2018/05/07

メダンの食卓①

バタック料理 Medan_North Sumatra, 2018

先週、北スマトラのメダンという街に行ってきました。
これまでも何度か仕事で行っていたのですが、今回は初の完全プライベート。
ごはんを食べに行ってきたのです。

メダンという街は、とにかく、食が豊かな街なのです。


スマトラ島の北部、海峡を挟んでマレーシアに面した位置にある、インドネシア第三の都市。
マレー色の濃い中で、華人も多く、またタミル人コミュニティがあったりする、多民族多文化都市です。
その多様性が反映された料理たちは、それを目的に訪れて十分満足させてくれるほどのクオリティ。
ゆえに、とても1回では書ききれないので、何回かに分けてメダンのごはんを紹介していきますね。

まずは、バタック料理。

北スマトラの内陸部に暮らす民族、バタック。
ただ、ひとくちにバタック人と言っても、
そこからいくつかのグループにまた細分化され、それぞれに違いもあるわけで、
なので、バタック料理と言ってみましたが、そのごく一部のさわりを、ということで。
いつかちゃんと習いに行きたいとはずっと思っているので、詳しくはまたいずれ。
今回は、メダン市内で出会ったオーソドックスなバタック料理(冒頭の写真)についてです。

彼らの料理の特徴は、内陸であることから淡水魚使いが多いこと、
またキリスト教徒が多いエリアでは豚が多用されること(バタックの中にもムスリムが多い地域もあります)、
そして、特徴的なブンブを使うこと。

まずはその、ブンブの紹介を。

市場の野菜 Medan_North Sumatra, 2018

手前の、らっきょうのような野菜がロキオ/Lokio。
バワン・バタック/Bawang Batakと呼ばれることもあります。
バンドンでもよく売られているのですが、既にしなびた葉の部分をくるっと一束縛って売られています。
さすが、本場(?)青々としてみずみずしいです。
ニラ科の植物ですが、風味はネギやシャロットに近いと言われるロキオ。

これ、らっきょうのような、というか、らっきょうじゃないかと思うのですが。どうなんでしょう。

アサム・チカラ Medan_North Sumatra, 2018

そして次が、アサム・チカラ/Asam Cikala。
これ、あれです、以前バンガイ諸島で「なんだこれ?」となったトーチジンジャーの実です。
こんなところで再会するとは。
バンガイのはもう少し細身で赤味を帯びた色だったのですが、こちらのは黄色っぽくてずんぐり型。

アサム・チカラ Bandung_West Java, 2018

買ってきて家で試しに使ってみましたが、風味や味わいは変わりません。
外側が独特の香りを持っていて、そして中の黒い種の部分に強い酸味。酸味料ですね。

酸味を出すブンブとしては、もう一つ。

アサム・ゲルグル Bandung_West Java, 2018

アサム・ゲルグル/Asam Gelugurと言われるこちら。
南〜東南アジア原産の高木(マンゴスチンと同族)になる果実(小さなカボチャのよう)をスライスして、
天日で乾燥させたもの。
これ、インドネシアでは主にスマトラで使われていて、ジャワではまず見かけない気がします。
買って来はしましたが、まだ使い方がイマイチ分かっていません。

そして、もうひとつ。これはバタック料理でしか使わないと言われているもの。

アンダリマン Medan_North Sumatra, 2018

こちらのつぶつぶ、アンダリマン/Andalimanと呼ばれるスパイス。
バタックの胡椒を意味する、ムリチャ・バタック/Merica Batakと呼ばれることもあります。
花椒の一種だと言われていますが、わたしには若い花椒そのものとしか思えません。
香りといい、痺れるような風味といい、まさに花椒。

アンダリマン Bandung_West Java, 2018

アンダリマンの「リマン」はミカン科の植物であることを表しています。
また、その香りと味が柑橘類を加えた胡椒を思わせることから、
ラダ・リモン/Lada Limon(ラダ=胡椒)と呼ばれる場合もあるそうです。

このアンダリマン、または花椒、どういう経緯でバタックの地に根付いたのか不思議です。
花椒と言えば、中国は四川。ですが、四川からの移民というのは、ほとんど耳にしません。
インドネシアに多い華人は福建、広州、客家です。
また、そもそもバタック人は北スマトラ内陸山地に多く住んでいる民族。
華人たちは主に沿岸部に暮らしているんですよね。なので、バタックと四川花椒の接点が分かりません。
文献を探しても、これははっきりわからないのだそうです。
バタック人曰く「むかしからそうやって家の庭に生えていた」のだとか。

地域によってその呼び方に違いはあれど、ほぼ全てのバタック民族の料理にこのアンダリマンは使われるそう。
バタックを繋ぐスパイス、アンダリマン。

という感じで、これらのブンブによって、
バタック料理は他の地域の料理とは異なる独特の風味を持つことになるんですね。

そんなバタック料理、まずはサクサン/Saksang。

サクサン Medan_North Sumatra, 2018

豚肉の煮込みなのですが、使っているのは豚の血です。
バタック料理において、豚の血はゴタ/Gotaと呼ばれ、多用されます。
サクサンはゴタを使ったもの、使わないものどちらもあるようなのですが。

バタック人というのは、生まれてからこの世を去るまでのありとあらゆる機会でお祝いをします。
お祝いというか、まあ慣習行事ですね。お葬式はお祝いじゃないし(汗。
で、そのような慣習行事のたびに親族近隣一同集まっては料理を振るまうわけですが、
そのような席に欠かせない定番中の定番、と言える料理がこのサクサンではないかと思います。

サクサン Toba Lake_North Sumatra, 2014

こちらは、以前にバタック人の地元(?)であるトバ湖の食堂で食べたサクサン。

で、バタック料理でこれまた定番と言えば、写真で上方に写っているキャッサバの葉の煮込み。
ダウン・ウビ・トゥンブック/Daun Ubi Tumbukと呼ばれます。
キャッサバの葉を木臼で潰し、
トーチジンジャーの花やタコカッ/Takokak(ターキーベリー)の実、その他香味料を合わせ、
ココナッツミルクで煮込んだもの。

ダウン・ウビ・トゥンブック Medan_North Sumatra, 2018

キャッサバの葉は、スマトラ島では野菜としてよく使用されますね。

そして、豚料理と言えば、サクサン以上にポピュラーではないかと思われるのが、こちら。

バビ・パンガン・カロ/Babi Panggang Karo。どーん!

バビ・パンガン・カロ Medan_North Sumatra, 2018

カロとはバタック民族の中のひとつのグループ。バビ・パンガン・カロの頭文字からBPKと略されることも。
ブンブやライムで下味をつけた豚肉を、炭火で炙り焼きにして細切りにした料理で、
これはもう「シンプルが最強」のいい例です。
このBPKの食堂(ラポ/Lapoと呼ばれます)は、北スマトラに限らずジャカルタ、バンドン、バリなどでもあり、
外地で食べられるバタック料理の筆頭でしょう。

バビ・パンガン・カロ Medan_North Sumatra, 2018

豪快にもくもくもくもく。
脂と赤身のバランスが各店の特徴。
上の写真はメダン郊外のラポのものですが、ジューシーで美味しかった。

バビ・パンガン・カロ Bandung_West Java, 2016

こちらは、バンドンにあるラポのもの。脂身控えめです。
BPRは豚出汁のスープ(写真奥)と、ゴタを使ったタレ(写真右)がセットになってくるのが基本です。
このゴタにもアンダリマンは使われます。

そして、もうひとつ、内陸の民らしく淡水魚(鯉)を使った料理を。

アルシック・イカン・マス Medan_North Sumatra, 2018

アルシック・イカン・マス/Arsik Ikan Mas。イカン・マスは鯉のことです。
その身の柔らかさや程よく脂がのるところから、好んで使われるのだそう。
見た目は、インドネシアの他の地域にもよくあるような明るい茶色の料理ですが、
アンダリマンはもちろん、ロキオ、アサム・チカラもしくはアサム・ゲルグル、といったご当地ブンブを多用、
バタック料理ならではの風味を楽しめる一皿ではないかと思います。

アルシックとは「乾いた」という意味なのだそうです。
薪などでゆっくり調理し、水分がなくなるまでじっくりと煮込んだ料理、という意味なのでしょう。

ということで、駆け足ぱぱっとバタック料理のご紹介でした。

アンダリマン Bandung_West Java, 2018

料理もさることながら、ブンブが個性的なバタック。
ロキオがらっきょうだったら原産地は中国内陸ヒマラヤ付近ですし、四川の花椒と合わせて、
この内陸の民バタックと中国内陸部になにかつながりがあるのだろうか、という謎が生まれてしまいました。

まあそれはそれとして、次回は中国からの影響が強い料理あれこれを。

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