2017/08/19

バンガイ諸島の食卓⑦

パペダ Banggai Islands_Central Sulawesi, 2017

さて今回は、芋類とはまた別の、もうひとつの主食枠の食べ物について。

パペダ/Papeda、って聞いたことありますか?
サゴヤシの澱粉から作る、糊状の食べ物なのです。
粘度の高い味のない葛湯、みたいな感じだというと想像つきますか(余計分からないですか、笑)。
インドネシアの中でも、スラウェシ、マルク、パプアあたりでしか食べられていないと思います。
そのパペダを町のお母さんが作ってくれました。

ですが、その前に、まずはサゴヤシの澱粉について。

サゴヤシ Banggai Islands_Central Sulawesi, 2017

サゴヤシはパプアニューギニアが原産と言われている椰子で、
スマトラ島からニューギニア島間に位置する、東南アジア島嶼部を中心に植えられています。
幹の中に大量の澱粉を含んでいるのが特徴で、
この澱粉が、米食以前の東インドネシア地域での主食のひとつとされていました。

スラウェシもサゴヤシが多く植えられている土地で、
バンガイ島の北側を回っていた際に、道ばたの水流近くで澱粉採取しているところに出くわしました。

サゴヤシ澱粉採取現場 Banggai Islands_Central Sulawesi, 2017

手前に転がっている丸木がサゴヤシの幹です。

サゴヤシ Banggai Islands_Central Sulawesi, 2017

真っ白。

この真っ白い、幹の内側部分を粉砕器に投入していきます。

粉砕器 Banggai Islands_Central Sulawesi, 2017

で、ここで砕かれたサゴヤシの繊維が出て来るところに、ひたすら水を流す。

サゴヤシ澱粉採取 Banggai Islands_Central Sulawesi, 2017

この水を流している部分の下に、この繊維に含まれていた澱粉質があつまっていく仕組みです。

サゴヤシ澱粉採集 Banggai Islands_Central Sulawesi, 2017

で、この澱粉質を、今度はわきの溜め池に流し込みます。

サゴヤシ澱粉採取 Banggai Islands_Central Sulawesi, 2017

その溜め池、たっぷり水を張っているように見えますが、水は徐々にその先に流れるようになっていて、
一番手前の大きなスペースは、ほとんどが沈殿した澱粉質なのです。

サゴヤシ澱粉採取 Banggai Islands_Central Sulawesi, 2017

手を入れると、ごくごく浅く張った水の下にたっぷり分厚く、澱粉が沈殿しています。

サゴヤシ澱粉 Banggai Islands_Central Sulawesi, 2017

この澱粉を更に乾燥させて、サゴ粉として東ジャワのスラバヤに出荷しているのだそうです。
その先、何になるの?と聞いてみましたが、
「さあなあ、もうサゴって名前じゃないものになってるかもなあ」という答え。
色々な加工品となって、販売されるのでしょう。

サゴヤシを使った食品というと、シノレや板状にして焼いたものなど、食事の際に食べるものの他、
キャッサバから作られるタピオカ同様、粒状になってデザートに使われるサゴパールなどもあります。

サゴパール Banggai Islands_Central Sulawesi, 2017

別の島で泊めてもらった村長さんの家にあったものなんですが、なんともクラシックなパッケージ(笑)。

サゴパール Banggai Islands_Central Sulawesi, 2017

食べ方などは、タピオカと同じだそうです。

そして、サゴヤシクッキーのバゲア/Bageaも、東インドネシアでよく目にします。大好物。

バゲア Bandung_West Java, 2017

このバゲアは、バンガイ諸島の帰りがけに、南スラウェシから買って帰って来たもの。
ボリっとした歯ごたえと、それでいてほわんと口の中でゆるくとろける感じが特徴の、素朴な焼き菓子です。

バゲアとバンケッ Sangir Island_North Sulawesi, 2015

一方こちらは、北スラウェシのサンギル島で買ったバゲアとバンケッ/Bangket。
棒状の方が、バゲア。
平たい方がバンケッで、こちらもサゴ澱粉を使って、スパイスなどを足した焼き菓子です。

もう一つ、サグ・レンペン/Sagu Lempengというのもあります。
サゴヤシの澱粉をかりっかりの板状に乾燥させたもの。

サグ・レンペン Wakatobi_Southeast Sulawesi, 2015

コーヒーや紅茶などに浸して、ふやかしながら食べるもので、カチカチに硬い、保存食のようなものでしょうね。

さて、そして、肝心のパペダです。

バンガイ諸島では、パペダはオニョッ/Onyopと呼ばれるのだそうです。
通常、汁気のものと一緒に食べられることが多いパペダ。
酸っぱい魚のスープを作った際に、一緒に用意してもらいました。初パペダ、ひとり静かに大興奮。

サゴ澱粉 Banggai Islands_Central Sulawesi, 2017

市場では、このおからみたいなモロモロの状態で売られています。

これを買って来て、まずは適量水を足して異物が入っていないかを漉して確認します。

サゴ澱粉 Banggai Islands_Central Sulawesi, 2017

キレイな状態になったサゴ澱粉。余分な水分は一旦捨てます。

サゴ澱粉 Banggai Islands_Central Sulawesi, 2017

ここからは、一気です。
(というか、パペダの準備はあっという間なのです)

撹拌作業がしやすいように、床にどんとボウルを置き、固まった澱粉を適当にほぐします。

パペダ調理 Banggai Islands_Central Sulawesi, 2017

で、そこに熱湯を適量注ぎます。

パペダ調理 Banggai Islands_Central Sulawesi, 2017

そして、すかさず、とにかく間髪入れずに、ぐるぐるぐるぐると撹拌していきます。

パペダ調理 Banggai Islands_Central Sulawesi, 2017

パペダ調理 Banggai Islands_Central Sulawesi, 2017

パペダ調理 Banggai Islands_Central Sulawesi, 2017

パペダ調理 Banggai Islands_Central Sulawesi, 2017

パペダ調理 Banggai Islands_Central Sulawesi, 2017

白濁していたのが、徐々につやのある半透明状になっていくの、お分かりいただけますか?
ぐるぐるぐるぐる、たぷたぷたぷたぷとかき混ぜて、均一な糊状になったら出来上がり。
熱々のうちにたべるのが美味しいので、大急ぎで食卓へ。

パペダ Banggai Islands_Central Sulawesi, 2017

お箸を刺して。

このお箸を両手に一本ずつもって、ぐるぐるぐるぐる!っとパペダを巻き取るのです。

パペダ Banggai Islands_Central Sulawesi, 2017

楽しいです、これ。お母さんに「やらせて!」とねだりました。

で、巻き取ったのを、ぽとんとスープに落とします。

パペダ Banggai Islands_Central Sulawesi, 2017

で、両手のお箸で一口大にちぎっていくのです。

パペダ Banggai Islands_Central Sulawesi, 2017

味のあるものではないんです。ただ、つるんとしたのどごしがなんともクセになる。
食べてはぐるぐる巻き取って、また食べて、ぐるぐる巻き取って。
お母さんは「ごはんも食べなさい」と言ってくれたのですが、
「米なんてジャワでも食べられます!」と、断固パペダ。わたしはかなり好きです、これ。

南スラウェシだと、このパペダは魚/鶏出汁にたっぷり野菜を入れたスープで食べるのだそうです。
また、北スラウェシでは、椰子砂糖を使って甘く仕上げ、小さな塊にココナッツをまぶして食べるのだとか。
オンゴル・オンゴル/Ongol-ongolと言われるこのスイーツ、ちょっと気になりますよね、いつか作ってみます。

パペダ Banggai Islands_Central Sulawesi, 2017

食べてみたいなあと思っていたものを食べられて大満足。
つるんとしたパペダは、小さい子からお年寄りまで、みんなの大好物なのだそうです。
「オニョッ作るの!」と、準備中からみんな待機。
出来上がりを、いそいそわいわい食べるのもまた楽しく。いい経験になりました。


2 件のコメント:

  1. 投稿楽しみに読ませていただきました。
    私もパペダ食べました(テルナテ)
    私も毎回インドネシアに幾度にローカル料理を色々食べてみるのですが、ここまで研究された日本語のページは初めてです.....
    次なる投稿も楽しみにしております。

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    1. どうもありがとうございます。
      テルナテもサゴヤシ圏ですよね。バンガイ諸島は北マルクに近いので、食べ物もだいぶ似ている気がします。
      のんびり更新ではありますが、また覗きにいらしてくださいね。

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