだけです。

まずはタマネギ。

サンバル・バワン Bali, 2017

ここで、油の量にひるんではいけません。

どうしても、油控えめにしてしまいたくなるのが、日本人の心理ではあるのですが、
油も「味」なんですよね。割り切ってたっぷり使った方が、仕上がりは美味しくなります。
なので、タマネギを炒め始める時には、ちょっと泳ぐくらいの量の油を使ってしまうのです。

しんなりして来たところに、バワン・メラとニンニクを加えます。

サンバル・バワン Bali, 2017

飴色に近づいたところで、刻んだ唐辛子、塩、そして砂糖とトラシを一つまみずつ。
全体がしんなりしたら出来上がりです。

サンバル・バワン Bali, 2017

唐辛子の辛さに負けない、タマネギとシャロットの甘さと風味。隠し味のトラシが旨味を加えています。

そのままごはんのお供にするのはもちろん、和え物などにも使えます。
あと、家で試したのですが、スープなどに一さじ加えても美味しいんです。
飴色タマネギとニンニクとシャロットですからね、あれこれ応用できる、使いでのあるサンバルです。

お父さんのところでは、このサンバル・バワンを使って簡単ウラップ/Urapを作ってもらいました。

ウラップ(バリではウラッブ/Urabと呼ぶことが多いようです)は、ジャワでもよく食べられる温野菜料理。
茹でた野菜にココナッツと調味料を混ぜたものになります。

ウラップ Bali, 2017

この日は、茹でたキャッサバの葉とモヤシ。
ココナッツは、火で炙ってからすり下ろすのが美味しさの秘密だそう。
香りがよくなるんですって。

そこに、さっきのサンバル・バワンを適量加えて全体をよく混ぜます。

ウラップ Bali, 2017

このボウルいっぱい食べられる気がするほどの美味しさ。

バリの食卓の最後に、わたしがどうしても食べてみたかった野菜料理をもう一つ。

ジュクット・アレス Bali, 2017

ジュクット・アレス/Jukut Aresというこのスープ。バナナの茎なんです。

バナナの実はもちろん、花は食べることがありますし、葉っぱは料理を包むなどでよく使いますが、茎は珍しい。
ジャワなどでは、家畜の餌として用いる程度で食卓にあがることはあまりないように思います。
お父さんに「どうしても食べたい!」とお願いしたところ「ああ、ぼくの好物だ」と返って来ました。

ジュクット・アレス Bali, 2017

アレスというのがバナナの茎を意味するそうです。
バナナも、どんなバナナでも使えるわけではなく、ピサン・バトゥ/Pisang Batuの茎がいいのだとか。

ピサン・バトゥはジャワでもありますが、種のある、野生種に近い品種です。
薬効があるとかで、重宝がられているところもありますが、市場などでの取り扱いも少なく、
珍しい品種と言えるピサン・バトゥ。その茎が、この料理に向いているのだそう。
他の品種だと、調理しているうちに黒くなってくる(アクでしょうね)のだとお父さんはいいます。

ジュクット・アレス Bali, 2017

食物繊維が豊富で、黒髪効果もあるというこのアレス。
内側の柔らかい部分を、薄くスライスし、崩しながら塩をして、しんなりするまで置いておきます。

ジュクット・アレス Bali, 2017

しなっとしたら、水ですすいで、後はスープにするだけ。使うのは、地鶏でとっておいたスープ。

味付けは当然、ブンブ・バリで、手順は魚のスープと同じです。
アレスが柔らかくなるまでじっくり煮込んで、塩で味を整えたら出来上がり。

ジュクット・アレス Bali, 2017

おかわりしたい美味しさ。

これは、自宅で作ってみようにも、難しいですね。アレスが手に入らない。

ブンブ・バリ Bali, 2017

ということで、バリの食卓でした。
基本のブンブ・バリさえ作ってしまえば、あれもこれも色々作れるとわかったのが収穫。
追って、家で復習してみますね。

お料理上手のお父さんと、お母さんに出会えたのも幸いのバリの旅でした。
気軽に行ける土地だけに、また遊びに行って新しい料理を教わって来ます。