2021/05/30

バッピア/Bakpia(ピア/Pia/Piah)

バッピア Bandung_West Java, 2021

自分で買うことはあまりなくても、何かと口にする機会はあるのがバッピア/Bakpia。
もしくは、ピア/Pia/Piah。 
誰かが国内旅行をして帰ってくるとお土産にもらいがちな、あれです。 

以前、こちらの記事で少し触れたこともありますが、バッピアも中国に由来する食べ物。
豚肉を意味するBakと、小麦粉の皮で包まれた焼きものを指すPia(餅)、
インドネシアに伝わった当初は豚肉を甘く炒め煮にした餡を包んでいたようですが、
それが現地化していく中で、中の餡が甘い緑豆などに変化し、
現在は、バッピアというと基本的にはこの緑豆餡や派生して生まれた他の甘い餡のものを意味します。
(豚のバッピアは最後にご紹介します)

バッピア Bandung_West Java, 2021

油分を練り込んだ生地で、甘く炊いた緑豆餡を包んだ一口大の丸くて平たい焼き菓子。

そんなバッピアはジョグジャカルタ/Yogyakartaの名菓。
ジョクジャカルタに、現在のバッピアに繋がる食べ物を持ち込んだのは、
1940年代に中国から移住してきたKwik Sun Kwokという人物だったと伝わっています。
前述の通り、当初は豚の肉や油脂を使うものだったバッピアを、
イスラム教徒が多数である現地のタブーや嗜好に合わせて、緑豆餡に変えた訳ですが、
緑豆餡を使った菓子ならTou Luk Piaと呼ばれるものが、彼ら移民の出身地である福建にあったと言われ、
なのになぜ、Bakのままにしたのかはちょっと謎。

で、
その緑豆餡のバッピアを商品化して、
一般に小売販売始めた元祖が、創業1948年のバッピア75という店だと言われています。

バッピア75 Yogyakarta_Central Java, 2016

現在は数多くあるジョクジャカルタのバッピア屋ですが、屋号に数字を使う店が多いのは、
ブランディングという意識もなかった時代に、店の番地が口コミで広がっていったからだと言われています。

当初は緑豆餡で売り出されたジョグジャカルタのバッピアですが、現在では様々なフレーバーが出ています。
紫芋、チョコ、チーズ、などはもう基本のラインナップに含まれている印象。

ジョグジャカルタ以外にも、ジャワを中心としたインドネシア各地にこのタイプの名菓はあります。
ただ「バッピア」という呼称はジョグジャカルタのものを指し、それ以外の土地のものは基本的にピアと呼ばれます。
ジョグジャカルタでのバッピアの成功を受けて生まれた、日本で言うご当地饅頭的なものもあるでしょうし、
また、別のルートで中国から伝わったとされるピアもあり、なかなか個性的で面白いのです。

まず、中部ジャワ北岸の街、テガル/Tegal。
お茶で知られる街ですが、ここにもピア店が並ぶエリアがありました。
この街では、クエ・ピア/Kue Piaと呼ばれるのが主流のようです。
ちなみに、クエは「菓子」全般を指すインドネシア語ですが、福建の言葉「Koe/粿」に由来します。

クエ・ピア Tegal_Central Java, 2019

ここは、ハリハリっとした層のある皮に、チョコ味、ミルク味、フルーツ味、とバリエーションも色々。

そのテガルからまっすぐ南下して、インド洋に当たるちょっと手前、
バニュマス/Banyumasという地域には、ノピア/Nopiaと呼ばれるピアがあります。
そして、そのノピアによく似ているのが、西ジャワ州内陸の街バンドン/Bandungで売られているソピア/Sopia。

ノピアとソピア Bandung_West Java, 2019

上の丸っこい方がソピアでやや楕円なのがノピアです。
バッピアとは皮が違うのです。
油分を含んで折り込みパイのような層なる生地ではなく、しっとりつるんとしたクッキー生地。

バニュマスのノピアは、1980年代に中国からの移住者によって作られ始めたと言われ、
餡は、パームシュガーに炒めたバワン・メラ/Bawang Merah(シャロット)を入れたものが元祖。
インドのタンドリーのような窯で、内壁に貼り付けて焼いているのだそうです。

また、バニュマスには同じくノピアと呼ばれながらも、形状が異なるピアがあります。

ノピア Bandung_West Java, 2019

別名テルール・ガジャ/Telur Gaja(象の卵)と呼ばれ(ネーミングセンス…)、
その名が表す通り、他のピアよりも大きくてぷくっと膨らみ、中が空洞なのです。
ねっとり溶けたパームシュガーが内側を覆っていて、素朴ながらも滋味深い味わい。
この大きなノピアに対して先の楕円のノピアは、小さなノピア=ミニ・ノピア=ミノ/Minoと呼ぶことも。

一方、バンドンのソピアは、由来は調べてもよくわからない。
なんなら、バンドンの北に位置するレンバン/Lembangというところには、
同じソピアという名で、でもパイ状の皮のピアがあったりする。
土産物のご当地饅頭状態っていうのは、こういうことですよね。
全ての饅頭に、明確な由来や由緒が必要なわけではないように、ピアだって自由です。
ただ、王道の緑豆餡以外の、今風なチョコやチーズなどの餡を使ったものは、
バッピアと区別してソピアと呼ぶという記述をみたこともあるので、
名前はその辺りに由来するのかもしれません(写真のはチョコ餡)。

バンドンのピアで、もうひとつ。

ピア Bandung_West Java, 2019

ピア Bandung_West Java, 2019

「スラバヤ生まれ」と大きく書かれた、バンドンで売られているピア。
バンドンなん?スラバヤなん?なんなん??
ほろほろはらはら、な皮に包まれているのは、緑豆餡ではなく黒豆餡。
って、カチャン・ヒタム/Kacang Hitam(=黒豆)と書いてはありますが、豆沙かな。

さて、またジャワ島北岸に戻って東に移動し、あと少しで東ジャワという、中部ジャワの端っこのラセム/Lasem。
ここには、先の象の卵に似た空洞のピアがあります。その名はヨピア/Yopia。

ヨピア Bandung_West Java, 2019

ヨピア Bandung_West Java, 2019

ヨピア Bandung_West Java, 2019

同じ中部ジャワのスマラン/Semarangで買ってきたモチ/Mociも一緒に写ってますが。

薄くて歯応えのある皮がぷくっと膨らみ、内側に溶けたパームシュガーが染みています。
同じパームシュガーでも、ノピアほどの層にもならず、すっかり染みてしまっているのです。
素朴さ、さらにマシマシ。
ジョグジャカルタのバッピアに比べると、知名度はなかなか及ばないヨピアですが、
その歴史は古く、初代は1800年代に生産を開始し、現在は3代目が店を継いでいるのだそうです。
ラセムのあたりは、インドネシアの中でもかなり早い時期に中国からの移民があった地域でもあり、
ラセム自体も小さな町ではありますが、現在でも他の街とは異なる、独特の中国風のたたずまいを残しています。
潰さず持ち運ぶのはなかなか難しい、そしてなんとなくずっと食べ続けてしまいそうになるヨピア。
今後も、継承されていきますように。

そして、もうひとつ。ティオン・チウ・ピア/Tiong Ciu Piah。
ピア・ブラン/Pia Bulan、またはクエ・ブラン/Kue Bulanという呼称の方が一般的な「中秋餅」。

クエ・ブラン Bandung_West Java, 2020

月餅です。
中秋節が近くなると、わらわらわらっと店頭に出てきます。
例えばホテルなどが売り出す高級月餅ももちろんいいのですが、それとは別物として、
この、遠い昔に故郷を離れすっかりしっかりローカライズされ、だけど魂はまだそこにある的な月餅が、
特に右の大きな平たいのが、好きです。たまらない。
イラスト付きの旧式綴りで記された餡は、ドリアンだったりチェンぺダッだったりのドメスティック餡。
なんだかんだ言って、毎年買わずにはいられないのです(そして愛でる)。

クエ・ブラン Bandung_West Java, 2020

と、ざっとピアを見てみましたが、最後にまたバッピアに戻ります。

ジョグジャカルタのバッピア食べ比べ。

バッピア各種 Bandung_West Java, 2021

じゃん。

バッピア各種 Bandung_West Java, 2021

参加選手は、上左から、
フレーバー系代表で、Merlinoの紫芋餡、Wong Premiumのチョコナッツ餡、
正統派代表で、Patuk 75、Patuk25、Kurnia Sariの緑豆餡。

バッピア各種 Bandung_West Java, 2021

切ってみて、実食。
まず、ベーシックな緑豆餡チームから。

バッピア Bandung_West Java, 2021

元祖と言われている、パトゥッ/Patuk75。
友人から「バッピアなら75」と教えられてきたわたしですが、実際食べ比べると納得します。
程よくしっとりした厚すぎず薄すぎずの層になる皮に、塩気のある味がしっかりついた緑豆餡。
確かに、ど真ん中、って感じの美味しさです。間違いがない。

バッピア Bandung_West Java, 2021

続いて、パトゥッ/Patuk25。
甘さのない、固めではりっとした厚めの皮は粉感もしっかりあり、
それに対して、中の緑豆餡は粘度が高くくっきりとした味付けです。このバランスが特徴かも。
75と並んで人気のあるお店で、好みがはっきりわかれそうなくらいに違いも明確。
ちなみに、バッピア店によくあるPatuk(パトゥッ)というのは、
現在バッピア店が集まる中心地となっているジョクジャカルタ内の地区の名前で、
そこで一番最初(1980年代)にバッピア販売を始めたのがこの25だと言われています。

バッピア Bandung_West Java, 2021

3つ目が、クルニア・サリ/Kurnia Sari。
75を推していた友人が「でもこっちも美味しい」と言っていたブランドのもの。
というか、これを食べてみたかっただけのはずが、なぜか食べ比べになってしまったのでした。
食べてみて、これまた「ああたしかに」と納得。
75よりもさらにしっとり、でもさらりとした繊細な皮に、甘さ控えめの緑豆餡はほくほくしていて美味。

それぞれに個性があるけど、この3つの中で選ぶなら、わたしは最後のクルニア・サリかも。

そして、フレーバーチーム。

バッピア Bandung_West Java, 2021

メルリノ/Merlinoの紫芋。
元々はベーカリーだったお店が2000年からバッピアの販売を開始したのだそう。
これも、おすすめしてもらったんです。
薄くて、しっとりしっとりした皮の中にみっしりの紫芋餡。
「うわ、めっちゃ芋!」というくらい芋の味がしっかりしてて、ふくふくと嬉しくなります。
ころんと小さな形なのと、皮の存在感が控えめなおかげか、ぽいぽいっと食べられてしまいそう。

バッピア Bandung_West Java, 2021

最後、ウォン・プレミアム/Wong Premiumのナッツ入りチョコ餡。
レイヤーをはっきりさせた皮が素敵な、なんか垢抜け系のビジュアル。
味は、うーーーん。悪くはないけど、せっかくのチョコなのにチョコみが足りないというか。
甘さは控えめで、その分風味も控え目になってしまっている感じ。
皮はハラハラとほぐれてしまう。うーーーーん。

そして、おまけ。

バッピア Bandung_West Java, 2021

トゥグ・ジョグジャ/Tugu Jogjaのバッピア・ククス/Bakpia Kukus。蒸しバッピア。
え、きみそれでもバッピアを名乗るの?という気がするのですが。

バッピア Bandung_West Java, 2021

中はチョコ餡。
チョコはちゃんと美味しいし、油っけを感じる(マーラーカオ風の)皮もふんわりで、いいんだけど、
でも、バッピアなのか、きみは??

ところで、肉餅という意味での(元祖)Bakpiaも、あるところにはあります。
バンドンの華人エリアにあるバッピアは、いつ行ってもブレのない安定感のある美味しさ。

肉餅 Bandung_West Java, 2018

奥に写っているのは、コピア/Kopiahと呼ばれる、硬くて詰まったパン。

外側は小麦粉の皮で、その中に、韮と豚肉と海藻(海苔かな)を入れ、しっかりと揚げてあります。

肉餅 Bandung_West Java, 2018

肉餅 Bandung_West Java, 2018

肉餅 Bandung_West Java, 2018


肉餅 Bandung_West Java, 2018

肉餅 Bandung_West Java, 2018


お玉の上で次々に作られていく肉餅。この作業、延々眺めていられます。
かりっと揚がったバッピアは、じんわり染みる旨味に海藻の風味が個性的な味わい。
時々食べたくなって、出向きます。

肉餅 Bandung_West Java, 2018

わたしを初めてこの店に連れてきてくれた友人(バンドン生まれの食い道楽でオレ様な華人)が、
コピアでバッピアを挟んで食べるんだ、ほーら中国風バーガー(どやっ)。
と言ったのでした。
いやサイズ感おかしいし、と思ったのですが、十数年たった今でも、やっぱり挟んでみてしまうあたり、
わたしは素直です。

ということで、インドネシアのバッピア。
中国からジャワに伝わり、そこから各地に広がり根を張り、いま土産物屋に積み上げられているピア。
有名なインドネシア人のトラベルブロガーが、いつだったか、
「今までで一番美味しいピアはゴロンタロ(スラウェシ北部)にあった!」
と書いていたこともありました。

ピア Bandung_West Java, 2019

午後のお茶のお供に、この小さなお菓子が辿ってきた道のりと時間を思うのもまた味わいかと。
口の中の水分をごっそり持っていかれるのが基本ですので、お茶はレフィルも用意してどうぞ。


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