2018/06/13

レバランの食卓

オポール・アヤムとクトゥパット Bandung_West Java, 2018

今年も、イスラム教の断食月(ラマダン)となり、明日の日没をもって終了となるのですが、
今週に入ってからはラマダン明けの大祭(レバラン)に向けて、人々の帰省が始まり、
家族が集うお祝いの食事の準備をと、市場は一年で最も賑わう(そして高値な)季節です。

ラマダン時期のスイーツについては、以前記事にしたことがありますが、
今回は、レバランの食卓に欠かせない料理について、ご紹介します。

レバランを控えた時期、特にジャワ島の市場のあちこちで売られ始めるものと言えば。

クトゥパット Bandung_West Java, 2018

椰子の若葉を編んだこの四角いもの。
クトゥパット/Ketupat の「ガワ」です。

クトゥパット Bandung_West Java, 2018

10個ひと束にして、せっせと編みながら売りさばいて行くおじさんたち。
これが「レバランのもう前日!」とかになると、調理済みのクトゥパットも売られ始めます。

クトゥパット売り Bandung_West Java, 2017

クトゥパットとは、ライスケーキ。
若い椰子の葉で編んだ中にお米を入れて茹で上げ、中で密に詰まった状態に仕上げます。
これが、ジャワを中心としたインドネシアのレバランには欠かせないのです。

とは言え、クトゥパット自体は、インドネシア、マレーシア、シンガポール、ブルネイ、フィリピンといった、
東南アジア島嶼部で、広く日常的に食べられているもの。
恐らくは、その保存性の高さから、海洋民たちの航海中の食品として広まったのではないかと思われます。
インドネシアにもイスラム教が普及するより以前からあったと言われていますし、
ヒンドゥー教徒がそのほとんどをしめるバリ島でも、日常的に、そして儀式の際にと食べられています。
ここジャワ島でももちろん、レバランに限らず日々食べられていますし、
南カリマンタンのバンジャルマシンでは、ジャワ以上に、日常生活に切り離せない浸透具合です。

クトゥパット売り Banjarmasin_South Kalimantan, 2016

2年前に訪れた時に、あまりのクトゥパットぶりにびっくりしたくらいです。
レバランもなにも関係ないタイミングでこの並びっぷり。

クトゥパット売り Banjarmasin_South Kalimantan, 2016

あ、うっかり話しがそれました。

バンジャルマシンについてはまたいずれということで、
改めて、どうしてクトゥパットが、ことのほかレバランに欠かせないものとなったのか。

15世紀頃のジャワの王族がその発端のようです。
ジャワにおけるイスラム普及に大きく貢献したと言われている、当時のジャワの王カリジャガが、
ジャワの思想にイスラム習慣である断食をリンクさせて、
クトゥパットをレバランの「贖罪と赦し」の象徴として、人々に広めていったのだと言われています。

クトゥパット Bandung_West Java, 2018

クトゥパットの、その編み目の複雑さは、人類が犯すあらゆる過ちを表わし、
割った中の白さは、その罪を赦す心の清らかさを表わす、という解釈なのだそう。

ここでいきなり過ちだったり赦しが出てくるのは、
イスラムにおいてこの断食月というのが、贖罪の月であり、そしてそれを赦す聖なる月だからなんですね。
インドネシアのムスリムたちの間でも、ラマダンを終えてレバランを迎える際の挨拶は、
それまで自分が犯したであろう過ちに対する謝罪の言葉なのです。

当時ジャワでは、そのレバランの象徴としてのクトゥパットを、一族の年長者のところへ配り届け、
それによって、親族のつながりという象徴性もまた込められていたのだと言います。

こうして「象徴としてのクトゥパット」の解釈が浸透し、今ではなくてはならないものになったわけですね。

一方で、日本のおせち料理同様、しばらく料理をしないために、というのもあると思うんですけどね。
お店も市場も閉まってしまい、そして、家族を始めたくさんの来客のあるレバランの数日間。
日持ちするクトゥパットと、同じく日持ちのする肉料理などを準備しておくのが習わしになったのではないかと。

ということで。

今年、わたしは初めて、クトゥパットを作ってみました。
編むのは(なんてたってあらゆる過ちの象徴ですから)複雑なので、10個おじさんから買ってきて。

クトゥパット Bandung_West Java, 2018

お米を詰めるわけですが、どのお米がいいのかも、市場のお米屋さんのアドバイスに従いました。
(初心者ですからね、なにがどう違うのか分かりません)

市場の米屋 Bandung_West Java, 2018

沢山並んだお米たちの中で「クトゥパット用」というのを売ってもらって。
ふくらみ方が違うんだと、お兄さんは言います。

そのお米をきれいにといで、ガワに詰めていきます。

お米をとぐ、というのに対して、うちのメイドさんは「日持ちさせないといけないでしょ」と言いました。
きれいに洗うことで保ちがよくなる、ということなのかな。
ちょっとわたしにはなかった発想で、「ほう」となりました。

お米は、この小さな隙間から入れていきます。

クトゥパット Bandung_West Java, 2018

お米屋のお兄さんは「半分よりちょっと少なめ、40%くらい入れること」と言いました。
でも、メイドさんからは「少なすぎても美味しくないでしょ、ほら、これ足りない」とチェックが。
間を取って、半分くらいを目処に、お米を入れていきます。

クトゥパット Bandung_West Java, 2018

お米を入れ終わったら、5つずつしばって、さあ、茹でましょう。

普通に茹でたら4時間くらいかかるのが、クトゥパット。ここは圧力鍋で。
加圧し始めてからだいたい40分ほどで、その後自然冷却、で出来上がり。簡単!

で、茹で上がったら軒先(でなくてもいいんだけど)に吊るして保存します。

クトゥパット Bandung_West Java, 2018

水に浸かっている状態は腐りやすいので、きちんと風を通して水気を切ることが目的かな。

ふっふっふ。
出来ちゃった、クトゥパット。

クトゥパット Bandung_West Java, 2018

メイドさんには「まだつぶつぶしてない?」と言われ、そう言われてみれば…とも思いましたが、
「もう待てない」と言って、これでいいことにします(だって、初めてなんですから)。

さて、クトゥパットだけでは、味のないライスケーキですので、一緒に食べるものが必要です。
レバランのクトゥパットと一緒にいただく定番と言えば、オポール・アヤム/Opor Ayam。
チキンのココナッツミルク煮込みです。
こちらも、これまでは外で食べるものだと思ってきたので、初めて作ります。

師匠としてのうちのメイドさん(生粋のスンダ人、レバラン歴50数年)の作り方に従って。
それぞれスパイスなどの詳細については、以前の記事をご参考くださいね。

鶏肉 約1キロ
キャンドルナッツ 5粒
コリアンダーシード 大さじ1半
粒白胡椒 小さじ1
クミン 小さじ1
カルダモン 2粒
シャロット(大) 2個
ニンニク 3片
レモングラス 2本
ガランガル 約5cm
生姜 約3cm
サラムリーフ 3枚
コブミカンの葉 3枚
削りココナッツ 1玉分
水、油、砂糖、塩、適量

オポール・アヤム(材料) Bandung_West Java, 2018

だいたいです、分量は。
シャロットは、手元にあったのが結構大きなものだったので2つですが、
普通のサイズなら4〜5個くらいじゃないかなと思います。

鶏肉は、1羽で十分なのですが、煮込みでは鶏モモが好きなので、モモだけ買ってきました。

鶏肉 Bandung_West Java, 2018

洗って、適当な大きさに切り分け、血などをきれいにしておきます。

そして、ココナッツ。

ココナッツミルクをとるのに、完熟か半熟かというのがいつもよく分からないのですが、
(熟れ具合で違うらしいのです)
ここは、ココナッツ屋さんの指示に従います。

ココナッツ売り Bandung_West Java, 2018

おじさん曰く、外皮(茶色の部分)をきれいに削ってしまうと、ココナッツミルクの風味は劣るのだとか。
なので、虎柄程度に削ってから、細かくクラッシュしてもらいます。

で、そこに水を加え、ココナッツミルクを揉み出す。

ココナッツミルク Bandung_West Java, 2018

メイドさん曰く、ぬるま湯で揉むとよく出る。のだそう。
ココナッツミルクというのは油分でもあるので、温度が低すぎるとあまり出ない、というのです。
なるほど。

ココナッツミルクは、一番搾りと二番搾りをとります。
一番搾りは香りと風味、二番搾りは肉類を柔らかく仕上げる効果を狙っていると解釈しています。
なので、使用順序は二番搾り→一番搾り。
1玉分に、一番搾りはだいたい700mlほどのぬるま湯、二番搾りで1L弱、くらいでしょうかね。

では、調理開始。

まず、キャンドルナッツを揚げます。
これ、今まで知らなかったんですよ、揚げるなんて。
臭みをとるのと、保ちを良くするため、なのだそうですよ。

で、コリアンダーシード、白粒胡椒、クミンを乾煎りし、キャンドルナッツと併せて潰します。
そこに、シャロットとニンニクも加え、さらに潰す。とてもいい香りのブンブになります。

ブンブ Bandung_West Java, 2018

「もっとなめらかに!」と言われそうですが、まあいいでしょう。

鍋に油適量を熱し、この潰したブンブを炒めます。
香りが立ってきたら(いっそううっとりするいい香り)、鶏肉を入れて焼き色をつけ、
二番搾りのココナッツミルクと、レモングラス、生姜、ガランガル(いずれも叩いておく)と、
サラムリーフ、コブミカンの葉(切り目を入れる)、カルダモン(殻を開く)を加えて煮立てます。

鶏が柔らかくなった頃合いで、一番搾りのココナッツミルクを加え、砂糖と塩で味を整えて出来上がり。

オポール・アヤム Bandung_West Java, 2018

ゆで玉子も入れてしまいます。
味をみたメイドさんには「上出来!」と褒められました。ふふふ。

たっぷり揚げシャロットを振って、
アチャール/Acarと呼ばれる、キュウリやシャロット、青唐辛子の酢漬けを添え、
サンバル(唐辛子やトマトのペースト)も忘れずに。

オポール・アヤムとクトゥパット Bandung_West Java, 2018

まあ、レバランでなくてもオポールもクトゥパットも食べられていますし、
そもそもわが家はムスリムではないので、レバランを祝う習慣もないのですが、
こういう季節モノ(?)は、ちょっと気分があがりますね。

ちなみに、本物(!)のムスリム家庭でのレバランの食卓はこれの比ではなく、
各家庭の奥さんたちが腕によりをかけて作った(断食しながら!)料理たちがどどどーんと並びます。
みんな晴れやかな表情で明るいうちから食卓を囲むあの雰囲気、便乗させてもらうと幸せな気持になります。


2018/05/21

メダンの食卓③

ビーフン・ベベッ Medan_North Sumatra, 2018

ということで、メダンにおけるチャイニーズフードを。
まあこれは「美味しかったー」と言いたいだけのポストだと思っていただいていいです。
いやー、美味しかった、ほんと。

以前の記事でも触れましたが、メダンはスマトラ島最大の華人人口を抱える街。
福建語を話せない華人は、メダンで商売できないと言われるくらいの土地柄だったりします。

華人度の高さは当然食文化にも大きく反映され、その充実っぷりはインドネシア国内でも群を抜いて。

屋台街 Medan_North Sumatra, 2018

まず、手始めに食べておきたいのは、ミー・ホッキエン/Mie Hokkien。福建麺ですね。

ミー・ホッキエン Medan_North Sumatra, 2018

煮豚や練り物、味付け卵などの具が乗った汁別麺で、
麺のどんぶりの底の方にタレが入っているのですが、エビの風味が生きた旨味系。

ミー・ホッキエン Medan_North Sumatra, 2018

メダンの対岸、マレーシアのペナン辺りで有名なのホッキエン・ミー/Hokkien Mee が、
赤だったり黒だったり、なかなかに濃厚そうな色使いなのに対し、こちらは控えめな印象ではありますが、
ペナンのホッキエン・ミーをプラウン・ヌードル/Prawn Noodleと言われたりしているので、
このエビの風味というのが、福建麺の特徴、ということになるのかもしれませんね。

続いて、わたしのメダンでのお気に入り麺は、こちら。

バクミー・ケッ Medan_North Sumatra, 2015

バクミー・ケッ/Bakmi Khek。客家麺です。

煮豚の他、ラードをとった後にできるカリカリの脂身が乗ったこれまた汁別麺。
シンプルながら、しみじみ「うまあー」となる麺です。

これらの麺、いずれも豚使いが特徴で、スープの出汁も当然ながら豚。
華人+キリスト教徒が多いバタック人、という構成から、メダンは豚を出す店を見つけやすい街なのですが、
ムスリムが多いために豚の店の選択肢が限られるジャワ(一部地域を除く)から行くと、
とりあえず、美味しい豚料理を、と思ってしまうのです。

ということで、次に豚を使ったクウェティアウを。

クウェティアウ・ゴレン Medan_North Sumatra, 2018

(色悪い、ごめんなさい)

クウェティアウ/Kwetiauは平たい米麺。そのクウェティアウを炒めたものです。
中国語だと河粉と書くみたいですね。発祥は広州とのこと。
ただ、クウェティアウという音自体は潮州由来らしく、粿條表記するようです。
元々は潮州系華人が各地に広めたものなわけですが、現在はそのルーツに限定されず、
東南アジア各地で広く好まれている麺で、
その発音もクイティアオ(タイ)やクイティウ(カンボジア)のように似たような音。

で、こちらのクウェティアウは豚ベースで、エビを加えて、ニンニク効かせて炒めたもの。
言うまでもなく、美味しい。
このニンニクをがっつり効かせるというのが、インドネシアの土着料理にはまずないんですよね。
あと、エビの風味の活用というのもいかにも中国から、という感じ。

で、このクウェティアウ、豚なだけでなく更に!なのが、こちら。

クウェティアウ・クラン Medan_North Sumatra, 2018

クウェティアウ・クラン/Kwetiau Kerang。クランは貝。ぷりぷりの二枚貝入りの炒めクウェティアウです。
ああもう、思い出しうっとり。

貝、エビ、練り物、カリカリ油脂、ラプチョン、そして野菜とたっぷりのニンニク。ああ、うっとり。

クウェティアウ・クラン Medan_North Sumatra, 2018

米粉麺のクウェティアウですが、一方、同じ米粉でかつ福建が発祥と言われているのがビーフン。

で、冒頭の写真です。
ビーフン・ベベッ/Bihun Bebek。ベベッはアヒルです。

ビーフン・ベベッ Medan_North Sumatra, 2018

食べ応えのあるしっかりしたアヒル肉と青菜に、これでもかとかけられた揚げニンニク。
下のビーフンとしっかり混ぜながら、いただきます。

ビーフン・ベベッ Medan_North Sumatra, 2018

こんなにたっぷりのニンニクですが、追いニンニクのどんぶりがついてくるのが笑えます。

ビーフン・ベベッ(揚げニンニク) Medan_North Sumatra, 2018

インドネシアのニンニクは、日本などで食べられているものよりニオイが弱いのですが、
それでもさすがにこれは…と一瞬頭をかすめはしたものの、やっぱり美味しいんですよねこの風味。

ビーフン・ベベッ(スープ) Medan_North Sumatra, 2018

白濁系の濃厚スープにはレバーや砂肝。沁みるんです、このスープがまた。

米粉といえば、屋台街で見かけた腸粉/Cheong Fun。
こういう米粉系(ベロベロ系と呼んでいる)が好きな友人が一緒だったので、試してみました。

腸粉 Medan_North Sumatra, 2018

ここには揚げニンニクではなく、揚げシャロット。
見え難いですが、向こう側にフレッシュなグリーンチリを使ったサンバルがついているのが、インドネシア風。

腸粉 Medan_North Sumatra, 2018

ベロベロ系というより、ピラピラ系、といった風情で、見た目は湯葉のようとも言える感じ。

屋台の品揃え Medan_North Sumatra, 2018

こういう並び、わくわくしますよね。

この辺りまでは、変化しつつ中国本土を発祥としている料理なのですが、
次は、マレー半島の華人(プラナカン)ルーツのものをひとつ。

ラクサ/Laksa。

ラクサ・メダン Medan_North Sumatra, 2018

一般的に「ラクサ」と言ってイメージされるのは、
シンガポールなどで見られる、魚介類+ココナッツミルクベースのカレー風味のものでしょうが、
メダンのラクサはココナッツミルクは使用していません。

ちょっと調べたら、ひと口に「ラクサ」と言っても、いろんなバリエーションがあるんですね。
メダンのこれは、魚をベースにした酸味のラクサ。麺もつるんと柔らかい、うどんのような麺です。
同じ酸味ラクサである、対岸ペナンのアサム・ラクサ/Asam Laksaと近いようですが、
酸味のもとが、ペナンのはタマリンドなのに対し、メダンはアサム・ゲルグル/Asam Gelugurなのだそう。
魚の出汁特有の重さを、酸味で中和する感じですね。ココナッツミルクを使わない分、お腹にも軽い。
驚いたのは、ハーブにミントを使っているところ。
インドネシアで食事にミントを使っているの、初めて見ました、わたし。

で、最後に。

この、食のメルティングポット、メダンならではなのではないかと、感動したのがこちら。

カリー・ビーフン Medan_North Sumatra, 2018

カリー・ビーフン/Kari Bihun。これは牛肉バージョン。

濃厚な牛スープをスパイスのきいたカレースープに仕立てて、そこにビーフン。
西方インドから影響を受けたカレーと、中国ルーツのビーフンのマッチング。
更に、ジャガイモをオランダからの影響と捉えたら、なんともまあ、メダンらしい一皿じゃないですか。

カリー・ビーフン Medan_North Sumatra, 2018

久しぶりに、食べ終わってしまうのが残念で仕方なかった一皿でもあります。
なんで近所にないんだろう。

ということで、ざっとメダンのチャイニーズフード。
掘り出せばもっともっと、バリエーションはあるはずなのです。
本当に、食い倒れ旅にはもってこいの街です、メダン。

カリー・ビーフン Medan_North Sumatra, 2018

未練がましく、カリー・ビーフンをもう一枚。
ああ、なんで近所にないんだろう…涙。


2018/05/13

メダンの食卓②

サテ・パダン Medan_North Sumatra, 2018

前回の終わりに「次回は中国系の」と書きましたが、やっぱやめます。それはまた次回で。
今回は、メダンに集まったスマトラ島内と近隣地域からの影響について、ちょっと。

そもそも、メダンという土地の土着の人々はと言えば、ムラユ人です。
ムラユとは、インドシナ半島南部、カリマンタン島沿岸部、
そしてスマトラ島東部の主に沿岸部に広く居住しているマレー系の人々。
ムラユ料理は、それぞれの地域色はあるものの、ざっくり括ると、
ガランガル(ナンキョウ)やターメリック、バワンメラ(シャロット)やニンニクなどのブンブに、
コリアンダーを始めとした各種スパイス、レモングラスやコブミカンの葉のようなハーブ類を組み合わせ、
フレッシュな唐辛子を効かせて、ココナッツミルクでコクを出す、という感じですかね。
(もちろん、ココナッツを使ってないものもあるし、酸味をきかせたものもあったりはします)

ガランガルなどは東南アジア地域特有のブンブですが、例えばニンニク使いは中国から、
そして、スパイスやココナッツミルク使いは南インドから、というように、
この地域の位置関係が表すように、北は中国、西はインドから影響を受けて発展したのがムラユ料理と言えます。

マレーシアを旅行したことがあるひとなら、ナシ・レマッ/Nasi Lemakを食べたことがあるかも知れません。

ナシ・レマッ Jakarta, 2018

ココナッツミルクで炊いたご飯(ジャカルタ界隈だとナシ・ウドゥッ/Nasi Udukと言われます)に、
スパイスとココナッツミルクで煮込んだ牛肉や、味付けした小魚などおかずを添えたもの。
これはもう、ムラユ料理ど真ん中じゃないかと思います。

で、そんなムラユの土地ですので、
メダンの料理の分布の様相は、例えばジャカルタなどよりもむしろ、マレーシア西部によく似ているし、
メダンのあらゆるご飯たちの土台に広がっているのが、ムラユ料理と言えるのではないかと思うのです。

メダンのムラユ料理と言えば、以前レシピでご紹介したアニャン/Anyangなどがまず挙げられます。

アニャン Bandung_West Java, 2017

他に、ココナッツミルクのスープをライスケーキにかけた、ロントン・サユール/Lontong Sayurとか。
ただ、今回は残念ながら、正統派(?)メダンのムラユ料理を出すお店は見つけられませんでした。
(時間切れだったのです)

ですが、そのメダンのムラユ料理と親和性が高そうなスマトラ島内の料理を出す店は、街のあちこちに。

同じスマトラ北部の料理として、まずはこちら。

ミー・アチェ Medan_North Sumatra, 2018

ミー・アチェ/Mie Aceh。その名の通り、スマトラ島北端のアチェから来た麺です。
太めの黄色いたまご麺を、辛味のきいたスパイシーな汁であえてあるのですが、
パンチのある辛さと、どどんと入ったカニ(エビやイカもあり)が特徴です。
シーフードの出汁がきいた麺は、その辛さに大量の汗が噴き出すものの、止まらない美味しさ。

アチェもまた多様のスパイスを使う地域で、例えばこのミー・アチェは、基本のブンブ以外に、
カルダモン、胡椒、クミン、フェンネル、コリアンダー、チリ、などが使われています。
そこには、明らかにインドからの見られるのですが、インドルーツのものとして、もうひとつ、こちら。

ロティ・チャナイ Medan_North Sumatra, 2018

ロティ・チャナイ/Roti Canaiと呼ばれるこれ。マレー半島でも目にする、しっとりパイ状のパン。
ルーツはインドのポロッタと呼ばれるレイヤー状の生地の平たいパンだそう。

インドネシアではアチェのロティ・チャナイが有名で、通常はヤギ肉のカレーなどに浸して食べます。
ただ、たまたまなのか、この鉄板で焼いてるロティ・チャナイは、「くださいな」とお願いしたら、
鉄板の上でフォークとヘラを使ってわしわしと崩し、バナナの葉に乗せてパラパラと白砂糖をかけられました。

ロティ・チャナイ Medan_North Sumatra, 2018

美味しかったけど、カレーじゃないんだ、甘いんだ、みたいな。

タミル系インド人のコミュニティがあり、市内に立派なヒンドゥー系寺院があったりもするメダン。
実際、このロティ・チャナイを売っているのもインド系のおじさんでしたし、
市場での売り子のおばさんでビンディをしている女性がいたりします。
そんなところもまた、インドネシアというより、マレーシアっぽいですね。

一方、同じスマトラ内で、ムラユの土地ではないもののインドからの影響を受けた料理と言えば、
西スマトラのパダン。
パダン料理屋はインドネシア各地どこにでもあり、
それはもう、いち郷土料理という枠を超えインドネシアを代表する料理となっているのですが、
メダンももちろんその例外ではなく、そしてかつ、それらが独自に変化していたりするのが面白いのです。

感動したのは、ソト。

インドネシア国内で決してメジャーというわけではないものの、なかなか味わい深いソト・メダン/Soto Medan。
これはパダンからの持ち込まれたソト・パダン/Soto Padangがローカライズされたものだと言われています。

ソト・パダン Bukittinggi_West Sumatra, 2016

ソト・パダンは、一般的なのソトと比べて使用するスパイスが多く、
カルダモンや丁字、八角のようなエキゾチックな香りをもたらすものが使われていたりします。

そんなソト・パダンがメダンに持ち込まれ、現地化して定着したのがソト・メダン。

ソト・メダン Medan_North Sumatra, 2018

スパイス使いはそのままに、ココナッツミルクを足して、この土地の人の好みに合わせているのだそうです。
スープと具に関しても、鶏だけでなく、牛スープ+肉+内臓というバリエーションがあり、
牛肉を好んで食するパダンの特徴が残っている気がします。
それから、プルケデル/Perkedelと呼ばれる衣なしのジャガイモコロッケのようなもの(写真右奥)を、
スープの中に入れて崩しながら食べるというのも、ソト・パダンからの流れですね。

で、そのソト・メダンが更にアレンジされたのが、こちらのエビ入りソト。

エビのソト Medan_North Sumatra, 2018

ココナッツミルクを使いつつも、くどさはなく、優しいコクのスープにエビの旨味が素晴らしい。
エビのソトっていうのは、初めて食べました。
シーフードが得意な沿岸の街+エビの旨味上手な華人が多い街、という特性を生かしたようなソトですね。

同じく、パダンルーツでもう一つ、びっくりしたのがサテ・パダン/Sate Padang。

西スマトラで食べたサテ・パダンも、ジャカルタでよく目にするサテ・パダンも、牛肉のサテでした。

サテ・パダン Bukittinggi_West Sumatra, 2016

スパイスを使ったとろみのソース(まるで日本のカレーのような味)をかけて食べるサテ・パダン。
これが、メダンの街では。

サテ・パダン Medan_North Sumatra, 2018

どういうことでしょう。
なんでこんなにバリエーションがあるのでしょう。

サテ・パダン Medan_North Sumatra, 2018

ざっと、牛肉、モツ、レバー、貝、イカ、ウズラの卵、鶏のツメ、鶏、鶏皮、という感じ。
こんな種類豊富なサテ・パダン、初めて見ました。びっくり。

サテ・パダン Medan_North Sumatra, 2018

旨味のきいたカレーソースに、揚げシャロットをまぶして。下にライスケーキが入っています。
貝は味わい深いし、イカはジューシーだし、牛肉は柔らかいし。

サテ・パダン Medan_North Sumatra, 2018

くわえて、肉が大きい(ジャカルタやバンドンなどで食べるサテ・パダンは肉が小さいのです)。

メダン式サテ・パダンにふるふると震えたところで終わりにしようかと思ったのですが、
西方からの影響ということで、おまけでもう一つ、ヤギのスープ。

ソップ・カンビン Medan_North Sumatra, 2018

ソップ・カンビン/Sop Kambing。

ヤギ肉料理というのは、西方イスラム諸国からの影響なわけですが、アラブから直接来たというよりは、
恐らく南インドのイスラム圏を経由してインドネシア各地に伝わっている気がします。
で、スープは肉を使った後に残る骨などの部分を利用して作られるのですが、
メダンのヤギのスープは、ジャワのものに比べるとあっさりとしたクリアめ(比較的、です)のもの。
頭蓋骨がどーんと入ったヤギのスープもあったりします、メダン。次回はそれも挑戦したい。
そして、メダンのヤギスープは、ジャガイモ入り。
ジャガイモというのは、やはりインド経由の西方諸国の影響ということも出来ますし、
かつてインドネシアを当地していたオランダからの影響ということも出来ますね。

ちなみに、ジャワで似た感じのヤギ料理というと、グレ・カンビン/Gule Kambing。

グレ・カンビン Jgogjakarta_Central Java, 2016

もしくは、トンセン・カンビン/Tongseng Kambing。
いずれも、多種のスパイスとブンブ、ココナッツミルクを使って煮込んだもの。
トンセンの方はケチャップ・マニスも足されます。

グレ・カンビン Jgogjakarta_Central Java, 2016

おまけな上に余談ですが、なんかこの辺の料理、混乱するんですよね。
スパイスとココナッツミルクで煮込んだヤギ料理、として、グレ、トンセンがあって、
別途、グライ/Gulaiとか、カリ/Kariとかもある。どう違うのか。
いずれ、また整理しますね。

メダンに話しを戻して。

つまりはこの街、あらゆる地域の料理とあらゆる国からの影響が混ざり合って変化して、
沢山の「美味しい!」が生まれた土地、という感じなのです。
それはやはり、かつて交易船が盛んに行き交ったマラッカ海峡に面した街という立地の優位性。

ミー・アチェ Medan_North Sumatra, 2018

そんな、メルティングポットなメダンの食文化において、
それはそれは大きな役割を担っている中国系の「美味しい」については、次回(こんどこそ、ホントに)。