2017/06/16

ラマダンのスイーツ

コラッ Bandung_West Java, 2017

すっかりご無沙汰してしまっております。
その間に、世間はラマダン−イスラム教の断食月−へと突入し、そしてとっくに折り返してしまっております。

とは言え、わが家はプロテスタントなので断食はしません。
ただ、イスラム教徒が大多数なジャワ島に暮らしていると、世間のこの一大事を肌で感じることができます。
太陰暦に則ったイスラム暦で9番目の月を意味するラマダン。
その聖なる月の、新月から次の新月までの間が断食となります。
日の出前、というより、空が白む前(鳥の鳴き始める前、と言うそうです)に食事を済ませ、
日没までの時間を飲まず、食わず(タバコも吸わず)で過ごすのが断食です。
食事をしないだけではなく、このひと月は心穏やかにあるべき月、ということのようで、
怒ったり、泣いたりしてもいけないのだと言います。

ラマダンに関しては、八木久美子著『慈悲深き神の食卓』に詳しく、分かりやすく書かれています。
エジプトをメインで取り上げてはいますが、その姿勢はインドネシアに共通する部分も多く、
食を通してイスラムと、そしてこの断食月への理解を促してくれる良書です。

さて、で、断食をすると聞いたら、
1ヶ月間慎ましい食事をするのか、飲食店は商売上がったりじゃないか、と思われるかもしれませんが、
この断食月、一年の中で最もエンゲル係数の高い月でもあります。
断食明けの食事への期待感、心の高まり具合は、当然、推して知るべし。
家族や友人たちと共に断食明けを向かえようと、夕方の街は帰宅を急ぐひとたちで溢れ、
レストランやカフェのテーブルにずらっと料理と飲み物を並べて「その時」をじっと待っている姿は、
なんというか、断食をしていないわたしから見ても、なんだか「いいもの」なのです。

通常、断食明け最初に口にするのは、
甘いお茶や、身体に穏やかなスイーツなどで、これらをタジル/Takjilと呼びます。
一方、そのタジルの後に控えている食事はイフタール/Iftarと呼ばれるのだそうです。
…と、わたしは理解しているのだけど、合っているのかな?

ということで、今回は、インドネシアでの断食明けに食べられる甘いものをざっとご紹介しましょう。
異教徒ですが、断食明けのスイーツは大好きなのです(笑)。

まず、タジルの王道と言えばデーツ。ナツメヤシの実を乾燥させたものですね。

デーツ Bandung_West Java, 2017

インドネシア語では、クルマ/Kurmaと言います。
アラブ地域などでも、タジルと言えばデーツなのだそうです。
甘くて胃に優しく、ミネラルもたっぷりのデーツは、確かに断食明けにぴったり。
ラマダンが近づくと、スーパーマーケットにはいろんな種類のデーツが並びます。

店頭のデーツ Bandung_West Java, 2017

わたしはこの時期に限らず一年を通してデーツを食べたい!と思うのですが、
ラマダン以外の時期は、ほとんど見かけないか、あっても店の片隅に申し訳程度です。
それが、今だけはどどーんと。お値段もそれなりの高級デーツもよく売れていくのです。

ラマダン月のスーパーマーケットは、普段と様相がだいぶ変わり、
タジル用の甘いシロップ類がずらっと、クッキーの類いもずらずらっと、並べ積み上げられています。
日本の師走を思わせる季節感(本当は毎年1ヶ月弱前倒しになってるから、季節とも言えないのですが)。

さて、では、スイーツたちを。

スイーツ売り Jakarta, 2017

日没が近くなると、道ばたにも食べ物を売る屋台がぞくぞくと現れるのですが、
その中でこうしてカップに入って売られている茶色っぽい色のものは、
だいたいパームシュガーとココナッツミルクを使って甘く味付けしたものたち。インドネシアらしい味です。

まずは、緑豆粥。インドネシアではブブール・カチャン・ヒジャウ/Bubur Kacang Hijauと言います。

緑豆粥 Bandung_West Java, 2017

緑豆をパンダンの葉などと一緒に柔らかく煮て、パームシュガーと塩少々で味付けをし、
食べる際にココナッツミルクをかけるこのお粥は、一年を通じていつでも食べられているものでもあります。
写真は、わが家で作ったものなので、緑豆の他にハトムギ入り。

そして、コラッ/Kolak。

コラッ Bandung_West Java, 2017

バナナだったり、カボチャだったり、お芋だったりをパームシュガーとココナッツミルクで煮込んだもの。
緑豆粥に比べて、コラッはとてもラマダン感がある気がします。
他の時期に食べていけない訳ではもちろんないのでしょうが、断食明けのイメージが強いです。

ちなみに、コラッに使うバナナはピサン・タンドゥックが美味しいです。

バナナ売り Bandung_West Java, 2017

煮くずれしにくく、酸味もしっかり残るのがいいですね。

コラッ Bandung_West Java, 2017

こちらのコラッは、サツマイモにタピオカの澱粉を加えたもちもちっとしたお団子が入ったもの。
歯ごたえあるお団子をかみかみしていると感じられるサツマイモの甘さが魅力。

それから、ブブール・スムスム/Bubur Sumsum。

ブブール・スムスム Bandung_West Java, 2017

スムスムって「骨髄」という意味なのです…が、当然、骨髄なわけではなく。
米粉をココナッツミルクと練って加熱したものです。
そこに、パームシュガーのシロップをかけていただく。

ブブール・スムスム Bandung_West Java, 2017

とろんと甘いうえに、米粉なので割としっかりお腹にたまります。

一方、フルーツポンチ風の果物ミックス(+シロップ)も、人気です。

果物屋台 Jakarta, 2017

で、この時期になると現れる、というか、この時期にしか見ない気がする果物があります。

ブレワー Bandung_West Java, 2017

ブレワー/Blewahと呼ばれるこちら。
インドネシア来て最初の数年は「カボチャでしょ」と思ってましたね。実際、かぼちゃにしか見えないし。
ところが、調べてみるとブレワーはカンタロープなのだと言うのです。
メロンのカンタロープ。その一種だそうです。
カボチャとメロンも似た植物ではありますが、でもこのビジュアルでカンタロープって。

ブレワー Bandung_West Java, 2017

割れば確かに。メロン。

このブレワー、香りはとてもいいんです。ただ、甘くない。
まあ、インドネシアで売られているメロンは総じて甘さ控えめ(?)なのですが、
このブレワーはほぼ瓜じゃないかというくらいの、控えめ加減。
なので、通常はシロップと一緒に混ぜていただきます。

そこで登場するのが、これ。

ブレワー削ぎ器 Bandung_West Java, 2017

ブレワーの果肉をしょりしょり削ぐ道具。

別に他の果物を削いでももちろんいいんですが、じゃあ何を削ぐ?という気もしますし、
何より、この道具の値札に「ブレワー削ぎ器」と書いてあるし、
ブレワー+道具 で検索したら、これが出てくるのですから、やはり専用器ということでいいかな、と。
1年のうち、この時期にしか登場しない道具です。

ブレワー Bandung_West Java, 2017

こんな具合に、しょりしょりします。結構楽しい。

ブレワー Bandung_West Java, 2017

で、ひんやり冷たい、さっぱりスイーツになります。

一方、ブレワーと並び、この時期になると存在感を増す果物と言えば、パイナップル。

パイナップル売り Bandung_West Java, 2017

バンドン近郊にパイナップルの産地として有名なところがあるので、
普段から確かにゴロゴロと市場に並んでいたりはするのですが、ラマダンの間は更にゴロゴロ。

ナスタル/Nastarというお菓子を作るためなのです。

ナスタル Bandung_West Java, 2017

ナスタルとは、オランダ語のAnanas(=パイナップル)+Taar(=菓子)を語源とし、
要はパイナップル菓子、中にパイナップルジャムが入ったクッキーのことです。

これが、美味しい。

ナスタル Bandung_West Java, 2017

パイナップルを煮詰めてジャムにして、クッキー生地を作って、小さな玉状に丸めて、焼いて…。
という作業が頑張れないわたしは、お店で買ってしまうのですが、
頑張れる人、そして頑張れないわたしのような人間に売るべく作る人たちが、パイナップルを買っていくのです。

この時期の市場もまた活気のあるもので、真剣に吟味したパイナップルを両手に持っている奥さんや、
コラッを作ると、これまた吟味に吟味を重ねたピサン・タンドゥックを6キロ買っていくおばちゃんがいたり。
楽しいのです。

ナスタルも含めたクッキーのような焼き菓子たちは、
ラマダンというより、そのラマダンが明けたレバランの大祭に向けて欠かせないもののようで、
スーパーの店頭にもずらっと並びますし、
例えばオフィスなどでも、みんなでまとめ買いするべく、昼休みなどにオーダーを取っていたりします。

店頭の焼き菓子 Bandung_West Java, 2017

なんでしょうね、
断食明けのレバランというのは、日本のお盆のようなもので遠方から家族一同が集まるわけなのですが、
そういう人々が集うレバランの席に、ナスタルをはじめとした焼き菓子たちは欠かせないもので、
そしてその欠かせない焼き菓子たちを、レバランを控えた時期にみんなで贈り合う、という感じでしょうか。
お菓子の贈り合いというのもこの時期の風物詩で、
まるでお中元やお歳暮のように、お世話になった人たちに届けあったりしています。
中国の中秋節に月餅を送り合うのも、なんかこういう感じなのかなと思ったり。

ちなみにナスタルは、レバランに限らず、春節でも好まれるお菓子です。
黄色くて丸い感じが、縁起がいいのでしょうかね。
わたしは大好物なので、レバランや春節に限らず年中好みますけど。

最後に、もうひとつ。レバランなどのお祝い事の際に出て来る揚げ菓子。

クエ・サロジャ Bandung_West Java, 2017

クエ・サロジャ/Kue Saroja。蓮の花(=Seroja)をかたどっているというこの揚げ菓子、
(この写真のはあんまり蓮の花に見えませんが…汗)
米粉をココナッツミルク等で溶いた生地に、油で熱した型を浸け、
油の中でしばし揚げた後に型から振り落とすようにして仕上げるという、その作り方が独特です。
ぱりんとした歯ごたえ。
西ジャワ特有のものだと言うのですが、どうなんでしょうね。

パイナップル売り Bandung_West Java, 2017

ということで、インドネシアのラマダンでのタジルからお祝い菓子まで、ざっと垣間見のご紹介でした。
先日「ストロベリームーン」と言われていた満月が、今年のラマダンの折り返しでした。
ムスリム&ムスリマの皆さん、残りも10日ほどですね、頑張ってください。
わたしの目下の悩みは、1箱食べてしまったナスタルを買い足すかどうかです。