2024/07/11

パプアの食卓③:焼き石で調理

石を焼く Baliem_Papua, 2024

ということで、山のパプアでの伝統的な調理方法を見せてもらいました。

あの、先に、この時は、デモンストレーション的なものとして、
ある家族が、彼らの衣装を身につけ、彼らが元々やっていたやり方でプロセス一式を見せてくれたもので、
わたしたちの普段の基準からしたら、その姿は半裸とも言えるものだったりはするのですが、
そこで隠したり、なんならぼかしを入れてみたりというのは、まったく品がないし、
なにより、彼らに対する敬意を欠くことだと思うので、写真はそのまま載せています。
ご理解とご了承のほど、お願いいたします。

ということで、調理法。

パプアの高地というのは、石器時代に一番近い地域だとも言われているほどで、
多くの山の人々のにとって、外の世界との本格的なコンタクトは第二次大戦後であり、
それ以前は、金属との接点もなかったような地域も珍しくないと言われます。
それゆえに、今でも、まだその当時の手法が「伝統」という形で見られるのが面白いところ。
「器」というものを持たなかった彼らは、穴と石を使って調理をしていました。

調理を始めるファーストステップは、火をおこすこと。
直径3cmほどの枝を半分ほどまで割って石をかませたものに、紐状のロタンをこすりつけ、
その摩擦で熱をおこして着火するというやりかた。
下には十分にほぐした藁を敷いておき、着火しやすいように乾いた小枝なども用意しておきます。
プロセスを動画に撮っていて、それがわかりやすかったのだけど、
リンクを貼るのにYouTubeにアップしたら、一瞬で削除されました(もー、涙)。
ので、写真で。

火をおこす Baliem_Papua, 2024

火をおこす Baliem_Papua, 2024

火をおこす Baliem_Papua, 2024

火をおこす Baliem_Papua, 2024

着火して最初にするのは、男女とも大人たちがタバコをまきまきして一服つけることでした。

一服 Baliem_Papua, 2024

一服つけつつ、火がちゃんと安定するのを待って、調理準備の開始です。

まずは、たくさんの石を焼きます。
薪と石を交互に重ね、ガシガシと焼いていきます。

石を焼く Baliem_Papua, 2024

並行して、豚の準備を。

豚 Baliem_Papua, 2024

ちょっとここで、豚の話を。

バリエム渓谷では、基本的に家畜といえば豚一択です。豚は家畜であり、財産であり、ある意味家族。
(盆地の町のあたりでは、ジャワからの人々の影響もあり牛や山羊なども飼われ始めていますが)
祝い事に、弔い事に、もしくは何かの償いに、豚は常に贈られ、求められるもの。
気軽に屠殺して食べるものではなく、その時のために、たっぷり太らせて飼育しているのです。
取引価格も高く、大きな豚では2〜3,000万ルピア(20〜30万円)で市場で売買されているそう。
生まれた子豚に母豚が乳をやらない場合は、飼い主家族の中で授乳中の女性が、豚にも乳をやると言われますし、
畑で採れた芋は、人間と豚で分け合って食べるのだそうです。

豚 Baliem_Papua, 2024

ちなみに、牛は、
放し飼いにすれば畑の作物を食べてしまうし、囲えば毎日大量の草を採る必要がでるしで好まれないそう。
その点豚は、人と同じものを食べさせればいいし、食用としての肉だけでなく、骨は道具の材料となり、
そして豚の脂は、かつては防寒目的で肌に塗るのに使われてもいたりと、有用な生き物だとされていたのです。
なお、鶏は、小さすぎて犬(や、やんちゃな若者)にすぐ盗まれるので飼うという選択肢はないそう。

また、川の魚は?と思うのですが、2〜30年ほど前まで、パプアの山の民は水を畏れていたのだといいます。
精霊のようなものなのかな。
なので、水とのコンタクトというのは最小限らしく、なにしろ水浴びをする習慣もなかったというくらいで、
きれいな川が流れていても、そこで獲物を取るという発想はなかったのだそう。

豚の準備に話を戻して。

まずは、弓で心臓を射って殺した豚を、石を焼くのに燃え上がっている火のところまで運び、
そこで直火にかけて毛を焼きます。
毛を焼き切った後は、竹を削いで作ったナイフ(結構よく切れる)で解体。
豚仕事は基本、男性の仕事。

豚の解体 Baliem_Papua, 2024

お肉はそのまま焼きますが、内臓はやはりきれいにする必要があります。
そこは子供たちの仕事。胃や腸を水流まで持って行って洗います。

内臓を洗う Baliem_Papua, 2024

内臓を洗う Baliem_Papua, 2024

子供たちが内臓を洗っている頃、女性たちは葉物を準備。とにかく大量の葉っぱを用意します。
バナナの葉、シダの葉、芋の葉、雑草として生えている草。

芋の葉 Baliem_Papua, 2024

シダの葉 Baliem_Papua, 2024

そうこうしているうちに、石を焼いていた火が落ち着き、調理のスタート。
焼いた石で、全てを蒸し焼きにしていくのです。

庭の一角に、深さ30cmほどの穴が掘られています。
そこに、葉っぱを敷き、芋を埋め、さらに葉っぱを乗せ、豚を乗せ、さらにさらに葉っぱを乗せ、
その合間ごとに、焼けた石を並べていきます。

蒸し焼きの準備 Baliem_Papua, 2024

焼いた石 Baliem_Papua, 2024

蒸し焼きの準備 Baliem_Papua, 2024

そして最後に、たっぷりの湿った雑草たちを、蒸気を逃がさないように重ねられるだけ重ね、
ロタンでぐるぐると巻いて、中の密度を高めます。

蒸し焼きの準備 Baliem_Papua, 2024

蒸し焼きの準備 Baliem_Papua, 2024

そして待つこと、1時間半。くらいだったかな。
いざ解体。

蒸し上がり Baliem_Papua, 2024

湯気ぶわー。

覆いとして使っていた食べる用ではない葉っぱたちをわっさわっさと避けてゆき、間の石をぽいぽいと放り出します。
この石、1時間半使った後でも、まだ結構熱いんです。ずっとは持っていられないくらいに。蓄熱すごい。

蒸し上がり Baliem_Papua, 2024

蒸し上がり Baliem_Papua, 2024

これが蒸し上がった豚。
たくさんの葉っぱに包まれて蒸された豚肉は、爽やかな香りが移っていて美味しかったです。

蒸し上がり Baliem_Papua, 2024

蒸し上がり Baliem_Papua, 2024

豚の下をさらに掘り進むと、出て来ました、芋の層。みっしりきれいに並べられています。

蒸し上がり Baliem_Papua, 2024

いろんな種類のサツマイモ。白いのや、オレンジの、紫の。大きいのや小さいの、ぜーんぶ。
そして、芋の層の下には、葉っぱの層。
シダの葉などは柔らかい部分を指でこそげて、そのままいただきます。
すっかり柔らかくなっていて、クセのない優しい味。

蒸し上がり Baliem_Papua, 2024

食事風景 Baliem_Papua, 2024

葉っぱの層が出たら、女性たちもその場に車座になり、食事開始。
芋を食べ、葉っぱを食べ、一緒に放り込んでたトウモロコシやハヤトウリなども食べます。

芋 Baliem_Papua, 2024

一方、豚は。

男性陣の方にまるっと持っていかれ(少々の野菜と共に)、
そこから一部はまた女性たちの円陣に戻されたのだけど、
なんか、男は肉ばかり食べて、女は芋と野菜ばかり食べている感は否めない。

肉の陣 Baliem_Papua, 2024

食事は男女別々なのが基本のようでもあり、その分配にも何かしらの意味合いはあるのかもですが。

この、焼き石を使った穴での調理は、今では特別な時限定のもの。
普段は、中の台所で鍋を使ったり、外で調理する際もドラム缶などを用いて、合理的に調理しています。
とはいえ、例えばあの火をおこす作業とか、若い世代が技術として受け継いでいけるのかを思うと、
デモンストレーションとはいえ、見ておけてよかったなとも思います。

蒸し上がり Baliem_Papua, 2024

ところで、この調理、味付けがないんです。
豚の陣(男性側)には、買って来た塩が一袋置かれていましたが、
女性たちはその塩すら使わず、蒸し上がった野菜と芋と肉をそのまま食べていたのです。
そのままでも美味しい、というのはもちろんそうなのですが、
海から遠く離れた内陸の山地、塩はかつてとてもとても貴重なものだったのだと言います。

その塩についての話を、次回。

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