2018/02/19

バッソ/Bakso

バッソ・イカン Pontianak_West Kalimantan, 2018

また間が空いてしまいましたが(ベトナムと台湾に旅行していました)、引き続き、西カリマンタンについて。
ポンティアナクで食べた、バッソ・イカン/Bakso Ikanがとても美味しかったのです。

…と、その前に、このBaksoをどう日本語化するか、問題があります。
バクソと書くひとも多々います。音はまあ遠からずスペルには近い、という感じですが字面がいまいち。
バソ/Basoという表記もインドネシアではよく目にしますし、通常わたしはバソと書いているのですが、
正確にはBaksoなのかなということで、音がこれに近く字面問題のない、バッソを今回は採用しましょう。

ということで。

バッソ・イカンとは魚のつみれ団子のこと。
つるんとしたなめらかな食感のつみれ団子が、透明なスープに青菜と共に入れられ、
揚げニンニクが風味のアクセントとなって、小腹を満たしてくれます。

バッソ・イカン Pontianak_West Kalimantan, 2018

真ん中にあるのは、バッソ・タフ/Bakso Tahu。厚揚げ状の豆腐につみれを詰めたものです。
同じポンティアナクの別の店は、更にバリエーションがあって、

バッソ・イカン Pontianak_West Kalimantan, 2018

通常のバッソ、バッソ・タフの他、青唐辛子につみれを詰めたもの、ブロッコリーに詰めたもの、
揚げたもの、そして中に塩卵がはいっているもの、にビーフンなど盛りだくさん。

このバッソ・イカンは、インドネシアに限らず東南アジアの華人の多い場所ではよく見かける料理ですね。
シンガポールなどではフィッシュボール・スープとメニューにあったりします。

食堂メニュー Tainan_Taiwan, 2018

先日台湾で見かけたこのメニューにある魚丸湯。
これも、このバッソ・イカンと同じ流れの食べ物ではないかと思います。
なぜ断言できないかと言うと、魚丸湯を頼んだつもりが、読み方がわからないために指さしで注文した結果、
その隣の蛤蜊湯が出てきてしまって、結局、魚丸湯は食べ損ねてしまったのです(笑)。

つまりこのバッソも、やはり中国由来の食べ物ということになるのですが、それはこの名前からも見て取れます。
福建語由来で、Bakは豚肉なのは以前にもここで書きましたが、
これがBak-soとなると叩いた豚肉/豚ひき肉という意味なのだとか(豚肉を捏ねる、という説もあり)。

インドネシアに伝わっている、バッソの始まりの話しがあります。

17世紀の福建省福州市。とても親孝行なMeng Boという子どもがいました。
自分の母親が、老いて歯が弱ったがために大好きな肉が食べられなくなってしまったことに心を痛めた彼は、
どうすれば肉を食べさせてあげられるか知恵を絞り、米を搗いて餅にするところからヒントを得て、
肉を細かく叩いてからまるめて加熱し、同じく肉からとったスープに浮かべた料理を作りました。
そのスープ入りの肉団子を、母親は喜んで食べ、そしてそれがバッソとなったのです。めでたし、めでたし。

という、お話。

そんなバッソがイスラム教徒が多数を占めるインドネシアに伝わり、浸透して行く過程で、
彼らの食することのできない豚肉から他の肉に変わっていきました。
鶏、魚、エビなどもありますが、最も一般的なのは牛肉。
シンカワンの有名なバッソ店も、牛肉のバッソです。

バッソ店 Singkawang_West Kalimantan, 2018

ここは具沢山盛りだくさんのバッソで、バッソそのものが埋もれ気味ではありましたが、
さすが有名店な美味しさ。

牛バッソ Singkawang_West Kalimantan, 2018

バッソやバッソ・タフの他に、牛肉や臓物、それから幅広の米麺も入っています。

西カリマンタンから、インドネシア全体へ目を向けると、
このバッソは国民的「小腹を満たす」軽食、と言っていいのではないかと思うほど、広く各地で愛されています。

ジャカルタの道ばたで、ジャワの田舎で、離島の村の唯一の食堂のメニューがお茶とバッソだったことも、
東カリマンタンの内陸に入ったダヤック人集落でも、唯一ありつけた食べ物がバッソだったこともありました。
子どもたちが学校帰りに、みんなで遊びにでた休日に、渋滞にはまってぐったりして、雨降りの午後に、
色んなシチュエーションで「ねえ、バッソ食べていこうか」となるのがインドネシアです。

バッソ Bandung_West Java, 2018

ひき肉とタピオカ粉(澱粉)などを練って弾力ある団子状にしたものがバッソ。
澄んだスープなのはどこも同じで、そこに揚げたシャロットと刻んだスープセロリを散らします。
小麦粉麺とビーフンを混ぜていれるところも多いです。
バッソ自体も、なめらかなもの、筋っぽい食感を残しているもの、中に具が入っているものなどバリエーション。
これは、ゆで卵入り。

バッソ Bandung_West Java, 2018

全国各地で食べられているバッソですが、有名なのは中部ジャワのソロと、東ジャワのマラン。
ジャカルタなどでバッソ屋台を引いている人たちの出身地も、ジャワの場合が多いのだとか。

こうして肉団子スープとして食べる以外で、バッソがよく使われるのは、麺の具材。

バッソ乗せ汁別麺 Jakarta, 2017

ポンティアナクで食べた麺にも、やはりバッソ。

バッソ乗せ汁別麺 Pontianak_West Kalimantan, 2018

それから、ナシゴレンやミーゴレンなどの具としてもよく使われます。

ナシ・チャプチャイ Singkawang_West Kalimantan, 2018

こちらはシンカワンで食べたナシ・チャプチャイ/Nasi Cap Cai(Cap Cay)。
インドネシアンチャイニーズの代表のようなこの料理は、八宝菜のようなもの。
野菜やお肉などをあんかけ炒めにして、ご飯にかけてあります。

そのチャプチャイにも、バッソ。

ナシ・チャプチャイ Singkawang_West Kalimantan, 2018

バッソ・タフもジャワ、とくに西ジャワのバンドンではよく食べられます。

バッソ・タフ Bandung_West Java, 2016

揚げたものもありますが、こちらは蒸したもの。
一口大に切って、唐辛子いりのピーナッツソースとケチャップマニスでいただきます。

バッソ・タフ Bandung_West Java, 2016

こんな感じで、豆腐に切り込みを入れてそこにつみれを詰めるのです。
タピオカ粉の分量の違いなのでしょうか、一般的なバッソよりねっちりとした歯ごたえがあります。

そんなみんな大好きバッソですが、ちょっと不思議なことが。
Bak-soがひき肉、もしくは捏ね肉、という意味なのはわかりましたが、これ、肉団子じゃないですか。
肉団子、ならバックワン/Bakwan(wan=丸なのだそう)のはずなのですが、
これが全く別の食べ物になってしまうのです。

バックワン Bandung_West Java, 2018

これ、野菜のかき揚げなんです。

キャベツ、モヤシ、ニンジン、時に干しえび、などを揚げたもの。
西ジャワではバラバラ/Bala Balaと呼ぶ場合もあり、
また東ジャワの一部ではバックワンとバッソは同じものと言われもするようなのですが、
それでも、広く一般的にバックワンと言うと、このかき揚げ。
どういう経緯で、肉が野菜になってしまったのか。調べたけどわかりませんでした。

バックワン Bandung_West Java, 2018

美味しいんですよね、このバックワン。

円盤型で中央に小エビのあるものもよく見かけます。

バックワン Solo_Central Java, 2017

ポンティアナクの街中で見かけたバックワンは、豪快にお玉いっぱいをそのまま揚げたもの。

バックワン Pontianak_West Kalimantan, 2018

たっぷり大きくて、かりっと揚がったバックワン。美味しそうです。

ところで、南スマトラの食べ物で、テクワン/Tekwanというのがあるのですが、
これもバッソ・イカンによく似たつみれ(ただ、まんまるではない)と春雨のスープです。

テクワン Jakarta, 2017

この流れで、この形状で、この名前ですから「ワンは丸なのね、じゃあテクはなにかしら」と思いますよね。
南スマトラも華人が多い地域だったりしますし、なおさら。
このテクワンの名前の由来は「Berkotek sama kawan」。
地元の言葉で「友達と一緒に座っておしゃべりをする」という意味なのだそうです。
福建語、まるで関係ないです。一筋縄じゃいきませんねえ(笑)。



出てきた地名をだいたい。
A ポンティアナク
B シンカワン
C ジャカルタ
D バンドン
E ソロ
F マラン

ということで、中国由来の食べ物という枠を超えて、インドネシア中で広く親しまれているバッソですが、
このバッソに限らず、インドネシアの中で華人が多い地域には練り物系の食べ物がよくあるんですよね。
インドネシア、練り物の旅。それもまた、現地で食べられたら追々、ご紹介して行きますね。


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