2019/10/28

スープ③/Soto dan lain-lain

サウト Tegal_Central Java, 2019

インドネシアのスープについては、以前にも書いているのですが、→ 
先日、ジャワ島北岸を旅しながらスープを食べ歩いたので、また少し(ではないかも)。


インドネシアの中の、ジャワ島。
スープ②の記事でも触れましたが、インドネシアでソト/Sotoと呼ばれているスープの源流は中国にあると言われ、
インドネシアでは、ジャワ島の北岸にあるスマラン/Semarangという街から広まったという説があります。
起源については諸説あり、断言はできないものではあるのですが、
このジャワの北岸というのは、インドネシアの中でも早い時期に中国からの移民が入った土地であり、
現在も華人が多く暮らし、かつ、スープのバリエーションがとりわけ多い地域ではあります。

まず、その中国の流れを強く感じるスープ、サウト/Sautoから。
サウトは、テガル/Tegalという街の名物。


ソト・タウチョ/Soto Taucoの略がサウトだと言われています。
タウチョ/Taucoはこちらでまとめたことがありますが、インドネシア版豆豉、もしくは豆味噌。
中部ジャワ北岸の街は産地ということもあり、スープにもタウチョが使われます。

サウト Tegal_Central Java, 2019

鶏と牛で選べたので、牛(スジ入り)をオーダー。
辛味の効いた旨味赤出し、のような感じ。牛ベースなのでコクがしっかり。

サウト Tegal_Central Java, 2019

ご飯は底に入っていて、既に汁かけ飯状態。
さっと湯がいたもやし、青ネギ、揚げシャロットがトッピングされています。

このテガルから東に行ったペカロンガン/Pekalonganという街でも、タウチョを使ったスープがあり、
そちらは、Tautoと呼ばれています。

つづいて、ソト・クドゥス/Soto Kudus。
その名の通り、クドゥスという街の名物スープです。


せっかくなので、と、地図を貼っていってますが、正直違いがあまり分からないかもしれません。
ちょっとずつ位置が違うんですよ…。

で、ソト・クドゥス。

ソト・クドゥス Kudus_Central Java, 2019

チキンベースをオーダー。
これも、お碗の底にご飯が沈んでいて、もやしが入っています。
香りはネギではなく、葉セロリ。
また、これは店によるのですが、トッピングが揚げシャロットではなく揚げニンニクの場合があり、
通常、香りが強すぎるためあまりニンニクを前面に出さないジャワにあって、
ルーツである中国系の嗜好を残していると言えるのではないかという話しも耳にします。
実際、華人の影響が強くみられる西カリマンタンの料理には、揚げニンニクがよくトッピングされていますしね。
あ、あと、ソト・クドゥスはレンゲで食べるのが普通で、
通常はスプーンを使うインドネシアの中で、やっぱりちょっと中国っぽい、と思わせる部分であったりします。

このソト・クドゥスは、一般的なジャワのソトの基本形のようなスープだとわたしは思っていて、
使う材料も、ガランガル、シャロット、ニンニク、生姜などの基本のブンブに、
スパイスは胡椒、コリアンダーシード、ターメリック、キャンドルナッツ、レモングラスなど、比較的シンプル。
この中では、ターメリックが北岸のソトの特徴かもしれません。だいたい、黄色みを帯びています。
ただ、東ジャワのソトに比べるとやや甘みがあるのがソト・クドゥス。
そのやや甘い旨味スープに、ライムをぎゅっと絞って食べるのが至福。

サテ Kudus_Central Java, 2019

また、ソト・クドゥスはポーションが小さめなのも特徴。
テーブルに並べられているサテなどをとって、ボリュームを調整します。

もうひとつ、ソト・クドゥスにまつわる話しとして、
元々は水牛を使ったスープだったというのも興味深い話し。

ソト・クドゥス Kudus_Central Java, 2019

この時食べた店でも、鶏でなければ水牛のソトになります。

クドゥスから、西はペカロンガンのあたりまでの地域では、
牛を屠殺することは長くタブーとされてきたという背景があり、その影響なのだとか。
これらの地域は、16世紀以降イスラム化が進むより前は、ヒンドゥー教が栄えていた土地。
イスラムが主流となった後も、ヒンドゥーで聖なる動物とされる牛を殺めることは禁忌としてきたその名残が、
現在でも、伝統料理に牛ではなく水牛が使われる傾向に見て取ることができます。

続いて、ソト・ラモンガン/Soto Lamongan。

ソト・ラモンガン Lamongan_East Java, 2019

クドゥスから更に進み、中部ジャワから東ジャワへ入ります。


ソト・ラモンガンはソト・アヤム/Soto Ayam、つまりチキンスープ。
わたしの中では、ソト・アヤムの王様という位置づけです。
せっかく王様の地元に来たので、ソト・ラモンガン・スペシャルを注文。
何が違うのかと思ったら、臓物ミックスでした。玉ひもとか。

ソト・ラモンガン Lamongan_East Java, 2019

ソト・アヤムの定番、春雨が入っていますね。

地鶏をじっくり煮込んだ濃厚なスープ、ターメリックの黄色がまた食欲をそそります。
そして、ソト・ラモンガンの特徴は、トッピングするこの粉末。

コヤ Lamongan_East Java, 2019

コヤ/Koyaと呼ばれるこの粉末は、揚げたエビ煎を砕いたもの。
タピオカ粉を使って作られるエビ煎なので、スープに落とすとややとろっとした食感になり、
それが丸い旨味となって、スープの味わいに厚みを加えるのです。

もうひとつ、同じ潮流にあるソトが、ソト・マドゥラ/Soto Madura。

ソト・マドゥラ Surabaya_East Java, 2019

実際に食べたのは、スラバヤ/Surabayaだったのですが、マドゥラ/Maduraはその北東にある島です。


ターメリックを使った黄色いスープですが、牛肉になります。
東ジャワに入ると、タブーもなくなり、かなりバンバン食べられています、牛。
ごろっとした牛肉にゆで玉子がソト・マドゥラの基本です。

これら、ジャワ北岸ソトの基本の流れにあるスープ(他にもまだあるのでしょうが)に対し、
ぐんとスパイスなどのフレーバーが豊かになるのが、ソト・ブタウィ/Soto Betawi。

ソト・ブタウィ Jakarta, 2019

ブタウィとは、ジャカルタ/Jakartaのこと。ソト・ブタウィはジャカルタを代表するソトです。


基本は牛肉と臓物、白いのはココナッツミルクや牛乳(時に両方)を使っているから。

ソト・ブタウィ Jakarta, 2019

ソト・ブタウィという名称で親しまれ始めたは1970年代後半だそう。
華人の営む食堂で売り出されたのが発祥だとか。

牛スープに、ニンニク、シャロット、生姜、ガランガル、というところまでは先のソトと同じですが、
ソト・ブタウィはそこに、
丁字、シナモン、クミン、胡椒、コリアンダーシード、チリ、レモングラス、コブミカンの葉などが加わります。
スパイス使いが賑やかになりますね(もちろん、店ごとに違いはあります)。
そして、盛りつけ時にフレッシュトマトと刻みネギを加え、濃厚なスープに軽さを出してバランスをとります。
加えて、ウンピン/Empingと呼ばれる揚げ煎餅も必須です。

ウンピン Jakarta, 2019

やや苦みのあるウンピンが、スープを吸って、カリカリとやわやわの間くらいの食感になっているのが美味しい。

ソト・ブタウィ Jakarta, 2019

かなりこっくりとしたソト・ブタウィですが、食べる時にぎゅっと絞るライムが爽やかさをプラスしてくれます。

ソトはどこでも基本的にライムを絞って食べるのですが、
こういうココナッツミルクの濃厚スープであれ、チキンベースのソト・アヤムであれ、
その酸味の加減というのが、なんとも心憎いほどいい塩梅。
インドネシアごはんにおける柑橘使いというのは、いつも感心してしまいます。

ライム Jakarta, 2019

スープの話しに戻って。

スパイス多用のスープとしてはもうひとつ、チレボン/Cirebonのウンパル・ゲントン/Empal Gentong。


ウンパル・ゲントン Cirebon_West Java, 2019

こちらもココナッツミルクを使った、牛ベースのスープではありますが、
でも、ソト・ブタウィよりは軽く、比較的さらりと食べられる味付け。
スパイス使いもソト・ブタウィに似ていますが、更にカルダモンやターメリックも加わります。

ウンパル・ゲントン Cirebon_West Java, 2019

散らしてあるのは、ニラです。
そしてスープのサンバルとしては、いや、スープじゃなくても、ちょっと珍しい粉末の乾燥チリをトッピングに。

チリ Cirebon_West Java, 2019

結構しっかり辛いです。

ウンパル/Empalとは、インドネシア語でいうところのグライ/Gulai(カレーのようなもの)で、
ゲントン/Gentongというのが、素焼きの鍋を指すのだそうです。
伝統的には、素焼きの鍋で最低でも5時間以上、
タマリンドの木(マンゴーの木という説も)を燃料に、じっくりじっくり煮込むのだそう。

実際、お店の前には煮立つスープが。

ウンパル・ゲントン Cirebon_West Java, 2019

そして、そのお鍋の向こうでは、牛肉を切り分けていました。

ウンパル・ゲントン Cirebon_West Java, 2019

この店に、そして牛に限った話しではないのですが、
スープをとるのに煮込んだお肉を、サーブする時に切る(つまり煮込んでいるときは大きいまま)というのは、
インドネシアではよく見られますね。
ソト・アヤムの具の鶏肉も、供する時に細かく割いてお碗にいれます。

このウンパル・ゲントンにはココナッツミルクを使わない、酸味バージョンもあります。
ウンパル・アセム/Empal Asemと呼ばれるもの。

ウンパル・アセム Cirebon_West Java, 2019

澄んだスープ。
この時は、ご飯ではなくロントン/Lontongと呼ばれるライスケーキに合わせ、そして臓物もプラス。
臭みもなく、食べやすく煮込まれていました。

ウンパル・アセム Cirebon_West Java, 2019

ウンパル・アセム Cirebon_West Java, 2019

酸味の元は、このトマトとナガバノゴレンシ(ブリンビン・ウルー/Belimbing Wuluh)。
タマリンドの酸味に比べるとマイルドですっきりした風味。

インドネシアの、特にジャワのひとたちは「酸味」が苦手というのはよく言われることではあるのですが、
酸味使いのスープというのも、実は結構あります。
このウンパル・アセムもそうですし、ジャカルタや西ジャワ地方発祥のサユール・アセム/Sayur Asemも。

サユール・アセム Jakarta, 2019

サユール/Sayurとは野菜のこと。
その名の通り、動物性のものは使わない、野菜のスープです。
立ち位置としては、サイド。
他のソトがメインメニューなのに対し、鶏料理などを頼んだ時に一緒についてくるような感じです。

サユール・アセムが生まれたのは、オランダの植民地であった時代だと言われています。
使える食材が限られる中、自生していたタマリンドを味付けに使い、少しのチリと椰子糖を加え、
手に入る野菜を具として料理したものなのだとか。
なので、使われる野菜に決まりはなく、今ではその土地ごとの味にアレンジされて各地で親しまれています。

ジャカルタのサユール・アセムでよく使われているのは、
若いジャックフルーツ、トウモロコシ、ハヤトウリ、長豆(ジュウロクササゲ)など。
そして、ピーナッツとムリンジョ/Melinjo(グネモン)と呼ばれる木の実。

サユール・アセム Jakarta, 2019

ムリンジョは東南アジアを中心に栽培、食用される植物。葉も野菜として使われます。
この実の外皮をむくと、中からドングリのような種がでてきて、
このドングリ(?)の殻を割った中にある胚の部分を食べるのですが、わたしは結構それが好きです。

サユール・アセム Jakarta, 2019

この胚を潰して乾かし、揚げたものが、ソト・ブタウィにトッピングされていたウンピンになります。

中部ジャワに戻って、スマラン/Semarangの名物料理に、アセム・アセム/Asem Asemがあります。


アセム・アセム Semarang_Central Java, 2019

牛ベースの酸味系。

ただし、酸っぱいだけではなく、辛くもあります。

アセム・アセム Semarang_Central Java, 2019

大中小の唐辛子が丸ごとゴロゴロと。
ケチャップ・マニスも使っているため、コクのある甘みも感じられ、
酸味はタマリンド、青トマト、ナガバノゴレンシの組み合わせゆえに、角のない穏やかな酸っぱさ。
牛の濃厚ベースに甘辛酸というこの組み合わせはクセになります。

そのスマランからやや西に行った、ペカロンガン/Pekalongan。


で食べたのは、ガラン・アセム/Garang Asem。

元々は中部ジャワでも、クドゥスに近いグロボガン/Groboganという土地が発祥と言われていますが、
各地に伝播するうちに、様々なバリエーションが増えた料理です。
元はスープではなく、バナナの葉に鶏やスパイス類を包んで蒸した料理だったのですが、
ここペカロンガンでは、ほぼ汁物という感じで出されます。

ガラン・アセム Pekalongan_Central Java, 2019

牛出汁に唐辛子をきかせた酸味スープという意味では、スマランのアセム・アセムに似ますが、
こちらは、さらりとした透明感のあるスープで、そしてクルアッ/Keluak(Kluwekとも)を使っています。
クルアッは、以前ブンブの記事の最後の方で触れましたが、インドネシア、マレーシア辺りで使われるスパイス。
ペカロンガンのガラン・アセムのクルアッ使いは比較的軽めで、アクセント使いのような。
けれど特徴的なスモーキーな風味はちゃんと生きています。

クルアッは、ジャワのこの地域で好んで使われるようで、
ペカロンガンではガラン・アセムの他、ピンダン・テテル/Pindang Tetelという料理でも使われていました。

ピンダン・テテル Pekalongan_Central Java, 2019

インドネシアでピンダンと言うと、塩漬けの魚であったり、
または南スマトラのパレンバン/Palembang名物の、魚の煮込みであったりというイメージですが、
このピンダンは魚は関係なく、牛ベース。
テテルとは細切れという意味らしく、牛の皮や余り肉などを刻み、クルアッを使って味付けした料理です。

ピンダン・テテル Pekalongan_Central Java, 2019

かつては、牛を避ける慣習がここペカロンガンまで及んでいたので、
このピンダン・テテルも、以前は水牛の肉で作られていたのだそうです。

部位で歯ごたえが変わる肉と、しゃきっとしたもやし、そして砕いた揚げ煎がトッピングされます。

ピンダン・テテル Pekalongan_Central Java, 2019

汁気を吸ってシュワシュワと音をたてているこの揚げ煎が、丸みのある味わいに仕上げます。

このピンダン・テテルをより濃厚にしたのが、東ジャワはスラバヤ発祥のラヲン/Rawon。


ブラックスープと言われるくらいに、黒々としたラヲンは、ビジュアルで損をしています。

ラヲン Surabaya_East Java, 2019

大きな揚げ煎で隠れてしまっている。

肉ベースのラヲン、調味料は、実は基本のソトの材料と大きくは変わりません。
スパイスが多種使われるわけではなく、ターメリックを含むベーシックなブンブ使いに、
クルアッと、そして肉の臭い消しとしてコブミカンの葉やレモングラスを加えています。

ラヲン Surabaya_East Java, 2019

揚げ煎をどけても、見栄えはしませんが…味は最高なんです。
発芽緑豆と鹹蛋(シエンタン、アヒルの塩卵)をトッピング。
中部ジャワから東ジャワに入ると、料理の味付けは甘みが減って塩気旨味が増すのですが、
このラヲンも東ジャワらしく、甘さのないくっきりとした旨塩系の味付けで、
牛出汁の濃厚さと相まって、いやほんと、美味しいんですよ。
見た目で判断しないでいただきたい料理ナンバーワンかもしれません。

ということで、またも長々と書き連ねましたが、要はジャワのスープは美味しいよ、ということです。


ソト屋の店先 Kudus_Central Java, 2019

ソトのルーツは中国に、とは言いますが、
各地のソトは十分にジャワナイズされていて、それはもうすっかりインドネシアごはんの顔をしています。
地元ジャワのブンブ使いや、同じくこの地域に移り住んで来たアラブ系の人たちのスパイス使いを取り込み、
こんなにもバリエーション豊かな、愛される料理となったのでしょう。

鶏碗 Cirebon_West Java, 2019

ジャワ北岸は海に近いだけあって、暑い土地です。
じりじりと暑い中、汗をかきかき食べるスープは、これがまたなかなかのもの。
あの沁み込むような美味しさを、ぜひ味わってみていただきたいです。


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