2017/12/05

豆腐/Tahu

豆腐 Bandung_West Java, 2017

ご無沙汰しております。仕事が忙しかったり、日本に一時帰国したりしておりました。

ということでお豆腐です。みなさんお馴染みの。
の、はずが、インドネシアの豆腐はなかなか馴染みのないビジュアルなのです。黄色って。
味も、微妙に違います。作る行程も。そんなモロモロをざっとご紹介しますね。

言うまでもなく、豆腐のルーツは中国。インドネシア語ではタフ/Tahuです。
インドネシアに持ち込まれた中国由来の食品の中では最古のもののひとつではないかと言われています。
正確な時期は不明ですが、10世紀にはインドネシアに入って来ていたのではないかという説があり、
大豆加工品としては、テンペよりも古いとされています。

とはいえ、豆腐を食すのは華人とその周辺の人たち。地域も華人の多い街(貿易港などのある街)。
だいぶ限定的に食されて来たのが豆腐、という感じで、基本的に今もそれは変わっていない印象です。

南スラウェシに古くから交易の地として栄えてきたマカッサルという街があり、
その沿道では「アイル・タフ/Air Tafu」という表示を沢山みかけました。豆腐の水、つまり豆乳です。
わたしの暮らすジャワ島の内陸の街バンドンでは、豆乳をそんな気軽に売っているのは見かけません。
これはやはり、立地的に華人が多い街だったから根付いたものなのではないかと思っています。
同じようなことは、
スマトラ島のメダンやカリマンタン島のポンティアナクなどでもあるのではないかと想像したり。

一方でそれ以外の地方に行くと、その地域の伝統料理の中に豆腐というのは滅多に登場しません。
少なくとも、わたしが見て来た限りでは。

タフ・スメダン Bandung_West Java, 2017

そんな中、例外と言っていいのがジャワ島です。
もちろん、例えばジャワ北岸などは華人が多く、豆腐料理もバリエーション多くあります。
けれど、この島ではその範囲を超えて、広く一般の庶民の暮らしにまで豆腐が浸透、
むしろ豆腐の供給が止まったら庶民たちの食卓はえらいことになってしまう、というくらいの様相です。

西ジャワ州バンドンでみかける定番のご飯セット、ナシ・ティンベル/Nasi Timbel。
おかずにはほぼ必ず揚げ豆腐がつきます。

ナシ・ティンベル Bandung_West Java, 2017

一方、このずらずらっと並んだ料理たちは、西スマトラ地方の定番、パダン料理。
この並びで見える範囲に、お豆腐を使った料理はないんですよね。

パダン料理 Jakarta, 2016

(パダンで全く豆腐が使われない、という意味ではないです)

けれど、ジャワ島だと、例えばソトの付け合わせ的なおかずの中にも、豆腐。

ソト Jakarta, 2017

ガドガドの具としても、豆腐は基本中の基本。

ガドガド Jakarta, 2017

これに限らず、定食屋では揚げ豆腐はもちろん、煮付けた豆腐や、豆腐炒め、蒸した豆腐料理などが定番です。
そして、食事ではない「おやつ」としても、揚げ物スナックの屋台でも、豆腐は登場します。

なぜこんなにジャワの人々の暮らしに豆腐が浸透しているのか。

ひとつの説として言われているのは、植民地時代の政策が影響したというもの。
宗主国であるオランダによる強制栽培制度のおかげで作物の作付けが限定され、
その結果、地元民の食事に必要なだけの食料の供給もままならなくなり、栄養状態が悪化したという話しは、
以前、ジャワ料理の際に書きました。
不足した熱量を補うために料理に砂糖を多用するようになって、
その結果中部ジャワの料理は甘めの傾向がある、という説だったのですが、
同様に、たんぱく質を補うための食材として普及していったのが豆腐だったというのです。
なるほど。

もちろん、ジャワ島以外でも、大きな街の市場に行けば豆腐はありますし、揚げ物屋台にも豆腐は並びます。
けれどそれは、ジャワの人々が移住して行った過程で浸透した側面もあるのかなと、わたしは思っています。
テンペと同様ですね。
そしてなにより、どんな小さな島に行っても、町には華人商店があるものですし。

さて、そんなジャワの豆腐ですが、各地あれこれ色々あり、
全てを紹介しようとするとまた月日が経ってしまうので、身の回りの西ジャワ地方のものをざっとご紹介。

まず、豆腐の種類から。

ジャワの豆腐は基本的にしっかりした豆腐で、例えば指先で摘まみ上げても、危なっかしさはありません。

豆腐 Bandung_West Java, 2017

バンドンでよく見かけるのは、この四角いもの。だいたい、4センチ角くらいでしょうか。
外側はしっかり、内側はふんわりしています。

インドネシアの豆腐はよく黄色い色がついていますが、これは保存料として用いられるターメリックの色。
黄色くない豆腐も、もちろんあります(味に違いはありません)。

また、インドネシアの豆腐の多くは「酸っぱい」のです。
初めて食べたひとは腐っていると思ってしまうかもしれません。
これは、凝固剤として酢を使う場合が多いからなのです。
あるいは、豆乳から凝固させて豆腐とした際に出る水を利用することもあり、
その場合は一昼夜寝かせてたものを使うのだそうです。
つまりこれも乳酸菌なりで発酵させているのだと思われ、そうするとやはり酸味につながりますね。
他、日本で「スマシ粉」と呼ばれる硫酸カルシウムを使う場合もあり、これは酸っぱくない豆腐になります。
珍しいところでは、ココナッツジュースを用いる場合もあるという話しを聞いたことがあります。
これは、実際に口にしたことはないのですが、とても興味あります。どんな味なんだろう。

タフ・クニンとタフ・プティ Bandung_West Java, 2017

こちらは、もう少し大きめで、座布団のような形をしたもの。
タフ・クニン/Tahu Kuningとタフ・プティ/Tahu Putih、黄色い豆腐と白い豆腐、と呼ばれるもの。
見たままですね(笑)。
これは、先の四角い豆腐よりも更に中が詰まった感のある豆腐。揚げたり、煮付けたり。

揚げ豆腐 Bandung_West Java, 2017

これは、市場で売られていた揚げ豆腐。厚揚げのように、調理して食べる用の揚げ豆腐です。

一方、調理せずそのまま食べる揚げ豆腐もあり、こちらは、バンドンから更に山側に行ったレンバンのもの。

揚げタフ・レンバン Bandung_West Java, 2017

青いチリと一緒に食べるのがお約束。

レンバンは豆腐の産地として有名で(バンドンも有名ではあるのですが)、
レンバンの豆腐という意味でタフ・レンバン、と呼ばれています。
市場にいけば、もうあっちにもこっちにも豆腐、豆腐、豆腐。

タフ・レンバン Lembang_West Java, 2017

このタフ・レンバンの新しいトレンドとして出て来たのが、牛乳豆腐とチーズ豆腐。

「はい?」って思いません?わたしは思いました。

タフ・レンバン Bandung_West Java, 2017

毎週日曜日に近所に立つ市に来ているお豆腐屋さんの品揃えの、
この右側の、白と黄色の豆腐たちを指して「タフ・スス/Tahu Susuとタフ・ケジュ/Tahu Keju」と言うのです。
ススとは牛乳、ケジュとはチーズのことです。
「新作?」と訊ねたところ「前からある!」と言われました。
調べたら、ここ10年くらいでレンバンを中心に作られ始めたものらしく、
牛乳/チーズのみから作られているわけではなくて、通常の豆腐に足しているということらしいです。
タンパク質強化ですね。
レンバンというのは高地で、酪農も盛んな土地なのです。
酪農が盛んな豆腐の産地ならでは、としか言いようのない豆腐です。

タフ・ススとタフ・ケジュ Bandung_West Java, 2017

買ってみました。白がスス、黄色がケジュ。
詰まっている感じがするよ、とか、旨味が強いよ、とかコメントを見かけたりしたのですが、
正直、普通の豆腐と同じでした。どちらも。肩すかし。
別のところで見かけたら、また試してみたいです。チーズの味のする豆腐って、美味しそうじゃないですか。

わたしが、豆腐の産地付近に暮らしているからこそ手に入るものだと思っているのが、こちら。

豆腐の切り落とし Bandung_West Java, 2017

切り落とし部分です。切り落としって好きです。食パンの耳とか、カステラのヘタとか。

豆腐の切り落としは、しっかり固めのインドネシアの豆腐のヘタだけあって、更にしっかり固め。
このまま揚げてスナックみたいにしても美味しいらしいのですが、
わが家では、炒め物の具材にすることが多いです。食べ応えありますからね。

そして、これはジャワに限らず全国どこでも手に入ると思われる、チューブ豆腐。
日本の絹ごし豆腐に近い味です。筒型ですが。

チューブ豆腐 Bandung_West Java, 2017

続いて、豆腐の食べ方をいくつか。
当然のことですが、中華料理店に入れば、様々に調理された豆腐が出て来ます。
が、ここではそれ以外を。

まず、わたしが好きなクパット・タフ/Kupat Tahu。

クパット・タフ Bandung_West Java, 2017

これは、クパット(クトゥパット/Ketupatとも)と呼ばれるライスケーキに、
揚げたタフ・クニンと、モヤシを乗せて、たっぷりのピーナッツソースとケチャップ・マニスをかけたもの。

クパット・タフ Bandung_West Java, 2017

何故か分からないのですが(恐らく「美味しそうだから」みたいな理由)、これは黄色い豆腐がほとんどです。
白い豆腐のクパット・タフってあまり見ません。
じっくり揚げられた豆腐は、ほかほかでとってもジューシー。美味しいんですよ。

クパット・タフ屋 Bandung_West Java, 2017

西ジャワ界隈でみかけるクパット・タフ屋は、シンガパルナという地名を掲げている場合が多く、
これはつまり「(西ジャワの)シンガパルナ名物のクパット・タフ」ということなのですが、
同じクパット・タフを名物としている土地として、中部ジャワのマゲランという町もあるのです。

クパット・タフ Magelang_Central Java, 2017

これは、マゲランの友人のところで食べさせていただいたクパット・タフ。
西ジャワのと違って、ピーナッツソースがかかっていないのです。
ケチャップ・マニスがメインの旨味系。同じ名前でも、結構違うものです。
おまけに、豆腐は白(笑)。

地元バンドン名物と言うと、バソ・タフ/Baso Tahu。小腹がすいたときの軽食です。
バソというのはインドネシア各地でポピュラーな練り物なのですが、それを豆腐に挟み込んだものです。

バソ・タフ Bandung_West Java, 2016

豆腐の間にバソを挟んで(あとワンタンの皮に包んだバソも)蒸したものを適当な大きさに刻み、
ピーナッツソース、ケチャップ・マニス、ジュルック・リモを絞って食べます。

これを揚げた場合、バソ・タフ・ゴレン/Baso Tahu Goreng。頭をとってバタゴール/Batagorと呼びます。

バタゴール Jakarta_2017

おじさん、手際よく豆腐にバソを挟み込んでは揚げていきます。

バタゴール売り Bandung_West Java, 2016

豆腐に挟むつながりで、タフ・イシ/Tahu Isi。イシとは「中身」という意味で、つまり、具入りの豆腐。

タフ・イシ Bandung_West Java, 2017

モヤシやニンジンなどの野菜炒めが挟まっていて、薄く衣をつけて揚げられています。
揚げ物屋台では定番。
ごはんのおかず枠でもいい気がしますが、これはれっきとしたおやつ枠。

おやつ枠、続いてはタフ・ゲジロット/Tahu Gejrot。チレボンという町の名物。

タフ・ゲジロット Bandung_West Java, 2016

チレボンの辺りでよく売られている揚げ豆腐にタフ・ポン/Tahu Pongというのがあり、
そのタフ・ポンを刻み、パームシュガー、酢、ケチャップ・マニスのソースをかけて、
青いフレッシュチリと、刻んだバワン・メラをのせたものです。
タフ・ポンというのはカリッと揚がって中が空洞になっているのが特徴。

カリッと揚がって、でも中はジューシーなおやつ豆腐代表と言えば、タフ・スメダン/Tafu Sumedang。
スメダンというのは、バンドンから南に下ったあたりにある町の名前。

タフ・スメダン Bandung_West Java, 2017

塩味の効いた、ジューシーでカリッと揚がった白豆腐を、熱々の内に青チリと食べるのですが、
わたしはこれが大好きで、ことあるごとに食べている気がします。

さっきの揚げたタフ・レンバンとどう違うのか、わかりますか?

タフ・レンバン Lembang_West Java, 2017

タフ・レンバンは豆腐の天面+底面と側面の質感が違うのです。いわば、皮の部分と中の部分。
タフ・スメダンは、全面が側面の質感。

タフ・スメダン Bandung_West Java, 2017

タフ・スメダンは全面が粗い感じになっていますよね?
微差と言えば微差なのですが、食べたときの食感が違うんです。
揚げたてのタフ・スメダンはカリカリサクサクと軽い歯ごたえ。

揚げる前のタフ・スメダン Bandung_West Java, 2017

皮がなくて、上下も側面も全てがソフトな豆腐だからこういう揚がり方になるのではないかと思っています。
タフ・スメダンは揚げたてが最高です。

もう一つ、揚げたおやつ豆腐として、少し前に大流行したタフ・ブラット/Tahu Bulat。
ブラット=丸、そう、丸い豆腐です。

タフ・ブラット Bandung_West Java, 2017

丸い豆腐を揚げて、フレーバーパウダーを振りかけて食べるおやつ。
これが、ジャカルタを中心に何故か大流行りしたんですよね。タフ・ブラット売りが流す歌があったりして。
美味しいは美味しいのですが、なんであそこまで流行ったのかは謎。
揚げた豆腐が大流行するって、なんとも平和な感じで面白いですが。

タフ・ブラット Bandung_West Java, 2017

最後に、甘いおやつ。豆腐花です。

豆腐花/DouhuaもしくはTauhueと呼ばれる、
中国から台湾、東南アジア一帯で親しまれている、甘いシロップがかかったふるふる柔らかいお豆腐。
インドネシアではタフア/Tahua、クンバン・タフ/Kembang Tahuという呼び方が一般的です。
タフアという呼び方は、福建地方の呼び方Tauhueから来ているのでしょうね。
インドネシアは福建からの華人が多いようで、影響が見られます。
もう一つの、クンバン・タフ、というのは「豆腐の花」という意味。
インドネシア語化されていますが、意味は同じなのです。

クンバン・タフ Bandung_West Java, 2017

するんとシルキーなこの豆腐は、酸味を感じないタイプの柔らかい味わいの豆腐。
硫酸カルシウムを使って固めているタイプです。
インドネシアの場合、アガーと呼ばれる海藻を使う場合もあるようですが。
シロップは生姜とパームシュガーを使ったぴりっと辛いもの。
ただ、これは地域差があるらしく、バンドンのシロップがとりわけ辛いような気がします。
高地で冷えやすい土地だからなのでしょうかね。

以前、中部ジャワのソロの街角で食べたものは、もっとマイルドで優しい風味でした。

タホック Solo_Central Java, 2017

ここでの呼び方は、タホック/Tahok。

タホック Solo_Central Java, 2017

ちなみに、クンバン・タフ・クリン/Kembang Tahu Kering(乾いたクンバン・タフ)というと、湯葉のこと。
それは紛らわしい、という気がするかもしれませんが、
湯葉自体があまりポピュラーではないので、実はそれほどではありません。

ということで、駆け足で豆腐の色々でした。

タフ・レンバン Bandung_West Java, 2017

豆腐って、その当たり前の存在ゆえに、これまでそれほど意識してこなかったんですよね。
ジャワでは日常的に口にするもの、そして、ジャワ島外にでると途端に存在感が希薄になるもの。
そんな感じで。
もったいなかったなあ、と思います。
地方に行った時にもっと気にしてみていれば、もっと違う豆腐のあれこれがあったのかもしれないのに。
ということで、この先に期待。ちょっと気にしてみてみようと思います。



2017/10/26

アボン・イカン/Abon Ikan

アボン・イカン Bandung_West Java, 2017

毎月レシピの連載をさせていただいている「+62」。
今月の掲載レシピは、
バンガイ諸島で、お魚のスープの作り方を教えてくれた町のお母さんが、口頭で教えてくれたものを、
自宅で簡単に作れるようにとアレンジした、復習レシピです。

リンクはこちら → 西宮奈央さんのMASAK KIRA-KIRA

アボン・イカン/Abon Ikanという、香辛料を使った魚の田麩のようなもの。
あったか白ご飯に乗せてわしわし食べる魚フレークは、炒め物やスープの旨味出汁としても応用できます。
スラウェシの街の大学で勉強するために下宿をしている息子さんに、
魚が安く沢山手に入ったらたくさん作って送ってあげるのだと、お母さんは話していました。
「都会の魚は味が違うって言うのよ。これだったらね、日持ちするでしょう?息子、喜ぶのよ」
と、大変だと言いつつ、全く苦にしてないお母さん。
ちなみに、都会の魚といえども、スラウェシの魚は街であっても美味しいんですけどね。
バンガイのお魚はそれを上回る素晴らしさで、そしてそれが、お母さんの自慢でもありました。

お母さんの説明は口頭で、
というかそもそも、家庭料理に分量とかの詳細を求めることも難しいのですが、
それを帰って来てから、指示通りの材料で美味しいバランスはどのくらいかを探りました。

アボン・イカン Bandung_West Java, 2017

使う魚は、作りやすく、サバ缶で。
というのが、一度鮮魚で試した際、その小骨を取り除くのが面倒で面倒で。缶詰なら安心です。
香辛料に加えてのレモングラスとライムは、頬の内側がきゅっとなるような風味を足してくれます。

ということで、エキゾチックな風味のアボン・イカン、お試しください。

2017/10/22

バリの食卓④


サンバル作り Bali, 2017

さて、バリの食卓、続いてはサンバルについて。

サンバルは、唐辛子とスパイスやブンブたちを合わせたタレのようなもの。
インドネシアの食卓においてサンバルは欠かせないものではありますが、
それでいて「サンバルって」と一概に括って語るのは難しいほどに、色々あります。
もちろん、いずれも美味しいのですが(笑)。
地域差があり、料理との組み合わせがあり、市販のボトル入りサンバルがあり。
サンバル、と言った時にひとびとが思い浮かべるサンバルの様は、みんな違うかもしれません。

そんな中で、バリを代表するサンバルと言えば、まずはやっぱり、サンバル・マタ/Sambal Matah。

サンバル・マタ Bali, 2017

材料を刻んで、熱した油をかけるだけのシンプルなサンバル。でも、病み付きになります。

まずは、バワン・メラを薄切りに。そして、唐辛子も小口切りに。

さて、そこで唐辛子問題。

市場の唐辛子 Bali, 2017

バリ料理というのは、わたしの主観では、インドネシアの中でもかなり辛い料理だと思うのです。
わたし自身、決して辛いものが苦手なわけではないのですが、それでもちょっとひるむくらい。
なので、お父さんに「辛いの大丈夫?」と聞かれた時には「ほどほど」と答えました。
「大丈夫!」と言ってしまって、バリ的スタンダードで出されたら食べられないかもしれないと思って。

なので、サンバルを含め、この時の料理にはチャベ・ブサールをよく使ってもらっています。
基本的にチャベ・ラウィットを使いたいところ、辛さがマイルドなのに一部置き換えてもらっているんですね。

ということで、このサンバル・マタでも、一部をチャベ・ブサールで。
(自宅で作る際には、自分の好みの辛さに調整してしまいます)

サンバル・マタ Bali, 2017

そして、レモングラスもザクザクと小口切りに。

サンバル・マタ Bali, 2017

家庭によっては、ここでコブミカンの葉や、トーチジンジャーの花を刻んだものを加える場合もあります。

サンバル・マタ Bali, 2017

刻んだ材料に、塩を適量、砂糖とトラシを一つまみ、加えます。
で、油を熱します。
使う油は、出来ればココナッツオイルを、とお父さん。
インドネシアで一般的なパームオイルでももちろん作れるのですが、風味が劣るそうです。

材料をひとかけら、油に落として「ちゅん!」という音がしたら、十分熱せられた合図。
さあ、材料にかけますよ。

サンバル・マタ Bali, 2017

じゅーーーー!

豪快。

サンバル・マタ Bali, 2017

生の材料に熱々の油を注ぐことで程よくしんなりするんですね。
歯ごたえを残しつつ、油でまとめるのが美味しさの秘訣。

サンバル・マタ Bali, 2017

これだけでもご飯が進みます。
レモングラスの爽やかさが、例えばチキンのような肉料理にもちょうどいい風味を加えてくれて好バランス。

ちなみに、お父さんちの家族仕様のサンバル・マタは、こんな感じでした。

サンバル・マタ Bali, 2017

全てチャベ・ラウィットの、かっらーーーいサンバル・マタ。でも、美味しいのです、確かに。

このサンバル・マタ試食中、後だし風に出されたサンバルがありました。
それが、サンバル・バワン/Sambal Bawang。思わずのけぞる美味しさ。

サンバル・バワン Bali, 2017

バワン/Bawangは球根野菜を指すインドネシア語。
タマネギ=バワン・ボンバイ/Bawang Bombai、シャロット=バワン・メラ/Bawang Merah、
そして、ニンニク=バワン・プティ/Bawang Putihに唐辛子です。
ここで使う唐辛子は、辛いチャベ・ラウィットじゃないと美味しくないのだとお父さん。

作り方は簡単、全てを刻んで炒めるだけです。

まずはタマネギ。

サンバル・バワン Bali, 2017

ここで、油の量にひるんではいけません。

どうしても、油控えめにしてしまいたくなるのが、日本人の心理ではあるのですが、
油も「味」なんですよね。割り切ってたっぷり使った方が、仕上がりは美味しくなります。
なので、タマネギを炒め始める時には、ちょっと泳ぐくらいの量の油を使ってしまうのです。

しんなりして来たところに、バワン・メラとニンニクを加えます。

サンバル・バワン Bali, 2017

飴色に近づいたところで、刻んだ唐辛子、塩、そして砂糖とトラシを一つまみずつ。
全体がしんなりしたら出来上がりです。

サンバル・バワン Bali, 2017

唐辛子の辛さに負けない、タマネギとシャロットの甘さと風味。隠し味のトラシが旨味を加えています。

そのままごはんのお供にするのはもちろん、和え物などにも使えます。
あと、家で試したのですが、スープなどに一さじ加えても美味しいんです。
飴色タマネギとニンニクとシャロットですからね、あれこれ応用できる、使いでのあるサンバルです。

お父さんのところでは、このサンバル・バワンを使って簡単ウラップ/Urapを作ってもらいました。

ウラップ(バリではウラッブ/Urabと呼ぶことが多いようです)は、ジャワでもよく食べられる温野菜料理。
茹でた野菜にココナッツと調味料を混ぜたものになります。

ウラップ Bali, 2017

この日は、茹でたキャッサバの葉とモヤシ。
ココナッツは、火で炙ってからすり下ろすのが美味しさの秘密だそう。
香りがよくなるんですって。

そこに、さっきのサンバル・バワンを適量加えて全体をよく混ぜます。

ウラップ Bali, 2017

このボウルいっぱい食べられる気がするほどの美味しさ。

バリの食卓の最後に、わたしがどうしても食べてみたかった野菜料理をもう一つ。

ジュクット・アレス Bali, 2017

ジュクット・アレス/Jukut Aresというこのスープ。バナナの茎なんです。

バナナの実はもちろん、花は食べることがありますし、葉っぱは料理を包むなどでよく使いますが、茎は珍しい。
ジャワなどでは、家畜の餌として用いる程度で食卓にあがることはあまりないように思います。
お父さんに「どうしても食べたい!」とお願いしたところ「ああ、ぼくの好物だ」と返って来ました。

ジュクット・アレス Bali, 2017

アレスというのがバナナの茎を意味するそうです。
バナナも、どんなバナナでも使えるわけではなく、ピサン・バトゥ/Pisang Batuの茎がいいのだとか。

ピサン・バトゥはジャワでもありますが、種のある、野生種に近い品種です。
薬効があるとかで、重宝がられているところもありますが、市場などでの取り扱いも少なく、
珍しい品種と言えるピサン・バトゥ。その茎が、この料理に向いているのだそう。
他の品種だと、調理しているうちに黒くなってくる(アクでしょうね)のだとお父さんはいいます。

ジュクット・アレス Bali, 2017

食物繊維が豊富で、黒髪効果もあるというこのアレス。
内側の柔らかい部分を、薄くスライスし、崩しながら塩をして、しんなりするまで置いておきます。

ジュクット・アレス Bali, 2017

しなっとしたら、水ですすいで、後はスープにするだけ。使うのは、地鶏でとっておいたスープ。

味付けは当然、ブンブ・バリで、手順は魚のスープと同じです。
アレスが柔らかくなるまでじっくり煮込んで、塩で味を整えたら出来上がり。

ジュクット・アレス Bali, 2017

おかわりしたい美味しさ。

これは、自宅で作ってみようにも、難しいですね。アレスが手に入らない。

ブンブ・バリ Bali, 2017

ということで、バリの食卓でした。
基本のブンブ・バリさえ作ってしまえば、あれもこれも色々作れるとわかったのが収穫。
追って、家で復習してみますね。

お料理上手のお父さんと、お母さんに出会えたのも幸いのバリの旅でした。
気軽に行ける土地だけに、また遊びに行って新しい料理を教わって来ます。