ラベル <ジャカルタ> の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示
ラベル <ジャカルタ> の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示

2021/05/17

ケチャップ/Kecap - 2

ケチャップ Jakarta_2019

ということで、インドネシアのソイソース、ケチャップについて、再び。
このブログを始めて間もない頃に、一度ケチャップについて書いているので、まずはそちら(→)をどうぞ。
 
ケチャップって、ご当地ものがすごく多いんです。
もちろん、大手がどかんと市場を大半を持っていってはいるのですが、
それでも、各地に世代を超えて続く家内制手工業的なケチャップメーカーがあり、地元の人に愛されている。
ケチャップ・ファナティックなひともいたりする。
となると、やはり、ケチャップってそんなに違うものなの?という疑問が生じます。

ので、味比べ。そう、今回はテイスティングです。

ケチャップ Bandung_West Java, 2021

続くコロナ禍でどこにも行けず、おうちにお邪魔してキッチンを覗かせてもらうなんてあり得ない状況で、
自宅にいながらにしてできること、ということで各地のケチャップを取り寄せたのでした。
ケチャップ・マニスをメインにして、10種類。せっかくなのでケチャップ・アシンも6種類。
選抜基準は:
・評判がいいもの
・歴史が古いもの
・手頃なサイズのボトルで販売しているもの
3つ目は、現実的な理由で。
試してみたかったメーカーは他にもあったのですが、大瓶でしか販売していないとか、多いんです。
もちろんできるのなら、大瓶で揃えたかったのですが、
(ケチャップ・コレクター(っているんですよ)も大瓶で揃えるのが基本、ラベルがかわいいから)
その後、消費しなくちゃいけないことを考えるとやっぱり無理…という苦渋の決断です。

では、選手紹介。

まずは、ケチャップ・マニスの定番、バンゴ/Bango。

ケチャップ・バンゴ Bandung_West Java, 2021


ケチャップ・マニスという調味料を知ったその時から「美味しいのはバンゴ」と刷り込まれているので、
わたしの中で、ケチャップ・マニスの味の基準はバンゴ。家でも常備していたのはずっとバンゴでした。

西ジャワ州のスバン/Subangで生産されていますが、発祥はジャカルタのタナ・アバン/Tanah Abang。
ラベルには1928年とありますが、実際にはそれ以前から製造販売はしていたようです。
中国の福建省からの移民であったご主人と、中国系3世の奥さんが、ガレージで甕から販売していたケチャップ。
当初は中国で使われている、日本の醤油と同系統の塩味のソイソース、ケチャップ・アシンのみだったのを、
奥さんが、ジャワの人の舌に合わせたケチャップ・マニスの製造を勧めたのが始まりだとか。
ロゴのバンゴはコウノトリのこと。世界に羽ばたくケチャップになることを夢見て名付けたのだそうです。

着実に評価を得て伸びてきたバンゴ、1992年にユニリーバの傘下に入ったのがきっかけでその販路を一気に拡大。
現在、インドネシアのケチャップ・マニスの市場は、
このバンゴと、もう一社、大手食品メーカーABCブランドで65%が占められていると言われます。
ロゴに込められた願いが現実となって、世界に羽ばたいているバンゴ。
それなのに、あれこれアイテムを増やすことなく、ケチャップ一本でやっているところも好感が持てます。

ちなみに、ABC。
わたしはバンゴ派なのでABCにはあまり興味がないのですが(言っちゃった)(ご贔屓ってそうそうもの)、
ここは、ハインツ傘下にあり、チリソースやケチャップなども製造しているメーカーです。

ケチャップABC Bandung_West Java, 2021


今回のテイスティングの選手には入れていませんが、冷蔵庫にいつかのデリバリーについてきたのがあったので。
ABCのケチャップは、黒大豆ではなく黄大豆、パームシュガーではなくカラメル化した普通の白砂糖を使用、
そして、多くのメーカーが味の鍵として各社独自のブレンドを行うスパイスを一切使わないのが特徴。
でも、わたしバンゴ派なので。扱いに差をつけてごめんなさいね、ABC派のみなさん。

続いて、次の選手は、西ジャワ州タンゲラン/Tangerangで「伝説のケチャップ」と呼ばれている、SH。

ケチャップ・SH Bandung_West Java, 2021

ケチャップ・べンテン/Kecap Bentengの名でも親しまれているオレンジのラベル。
1920年創業と言われています。
SHとはSiong Hienの頭文字。
創業者のLo Tjit Siongの名に、中国語で「ブランド」を意味するHienをつけ(「標」かな?)、
つまりは「シオン・ブランド」という、まっすぐなネーミング。
そのレシピは書き記されたことはなく、このブランドを守るひとたちの手を通じて次世代に伝わってきた、
まさに秘伝のレシピなのだそうです。
どんな料理にも合うと言われるSHですが、焦げにくいという特徴が特に焼き物にちょうどいいと聞きます。

続いて、今回のラインナップの中ではいちばん古い、インドネシアの記録では2番目に古いと言われている、
オラン・ジュアル・サテ/Orang Jual Sateブランドのケチャップ。

ケチャップ・オラン・ジュアル・サテ Bandung_West Java, 2021

東ジャワ州のプロボリンゴ/Probolinggoのケチャップで、創業は1889年。
そもそもケチャップ・マニス自体がいつから製造され始めたのか、文書上の正確な記録というのは発見されておらず、
なので、根拠となりうるのが各社のラベルに書いてある創業年。
最も古いのはケチャップ・ベンテン/Kecap Benteng社の1882年だと言われています。

オラン・ジュアル・サテ=サテ売り、の名の通り、串焼きのサテに合う緩めの液状。
(創業当時はビンタン・ビダダリ/Bintang Bidadariという名前だったらしいです)
このチャップは友人に「美味しかった」と聞いて、先に買ってみてたんですよね。
サテだけでなく、どんな料理にも合わせやすい、確かに美味しいケチャップでした。

次は、中部ジャワ北岸の街、パティ/Patiの伝説のケチャップ、レレ/Lele・

ケチャップ・レレ Bandung_West Java, 2021

こちらは1954年創業。
周辺地域の多くのケチャップメーカーがこのブランドの元で学んだとも言われる、パイオニア的存在。
拠点となっているパティはケチャップのブランドが多く、
地元のひともローカルのブランドを好む傾向がとりわけ強いのだそうです。
なので、大手もなかなか入り込めない強固な土地柄なのだとか。
そんなパティで、口コミで評判が伝わり県外からも取り寄せられたり、お土産の定番となったりしているのが、
このレレブランドのケチャップなのだと言われます。
レレはナマズなんですが、ナマズは別に原料に含まれていません。
インドネシアの食品メーカー、特にケチャップ系って、こういう紛らわしいのが多い(笑)。

元々は、結構緩めな液状だったのだそうですが、
顧客であるソト屋たちからの要望で、より濃いものに改良していったのだそうです。
緩いとケチャップをたくさん使うことになるので、採算が合わなくなるということだとか。
このパティという街のすぐ近くにはスープで有名なクドゥス/Kudusという街があります。
以前記事にしたソトの旅でも立ち寄った街。
ソトを食べる時に、各自がテーブルにあるケチャップで好みの味に整える。
ケチャップとソトは、切っても切れない関係にあるのです。

選手紹介だけでだいぶ長くなりそうなので、あとはちょっと駆け足で。

まず、ジャワ島外からの参加者として、
北スマトラのメダン/Medanからハティ・アンサ/Hati Angsa、バンカ/Bangka島からシオン/Siong。

ケチャップ・ハティ・アンサ Bandung_West Java, 2021

ケチャップ・シオン Bandung_West Java, 2021

ケチャップ、特にケチャップ・マニスはジャワ島が圧倒的な中心地で、
ジャワ島外となるとそのブランドの数がぐんと減ってしまいます。
でも、せっかくだから、他の島の味も知りたいじゃないですか。
メダンもバンカ島もどちらも華人の多い地域なので、そいういう意味でケチャップが疎遠なはずはないのです。
ただ、どちらかと言えば、アシンの方が身近な存在かな、とは思います。

ハティ・アンサからはケチャップ・マニスとケチャップ・アシン両方を。
クンタル/Kental (濃)とエンチェル/Encer(薄)という表現なのが、独特です。
シオンも、マニスとアシン両方製造しているメーカーですが、今回はマニスだけ。

この2つのブランドは、原料に小麦を含んでいます。
これは、大豆を発酵させる際に麦麹を使うということみたいですね。
この2社以外だと、先のABCも麦麹(ラベルのデザインにも麦が)使用。台湾式のやり方だと言われています。

あと、この2つのブランドは、わたし的「チーム・ラベルがかわいい」でもあります。
アンサ(白鳥)は、もっと小さいプラボトルになるとハートの白鳥しかいないデザインになるので、
あえてちょっと大きめのボトルを選びました(なのに破けちゃってるのが届いて、泣きたい)。
シオンの象さんも、めちゃかわいい。しかもバラがあしらわれている。象とバラの組み合わせって、レア。

ケチャップ・シオン Bandung_West Java, 2021

あと、この二つのブランド、ジャカルタあたりのお粥屋さんでよく見かけるのも共通点です。
トップの写真も、ジャカルタのお粥屋さんで撮ったもの。

続いて、西ジャワは、バンドン/Bandung。わたしの地元。
バンドンも、ケチャップのブランドは結構あるのですが、選んだのはこの3つ。

ケチャップ Bandung_West Java, 2021

マニスにアングル/Anggurとサピ/Sapi、アシンはパパヤ/Papayaで。
ラベルのデザインで選んだことは否定しません。

同じ西ジャワのタンゲランのケチャップ・アシン、チュ・トゥン・ヒン/Cu Tung Hinは友人のおすすめ。

ケチャップ チュ・トゥン・ヒン Bandung_West Java, 2021

ダイヤモンドと金魚のラベル。ここまでしっかり漢字を表記しているブランドも珍しいです。
マレーシアやシンガポールなどにも輸出しているのだそう。

続いて中部ジャワからもう1ブランド、ロンボク・ガンダリア/Lombok Gandariaのマニスとアシン。

ロンボク・ガンダリア Bandung_West Java, 2021

先ほどのパティが中部ジャワの北岸代表だとしたら、こちらは内陸代表ということで。
ソロ/Soloが発祥の地ですが、近年徐々に全国区に進出してきているブランドです。
パッケージに唐辛子(=ロンボク)がありますが、唐辛子は配合されていません。

東ジャワからも、もう1社。これも内陸の街で、先のソロに結構近いマゲタン/Magetan発祥のサウィ/Sawi。

ケチャップ・サウィ Bandung_West Java, 2021

創業1935年のケチャップメーカー。
トマトケチャップなども販売していますが、スタートはこのケチャップから。
マニスとアシン両方揃えてみました。
サウィとは菜っ葉のような葉野菜のことですが、菜っ葉は配合されていません(もういい)。

で、最後。やっぱり入れておいてあげよう。キッコーマン。

キッコーマン Bandung_West Java, 2021

日本の醤油とはまた別物の、ケチャップ・アシン・オリエンタル。
これは、キッコーマンがアク/Akuというインドネシアのメーカーと組んで製造販売しているもの。
アクは決して古いメーカーではないのですが、
ケチャップやトマトケチャップなどのブランドとして、最近ファストフード店などでよく見かけます。

はあ。長かったですね。でも、あとは、味見するだけです。

まずは、マニスのチーム。

スマトラから順番にならべました(最後のサウィとサテは地理的には逆だけど、まあいい)。

ケチャップ ・マニス Bandung_West Java, 2021

①ハティ・アンサ:
色が濃厚で、塩の味が結構鋭く強い。後からカラメル味。
②シオン:
これも色が濃厚で、塩みが鋭い。カラメル味は①より若干弱めだけど、やや焦げの風味がある。
③SH:
色が薄くて明るい。濃度はしっかりとしたとろみ。
八角、シナモン、コリアンダーなど、配合されたスパイスの風味が特徴的で、ふんわりとした後香が続く。
④バンゴ:
くっきりとしたカラメルの風味とまろやかな甘味。スイーツに使ってもいいんじゃない、というくらいの風味。
⑤アングル:
粘度の高い、かなりとろりとした液状。五香粉のような風味が微かに残る。塩味も結構くっきり。
⑥サピ:
同郷の⑤に似るが、スパイスの香りも塩味もやや強め。
⑦レレ:
やや浅い色味。味はどことも全く違う。
スパイスとハーブの風味なのか、ウスターソースを思わせるような複雑な味わい。
⑧ロンボク・ガンダリア:
どちらかというと、ハーブ系の風味で、後味がフルーティー。
⑨オラン・ジュアル・サテ:
液状は一番緩い。カラメルの風味に心もち強めの塩気。
⑩サウィ:
濃いめの色味。八角が香り、やや苦味のある味。

ケチャップ・マニス Bandung_West Java, 2021

正直、10種類も揃えちゃって、味の違いわかんないんじゃないの?とか思いもしたのですが、
予想以上に、違います、みんな。ちょっと、びっくり。

メダン(スマトラ)とバンカのケチャップの塩味が強いというのは、
逆に言うと、ジャワの甘味に対する指向性の強さが現れているともとれます。
そもそも、元々は塩味ソイソースとして伝来したケチャップになぜ甘さが加わったのかというのは、
え、ここでその話し入れる?みたいな感もありますが、要はジャワ人の甘さを好む舌ゆえなんですよね。
以前、ジャワ料理について書いた中でも少し触れましたが、
オランダの植民地時代に中〜東ジャワで行われたサトウキビの強制作付けが、地域の食糧不足を招き、
ジャワ人たちが米に変わるエネルギー源としてサトウキビや椰子からの糖分を摂取するようになり、
結果的にジャワ人の味覚を、甘さを好むように変化させたという背景があり、
その甘味好みに合わせてケチャップが変化したというものが、腑に落ち感のある説ではないかと思っています。
なので、ケチャップ・マニスは主にジャワ島で多く生産消費され、
スラウェシのマカッサルなどではケチャップ・ジャワと呼ばれたりするに至るわけで、
ジャワ島外では、ここまで甘さに振り切ることがなかったのかもしれないな、と思います。

で、10種類味見をした、結論。
ベーシックに使い、料理にコクと深みを出すならオールマイティーなバンゴ、アングルあたり、
でも、ちょっと他にはない風味を求めるなら、SHかレレ。この二つは他に替えの効かない美味しさがあります。

では、お水を飲んで、舌をもどしてから、ケチャップ・アシンへ。6種類。

ケチャップ・アシン Bandung_West Java, 2021

①ハティ・アンサ:
だいぶ薄い色。原料に砂糖を含まず、かなりシャープな塩味。
②チュ・トゥン・ヒン:
色の濃さのわりに、味は比較的マイルド。塩気は控えめで、椰子糖由来のカラメル風味の甘さがある。
③パパヤ:
色はだいぶ薄い。原料に砂糖を含まず、かなりはっきりとした発酵味がある。魚醤を思わせるくらいの旨味。
④ロンボク・ガンダリア:
マイルドな発酵味に、塩気とカラメルの風味。甘味もある。
⑤サウィ:
椰子糖由来の甘味、配合されたニンニクやスパイスのいずれも突出することなく、バランスよくまとまっている。
⑥キッコーマン:
濃いめの色。とろりとした甘味はコーンシロップ由来。

ケチャップ・アシン Bandung_West Java, 2021

これまた、それぞれ結構個性が出ました。
ハティ・アンサは、マニスにしろアシンにしろ、お粥屋によくあるっていうのはなんか分かる気がしますね。
インドネシアのお粥は基本鶏粥(Bubur Ayam)で、出汁や味も結構しっかり目についているものなのです。
そこに加えるなら、出汁の風味や、胡椒やネギ葉セロリのようなハーブの風味を殺す旨味マシマシ系ではなく、
底上げ系の塩味だったりコクだったりなのだろうなという。

アシン6種類の中では、
料理で焦がし醤油的に使うと美味しそうなのは、チュ・トゥン・ヒン、
わたし好みでは、発酵旨味ぎゅうぎゅうなパパヤでナシゴレンとか作りたい感じです。

味比べ、面白かったです。
ケチャップ・ファナティックなひとたちがいるのも納得しました。これだけ違うんだもの。

ケチャップのパッケージって、No1って記載されがちなんですよね。

ケチャップ Bandung_West Java, 2021

レレにも大きくNo1ってありましたよね。
これは、もちろん「うちのが一番」っていう意味もあるのでしょうが、
それぞれが「唯一無二」であるという意味合いもあるんではないかなという気がしてきました。

本当はもっといろんなご当地ケチャップ(特にマニス)を取り寄せて比べてしたかったんです。
各地の「伝説のケチャップ」を競わせてみたい、みたいな。
でも、やる前から分かってたんですが、この大量の茶色い液体たちを、まずは頑張って消費してしまわなくては。

ケチャップ Bandung_West Java, 2021

うちの食卓、この先当分は、茶色い料理が並びそうです。

2019/12/19

豆腐/Tahu ②

タフ・アチ Tegal_Central Java, 2019

ジャワ北岸のスープの話しのついでに、ジャワ北岸の豆腐料理をちょっと。
インドネシアの豆腐の詳細については、豆腐/Tahuの①を先に読んでいただければ。
今回は、ただひたすら「美味しかったよー」っていうことです。先に要約してしまえば。

に書いたように、インドネシアの中でもジャワ島はとりわけ豆腐の消費が多い地域です。
ある調査データでは、一人当たりの週の豆腐消費量(g)が多いのは、上から順に、
東ジャワ(270)、中ジャワ(180)、ジョグジャカルタ/西ジャワ(170)、バリ(160)、ジャカルタ(130)。
ちなみに、少ない地域は、
中部スラウェシ/西スラウェシ(60)、アチェ/東ヌサトゥンガラ(50)、北マルク(40)。
インドネシアの中でも早い時期に中国からの移民がみられたこと、
オランダ東インド会社による強制栽培制度時の貴重なタンパク源となったことなどが背景となり、
今でもジャワの人々は、食事に軽食におやつにと、豆腐を食べます。

まずは、ジャカルタ。
ジャカルタの人々の朝食もしくは昼食に好まれるのがクトプラッ/Ketoprak。

クトプラッ Jakarta, 2019

名前の由来が、Ketupat(ライスケーキ)+Toge(もやし)+Geprak(叩く)だと言われている通り、
ライスケーキに茹でたもやし、揚げ豆腐、刻みキュウリ、ビーフンを乗せてピーナッツソースをかけたもの。
(叩く、はピーナッツソースを作る際に石臼で叩き付けるようにする動作からでしょう)。

クトプラッ Jakarta, 2019

豆腐がメインな訳ではありませんが、とはいえ、豆腐のないクトプラッなんて、というくらいに大事な存在。

ピーナッツソースつながりで、中部ジャワのスマラン/Semarangで食べたタフ・ギンバル/Tahu Gimbal。

タフ・ギンバル Semarang_Central Java, 2019

インドネシア語でギンバルはドレッドヘアのことなんです。
なので「どのへんがドレット?」とタフ・ギンバル屋のおかあさんに聞いてみたところ、ドレッドは関係なく、
スマランのひとたちは、エビのかき揚げのことをギンバルと呼ぶのだそうです。

タフ・ギンバル Semarang_Central Java, 2019

殻付きでガリッと揚げられたエビと、揚げ豆腐、茹でキャベツにライスケーキとピーナッツソース。

タフ・ギンバル Semarang_Central Java, 2019

エビと豆腐という大陸らしい食材に、程よくチリを効かせたピーナッツソースというジャワらしい味の組み合わせ。
旨味と歯ごたえのエビに対し、ニュートラルな豆腐とキャベツの甘みがいい塩梅です。
豆腐の名を冠している割に豆腐が脇役な感もありますが、それでもこれはまた食べたいひと皿。


タフ・チャンプル Jakarta, 2019

豆腐の名を冠していながら豆腐が脇役つながりで、タフ・チャンプル/Tahu Campur。
これは、東ジャワのスラバヤ/Surabayaあたりが名物なようですね。食べたのはジャカルタだったのですが。

タフ・チャンプル Jakarta, 2019

揚げ豆腐は中がつるんとした、舌触りの優しいもの。
牛スジやたまご麺、茹でもやし、レタス、そして黄色く見えるのはキャッサバ芋のコロッケ。
このコロッケが甘くて美味しいんです。

タフ・チャンプル Jakarta, 2019

かかっているのは牛出汁ベースのスープで、そういうところも東ジャワっぽい気がします。
具だくさんで温まる軽めの晩ご飯、という感じのひと皿。

一方、おやつ枠の豆腐料理として、中部ジャワのテガル/Tegal名物のタフ・アチ/Tahu Aci。

タフ・アチ Tegal_Central Java, 2019

タフ・テガル/Tahu Tegal、タフ・クピン/Tahu Kuping (=耳、確かに耳っぽい)とも呼ばれるタフ・アチ。
アチはタピオカの澱粉のこと。澱粉を練ったものを豆腐の断面にはり付けて揚げています。

タフ・アチ Tegal_Central Java, 2019

こうやってはり付けるわけなんですが、なんで揚げた時にはずれちゃわないんだろう、と思ったりします。
粘着をよくするための細工があるでもないし。

でも、細工はなくてもコツはあるようで、
ここのお店、最初におかあさんがはり付けていったのを後からおばあちゃんがチェックして、
「これはダメ」と全部剥がしてはり直していました(笑)。

タフ・アチ Tegal_Central Java, 2019

おばあちゃんには敵わない。

タピオカ生地にはニンニクとニラなどが練り込まれています。
店の前では、刻んだニラがザルに広げられ、干されていました。ちょっと乾燥、くらいがいい様子。

タフ・アチ Tegal_Central Java, 2019

あとは、油で一気にジューーーッと揚げます。

タフ・アチ Tegal_Central Java, 2019

揚げたてが欲しくて、店先にあるのは無視していたわたし。

タフ・アチ Tegal_Central Java, 2019

だって、これ、絶対揚げたてが美味しいやつだもの。
澱粉生地のもちっとカリッとした歯ごたえと、厚揚げ部分のジューシーさのバランス。
ついつい手が伸びる、心憎いおやつ豆腐です。

そして最後が、西ジャワのチレボン/Cirebonのタフ・グジロッ/Tahu Gejrot。

タフ・グジロッ Cirebon_West Java, 2019

これもおやつ枠の豆腐料理。

青唐辛子やシャロットが見えますが、このタレ自体は「甘い」んです。
やや旨味を効かせたシロップとも言えそうな、甘いタレがボトルから注がれるその音が、
まるで「Jrot...Jrot...」と聞こえるから、タフ・グジロッと呼ばれているのだとか。
タレの甘さ、シャロットの香味、青唐辛子の爽やかでシャープな辛味と香りの不思議な組み合わせ。
それを、厚揚げというより厚めの油揚げという感じの豆腐がスポンジのように吸収しています。
これもなんかクセになる味なんですよね。

タフ・グジロッ Cirebon_West Java, 2019

ピーナッツソースをかけても、エビのかき揚げと合わせても負けないのは揚げ豆腐だからでしょうね。
インドネシアの豆腐自体がそもそもしっかりした風味がある上に、油を通すことでコクも出ます。
揚げ豆腐が主流なのは、当然保存のという要素が大きいとは思いますが、
食べ方もまた、その揚げた特性を生かしたものになっているのだなあと思います。
(素揚げ豆腐も大好き)


2019/03/11

ラクサ/Laksa

カトン・ラクサ Singapore, 2018

ラクサ、と言うと、どういう料理をイメージしますか?
わたしはずっと、上の写真のような、シンガポールで食べるココナッツミルク+エビ風味のイメージでした。
でも、実は、ラクサってすごく幅の広い食べ物なんですね。

ラクサの発祥は、マラッカ海峡地域であると言われています。
いわゆる、プラナカン料理。ニョニャ料理と呼ばれることもありますね。
英領マレーの時代に中国(主に福建省と周辺)からこの地域に移住してきた人々は、圧倒的に男性が多数。
それゆえ、中国人男性とマレー女性との婚姻が進み、
その家庭において、マレーと中国が融合した生活文化が生み出されていきました。
食に関しては、ココナッツミルクや椰子油の利用し、酸味料としてタマリンドや柑橘類を活用、
そして、エビの発酵調味料や、南洋独自のハーブやスパイス使いなどが見られます。
そういったプラナカンの料理の中にラクサは位置づけられます。

流れとしては明らかに中国からの流れにありつつ、その土地に合わせて変化したプラナカン料理としてのラクサ。
その変化は、一地点にとどまるものではなく、各地の土壌に合わせてバリエーションが出てきます。
スープのベース、出汁、麺、そして具材など。
そのバリエーションを、これまでわたしが食べてきたものを中心に、ささっと。

やはり王道なのは、冒頭のココナッツミルクを使ったものでしょうか。

カトン・ラクサ Singapore, 2018

シンガポールのカトン通りに店が集まっていることから、カトン・ラクサ/Katon Laksaと呼ばれています。
東南アジア特有のスパイスとして、ガランガルやターメリックその他に干しエビを加えてペーストとし、
エビの頭や皮を使ってとった出汁で溶いたところにココナッツミルクを加えて、スープの完成。
タピオカ麺が基本ですが、麺自体はぶつぶつと切れて短く、なので箸ではなくレンゲで食するものとされています。

カトン・ラクサ Singapore, 2018

具に関しては店舗による差はあるでしょうが、エビや練り物(フィッシュボール)の他、剥き貝が入っていたり。
ココナッツミルクのコクと、魚介の旨味がポイントになります。

そして、風味として仕上げに使われているハーブがラウ・ラム/Rau Ram。
ベトナミーズ・コリアンダーと呼ばれることもあるハーブで、蓼の仲間になります。
ベトナムで食事をする時にどさっと出されるハーブの山の中にありますね。
コリアンダーと言うより、ドクダミに近い風味ですが、これがいいアクセントになっています。

カトン・ラクサ Singapore, 2018

このスープ麺に、チリペーストがつくのもお約束。
そのペーストにも干しえびを使っていて、ラクサペースト、スープ、具、そしてチリペースト、と、
エビの旨味を何層にも重ねて行くような、贅沢な料理ですね。

で、このシンガポールから海を渡ってすぐの、インドネシア領バタム島。

バタム島

街の中でも「ラクサ」の看板はよく出ています。

ラクサの表示 Batam_Riau Islands, 2019

バタムのラクサは黄色いたまご麺かビーフンかの選択制。

ラクサ Batam_Riau Islands, 2019

エビ出汁+ココナッツミルクなのは、カトン・ラクサと同じようですが、
ハーブはなく、具はフィッシュボールと揚げ豆腐、ゆで玉子、そしてジャコがトッピングされています。
(繰り返しますが、具は、まあ店舗差が大きいとは思います)

ラクサ Batam_Riau Islands, 2019

この時は、ビーフンをセレクト。

バタム島は、インドネシアではリアウ諸島州に区分されます。
そして、そのリアウ諸島には、ラクセ/Lakseと呼ばれるラクサがあるのだそうです。
語尾がセになっているのは、この辺りに暮らすマレー系の人々の発音のクセで、
”a”を”e”に近い音で発音することから、ラクサがラクセと表記されるようになったのだとか。

リアウ諸島

(この地図じゃ見えないですが、小さい島が丸の中に散らばっているのです)

このラクセは、サゴ椰子の澱粉を使った麺に、
ココナッツミルクと魚もしくはエビ、そして唐辛子やスパイス類を主な材料としたスープをかけていただくもの。
あいにく、リアウ諸島でこのラクセに出会うことは出来なかったのですが、
そのすぐ南のバンカ島で、恐らく類似しているのでは、と思われるものに出会いました。

バンカ島

ラクサ→ラクセと来て、今度はラクソ/Laksoです。

ラクソ Bangka_Bangka Belitung, 2019

ラクソは、サゴ椰子の澱粉と米粉の麺。
タネをお湯の中に直接押し出してそのまま湯がき、冷水にとって〆たらバナナの葉に乗せておきます。
注文する時に、バナナの葉っぱいくつ分かでお願いするシステム。

ラクソ Bangka_Bangka Belitung, 2019

これは、葉っぱふたつ分。

そこに、温かいココナッツミルクのスープをかけます。

ラクソ Bangka_Bangka Belitung, 2019

一気にシンプルになりました。

スープは魚ベース。サワラの身を潰したところに、ココナッツミルクやターメリックなどを加えたもの。
ココナッツミルクも、シンガポールやバタムのものに比べると、あっさりめになります。

ラクソ Bangka_Bangka Belitung, 2019

ゆるりとした麺に、旨味のつまった温かいスープは、優しい味わいで朝食にぴったり。
そこに、カラマンシーをぎゅっと絞ると更に美味しさが増します。
海魚ベースに柑橘類というのは、裏切らない組み合わせですね。

そして、このバンカからほど近い、パレンバン。

パレンバン

ペンペの記事でも少しふれましたが、パレンバンにはラクサン/Laksanがあります。
ラクサ→ラクセ→ラクソ→ラクサン、です。

ラクサン Palembang_South Sumatra, 2019

濃厚なココナッツミルクと魚出汁のスープに、魚のすり身とタピオカ粉を合わせたペンペ(フィッシュケーキ)。
ペンペ自体はパレンバン独自のものですので、
ラクサというプラナカン料理に、更にパレンバンのテイストが加わった料理と言えると思います。
唐辛子の辛味を感じるコクのあるスープ、もっちりとした歯ごたえのフィッシュケーキ、揚げシャロットの香り。
これもまた、クセになりそうな味わいです。

ココナッツベースのラクサは、ジャカルタにも、そしてジャカルタのすぐ隣の街ボゴールにもあります。

ジャカルタ-ボゴール

ラクサ・ブタウィ/Laksa Betawi(ジャカルタ)と、ラクサ・ボゴール/Laksa Bogor。
土地が近いだけに、このふたつはかなり似ています。

ラクサ・ブタウィ Jakarta, 2018

パンレンバンやバタム、またはシンガポールのような唐辛子由来の赤味はなく、
どちからというとラクソのスープと同類の、優しいココナッツミルクのスープなのですが、
ラクサ・ブタウィの出汁は、エビ+チキン。鶏が出てきました。

ラクサ・ブタウィ Jakarta, 2018

麺はビーフン、茹でもやし、裂いた鶏肉、ゆで玉子、揚げシャロットなどが具になり、
たっぷりとホーリーバジルが乗せられています。

一方、ラクサ・ボゴールは。

ラクサ・ボゴール Jakarta, 2018

スープの風味などはほぼ同じ印象。

ラクサ・ボゴール Jakarta, 2018

茹でもやしや裂いた鶏、ゆで玉子などの具は同じなのですが、
ビーフンの他に、ロントン/Lontongというライスケーキも入っています。
お米なので、しっかりお腹にたまります。

ラクサ・ボゴール Jakarta, 2018

そして、もうひとつの違い。
オンチョム/Oncomと呼ばれる、西ジャワ地域で好んで使われる大豆発酵食品が入っています。
独特の風味のあるオンチョムによって、味にアクセントをつける感じですね。

というのが、ココナッツミルクベースのラクサ。
本当はまだまだあるんですけど、まだ食べていないので、とりあえずここまで(笑)。

そして最後に、ココナッツミルクを使わないラクサを。

メダン

北スマトラの都市、メダンの、ラクサ・メダン/Laksa Medan。

ラクサ・メダン Medan_North Sumatra, 2018

麺は米粉の押し出し麺。スープの出汁はグルクマ(サバの仲間)で、ぎゅっと酸味が効いています。
メダンのほぼ対岸にあるマレーシアのペナンを中心に食べられているアッサム・ラクサ/Assam Laksaに近く、
ただ、ペナンの酸味がタマリンドなのに対し、メダンの酸味はゲルグル/Gelugurなのが違いなのだとか。

ゲルグル Bandung_West Java, 2019

(パイナップルを酸味料として使う場合もあるそうです)
酸味の他、トーチジンジャーの花やレモングラスを使い、仕上げにミントをのせることで、
海魚の独特の臭みとバランスをとっています。

マレー半島東側のラクサとはギャップがあるこのラクサ・メダンですが、
青魚の風味が生きていて、さすがの美味しさ。

ラクサン Palembang_South Sumatra, 2019

以前、わたしは「ラクサのどこが美味しいのかよくわからない」と言い放っていました。
単に美味しいラクサを食べていなかっただけでした(反省)。

インドネシア国内、これらの他にもまだラクサのバリエーションはありますし、
マレーシアからタイ南部にかけても、また別のラクサが存在するのだそうです。

どこかで出会ったら、その時にまた、ご当地ラクサを味わいたいですね。