2018/06/13

レバランの食卓

オポール・アヤムとクトゥパット Bandung_West Java, 2018

今年も、イスラム教の断食月(ラマダン)となり、明日の日没をもって終了となるのですが、
今週に入ってからはラマダン明けの大祭(レバラン)に向けて、人々の帰省が始まり、
家族が集うお祝いの食事の準備をと、市場は一年で最も賑わう(そして高値な)季節です。

ラマダン時期のスイーツについては、以前記事にしたことがありますが、
今回は、レバランの食卓に欠かせない料理について、ご紹介します。

レバランを控えた時期、特にジャワ島の市場のあちこちで売られ始めるものと言えば。

クトゥパット Bandung_West Java, 2018

椰子の若葉を編んだこの四角いもの。
クトゥパット/Ketupat の「ガワ」です。

クトゥパット Bandung_West Java, 2018

10個ひと束にして、せっせと編みながら売りさばいて行くおじさんたち。
これが「レバランのもう前日!」とかになると、調理済みのクトゥパットも売られ始めます。

クトゥパット売り Bandung_West Java, 2017

クトゥパットとは、ライスケーキ。
若い椰子の葉で編んだ中にお米を入れて茹で上げ、中で密に詰まった状態に仕上げます。
これが、ジャワを中心としたインドネシアのレバランには欠かせないのです。

とは言え、クトゥパット自体は、インドネシア、マレーシア、シンガポール、ブルネイ、フィリピンといった、
東南アジア島嶼部で、広く日常的に食べられているもの。
恐らくは、その保存性の高さから、海洋民たちの航海中の食品として広まったのではないかと思われます。
インドネシアにもイスラム教が普及するより以前からあったと言われていますし、
ヒンドゥー教徒がそのほとんどをしめるバリ島でも、日常的に、そして儀式の際にと食べられています。
ここジャワ島でももちろん、レバランに限らず日々食べられていますし、
南カリマンタンのバンジャルマシンでは、ジャワ以上に、日常生活に切り離せない浸透具合です。

クトゥパット売り Banjarmasin_South Kalimantan, 2016

2年前に訪れた時に、あまりのクトゥパットぶりにびっくりしたくらいです。
レバランもなにも関係ないタイミングでこの並びっぷり。

クトゥパット売り Banjarmasin_South Kalimantan, 2016

あ、うっかり話しがそれました。

バンジャルマシンについてはまたいずれということで、
改めて、どうしてクトゥパットが、ことのほかレバランに欠かせないものとなったのか。

15世紀頃のジャワの王族がその発端のようです。
ジャワにおけるイスラム普及に大きく貢献したと言われている、当時のジャワの王カリジャガが、
ジャワの思想にイスラム習慣である断食をリンクさせて、
クトゥパットをレバランの「贖罪と赦し」の象徴として、人々に広めていったのだと言われています。

クトゥパット Bandung_West Java, 2018

クトゥパットの、その編み目の複雑さは、人類が犯すあらゆる過ちを表わし、
割った中の白さは、その罪を赦す心の清らかさを表わす、という解釈なのだそう。

ここでいきなり過ちだったり赦しが出てくるのは、
イスラムにおいてこの断食月というのが、贖罪の月であり、そしてそれを赦す聖なる月だからなんですね。
インドネシアのムスリムたちの間でも、ラマダンを終えてレバランを迎える際の挨拶は、
それまで自分が犯したであろう過ちに対する謝罪の言葉なのです。

当時ジャワでは、そのレバランの象徴としてのクトゥパットを、一族の年長者のところへ配り届け、
それによって、親族のつながりという象徴性もまた込められていたのだと言います。

こうして「象徴としてのクトゥパット」の解釈が浸透し、今ではなくてはならないものになったわけですね。

一方で、日本のおせち料理同様、しばらく料理をしないために、というのもあると思うんですけどね。
お店も市場も閉まってしまい、そして、家族を始めたくさんの来客のあるレバランの数日間。
日持ちするクトゥパットと、同じく日持ちのする肉料理などを準備しておくのが習わしになったのではないかと。

ということで。

今年、わたしは初めて、クトゥパットを作ってみました。
編むのは(なんてたってあらゆる過ちの象徴ですから)複雑なので、10個おじさんから買ってきて。

クトゥパット Bandung_West Java, 2018

お米を詰めるわけですが、どのお米がいいのかも、市場のお米屋さんのアドバイスに従いました。
(初心者ですからね、なにがどう違うのか分かりません)

市場の米屋 Bandung_West Java, 2018

沢山並んだお米たちの中で「クトゥパット用」というのを売ってもらって。
ふくらみ方が違うんだと、お兄さんは言います。

そのお米をきれいにといで、ガワに詰めていきます。

お米をとぐ、というのに対して、うちのメイドさんは「日持ちさせないといけないでしょ」と言いました。
きれいに洗うことで保ちがよくなる、ということなのかな。
ちょっとわたしにはなかった発想で、「ほう」となりました。

お米は、この小さな隙間から入れていきます。

クトゥパット Bandung_West Java, 2018

お米屋のお兄さんは「半分よりちょっと少なめ、40%くらい入れること」と言いました。
でも、メイドさんからは「少なすぎても美味しくないでしょ、ほら、これ足りない」とチェックが。
間を取って、半分くらいを目処に、お米を入れていきます。

クトゥパット Bandung_West Java, 2018

お米を入れ終わったら、5つずつしばって、さあ、茹でましょう。

普通に茹でたら4時間くらいかかるのが、クトゥパット。ここは圧力鍋で。
加圧し始めてからだいたい40分ほどで、その後自然冷却、で出来上がり。簡単!

で、茹で上がったら軒先(でなくてもいいんだけど)に吊るして保存します。

クトゥパット Bandung_West Java, 2018

水に浸かっている状態は腐りやすいので、きちんと風を通して水気を切ることが目的かな。

ふっふっふ。
出来ちゃった、クトゥパット。

クトゥパット Bandung_West Java, 2018

メイドさんには「まだつぶつぶしてない?」と言われ、そう言われてみれば…とも思いましたが、
「もう待てない」と言って、これでいいことにします(だって、初めてなんですから)。

さて、クトゥパットだけでは、味のないライスケーキですので、一緒に食べるものが必要です。
レバランのクトゥパットと一緒にいただく定番と言えば、オポール・アヤム/Opor Ayam。
チキンのココナッツミルク煮込みです。
こちらも、これまでは外で食べるものだと思ってきたので、初めて作ります。

師匠としてのうちのメイドさん(生粋のスンダ人、レバラン歴50数年)の作り方に従って。
それぞれスパイスなどの詳細については、以前の記事をご参考くださいね。

鶏肉 約1キロ
キャンドルナッツ 5粒
コリアンダーシード 大さじ1半
粒白胡椒 小さじ1
クミン 小さじ1
カルダモン 2粒
シャロット(大) 2個
ニンニク 3片
レモングラス 2本
ガランガル 約5cm
生姜 約3cm
サラムリーフ 3枚
コブミカンの葉 3枚
削りココナッツ 1玉分
水、油、砂糖、塩、適量

オポール・アヤム(材料) Bandung_West Java, 2018

だいたいです、分量は。
シャロットは、手元にあったのが結構大きなものだったので2つですが、
普通のサイズなら4〜5個くらいじゃないかなと思います。

鶏肉は、1羽で十分なのですが、煮込みでは鶏モモが好きなので、モモだけ買ってきました。

鶏肉 Bandung_West Java, 2018

洗って、適当な大きさに切り分け、血などをきれいにしておきます。

そして、ココナッツ。

ココナッツミルクをとるのに、完熟か半熟かというのがいつもよく分からないのですが、
(熟れ具合で違うらしいのです)
ここは、ココナッツ屋さんの指示に従います。

ココナッツ売り Bandung_West Java, 2018

おじさん曰く、外皮(茶色の部分)をきれいに削ってしまうと、ココナッツミルクの風味は劣るのだとか。
なので、虎柄程度に削ってから、細かくクラッシュしてもらいます。

で、そこに水を加え、ココナッツミルクを揉み出す。

ココナッツミルク Bandung_West Java, 2018

メイドさん曰く、ぬるま湯で揉むとよく出る。のだそう。
ココナッツミルクというのは油分でもあるので、温度が低すぎるとあまり出ない、というのです。
なるほど。

ココナッツミルクは、一番搾りと二番搾りをとります。
一番搾りは香りと風味、二番搾りは肉類を柔らかく仕上げる効果を狙っていると解釈しています。
なので、使用順序は二番搾り→一番搾り。
1玉分に、一番搾りはだいたい700mlほどのぬるま湯、二番搾りで1L弱、くらいでしょうかね。

では、調理開始。

まず、キャンドルナッツを揚げます。
これ、今まで知らなかったんですよ、揚げるなんて。
臭みをとるのと、保ちを良くするため、なのだそうですよ。

で、コリアンダーシード、白粒胡椒、クミンを乾煎りし、キャンドルナッツと併せて潰します。
そこに、シャロットとニンニクも加え、さらに潰す。とてもいい香りのブンブになります。

ブンブ Bandung_West Java, 2018

「もっとなめらかに!」と言われそうですが、まあいいでしょう。

鍋に油適量を熱し、この潰したブンブを炒めます。
香りが立ってきたら(いっそううっとりするいい香り)、鶏肉を入れて焼き色をつけ、
二番搾りのココナッツミルクと、レモングラス、生姜、ガランガル(いずれも叩いておく)と、
サラムリーフ、コブミカンの葉(切り目を入れる)、カルダモン(殻を開く)を加えて煮立てます。

鶏が柔らかくなった頃合いで、一番搾りのココナッツミルクを加え、砂糖と塩で味を整えて出来上がり。

オポール・アヤム Bandung_West Java, 2018

ゆで玉子も入れてしまいます。
味をみたメイドさんには「上出来!」と褒められました。ふふふ。

たっぷり揚げシャロットを振って、
アチャール/Acarと呼ばれる、キュウリやシャロット、青唐辛子の酢漬けを添え、
サンバル(唐辛子やトマトのペースト)も忘れずに。

オポール・アヤムとクトゥパット Bandung_West Java, 2018

まあ、レバランでなくてもオポールもクトゥパットも食べられていますし、
そもそもわが家はムスリムではないので、レバランを祝う習慣もないのですが、
こういう季節モノ(?)は、ちょっと気分があがりますね。

ちなみに、本物(!)のムスリム家庭でのレバランの食卓はこれの比ではなく、
各家庭の奥さんたちが腕によりをかけて作った(断食しながら!)料理たちがどどどーんと並びます。
みんな晴れやかな表情で明るいうちから食卓を囲むあの雰囲気、便乗させてもらうと幸せな気持になります。