2017/01/29

タペ/Tapai(Tape) ②

タペ入りエス Bandung_West Java, 2017

前回のタペ・シンコンの続きで、今回は餅米のタペ。

餅米のタペはタペ・クタン(Tape Ketan)と呼ばれます。
発酵によって糖度があがり、その甘さの中に発酵由来の酸味が混ざった独特の風味。
採れた液体は微かに甘酒のような味わい(実際、タペはアルコールを含みます)。
米麹、もしくはもろみのようなものと説明される場合もあります。

タペ・シンコン同様、発祥はインドネシアではないかと言われますが、詳細はよくわかりません。
ただ、西ジャワを中心としたジャワ島を主として食べられているタペ・シンコンに比べて、
この餅米のタペはインドネシア国内でも比較的広く食べられています。
また、インドネシアに限らず、インド、マレーシアからカンボジアまで分布しているとのこと。
カンボジアでは黒餅米のタペがTapae Kmaoと呼ばれているとか。
(東南アジア各地での呼称がタペに類似しているのに対し、インドは音が異なるので発祥は別かも?しれません)

そんな餅米のタペですが、使う餅米によって2種類に分かれます。

まずは、白い餅米を使ったもの。

木の葉などで包まれているのがかわいらしい。
写真はキャンドルナッツの葉ですが、他にバナナやグアバの葉などが使われます。

葉に包まれたタペ・クタン Bandung_West Java, 2017

ラギ(菌)を仕込んだ餅米を個別にくるみ、葉っぱの中で発酵させているんですね。

タペ・クタン Bandung_West Java, 2017

開くと、こんな具合。小さな一口大のタペ。ぎゅっと絞ると甘いお酒が滴ります。

この写真は白い餅米の色そのままですが、緑色に着色されたものもよく見かけます。

タペ・クタン Bandung_West Java, 2017

この緑は葉をすり潰して採った汁を使うことで出る緑。
インドネシアで一般的に緑色というと、パンダン(ニオイタコノキ/パンダナス)の葉が基本という印象ですが、
このタペの緑は一概にパンダンとは言えないらしく、ナンキョウ(ガランガル)の葉だったり、色々です。

そして、もう一つは黒餅米を使ったもの。タペ・クタン・ヒタム(Hitam=黒)。

タペ・クタン・ヒタム Bandung_West Java, 2017

黒というか赤紫色に見えますね。
白い餅米のものよりも、プチプチとした食感が残っているのが特徴です。

中〜東ジャワでは、ブレム(Brem)と呼ばれる、餅米のタペから採れる液体を加熱し固形化したものもあります。

ブレム Bandung_West Java, 2017

水分を飛ばして残った澱粉を板状にした(円盤状のものもあります)このブレム、落雁を思わせます。
口に入れた途端に滑らかに溶けて、タペ特有の酸味を含んだ甘さが広がります。

ブレム Bandung_West Java, 2017

とても甘いので、たくさん食べられるものではないのですが、でも大好きです。

ところ変わってバリでは、ブレムというと液体そのものをさします。
バリのライスワインとして、お土産にもよく見かけますが、
現地では、ヒンドゥーの寺院での捧げものとして、信仰行事の中で使われるものなのだそうです。
(バリというのは、本当に食にまつわるあらゆるものが神事につながっていて興味深いです)

固形のもの、液体のもの、どちらもそれぞれの土地では「ブレム」と呼ばれますが、
差別化するために、ジャワの固形のブレムはブレム・パダット(Padat=固形)、
バリの液体のブレムはブレム・チャイル(Cair=液体)と呼び分ける場合もあります。

さて、餅米のタペそのものの方に話しを戻し、その食べ方。

一番よく目にするのは、エス(冷菓)に入れられたものでしょうか。

タペ入りエス Bandung_West Java, 2017

写真はうちで作ったものですが、緑のタペ、黒餅米のタペ、そしてタペ・シンコン入りです。

それから、ドリアンのアイスクリーム。これに、黒餅米のタペは必須です。

ドリアンアイスクリームとタペ Bandung_West Java, 2017

ドリアンの、もしくはエスの椰子糖とココナッツミルクのような濃厚な甘さに、タペの酸味はよく合います。

また、これは西スマトラのブキッティンギで食べたラマン・タペ(Lamang Tape/Tapai)というもの。

ラマン・タペ Bukittinggi_West Sumatra, 2016

ココナッツミルクを加えてバナナの葉と竹を使って蒸した餅米に、たっぷり黒餅米のタペをかけたもの。
つゆだくです。タペ好きにはたまらない。

実際に食べたことはないのですが、このライスケーキ+餅米のタペという組み合わせはロンボクにもあるようで、
ポテン・ジャジェ・トゥジャック(Poteng Jaje Tujak)と呼ばれているそうです。
ポテンというのがタペのことらしいですね。こちらは、白餅米のタペが主流のようです。
ポテン・ジャジェ・トゥジャックは、イスラムの断食明けの大祭の折りなどに食べられるとか。
ロンボクに限らず、ざっと見た限りでは、
南カリマンタンや南スラウェシなどでも、同じようなシチュエーションでタペを用いることがあるらしく、
そう考えると、餅米のタペというのは「ハレ」の食べ物と言えるのかもしれません。
(タペ・シンコンは、より日常的な「ケ」の食べ物ですね)

ちなみに、タペはアルコールを含むのにイスラムの大祭で食べていいのか?という疑問もあるかもしれませんが、
まあ、いいんじゃないでしょうか(笑)。
タペというのは、イスラムの習慣が定着しその戒律が浸透していくよりも先にあった土着の食べ物であり、
信仰が伝搬していったその先で、土地固有の食べ物や習慣などと混ざり合っていくというのは当然で、
なので、一般的なビールやお酒などのアルコールは避けるムスリムであっても、タペは除外される。
そういうのは、ありなんじゃないかなと、わたしは思います。異教徒ですが。

タペ入りエス Bandung_West Java, 2017

また、これはインドネシア的なタペの食べ方とは異なりますが、
日本人的な観点からみると、この餅米のタペ、味醂みたいなんですよね。
なので、和食をつくる時にタペを投入、というのは結構よくやっています。味に丸みがでて美味しいんです。
ジャカルタの情報誌「+62」のサイトに、このタペ活用方法の記事があります。
インドネシアの発酵食品 タペの実力
わたしもレシピを出させていただいた記事です、ご参考ください。
(タペ、はじめて食べたら「うっ」となるかもしれないけど、慣れたら美味しいですよ。笑)



2017/01/20

タペ/Tapai(Tape) ①

タペ・シンコン Bandung_West Java, 2017

インドネシアのあまーい発酵食品、タペ。

TapaiもしくはTapeと言われるでんぷん質を発酵させたもの。
シンコン/Singkong(キャッサバ)を使ったものと、餅米/Ketanを使ったものの2種類があります。
わたしが住んでいるバンドンをはじめとした西ジャワ州は、タペ・シンコンの名産地。
土地の言葉で、プユン/Peuyeunとも呼ばれます。
バンドンもしくは西ジャワに行ったらプユンをお土産に、というのは昔からの定番らしく、
観光客がよく来るエリアなどでは、上の写真のようにタペ・シンコンを売っている行商さんをみかけます。

シンコンはでんぷん質を多く含む芋の一種(そのデンプンから出来るのがタピオカですね)。
ラギと呼ばれる菌を加えて発酵させたシンコンをそのまま口に含むと、
確かな発酵臭と酸味、そしてしっかりとした甘みがあります。
バンドンのタペ・シンコンは長く、表面が白っぽく粉を吹いているのが特徴。

タペ・シンコン Bandung_West Java, 2017

店先に吊り下げるようにして売られていることもあるくらい、固めの仕上がりです。
行商のおじさんたちは、発酵の度合いによって売り分けていて、
「今日すぐ食べるならこっち、明日くらいに食べごろになるのはこっち」と教えてくれます。

バンドンの道ばたもしくは市場などで売られているタペ・シンコンはローカルなものですが、
スーパーマーケットに行くと、なぜかキレイに包装された東ジャワのクディリ産のものがあったりします。

タペ・シンコン Bandung_West Java, 2017

中〜東ジャワでは、タペ・シンコンは短めに作られている場合が多いのだそう。
そして、バンドンのもののような白い粉を吹いたものではなく、全体にもっとしっとりとして、
つまむとしゅわっと指が沈むほどに、ふんわり柔らかく発酵しています。吊るすなんてムリなくらいに。

クディリ産タペ・シンコン Bandung_West Java, 2017

口に含むと、舌触りも滑らかで、まるで洋酒を混ぜたカスタードのような甘さと香り。

好みの出るところですし、どちらも甲乙つけがたいのですが、
強いて選ぶなら、わたしはバンドンのしっかり目のタペ・シンコンを選びます。
よく蒸されたお芋のような食感が好きです。

で、そのタペ・シンコン。どのように食べるのか。
「そのままでも美味しいよー」と、行商のおじさんはいいます。確かに。
バンドンや、もう少し山側のレンバンでよく見かけるのは炭火で炙ったもの。

タペ・バカール Lembang_West Java, 2015

タペ・バカール/Tape Bakarと言います。
芯の部分にあたる固い繊維質の部分を除いて軽く押しつぶしてから、表面に焼き色がつくまで炙るのです。

タペ・バカール Bandung_West Java, 2016

で、そこにココナッツ+椰子糖のタレとピーナッツをかけて食べます。素朴なおやつ。

続いて、これはバンドンに限らずで、よくあるのは、エスの具として使われる場合。

エスの中のタペ・シンコン Jakarta, 2015

エス/Esは「氷」を意味するインドネシア語ですが、具沢山かき氷のこともエスと呼びます。
甘いシロップやココナッツミルクの中にうかぶ、つるんとした食感の具たちのなかで、
この微かな発酵味と芋っぽいテクスチャーがあることで、食べ応えがでます。

もうひとつは、焼き菓子にしてしまうパターン。

タペ・シンコンのケーキ Bandung_West Java, 2017

滑らかなピュレ状にしたタペ・シンコンを、バターたっぷりの生地で焼いたもの。

タペ・シンコンのケーキ Bandung_West Java, 2017

スイートポテトにも近いような、しっとりとした焼き菓子です。

仲のいい料理好きの友人は、バターでかりっと焼き上げたタペ・シンコンにミルクカラメルをかけ、
そこに更にバニラアイスクリームを添えて、ディナーのデザートとして出してくれたことがありました。
お腹いっぱいなのにこの高カロリーデザートって!と思ったのに、結局、完食してしまったんですよね。
なんて危険!ということで、今でも覚えているくらいに美味しかったけど、自分では作っていません(笑。

タペ・シンコン Bandung_West Java, 2017

一般的に、タペ・シンコンは西ジャワを中心としたジャワ島が主な生産/消費地だと言われますが、
調べてみると、スマトラでは作られているようです。
南スマトラのランプン、そして西スマトラのブキッティンギなどが出てきました。
ブキッティンギでは(今は知りませんが以前は)タペそのものよりも発酵の際に採れた液の方を好んだのだとか。

タペ自体の発祥地はどうやらインドネシアのようですが、
シンコンのタペは、マレーシアやフィリピン辺りにも見られるんですって。
叶うのであれば、いつか食べ比べしてみたいです。

ということで、タペ・シンコン。
長くなってしまうので、餅米のタペについてはまた次に。

2017/01/17

ジャグン・ボセ/Jagung Bose

ジャグン・ボセ Bandung_West Java, 2017

トウモロコシのお粥です。

ジャグンはインドネシア語でトウモロコシのこと。
東ヌサトゥンガラ州からの最後のごはんは、ジャグン・ボセというお粥です。

市場のトウモロコシ Rote_East Nusa Tenggara, 2016

インドネシア、実はトウモロコシの生産量が結構あります。
データによると、世界で8位くらいの生産量とか。

とは言え、こういうデータに載ってくる数字が果たしてどこまで正確なのかというのが怪しいものインドネシア。
なので、まあその前後と思って、世界10位以内というくらいでしょうか。
ASEAN諸国の中では第一位のようです。

インドネシア国内でのトウモロコシ栽培地を見ると、最大は東ジャワ。
そして、中部ジャワ、南スラウェシ、南スマトラ、北スマトラ、あたりが主力となるようです。
東ヌサトゥンガラは量ではこれらの地域には及びません。

市場のトウモロコシ Rote_East Nusa Tenggara, 2016

ただ、これら規模の大きな産地で作られるトウモロコシの大部分は、飼料としてのトウモロコシ。
実際、大規模畜産もこれらの地域に多く集り、それはやはりトウモロコシを当て込んでのことだと思われます。
(とはいえ、東ジャワ料理にもトウモロコシご飯とかあるのですが)
食料としてのトウモロコシの消費量、という観点に切り替えると、
東ヌサトゥンガラ州(の、特に農村部)は、インドネシア有数のトウモロコシ消費地域となります。

東ヌサトゥンガラ州は、多少の地域差はあるものの、乾燥がちの痩せた土質の島々が多く、
米などの作物栽培可能な期間は雨季の3-4ヶ月間だけ、という地域も少なくありません。
そういう環境下にあって、稲ほどの多くの水量や灌漑が必要でなく、
その短期間に収穫可能なトウモロコシというのは非常に条件に合った作物。
今回訪れたのがちょうど雨が降り始めた季節だったこともあり、
畑のみならず家々の庭にも、沢山のトウモロコシの苗が植えられていました。

市場のトウモロコシ Rote_East Nusa Tenggara, 2016

野菜としてのトウモロコシではなく、主食としてのトウモロコシ。
おやつにも、潰したトウモロコシのチップスや、ポップコーンなどが出てきたりします。

市場にも、乾燥させたトウモロコシがずらっと。
その中で、白い実に赤い豆を混ぜて売られているのがありました。
おばちゃんに「これは?」と聞くと「ジャグン・ボセ」との答え。
「ジャグン・ボセって?」「ジャグン・ボセはジャグン・ボセなのよ」としか返ってきません。
むう。

とりあえず、1カップ分買ってみることに。そして、後から検索。
白いのは脱穀しているから。お粥のようにして食べるらしい、と判明しました。

市場のトウモロコシ Rote_East Nusa Tenggara, 2016

と、クパンで泊まっていた宿のママがジャグン・ボセを作れる、との朗報。
結局、滞在中は、忙しかったり雨が降ったり(地面も薪も濡れてしまって)で作ってはもらえなかったのですが、
作り方を教えてもらってきて、バンドンのわが家で挑戦しました。

ジャグン・ボセ Bandung_West Java, 2017

ママのアドバイスは以下の通り。
- たっぷりの水で柔らかくなるまでじっくり煮ること。
- 浸水はしない(した方が早く煮えるけどね、美味しさが逃げちゃうの。とのこと)。
- 一緒に炊くのはカチャン・ナシ/Kacang Nasi。

カチャン・ナシとは。ナシはインドネシア語で「ごはん」を意味するんです。
ごはん豆?
調べてみると、確かにライスビーン/Ricebeanという名の豆。日本語ではツルアズキと言うそうです。

ということで、いざ。分量なしのレシピもせっかくなので(レシピってほどのものですらないのだけど)。

【ジャグン・ボセ】
脱穀した干しトウモロコシ
ツルアズキ

ココナッツミルク


1.煮る
たっぷりの水を湧かし、トウモロコシとツルアズキを煮る。
弱火でじっくり、柔らかくなるまで。途中、水分が少なくなってきたら随時適量を足す。

2.味付け
ココナッツミルクと塩を加えて、味を整える。
出来上がり。

検索すると、ターメリックを使ったものや、カボチャを入れるもの、豆の種類が多いもの、あるのですが、
ママの教えの通りの一番シンプルな作り方でやりました。
(「そのものの味があるから塩はなくてもいいわよ」とすら言いましたからね、ママ)
ジャワで豆のお粥というと、甘く煮た緑豆のものが一般的で、
なので、どうにも砂糖やシナモンやパンダンリーフなどを入れたくなってしまうのですが、耐えました。

ジャグン・ボセ Bandung_West Java, 2017

食べてみます。
トウモロコシは、いわゆるスイートコーンのようなものではなく、もっと粘度の高い品種です。
ココナッツミルクが入っているとは言え、噛めばトウモロコシの味と豆の味。
素朴な味。
まあ、例えば毎日の朝ご飯として食べるものだと考えたら、このくらいシンプルでちょうどいいのかも、とも。

で、出来上がったところで、クパンのTに「これで合ってるんだろうか」と写真を送ってみました。
(写真では味は分からないんだから、あんまり意味はないのかもしれないんですが)
で、このボウルの半分ほど食べたところで、Tから返信が。
「潰した唐辛子とクマンギとライムと塩のシンプルなサンバルで食べるのが好き」
とのこと。

即作りました。

シンプルサンバル Bandung_West Java, 2017

唐辛子は赤く熟れたチャベ・ラウィットを。他は目分量で適当に。
そして、このサンバルを加えて、再びジャグン・ボセ。

美味しくって、思わず声を出して笑ってしまった。

素朴で地味だったトウモロコシのお粥が、唐辛子と塩によって締まりがでて、クマンギとライムで爽やかに。
素晴らしいですね、このシンプルなサンバル。ついおかわりしてしまいました。

こうなると、俄然また作りたくなります。
でも、脱穀したトウモロコシが果たしてバンドンで手に入るのかが問題です。
普通の乾燥トウモロコシを買って、自力で脱穀ってできるものなのかどうか。悩ましい。

ジャグン・ボセ Bandung_West Java, 2017

インドネシアの東側、特にヌサトゥンガラ諸島界隈には、
例えばジャワやスマトラにあるような食文化は、あまり期待していなかったんです、実は。
これまでも東ヌサトゥンガラ州には何度も足を運んでいて、土地として大好きなのですが、
その際に食べた食事の印象がそう思わせていたのでしょうね。
反省します。
確かに、他の地域のように多種多様のスパイスや食材を使う訳でもなく調理方法も至ってシンプルなのですが、
それがここの土地の食事の魅力なのだなと、気づきました。
また今度行く時には、どこかのお宅のキッチンに入り浸ってあれこれ教えてもらいたいなと思います。


2017/01/14

イワシのラワール/Lawar Sarden

イワシのラワール Kupang_East Nusa Tenggara, 2016

お酢で〆た魚料理を東インドネシアで教わりました。

これもまた、年末年始を過ごした東ヌサトゥンガラ州クパンでの話しです。

ラワールというと、一般的にはバリ料理のイメージが強いかもしれません。
バリのラワールは色々な野菜やココナッツと、刻んだ肉などを合わせて味付けをした家庭料理。
(美味しいんです。いずれまた書きますね)
対してクパンのラワールは生の魚がメインで、香草やシャロットなどをぱぱっと加えたもの。
混ぜ合わせる料理という意味では似ていますが、バリのものに加えてずっとシンプルな印象です。

特徴は、火を使わず酢を使うこと。

インドネシアでここまで酸味がはっきりした料理は初めて食べたかもしれません。
一般的に、特にジャワの人たちは、酸味があまり得意ではなく、
なので酸っぱい料理と言っても、塩気や甘味に酸味を足した程度のもので、至ってマイルドなのです。
それを受けて「インドネシア人は酸味が苦手」と思っていたのですが、
ホント、一概に言ってしまってはいけませんね、このイワシのラワールは酸味を全面に出しています。

ということで、分量なしですが作り方を紹介します。
これも、焼き茄子のサンバルを作ってくれたTとAのレシピです。

【イワシのラワール】
小イワシ(生)/Ikan Sarden (mentah)
酢(できればロンタルの)/Cuka (cuka tuak)
シャロット/Bawang Merah
クマンギ/Kemangi
唐辛子(チャベ・ラウィット)/Cabai Rawit
塩/Garam

1.イワシの頭を除く
小イワシを真水にとって、頭を取り除く。

小イワシ Kupang_East Nusa Tenggara, 2016

暗い中で光るようなイワシの目。これ、まんま煮干しの顔ですね。

2.酢に漬ける
頭を除いた小イワシをざっとすすいで水気を切り、ひたひたの酢に漬けてしばらくおきます。

小イワシ Kupang_East Nusa Tenggara, 2016

しばらく漬けると、半透明だった身が白くかわってきます。酢〆ですね。
そうしたら、漬けていた酢を一旦捨て、改めてひたひたくらいに酢を注ぎ入れます。

3.味付け
そこに、刻んだ唐辛子、シャロット、クマンギの葉を加えて混ぜ合わせます。
味を見ながら、酸味が尖りすぎていれば塩を足し、全体が馴染むまでちょっと待って、出来上がりです。

イワシのラワール Kupang_East Nusa Tenggara, 2016

使うお酢がロンタルの酢だと、更に美味しいです。

実は、このイワシのラワール、2度作ってもらったんです。
最初は普通のお酢。日本の米酢より更に尖った酸味の、インドネシアの合成酢です。
そして翌日、近所のお家でロンタルのお酢を分けてもらって、再度。
ロンタルのお酢はこちらでも書きましたが、樹液をそのまま発酵させて作ったもの。
角の取れた、丸い酸味なんですね。
なので、ロンタルのお酢で作ったラワールはまるっとした味わいです。
尖った酸味のものも美味しかったんですけどね。
米酢でも美味しいんじゃないかと思います。

イワシのラワール Kupang_East Nusa Tenggara, 2016

これを作り始めたのが、夜の22時頃。
ボウルいっぱいのラワールをちびちび食べながら、ロンタルの液糖を水で割ったものを飲む。
合うんですよ、これが。
なんか、お酒飲みながらアテをちびちび、というのと同じですね。
そんな時間に、水で割ったとはいいながら液糖を飲んでいるというのも、ちょっとアレなんですが。

思い出したら、また食べたくなってきました、イワシのラワール。
小イワシに限らず、新鮮で小振りな魚ならなんでも美味しそうです。
山の街バンドンではなかなか難しい食材ですが。


2017/01/06

ロンタル/Lontar

ロンタルの木 Rote_East Nusa Tenggara, 2016

ここ数年のあいだ偏愛してきた木、ロンタル。満を持して(?)のご紹介です。

なんでこんなに惹かれるのかわからないのですが、ロンタルの木が大好きで、
今回の旅行先だったロテ島も、そもそも一番最初に行きたいと思ったのは「ロンタルがあるから」でした。
思い入れの分だけ長めの記事になりますので、お時間ある時にどうぞ(笑)。

さて、ロンタル。
英語ではPalmyra、日本語ではパルミラヤシもしくはオウギヤシと言われています。
原産は熱帯アフリカ、東南アジアからインドにかけて栽培されている椰子の一種です。
カンボジアのアンコールワット周辺でも、いっぱい目にしました。
遺跡と共にポストカードめいた風景を作り出している椰子の木、あれがロンタルです。
インドネシアでは東ヌサトゥンガラ及び南スラウェシに多く、
乾燥が強い土地でよく育つため、石灰質の島にも沢山植えられています。
逆に、湿度の高い森や山側ではあまり見かけず、
その辺りにはアレン/Arenというサトウヤシが多くなります(アレンのことは、また後日まとめますね)。

ロンタルの森 Rote_East Nusa Tenggara, 2016

ロンタルは、ジャワからバリにかけてはシワラン/Siwalanとも呼ばれ、
インドネシア語のロンタルは、ジャワ語のRon(葉)+Tal(パルミラヤシ)から来ているのだとか。
ちなみに、Talはインド名でもあり、
恐らくはそちらが先でジャワに入って来たのが、その後インドネシア語化したのでしょう。

そのロンタル。今回訪れたロテ島や、その隣のサヴ島では「生命の木」とも言われ、
島の暮らしのあらゆる部分で、ロンタルの木が活用されています。

黄色:サヴ 水色:ロテ 赤:クパン

食べ物についてのブログですので、まずはその「食」における活用について。

ロンタルと言えば、砂糖、です。

ロンタルの砂糖3種

パームシュガーですね。樹液を煮詰めた液糖、固形と粉末の3つのタイプがあります。

砂糖を作るためには、まずは樹液採取。
木のてっぺんにある花軸を削ぎ、そこから滴る樹液をバケツにため、日に2度(朝と夕)回収します。
高いもので樹高30mにもなるというロンタルの木ですが、その木のてっぺんまで登るのは男性の仕事。

ロンタル Rote_East Nusa Tenggara, 2016

足場がついてるの、わかりますか?
この足場もまたロンタルの葉と葉軸を活用したものです。
人によりますが、一人前ともなれば30〜50本の木を日に2度ずつ毎日登るのだそうです。
かなりの重労働。

樹液採取 Savu_East Nusa Tenggara, 2011

この写真はサヴ島で樹液採取の見学をさせてもらったときのもの。
比較的若い木で樹高もそれほど高くなかったので、下から見ることが出来ました。

樹液採取 Savu_East Nusa Tenggara, 2011

おじさんが手で押さえているのが花軸を束ねたもの。この先端をナイフで削ぎ樹液が出やすくします。

樹液採取 Savu_East Nusa Tenggara, 2011

削いだ花軸たちに樹液を受け止めるバケツ(これもまたロンタルの葉製)を被せ、

樹液採取 Savu_East Nusa Tenggara, 2011

そのバケツにまたロンタルの葉で編んだバスケットをかぶせて仕込みは終了。

樹液採取 Savu_East Nusa Tenggara, 2011

半日後にまた木にのぼり、回収します。

ニラ Savu_East Nusa Tenggara, 2011

こうして採った樹液がニラ/Niraと呼ばれるもの。
うっすらと白濁し、微かに発泡味のある、甘い樹液です。
発泡しているのは発酵が始まっているから。少し乳酸風の味がするのもそのせいでしょう。
砂糖を作る場合は回収してそのまますぐに火にかけて煮詰めていくのですが、
ここで火にかけずに発酵が進んだものがトゥアック/Tuakと呼ばれるパームワイン。
更に発酵すると、お酢になります。

樹液を煮詰めていく作業は、今度は女性たちの仕事。

かまど小屋 Rote_East Nusa Tenggara, 2016

庭の片隅から煙が上がっている家があれば、それは液糖を作っているしるし。
かまど小屋があります(小屋の屋根もまたロンタルの葉)。

液糖のかまど Rote_East Nusa Tenggara, 2016

2穴のかまどの下には、ロンタルの葉軸の根元側を燃料として赤々と火が焚かれていました。

この時(12月末)は既に雨季に入っていたため、樹液収集の時期はほぼ終了。
最盛期と違い数本からのみ採っていたため、数日に渡ってその都度樹液を足しながら液糖作りをしていました。
その数本もそのうちに終了するのでしょうね。
樹液採取と液糖作りは基本的に乾季の間の仕事となります。
雨季になると雨水が混ざってしまうから、というのももちろんありますが、
それ以前に、雨で濡れた状態であの高い木に登るのは、あまりにも危険です。
なので、雨が降り始めてからの3〜4ヶ月間は砂糖作りはお休み、お米作りの季節になるのだそうです。

液糖のかまど Rote_East Nusa Tenggara, 2016

そんなわけで、液糖作りにぎりぎり間に合った今回のロテ島訪問。
通りすがりながら、数件のお宅にお邪魔してかまどを見せてもらい、色々教えてもらった上に、
5Lのポリタンク1つ分を売ってもらいました。
液糖はそのまま、グラ・アイル/Gula Air(液糖)と呼ばれています。

ロンタルの液糖 Rote_East Nusa Tenggara, 2016

ロンタルの液糖は、わたしが住んでいる西ジャワではまず手に入らない貴重品。
なので、大事にもって帰ってきましたよ、5L。

同じロンタルの液糖でも、ロテ島のものとサヴ島のものではまた違いがあります。
ちょうどクパンの友人がサヴの液糖も分けてくれたので食べ比べてみました。
味に関しては、恐らく樹液採取のタイミングだったりで差が出るでしょうし、
単純に島と島の違いとして比較することは出来ないと思うのですが、
サヴの方が粘度が高く、糸を引くくらいにとろっとしているのが特徴です。
対するロテの液糖は緩やかな蜂蜜、という感じです。

ロテの液糖

こうして手に入れたロテの液糖の味とは。

蜂蜜のようでもあり、キャラメルのようでもあり、レモンシロップのようでもあり。
とても複雑な味なのです。
口に含んだ最初に感じるのは、キャラメルに近い若干塩気すらあるような味なのですが、
そのすぐ後を追うようにして、ロンタルの樹液でも感じた酸味が立ち上がってきて、爽やかな後味。
全く精製されていない、白砂糖の対極にあるような、色んな雑味が混ざったこの味が、わたしは大好きです。

この液糖を作っていたお家の奥さんとご主人は、自分たちも毎朝液糖を飲むのだそう。
身体にいいし、胃炎などはすぐ治るよ、とご主人。
このお家に限らず、ロテでは毎朝液糖を摂っている人はたくさんいるようです。

一方のサヴでは、米が育ち難い土地でもあることから、以前はロンタルの液糖が主食だったのだと聞きます。
今でも、米、トウモロコシに次ぐ代替主食の位置にあるようですし、
その昔、サヴを訪れたクック船長はそのロンタルの液糖の美味しさに滞在を延ばしたとかなんとか。

そんな液糖は、島内の市場などで売られているほか、ロテから船でスラウェシまで売りに行く人たちもいます。
また、ソピ/Sopiと呼ばれる地元の蒸留酒の原料として買い付けられる場合もあるそう。
ロンタルというのはなかなかに実利をもたらす農作物なのだと言います。

さて、その液糖から作られるのが、固形の砂糖と、粉末の砂糖。
固形の方は、グラ・レンペン/Gula Lempeng、粉末の方はグラ・スムット/Gula Semutと呼ばれます。
レンペンは平たい、スムットは蟻、という意味です。

椰子の実の鉢 Kupang_East Nusa Tenggara, 2016

グラ・レンペンとグラ・スムットを作る際に使う椰子の実の鉢を、
クパンに住むロテ人のお家で見せてもらいました。
この鉢の中に液糖を入れ撹拌し、輪にしたロンタルの葉の枠に流し込んで固めたのがレンペン。

レンペンの輪 Kupang_East Nusa Tenggara, 2016

旅の間、丸い板状になった砂糖を小さく割って時々食べていました。チョコレートのように。
暑さや移動でたまった疲れが癒されるような、しみじみと沁みていく美味しさなのです。
たまたまロテ島で一緒になったカナダ人女性にグラ・レンペンを一つ分けてあげたところ、早速味見をし、
「あら、メープルシュガーみたい」と言いました。
確かに、作っていく過程も含めて、似ているかもしれません。

さて、グラ・レンペン用に固い液状になったところから、
また更に撹拌を続け、すっかり固まったのを細かく粉末にしたのが、スムットとなります。
なんで「蟻」なのか。
蟻が巣を作る時に出す土のかたまりに似ているから、なんだそうです。

実は、このクパンのロテ人のお宅には、ロンタルのお酢をもらいに行ったのでした。
液糖にするために煮詰めず、採取したニラをそのまま置いておくと発酵が進み、最終的に酢になります。
その酢を少し分けてくださいな、とお邪魔したところ、
これまた5Lのポリタンクを「いいから全部持っていけ」と分けてくれました。気前のいいこと。
これまた西ジャワ的には貴重なものなので、ペットボトルに移して少し持ち帰ってきました。

ロンタルの酢

色味は液糖と変わらないのですが、さらさらとした液状で、はっきりと発酵臭を感じます。
舐めてみると、なんとも丸みのある柔らかいお酢。
酸味の尖りがなく、ロンタルの甘さがふんわりと残っています。
ロンタルのお酢で魚を料理したりするんだよ、とは、ロテのお母さんの弁。
いつか、ロテのお母さんの所にホームステイして料理を教えてもらいたいものです。

さて、樹液とその加工物以外の可食部分と言えば、実ですね。
(新芽も食べるところがあると聞いたのですが、未確認なのです)

ロンタルの実 Kupang_East Nusa Tenggara, 2016

小さな椰子の実のようでもありますが、割ると中からジェリー状の果肉が出てきます。

ロンタルの実 Kupang_East Nusa Tenggara, 2016

微かな甘さと弾力のある食感が美味しいです。

さて、食材としてのロンタルを長々と書いてきましたが、
せっかく(?)なので、食材として以外のロンタルの活用についても駆け足で説明させてください。
「生命の木」と言われるだけのことはあり、捨てるところのない、その全てが活用されるのがロンタルなのです。

まずは、その葉。

樹液を煮詰めるかまど小屋の屋根もそうですが、乾燥させて屋根を葺くのに使われます。

ロンタルの林の中のロンタルの家 Rote_East Nusa Tenggara, 2016

このお家は、壁までロンタル。回りもロンタルに囲まれていて、なんだかツワモノ感。

ロンタルの葉のカゴたち Rote_East Nusa Tenggara, 2016

そして、カゴたち。同じ感じでゴザなどの敷物も編みます。

ロンタルの葉 Savu_East Nusa Tenggara, 2011

では、葉を舟形にしたこれは何でしょう。

製塩 Savu_East Nusa Tenggara, 2011

塩を作るのに使っていたのでした。
海水を注ぎ、水分を蒸発させて結晶化させます。

塩 Savu_East Nusa Tenggara, 2011

塩を入れるバケツもロンタルの葉(ハイ/Haikと呼ばれます)。

その他、ロテの男性が民族衣装を着用する際に被る帽子もロンタルの葉から作られていたり、
ロテ〜ティモール島で使われるササンドという楽器もまた、ロンタルの葉を活用したものだったりします。

そもそもこのロンタルの葉というのは、硬くて丈夫。
その昔は文書を記す素材として使われていました。貝多羅葉と言われるものですね。
西ジャワ地方の慣習村のような所で見られる古文書も、ロンタルの葉が使われています。
また、バリ島は今でもお祝いの際に掲げる飾りなどにロンタルの葉を頻用し、
それ用の素材として、ロテの村から葉っぱをバリに出荷していたりもするのだそうです。

そうして葉の部分を使った、その残りの葉軸の部分を家の垣根に活用しているのをロテで沢山目にしました。

葉軸の垣根 Rote_East Nusa Tenggara, 2016

この垣根にするために切りそろえた葉軸の根元の部分は、樹液を煮詰めるかまどの燃料です。
木そのものは、まっすぐに伸びた丈夫な建材としても使われます。
全ての部分が余すことなく活用されるロンタルの木。
東ヌサトゥンガラの乾いた島に生きる人たちにとって、生活に密着し共に生きていく植物なのです。

最後にもう一つ、おまけ。せっかく(??)なので、カンボジアのロンタル砂糖を。

ロンタル砂糖 Siem Reap_Cambodia, 2014

アンコール遺跡の並ぶシェムレアップ郊外で、ロンタルの樹液を煮詰め型に入れて売っている一角がありました。
なにせ、ロンタル好きなものですから、そういうのは見過ごせず、立ち寄って見学。
(ミャンマーでもロンタルだ!と停止したことがあります)

ロンタル砂糖 Siem Reap_Cambodia, 2014

煮詰めてだいぶかたくなったものを、やはりロンタルの葉で作った型に流し込んでいました。
輪の作り方は同じですが、カンボジアのものはだいぶ小さいですね。
これもいわゆる、グラ・レンペンです。この時も、旅行中時々この砂糖を齧っていました。

ということで、これで終わりにします。
ロンタル愛が溢れてしまうので、書きだしたらキリがない。
なんでこんなにロンタルが好きなのかわからない、と最初に書きましたが、
この木の、島の人々の暮らしに密着しているその感じが、なんとなく好きなのかもしれません。
共に生きていく植物としての、ロンタル。
すっと高く伸びて、今日もザワザワと風に葉を揺らしているのでしょう。

ロンタルの木 Rote_East Nusa Tenggara, 2016