2021/05/30

バッピア/Bakpia(ピア/Pia/Piah)

バッピア Bandung_West Java, 2021

自分で買うことはあまりなくても、何かと口にする機会はあるのがバッピア/Bakpia。
もしくは、ピア/Pia/Piah。 
誰かが国内旅行をして帰ってくるとお土産にもらいがちな、あれです。 

以前、こちらの記事で少し触れたこともありますが、バッピアも中国に由来する食べ物。
豚肉を意味するBakと、小麦粉の皮で包まれた焼きものを指すPia(餅)、
インドネシアに伝わった当初は豚肉を甘く炒め煮にした餡を包んでいたようですが、
それが現地化していく中で、中の餡が甘い緑豆などに変化し、
現在は、バッピアというと基本的にはこの緑豆餡や派生して生まれた他の甘い餡のものを意味します。
(豚のバッピアは最後にご紹介します)

バッピア Bandung_West Java, 2021

油分を練り込んだ生地で、甘く炊いた緑豆餡を包んだ一口大の丸くて平たい焼き菓子。

そんなバッピアはジョグジャカルタ/Yogyakartaの名菓。
ジョクジャカルタに、現在のバッピアに繋がる食べ物を持ち込んだのは、
1940年代に中国から移住してきたKwik Sun Kwokという人物だったと伝わっています。
前述の通り、当初は豚の肉や油脂を使うものだったバッピアを、
イスラム教徒が多数である現地のタブーや嗜好に合わせて、緑豆餡に変えた訳ですが、
緑豆餡を使った菓子ならTou Luk Piaと呼ばれるものが、彼ら移民の出身地である福建にあったと言われ、
なのになぜ、Bakのままにしたのかはちょっと謎。

で、
その緑豆餡のバッピアを商品化して、
一般に小売販売始めた元祖が、創業1948年のバッピア75という店だと言われています。

バッピア75 Yogyakarta_Central Java, 2016

現在は数多くあるジョクジャカルタのバッピア屋ですが、屋号に数字を使う店が多いのは、
ブランディングという意識もなかった時代に、店の番地が口コミで広がっていったからだと言われています。

当初は緑豆餡で売り出されたジョグジャカルタのバッピアですが、現在では様々なフレーバーが出ています。
紫芋、チョコ、チーズ、などはもう基本のラインナップに含まれている印象。

ジョグジャカルタ以外にも、ジャワを中心としたインドネシア各地にこのタイプの名菓はあります。
ただ「バッピア」という呼称はジョグジャカルタのものを指し、それ以外の土地のものは基本的にピアと呼ばれます。
ジョグジャカルタでのバッピアの成功を受けて生まれた、日本で言うご当地饅頭的なものもあるでしょうし、
また、別のルートで中国から伝わったとされるピアもあり、なかなか個性的で面白いのです。

まず、中部ジャワ北岸の街、テガル/Tegal。
お茶で知られる街ですが、ここにもピア店が並ぶエリアがありました。
この街では、クエ・ピア/Kue Piaと呼ばれるのが主流のようです。
ちなみに、クエは「菓子」全般を指すインドネシア語ですが、福建の言葉「Koe/粿」に由来します。

クエ・ピア Tegal_Central Java, 2019

ここは、ハリハリっとした層のある皮に、チョコ味、ミルク味、フルーツ味、とバリエーションも色々。

そのテガルからまっすぐ南下して、インド洋に当たるちょっと手前、
バニュマス/Banyumasという地域には、ノピア/Nopiaと呼ばれるピアがあります。
そして、そのノピアによく似ているのが、西ジャワ州内陸の街バンドン/Bandungで売られているソピア/Sopia。

ノピアとソピア Bandung_West Java, 2019

上の丸っこい方がソピアでやや楕円なのがノピアです。
バッピアとは皮が違うのです。
油分を含んで折り込みパイのような層なる生地ではなく、しっとりつるんとしたクッキー生地。

バニュマスのノピアは、1980年代に中国からの移住者によって作られ始めたと言われ、
餡は、パームシュガーに炒めたバワン・メラ/Bawang Merah(シャロット)を入れたものが元祖。
インドのタンドリーのような窯で、内壁に貼り付けて焼いているのだそうです。

また、バニュマスには同じくノピアと呼ばれながらも、形状が異なるピアがあります。

ノピア Bandung_West Java, 2019

別名テルール・ガジャ/Telur Gaja(象の卵)と呼ばれ(ネーミングセンス…)、
その名が表す通り、他のピアよりも大きくてぷくっと膨らみ、中が空洞なのです。
ねっとり溶けたパームシュガーが内側を覆っていて、素朴ながらも滋味深い味わい。
この大きなノピアに対して先の楕円のノピアは、小さなノピア=ミニ・ノピア=ミノ/Minoと呼ぶことも。

一方、バンドンのソピアは、由来は調べてもよくわからない。
なんなら、バンドンの北に位置するレンバン/Lembangというところには、
同じソピアという名で、でもパイ状の皮のピアがあったりする。
土産物のご当地饅頭状態っていうのは、こういうことですよね。
全ての饅頭に、明確な由来や由緒が必要なわけではないように、ピアだって自由です。
ただ、王道の緑豆餡以外の、今風なチョコやチーズなどの餡を使ったものは、
バッピアと区別してソピアと呼ぶという記述をみたこともあるので、
名前はその辺りに由来するのかもしれません(写真のはチョコ餡)。

バンドンのピアで、もうひとつ。

ピア Bandung_West Java, 2019

ピア Bandung_West Java, 2019

「スラバヤ生まれ」と大きく書かれた、バンドンで売られているピア。
バンドンなん?スラバヤなん?なんなん??
ほろほろはらはら、な皮に包まれているのは、緑豆餡ではなく黒豆餡。
って、カチャン・ヒタム/Kacang Hitam(=黒豆)と書いてはありますが、豆沙かな。

さて、またジャワ島北岸に戻って東に移動し、あと少しで東ジャワという、中部ジャワの端っこのラセム/Lasem。
ここには、先の象の卵に似た空洞のピアがあります。その名はヨピア/Yopia。

ヨピア Bandung_West Java, 2019

ヨピア Bandung_West Java, 2019

ヨピア Bandung_West Java, 2019

同じ中部ジャワのスマラン/Semarangで買ってきたモチ/Mociも一緒に写ってますが。

薄くて歯応えのある皮がぷくっと膨らみ、内側に溶けたパームシュガーが染みています。
同じパームシュガーでも、ノピアほどの層にもならず、すっかり染みてしまっているのです。
素朴さ、さらにマシマシ。
ジョグジャカルタのバッピアに比べると、知名度はなかなか及ばないヨピアですが、
その歴史は古く、初代は1800年代に生産を開始し、現在は3代目が店を継いでいるのだそうです。
ラセムのあたりは、インドネシアの中でもかなり早い時期に中国からの移民があった地域でもあり、
ラセム自体も小さな町ではありますが、現在でも他の街とは異なる、独特の中国風のたたずまいを残しています。
潰さず持ち運ぶのはなかなか難しい、そしてなんとなくずっと食べ続けてしまいそうになるヨピア。
今後も、継承されていきますように。

そして、もうひとつ。ティオン・チウ・ピア/Tiong Ciu Piah。
ピア・ブラン/Pia Bulan、またはクエ・ブラン/Kue Bulanという呼称の方が一般的な「中秋餅」。

クエ・ブラン Bandung_West Java, 2020

月餅です。
中秋節が近くなると、わらわらわらっと店頭に出てきます。
例えばホテルなどが売り出す高級月餅ももちろんいいのですが、それとは別物として、
この、遠い昔に故郷を離れすっかりしっかりローカライズされ、だけど魂はまだそこにある的な月餅が、
特に右の大きな平たいのが、好きです。たまらない。
イラスト付きの旧式綴りで記された餡は、ドリアンだったりチェンぺダッだったりのドメスティック餡。
なんだかんだ言って、毎年買わずにはいられないのです(そして愛でる)。

クエ・ブラン Bandung_West Java, 2020

と、ざっとピアを見てみましたが、最後にまたバッピアに戻ります。

ジョグジャカルタのバッピア食べ比べ。

バッピア各種 Bandung_West Java, 2021

じゃん。

バッピア各種 Bandung_West Java, 2021

参加選手は、上左から、
フレーバー系代表で、Merlinoの紫芋餡、Wong Premiumのチョコナッツ餡、
正統派代表で、Patuk 75、Patuk25、Kurnia Sariの緑豆餡。

バッピア各種 Bandung_West Java, 2021

切ってみて、実食。
まず、ベーシックな緑豆餡チームから。

バッピア Bandung_West Java, 2021

元祖と言われている、パトゥッ/Patuk75。
友人から「バッピアなら75」と教えられてきたわたしですが、実際食べ比べると納得します。
程よくしっとりした厚すぎず薄すぎずの層になる皮に、塩気のある味がしっかりついた緑豆餡。
確かに、ど真ん中、って感じの美味しさです。間違いがない。

バッピア Bandung_West Java, 2021

続いて、パトゥッ/Patuk25。
甘さのない、固めではりっとした厚めの皮は粉感もしっかりあり、
それに対して、中の緑豆餡は粘度が高くくっきりとした味付けです。このバランスが特徴かも。
75と並んで人気のあるお店で、好みがはっきりわかれそうなくらいに違いも明確。
ちなみに、バッピア店によくあるPatuk(パトゥッ)というのは、
現在バッピア店が集まる中心地となっているジョクジャカルタ内の地区の名前で、
そこで一番最初(1980年代)にバッピア販売を始めたのがこの25だと言われています。

バッピア Bandung_West Java, 2021

3つ目が、クルニア・サリ/Kurnia Sari。
75を推していた友人が「でもこっちも美味しい」と言っていたブランドのもの。
というか、これを食べてみたかっただけのはずが、なぜか食べ比べになってしまったのでした。
食べてみて、これまた「ああたしかに」と納得。
75よりもさらにしっとり、でもさらりとした繊細な皮に、甘さ控えめの緑豆餡はほくほくしていて美味。

それぞれに個性があるけど、この3つの中で選ぶなら、わたしは最後のクルニア・サリかも。

そして、フレーバーチーム。

バッピア Bandung_West Java, 2021

メルリノ/Merlinoの紫芋。
元々はベーカリーだったお店が2000年からバッピアの販売を開始したのだそう。
これも、おすすめしてもらったんです。
薄くて、しっとりしっとりした皮の中にみっしりの紫芋餡。
「うわ、めっちゃ芋!」というくらい芋の味がしっかりしてて、ふくふくと嬉しくなります。
ころんと小さな形なのと、皮の存在感が控えめなおかげか、ぽいぽいっと食べられてしまいそう。

バッピア Bandung_West Java, 2021

最後、ウォン・プレミアム/Wong Premiumのナッツ入りチョコ餡。
レイヤーをはっきりさせた皮が素敵な、なんか垢抜け系のビジュアル。
味は、うーーーん。悪くはないけど、せっかくのチョコなのにチョコみが足りないというか。
甘さは控えめで、その分風味も控え目になってしまっている感じ。
皮はハラハラとほぐれてしまう。うーーーーん。

そして、おまけ。

バッピア Bandung_West Java, 2021

トゥグ・ジョグジャ/Tugu Jogjaのバッピア・ククス/Bakpia Kukus。蒸しバッピア。
え、きみそれでもバッピアを名乗るの?という気がするのですが。

バッピア Bandung_West Java, 2021

中はチョコ餡。
チョコはちゃんと美味しいし、油っけを感じる(マーラーカオ風の)皮もふんわりで、いいんだけど、
でも、バッピアなのか、きみは??

ところで、肉餅という意味での(元祖)Bakpiaも、あるところにはあります。
バンドンの華人エリアにあるバッピアは、いつ行ってもブレのない安定感のある美味しさ。

肉餅 Bandung_West Java, 2018

奥に写っているのは、コピア/Kopiahと呼ばれる、硬くて詰まったパン。

外側は小麦粉の皮で、その中に、韮と豚肉と海藻(海苔かな)を入れ、しっかりと揚げてあります。

肉餅 Bandung_West Java, 2018

肉餅 Bandung_West Java, 2018

肉餅 Bandung_West Java, 2018


肉餅 Bandung_West Java, 2018

肉餅 Bandung_West Java, 2018


お玉の上で次々に作られていく肉餅。この作業、延々眺めていられます。
かりっと揚がったバッピアは、じんわり染みる旨味に海藻の風味が個性的な味わい。
時々食べたくなって、出向きます。

肉餅 Bandung_West Java, 2018

わたしを初めてこの店に連れてきてくれた友人(バンドン生まれの食い道楽でオレ様な華人)が、
コピアでバッピアを挟んで食べるんだ、ほーら中国風バーガー(どやっ)。
と言ったのでした。
いやサイズ感おかしいし、と思ったのですが、十数年たった今でも、やっぱり挟んでみてしまうあたり、
わたしは素直です。

ということで、インドネシアのバッピア。
中国からジャワに伝わり、そこから各地に広がり根を張り、いま土産物屋に積み上げられているピア。
有名なインドネシア人のトラベルブロガーが、いつだったか、
「今までで一番美味しいピアはゴロンタロ(スラウェシ北部)にあった!」
と書いていたこともありました。

ピア Bandung_West Java, 2019

午後のお茶のお供に、この小さなお菓子が辿ってきた道のりと時間を思うのもまた味わいかと。
口の中の水分をごっそり持っていかれるのが基本ですので、お茶はレフィルも用意してどうぞ。


2021/05/17

ケチャップ/Kecap - 2

ケチャップ Jakarta_2019

ということで、インドネシアのソイソース、ケチャップについて、再び。
このブログを始めて間もない頃に、一度ケチャップについて書いているので、まずはそちら(→)をどうぞ。
 
ケチャップって、ご当地ものがすごく多いんです。
もちろん、大手がどかんと市場を大半を持っていってはいるのですが、
それでも、各地に世代を超えて続く家内制手工業的なケチャップメーカーがあり、地元の人に愛されている。
ケチャップ・ファナティックなひともいたりする。
となると、やはり、ケチャップってそんなに違うものなの?という疑問が生じます。

ので、味比べ。そう、今回はテイスティングです。

ケチャップ Bandung_West Java, 2021

続くコロナ禍でどこにも行けず、おうちにお邪魔してキッチンを覗かせてもらうなんてあり得ない状況で、
自宅にいながらにしてできること、ということで各地のケチャップを取り寄せたのでした。
ケチャップ・マニスをメインにして、10種類。せっかくなのでケチャップ・アシンも6種類。
選抜基準は:
・評判がいいもの
・歴史が古いもの
・手頃なサイズのボトルで販売しているもの
3つ目は、現実的な理由で。
試してみたかったメーカーは他にもあったのですが、大瓶でしか販売していないとか、多いんです。
もちろんできるのなら、大瓶で揃えたかったのですが、
(ケチャップ・コレクター(っているんですよ)も大瓶で揃えるのが基本、ラベルがかわいいから)
その後、消費しなくちゃいけないことを考えるとやっぱり無理…という苦渋の決断です。

では、選手紹介。

まずは、ケチャップ・マニスの定番、バンゴ/Bango。

ケチャップ・バンゴ Bandung_West Java, 2021


ケチャップ・マニスという調味料を知ったその時から「美味しいのはバンゴ」と刷り込まれているので、
わたしの中で、ケチャップ・マニスの味の基準はバンゴ。家でも常備していたのはずっとバンゴでした。

西ジャワ州のスバン/Subangで生産されていますが、発祥はジャカルタのタナ・アバン/Tanah Abang。
ラベルには1928年とありますが、実際にはそれ以前から製造販売はしていたようです。
中国の福建省からの移民であったご主人と、中国系3世の奥さんが、ガレージで甕から販売していたケチャップ。
当初は中国で使われている、日本の醤油と同系統の塩味のソイソース、ケチャップ・アシンのみだったのを、
奥さんが、ジャワの人の舌に合わせたケチャップ・マニスの製造を勧めたのが始まりだとか。
ロゴのバンゴはコウノトリのこと。世界に羽ばたくケチャップになることを夢見て名付けたのだそうです。

着実に評価を得て伸びてきたバンゴ、1992年にユニリーバの傘下に入ったのがきっかけでその販路を一気に拡大。
現在、インドネシアのケチャップ・マニスの市場は、
このバンゴと、もう一社、大手食品メーカーABCブランドで65%が占められていると言われます。
ロゴに込められた願いが現実となって、世界に羽ばたいているバンゴ。
それなのに、あれこれアイテムを増やすことなく、ケチャップ一本でやっているところも好感が持てます。

ちなみに、ABC。
わたしはバンゴ派なのでABCにはあまり興味がないのですが(言っちゃった)(ご贔屓ってそうそうもの)、
ここは、ハインツ傘下にあり、チリソースやケチャップなども製造しているメーカーです。

ケチャップABC Bandung_West Java, 2021


今回のテイスティングの選手には入れていませんが、冷蔵庫にいつかのデリバリーについてきたのがあったので。
ABCのケチャップは、黒大豆ではなく黄大豆、パームシュガーではなくカラメル化した普通の白砂糖を使用、
そして、多くのメーカーが味の鍵として各社独自のブレンドを行うスパイスを一切使わないのが特徴。
でも、わたしバンゴ派なので。扱いに差をつけてごめんなさいね、ABC派のみなさん。

続いて、次の選手は、西ジャワ州タンゲラン/Tangerangで「伝説のケチャップ」と呼ばれている、SH。

ケチャップ・SH Bandung_West Java, 2021

ケチャップ・べンテン/Kecap Bentengの名でも親しまれているオレンジのラベル。
1920年創業と言われています。
SHとはSiong Hienの頭文字。
創業者のLo Tjit Siongの名に、中国語で「ブランド」を意味するHienをつけ(「標」かな?)、
つまりは「シオン・ブランド」という、まっすぐなネーミング。
そのレシピは書き記されたことはなく、このブランドを守るひとたちの手を通じて次世代に伝わってきた、
まさに秘伝のレシピなのだそうです。
どんな料理にも合うと言われるSHですが、焦げにくいという特徴が特に焼き物にちょうどいいと聞きます。

続いて、今回のラインナップの中ではいちばん古い、インドネシアの記録では2番目に古いと言われている、
オラン・ジュアル・サテ/Orang Jual Sateブランドのケチャップ。

ケチャップ・オラン・ジュアル・サテ Bandung_West Java, 2021

東ジャワ州のプロボリンゴ/Probolinggoのケチャップで、創業は1889年。
そもそもケチャップ・マニス自体がいつから製造され始めたのか、文書上の正確な記録というのは発見されておらず、
なので、根拠となりうるのが各社のラベルに書いてある創業年。
最も古いのはケチャップ・ベンテン/Kecap Benteng社の1882年だと言われています。

オラン・ジュアル・サテ=サテ売り、の名の通り、串焼きのサテに合う緩めの液状。
(創業当時はビンタン・ビダダリ/Bintang Bidadariという名前だったらしいです)
このチャップは友人に「美味しかった」と聞いて、先に買ってみてたんですよね。
サテだけでなく、どんな料理にも合わせやすい、確かに美味しいケチャップでした。

次は、中部ジャワ北岸の街、パティ/Patiの伝説のケチャップ、レレ/Lele・

ケチャップ・レレ Bandung_West Java, 2021

こちらは1954年創業。
周辺地域の多くのケチャップメーカーがこのブランドの元で学んだとも言われる、パイオニア的存在。
拠点となっているパティはケチャップのブランドが多く、
地元のひともローカルのブランドを好む傾向がとりわけ強いのだそうです。
なので、大手もなかなか入り込めない強固な土地柄なのだとか。
そんなパティで、口コミで評判が伝わり県外からも取り寄せられたり、お土産の定番となったりしているのが、
このレレブランドのケチャップなのだと言われます。
レレはナマズなんですが、ナマズは別に原料に含まれていません。
インドネシアの食品メーカー、特にケチャップ系って、こういう紛らわしいのが多い(笑)。

元々は、結構緩めな液状だったのだそうですが、
顧客であるソト屋たちからの要望で、より濃いものに改良していったのだそうです。
緩いとケチャップをたくさん使うことになるので、採算が合わなくなるということだとか。
このパティという街のすぐ近くにはスープで有名なクドゥス/Kudusという街があります。
以前記事にしたソトの旅でも立ち寄った街。
ソトを食べる時に、各自がテーブルにあるケチャップで好みの味に整える。
ケチャップとソトは、切っても切れない関係にあるのです。

選手紹介だけでだいぶ長くなりそうなので、あとはちょっと駆け足で。

まず、ジャワ島外からの参加者として、
北スマトラのメダン/Medanからハティ・アンサ/Hati Angsa、バンカ/Bangka島からシオン/Siong。

ケチャップ・ハティ・アンサ Bandung_West Java, 2021

ケチャップ・シオン Bandung_West Java, 2021

ケチャップ、特にケチャップ・マニスはジャワ島が圧倒的な中心地で、
ジャワ島外となるとそのブランドの数がぐんと減ってしまいます。
でも、せっかくだから、他の島の味も知りたいじゃないですか。
メダンもバンカ島もどちらも華人の多い地域なので、そいういう意味でケチャップが疎遠なはずはないのです。
ただ、どちらかと言えば、アシンの方が身近な存在かな、とは思います。

ハティ・アンサからはケチャップ・マニスとケチャップ・アシン両方を。
クンタル/Kental (濃)とエンチェル/Encer(薄)という表現なのが、独特です。
シオンも、マニスとアシン両方製造しているメーカーですが、今回はマニスだけ。

この2つのブランドは、原料に小麦を含んでいます。
これは、大豆を発酵させる際に麦麹を使うということみたいですね。
この2社以外だと、先のABCも麦麹(ラベルのデザインにも麦が)使用。台湾式のやり方だと言われています。

あと、この2つのブランドは、わたし的「チーム・ラベルがかわいい」でもあります。
アンサ(白鳥)は、もっと小さいプラボトルになるとハートの白鳥しかいないデザインになるので、
あえてちょっと大きめのボトルを選びました(なのに破けちゃってるのが届いて、泣きたい)。
シオンの象さんも、めちゃかわいい。しかもバラがあしらわれている。象とバラの組み合わせって、レア。

ケチャップ・シオン Bandung_West Java, 2021

あと、この二つのブランド、ジャカルタあたりのお粥屋さんでよく見かけるのも共通点です。
トップの写真も、ジャカルタのお粥屋さんで撮ったもの。

続いて、西ジャワは、バンドン/Bandung。わたしの地元。
バンドンも、ケチャップのブランドは結構あるのですが、選んだのはこの3つ。

ケチャップ Bandung_West Java, 2021

マニスにアングル/Anggurとサピ/Sapi、アシンはパパヤ/Papayaで。
ラベルのデザインで選んだことは否定しません。

同じ西ジャワのタンゲランのケチャップ・アシン、チュ・トゥン・ヒン/Cu Tung Hinは友人のおすすめ。

ケチャップ チュ・トゥン・ヒン Bandung_West Java, 2021

ダイヤモンドと金魚のラベル。ここまでしっかり漢字を表記しているブランドも珍しいです。
マレーシアやシンガポールなどにも輸出しているのだそう。

続いて中部ジャワからもう1ブランド、ロンボク・ガンダリア/Lombok Gandariaのマニスとアシン。

ロンボク・ガンダリア Bandung_West Java, 2021

先ほどのパティが中部ジャワの北岸代表だとしたら、こちらは内陸代表ということで。
ソロ/Soloが発祥の地ですが、近年徐々に全国区に進出してきているブランドです。
パッケージに唐辛子(=ロンボク)がありますが、唐辛子は配合されていません。

東ジャワからも、もう1社。これも内陸の街で、先のソロに結構近いマゲタン/Magetan発祥のサウィ/Sawi。

ケチャップ・サウィ Bandung_West Java, 2021

創業1935年のケチャップメーカー。
トマトケチャップなども販売していますが、スタートはこのケチャップから。
マニスとアシン両方揃えてみました。
サウィとは菜っ葉のような葉野菜のことですが、菜っ葉は配合されていません(もういい)。

で、最後。やっぱり入れておいてあげよう。キッコーマン。

キッコーマン Bandung_West Java, 2021

日本の醤油とはまた別物の、ケチャップ・アシン・オリエンタル。
これは、キッコーマンがアク/Akuというインドネシアのメーカーと組んで製造販売しているもの。
アクは決して古いメーカーではないのですが、
ケチャップやトマトケチャップなどのブランドとして、最近ファストフード店などでよく見かけます。

はあ。長かったですね。でも、あとは、味見するだけです。

まずは、マニスのチーム。

スマトラから順番にならべました(最後のサウィとサテは地理的には逆だけど、まあいい)。

ケチャップ ・マニス Bandung_West Java, 2021

①ハティ・アンサ:
色が濃厚で、塩の味が結構鋭く強い。後からカラメル味。
②シオン:
これも色が濃厚で、塩みが鋭い。カラメル味は①より若干弱めだけど、やや焦げの風味がある。
③SH:
色が薄くて明るい。濃度はしっかりとしたとろみ。
八角、シナモン、コリアンダーなど、配合されたスパイスの風味が特徴的で、ふんわりとした後香が続く。
④バンゴ:
くっきりとしたカラメルの風味とまろやかな甘味。スイーツに使ってもいいんじゃない、というくらいの風味。
⑤アングル:
粘度の高い、かなりとろりとした液状。五香粉のような風味が微かに残る。塩味も結構くっきり。
⑥サピ:
同郷の⑤に似るが、スパイスの香りも塩味もやや強め。
⑦レレ:
やや浅い色味。味はどことも全く違う。
スパイスとハーブの風味なのか、ウスターソースを思わせるような複雑な味わい。
⑧ロンボク・ガンダリア:
どちらかというと、ハーブ系の風味で、後味がフルーティー。
⑨オラン・ジュアル・サテ:
液状は一番緩い。カラメルの風味に心もち強めの塩気。
⑩サウィ:
濃いめの色味。八角が香り、やや苦味のある味。

ケチャップ・マニス Bandung_West Java, 2021

正直、10種類も揃えちゃって、味の違いわかんないんじゃないの?とか思いもしたのですが、
予想以上に、違います、みんな。ちょっと、びっくり。

メダン(スマトラ)とバンカのケチャップの塩味が強いというのは、
逆に言うと、ジャワの甘味に対する指向性の強さが現れているともとれます。
そもそも、元々は塩味ソイソースとして伝来したケチャップになぜ甘さが加わったのかというのは、
え、ここでその話し入れる?みたいな感もありますが、要はジャワ人の甘さを好む舌ゆえなんですよね。
以前、ジャワ料理について書いた中でも少し触れましたが、
オランダの植民地時代に中〜東ジャワで行われたサトウキビの強制作付けが、地域の食糧不足を招き、
ジャワ人たちが米に変わるエネルギー源としてサトウキビや椰子からの糖分を摂取するようになり、
結果的にジャワ人の味覚を、甘さを好むように変化させたという背景があり、
その甘味好みに合わせてケチャップが変化したというものが、腑に落ち感のある説ではないかと思っています。
なので、ケチャップ・マニスは主にジャワ島で多く生産消費され、
スラウェシのマカッサルなどではケチャップ・ジャワと呼ばれたりするに至るわけで、
ジャワ島外では、ここまで甘さに振り切ることがなかったのかもしれないな、と思います。

で、10種類味見をした、結論。
ベーシックに使い、料理にコクと深みを出すならオールマイティーなバンゴ、アングルあたり、
でも、ちょっと他にはない風味を求めるなら、SHかレレ。この二つは他に替えの効かない美味しさがあります。

では、お水を飲んで、舌をもどしてから、ケチャップ・アシンへ。6種類。

ケチャップ・アシン Bandung_West Java, 2021

①ハティ・アンサ:
だいぶ薄い色。原料に砂糖を含まず、かなりシャープな塩味。
②チュ・トゥン・ヒン:
色の濃さのわりに、味は比較的マイルド。塩気は控えめで、椰子糖由来のカラメル風味の甘さがある。
③パパヤ:
色はだいぶ薄い。原料に砂糖を含まず、かなりはっきりとした発酵味がある。魚醤を思わせるくらいの旨味。
④ロンボク・ガンダリア:
マイルドな発酵味に、塩気とカラメルの風味。甘味もある。
⑤サウィ:
椰子糖由来の甘味、配合されたニンニクやスパイスのいずれも突出することなく、バランスよくまとまっている。
⑥キッコーマン:
濃いめの色。とろりとした甘味はコーンシロップ由来。

ケチャップ・アシン Bandung_West Java, 2021

これまた、それぞれ結構個性が出ました。
ハティ・アンサは、マニスにしろアシンにしろ、お粥屋によくあるっていうのはなんか分かる気がしますね。
インドネシアのお粥は基本鶏粥(Bubur Ayam)で、出汁や味も結構しっかり目についているものなのです。
そこに加えるなら、出汁の風味や、胡椒やネギ葉セロリのようなハーブの風味を殺す旨味マシマシ系ではなく、
底上げ系の塩味だったりコクだったりなのだろうなという。

アシン6種類の中では、
料理で焦がし醤油的に使うと美味しそうなのは、チュ・トゥン・ヒン、
わたし好みでは、発酵旨味ぎゅうぎゅうなパパヤでナシゴレンとか作りたい感じです。

味比べ、面白かったです。
ケチャップ・ファナティックなひとたちがいるのも納得しました。これだけ違うんだもの。

ケチャップのパッケージって、No1って記載されがちなんですよね。

ケチャップ Bandung_West Java, 2021

レレにも大きくNo1ってありましたよね。
これは、もちろん「うちのが一番」っていう意味もあるのでしょうが、
それぞれが「唯一無二」であるという意味合いもあるんではないかなという気がしてきました。

本当はもっといろんなご当地ケチャップ(特にマニス)を取り寄せて比べてしたかったんです。
各地の「伝説のケチャップ」を競わせてみたい、みたいな。
でも、やる前から分かってたんですが、この大量の茶色い液体たちを、まずは頑張って消費してしまわなくては。

ケチャップ Bandung_West Java, 2021

うちの食卓、この先当分は、茶色い料理が並びそうです。