2023/12/06

西スマトラの食卓③

ルンダン Padang_West Sumatra, 2023

ということで、ルンダン/Rendangです。
西スマトラ料理といえば、ルンダン。
美味しくて愛おしくて白ごはんください!となる焦茶の塊り、ルンダン。

ルンダンは、そもそもは「ある食材をブンブを入れたココナッツミルクで絶えずかき混ぜながら調理する」という意味の、
ムルンダン/Merendang、西スマトラの言葉ならマランダン/Marandangという動詞なのだそう。
いつの間にかそれが料理名となり、今は西スマトラのみならず、ジャワでも定番のおかずとなりました。

インドネシアの中でもトップクラスなスパイス多種使いで、時間をかけてじっくり仕上げます。
組み合わせは家庭や食材によって異なるという前提の上で、ルンダンに使われるスパイスを上げていくと、
シャロット、ニンニク、生姜、ガランガル、キャンドルナッツ、ターメリック、ターメリックの葉、コブミカンの葉、レモングラス、サラムリーフ、カルダモン、胡椒、丁子、ナツメグ、シナモン、コリアンダー、そしてもちろん唐辛子。
ルンダンにする食材は、最もポピュラーなのは牛肉、もしくは水牛肉。
ですが、鶏肉、家鴨肉、卵、牛や水牛の肺、タウナギや二枚貝、若いジャックフルーツやじゃがいも、
西スマトラのひとたちは、なんでもルンダンにしてしまします。

そんなルンダン作りを、友人のお母さんに習ってきました。
西スマトラの中でも、とりわけ「なんでもルンダンにする地」として知られるパヤクンブ/Payakumbuh出身のママ。

まずは買い出し。

市場の肉屋 Padang_West Sumatra, 2023

お肉は1キロ。

市場の唐辛子売り Padang_West Sumatra, 2023

唐辛子やブンブはすでに擦ってあるものをたっぷり。
これがあとでちょっと問題になるのですが。

ココナッツ屋 Padang_West Sumatra, 2023

ココナッツミルク Padang_West Sumatra, 2023

ココナッツ屋では、おろしてもらったのと、一番搾りと二番搾り両方のココナッツミルクを。
他にも、市場でちゃっちゃと買い物を済ませていくママ。

ブンブ Padang_West Sumatra, 2023

台所の床に「ブンブはだいたいこの辺ね」と出していくママ。
でも、調理しながらこれ以外にもあれこれ足してました。家庭料理ってそういうもの(笑)。

ママの口頭の分量だと、牛肉1キロに対して、
・ココナッツミルク(一番搾りと二番搾りを混ぜて) 1.5キロ
・シャロット 1オンス(30g弱)→擦り潰す
・ニンニク 5粒→擦り潰す
・生姜 親指1本くらい(擦ったのだったら大さじ山盛りめで1大)
・ガランガル 親指2本くらい(擦ったのだったら大さじ山盛りめで2)
・唐辛子(擦ったの) 2オンス(55gくらい)
・ターメリックの葉 1枚
・レモングラス 1本
・サラムの葉 2枚
・コブミカンの葉 8の字型の葉っぱを上下にちぎって5枚
・ナツメグ 2粒(つぶす)
・キャンドルナッツ 4粒(つぶす)

でもこれ、ターメリック(根の方)の分量入ってないですね。
まあ、あくまで目安ということで。
自分で作るときにはいろんなところのいろんなレシピを見比べて塩梅しましょう。

では、さっそく。

ココナッツミルク(一番搾りと二番搾りを混ぜたもの)に、擦ったり潰したりしたブンブを全部、
サラムの葉とターメリックの葉とコブミカンの葉はそのまま、レモングラスは軸をたたいてから、
入れて火にかけます。

ルンダン調理 Padang_West Sumatra, 2023

伝統的には薪で調理されることが多いルンダン。
量をたくさん作ることも多いでしょうし、スモーキーな香りがつきますしね。
また調理時間が長いので、ガス代が…という意味でも、薪が選ばれるというのもあるかも。
ですが、この時は、お家のキッチンのガスコンロで。

温まってくるとだんだんいい香りが立ってきます。ふつふつとして、少し油分が浮いてきて。
加減を見ながら塩もして。この状態が、グライ/Gulaiです(前回散々書いた)。

ルンダン調理 Padang_West Sumatra, 2023

そのタイミングでお肉をIN。
お肉は、厚み1センチほど、大きさは、まあ7センチくらいですかね、で切っておきます。
仕上がりでぎゅっと縮むことを考えると、あんまり小さいと悲しい感じになりますしね。

ルンダン、の名のごとく、時々かき混ぜながら、じっくり加熱していきます。

ルンダン調理 Padang_West Sumatra, 2023

煮詰めるほどに、カラメライズされて、だんだん褐色になってきます。
油も浮いている状態。カリオ/Kalioと呼ばれる状態です。

ルンダン調理 Padang_West Sumatra, 2023

だいぶ煮詰まった頃に、ママが刻んだシャロットをぱらっといれました。分量外。

ルンダン調理 Padang_West Sumatra, 2023

ふつふつふつふつ。この写真だけで白ごはん食べられます、わたし。

時々かき混ぜながら、まだまだ煮詰めていきます。
と、味見をしたママが「しょっぱいかも」と言い出しました。
曰く、手軽だしと、市場でもう擦られたブンブを買ってきたけど、そのせいだわ、と。
すり潰す作業の中で、素材が柔らかくなるように塩を加えているんですよね。
それで全体の塩加減が狂ってしまったらしく。
で、ママは「きゅうり入れよっか」と。

ルンダン調理 Padang_West Sumatra, 2023

半分に切ったきゅうりを2本、ぽいぽい。
きゅうりは塩分を吸いますのでね。
「やっぱり、唐辛子もブンブも、家で自分でやるべきだわ」とママ。はい。

ルンダン調理 Padang_West Sumatra, 2023

きゅうりごと、さらに加熱。じっくりじっくり。
汁気が飛び、油分とお肉ともろもろだけになったら出来上がり。

ルンダン Padang_West Sumatra

たくさんのスパイスが保存料となり、水分をしっかり飛ばしてあるので、
ルンダンは常温でも数日は日持ちがするのだと言われます。
最近はわからないですが、以前はインドネシアの人がちょっと長めに国外に行くというときに、
スーツケースの中に、タッパーに詰めたルンダンが入ってたりしました。

このルンダンの、煮詰めて油と分離した後のもろもろ、これって、わたし今回やっと繋がったのですが、
ココナッツオイルを絞った後に残る滓、あれなんですね。
ココナッツミルクをじっくり加熱して油脂を取るのが、伝統的なココナッツオイル作りなのですが、
そのときに出る搾り滓を、以前時々市場で買って食べていたのです。滋味甘くて美味しいんですよ。
たくさん唐辛子を使っているのにも関わらず、味が尖らずひとつにまとまっているのも、
このココナッツからじっくり出てきた甘みのおかげかもしれません。

このもろもろ、西スマトラではデダック/Dedakと言われます。
お肉を食べてしまった後に残ったこのデダックで、
金時豆、小さなじゃがいも、揚げたキャッサバ芋、薄切りにしたココナッツの硬い果肉などを加え再利用もします。

市場の小さいじゃがいも Padang_West Sumatra, 2023

さて、続いて。
ルンダンを作るときに、ママに一緒に魚のグライも作ってもらったので、そちらも。

市場の魚売り Padang_West Sumatra, 2023

ママは値段と鮮度とかなりかなり吟味して、マグロを1匹選びました。

使う材料は、
・シャロット 1/5オンス(5gくらい)
・ニンニク 5粒
・生姜 親指半分
・ターメリック 好み
・唐辛子(緑のラウィット) 好み
・ターメリックの葉 好み
・ホーリーバジルの葉 好み
・カンディス/Kandis 5粒

という感じで、全体的に「好きなように」という感じですね。

シャロット、ニンニク、生姜、ターメリック、唐辛子までをどんどんすりつぶして鍋に入れていきます。
塩適量して、つぶれやすくして、ごりごりと。

グライ調理 Padang_West Sumatra, 2023

グライ調理 Padang_West Sumatra, 2023

グライ調理 Padang_West Sumatra, 2023

そうしたらそこに、ココナッツミルク。これも、一番搾りと二番搾りを合わせたもので。
この使い分け、結局わからなかった。
最初は二番搾りで加熱を始めて、後から一番搾りを入れる、みたいな話も聞いたことがあるのですが、
ママは普通に混ぜちゃってました。

グライ調理 Padang_West Sumatra, 2023

そしたらターメリックの葉も入れて、着火。加熱していきます。

そしてそこに、カンディス登場。
スマトラではよく使われている酸味料。西カリマンタンの内陸でも見かけました。
一方、ジャワなどではタマリンドの方がメジャーなので、カンディスはあまり見かけません。

カンディス Padang_West Sumatra, 2023

グライ調理 Padang_West Sumatra, 2023

そのカンディスも、ぽいっとそのまま投入。
まずはブンブだけで、沸騰させます。
グライもルンダンも、ココナッツミルクにしっかり風味を馴染ませてから素材を加える、という順番なんですね。

洗ってぶつ切りにしたマグロ。

グライ調理 Padang_West Sumatra, 2023

グライは、油脂が分離するまでというのはなく、具材にきちんと火が通って味が染みたらそれで出来上がり。

途中でママが「キャッサバの葉入れようか」と裏庭のキャッサバの木から葉っぱをとってきました。
野菜にはあまり興味のない西スマトラのひとたちですので、この葉っぱでもありがたいです(笑)。

グライ調理 Padang_West Sumatra, 2023

グライ調理 Padang_West Sumatra, 2023

くたっとするまで煮たらできあがり。
あ、仕上げにホーリーバジルの葉っぱを入れて。これは、特に魚の臭み消し的なものかな。
ということで、ごはんです。

ルンダンとグライ Padang_West Sumatra, 2023

もう「美味しい」以外言葉が見つからない感じで美味しかったです。
グライは、魚の風味に、キャッサバの葉からくる青っぽさがちょうどいい感じで、
ああ葉っぱ入れてもらってよかったー、と思いました。

ルンダンとグライ Padang_West Sumatra, 2023

さて、このルンダンとグライを作ってもらった翌日、もう一品、作ってもらったんです。
それが、サラ・ラウアッ/Sala Lauak、縮めて「サラ」と呼ばれたりする、丸い揚げ物。

サラ・ラウアッ Padang_West Sumatra, 2023

これは、食堂などでもよく見かけていたのです。カリッと丸くて美味しいんです。
ママの家でも出してくれて「おいしー!」と言ったら「じゃあ、作る?」と。

材料は、
・米粉(餅米じゃない、普通の米粉) 500g
・シャロット 5粒++
・ニンニク 4粒
・干した塩漬けの魚(イカン・アシン/Ikan Asin)またはジャコ 適量
・ターメリック 好み
・ターメリックの葉 1枚(刻む)
・唐辛子(擦り潰したもの) 大さじ1
・長ネギ 1本(刻む)
・塩 少々
・水 1L

サラ調理 Padang_West Sumatra, 2023

シャロット、5粒って言いながら結構追加してました(笑)。
たくさん使った方が美味しいものねー。

シャロットとニンニクとターメリック(根の方)は潰して分量の水を入れた鍋に。
そこに、干し魚も小さく刻みながら入れていきます。

サラ調理 Padang_West Sumatra, 2023

これが、いい旨味を出すんですよねー。

サラ調理 Padang_West Sumatra, 2023

ターメリックの葉も細かく刻んで鍋に。
ターメリックの葉をハーブ的に使うっていうのが面白いですね。
西スマトラ料理では必須のよう。
インドネシアの別の地方ではターメリックの花も調理に使うと聞いたことがあります。万能。

サラ調理 Padang_West Sumatra, 2023

長ネギも刻み、米粉以外の材料を全部入れ、着火。沸騰させます。

サラ調理 Padang_West Sumatra, 2023

沸騰したら、一気に米粉にIN。
(電気炊飯器の内釜だけど、気にしない)
混ぜていきます。

サラ調理 Padang_West Sumatra, 2023

ぐりぐり混ぜて。
触れるくらいの温度になったら、小さめのボールに丸めていきます。
手に油を塗ってやるとくっつきにくくなります。ママみたいにビニール袋かぶせちゃったり。

サラ調理 Padang_West Sumatra, 2023

ちなみに、この↑サイズは「ちょっと大きすぎた」だそう。ご参考に。

サラ調理 Padang_West Sumatra, 2023

そしたら、しっかりじっくり上げていきます。カリッとなるまで。
ここで、混ぜすぎてはいけません。
わたし、すぐ触りたくなっちゃうんですよ(揚げ物下手)。
そしたら、ママに「そんなふうにしてると爆発するから」と言われました。
これが、本当に爆発したの!
帰ってきてから自分で作ってみてた時だったのですが、盛大に何個も爆発して、大変でした。
顔の火傷、痕が残らずよかったよかった、って感じですが、本当にびっくりした。

サラ・ラウアッ Padang_West Sumatra, 2023

てことで、上げ上がり。
干し魚の旨味と、唐辛子の辛味と、ターメリックのアーシーな風味とがもう絶妙で、
ましてや揚げたて、止まらない止まらない。
作り終わって、みんなでお昼ご飯を食べに行こうって、言ってるのにも関わらず、
1個、もう1個、と無意識に手が伸びて危険でした。
爆発事故のせいで勇気が出ずにいましたが、やっぱりまた作ろうかな。蓋持って(盾)。

食堂のサラ・ラウアッ Padang_West Sumatra, 2023

このサラ、普段自分がジャカルタやバンドン、もしくは他の地域で行くパダン料理屋では見かけない気がします。
あるところにはあるのかな。気づいてなかっただけなのかな。
代わりに、プルクデル/Perkedelというジャガイモのコロッケみたいなのはあるけど。
サラは、もっとどこででも食べられるようになってほしいです。

ルンダン材料 Bandung_Jawa Barat, 2023

ちなみにこちらは、帰宅後に復習と思ってルンダンを作った時(爆発事故の時)の材料たち。
まあ、一発でそんな上手にはできませんよね。
何度も練習して、ようやく美味しいルンダンが作れるようになるのでしょう。

ルンダンは誰でもが作れるものではない、という言葉を聞いたことがあります。
それは手順が難しいとかそういう意味ではなく、じっくり鍋に向き合って加減を見ながら調理し、
しっかり自分のものとなるブンブの配分を取得した人こそが、という意味なのでしょうね。
精進します(とりあえずは、パダン料理屋に行くけど)。




2023/12/03

西スマトラの食卓②

カパウ料理屋 Bukittinggi_West Sumatra, 2023

ということで、西スマトラの料理いろいろ。

西スマトラ地域の料理の基本はグライ/Gulai、そして有名なのはルンダン/Rendang。
いずれも肉や魚や野菜を、たくさんのスパイスを使いココナッツミルクで煮込んだものです。
グライは汁気が多く、ターメリックを含むために黄色味がかった、サラサラのカレーに近いもの。
一方、ルンダンは、ココナッツミルクの水分が飛ぶまでじっくりじっくり加熱した焦茶色のもの。

ルンダン Padang_West Sumatra, 2023

1784年にイギリスの東インド会社社員が残した記録の中に、すでにグライの記載があるそうです。
一方、ルンダンは、まずは調理方法として1827年にオランダ人の記録に登場し、
料理名としてのルンダンは20世紀に入ってから見られるようになったのだとか。
ルンダンについては、次回にじっくり。まずはグライから。

グライは西スマトラが発祥と言われていますが、現在はスマトラ各地からジャワにかけて広く愛されている料理。
西スマトラのものは、比較的しっかり煮込まれてコクのあるものが多く、煮込む素材は多種多様。
北スマトラのアチェでは、グライ・カンビン/Gulai Kambingというヤギ肉のグライが有名ですね。
これは、ロティ・チャナイ/Roti Canaiと一緒に食べられることが多いです。
ちょっと脱線しますが、ロティ・チャナイはスマトラ北部を始め、マレーシアやシンガポールでも食べられる、
潰した丸型の、幾つもの層ができているフラットブレッドです。悪くて美味しい系の。
その名がインド南部の街チェンナイ/Chennaiに由来するといわれるところからわかるように、
ロティ・チャナイもまた、インドから東南アジアに持ち込まれた食べ物の一つです。
カレー的なグライとロティ・チャナイを一緒に食べる、というのがすごく「らしい」ですよね。
北スマトラのアチェは地理的にも一番インドに近く、
インドおよびその西方のからのイスラムの影響をとても強く受けている土地です。

話しをグライに戻して。
一方で、ジャワのグライは、グレ/Guleと言われることも多く、これも多くはヤギ肉を煮込みます。
スマトラのものに比べると汁気が多くて、スープに近い印象ですね。

で、その西スマトラのグライ。
食堂の店先に並べられている、汁気のある物は基本どれも「グライ」と思っていいのではないかと思います。
パダン料理屋に行って、皿盛りで注文をしたことがある人はみなさん経験済みでしょうが、
最後、白ごはんにぴゃっと料理の汁だけをかけてくれるじゃないですか。あの、汁気の料理がグライ。
鶏のグライ、グライ・アヤム/Gulai Ayamなどは、定番中の定番ですね。
ただ、定番すぎて食べていなくて、写真がありません(涙)。

白身魚のグライ Padang_West Sumatra, 2023

これは、沿岸の街パダンで食べた白身魚(鯛)のグライ、グライ・カカップ/Gulai Kakap。
ぶりんぶりんに肉厚な切り身に、しっかり染み込むこっくりとしたソース。至福でした。

エビとシダのグライ Padang_West Sumatra, 2023

同じ店のエビとシダの葉のグライ、グライ・ウダン・パキス/Gulai Udang Pakis。
これはビスクですか?とうくらいしっかりエビの出汁のでたソースがシダの葉に絡み、最高。
思い出し目眩がする。

パダン料理 Padang_West Sumatra, 2023

白ごはんを白ごはんのまま食べる、ということが少ないインドネシアですが、
西スマトラはとりわけ、あらゆるものをごはんにかけて、味を染み込ませていただきます。
グライの汁も、もちろん。たっぷり白ごはんにかけて、しゃびしゃびさせて食べるのが正解。
素材の旨味たっぷりで、ココナッツミルクのコクがサンバルの辛味とバランスを取り、ごはん泥棒。

パダン料理 Padang_West Sumatra, 2023

このふた山の白ごはんも、最初に出された時に多すぎる!と思ったのにも関わらず、
結局、ひと山半は余裕でした。恐ろしや。
西スマトラのお米は美味しいのだとみんな言います。
どうりで、ごはん泥棒な料理ばかりがあるわけですよね。納得。

わたしたちは、西スマトラの料理を、全部まとめて「パダン料理」と呼びがちですが、
厳密には地域ごとに違っているのだそうです。
例えば、山の街ブキティンギでよく見かけるカパウ/Kapau料理も、カパウという村からのもの。
何が違うの?と聞くと、だいたいブンブが違うと答えられがちですが、具体的に何がどう違うのかはいまいち不明。
思うに、とにかく多彩なブンブを使う西スマトラの料理なので、地域どころか家庭ごとにブンブは違うでしょうし、
ブンブが違うというよりは、地域の植生の違いからくる素材や、その素材の味の違いではないかと。
ココナッツも、生えている地域や標高によって育つ品種と、その実から採れるココナッツミルクの風味が変わると言われますし。

で、カパウ料理。
ブキティンギの中心にある市場に出ているカパウ料理屋は圧巻です。

カパウ料理屋 Bukittinggi_West Sumatra, 2023

パダン料理屋が店前のディスプレイに皿を積み上げるスタイルなのに対して、
ここのカパウ料理屋は大鉢(ボウル)に入れた料理を店頭に積み上げるスタイル。
そしてその上から、長い柄杓で料理を取って、皿盛りにして出してくれるのです。
楽しい。そして、うまい。

この写真の中央に写っているのが、カパウ名物のグライ・タンブス/Gulai Tambusu。
牛の腸に豆腐と卵を合わせたタネを入れて、グライとして煮込んだものです。
(その右に写っているのが、鶏のグライですね)

そして、もうひとつカパウ名物が、その名もグライ・カパウ/Gulai Kapau。
野菜たっぷりのグライです。

グライ・カパウ Bukittinggi_West Sumatra, 2023

ジャックフルーツの若い実を煮込んだグライはパダン料理でも見かけるのですが、
カパウの場合、ジャックフルーツに加えて、キャベツ、そしてインゲンに煮たジュウロクササゲも入ります。
形はとどめつつ、程よくくたくたに煮込まれたこれが美味しいの。

カパウ料理屋 Bukittinggi_West Sumatra, 2023

この時は確か、ルンダンとグライ・カパウを頼んだはずなのですが、
どかっと乗ったグライ・カパウでルンダンが見えない。

カパウ料理 Bukittinggi_West Sumatra, 2023

本望です。

西スマトラの朝ご飯というと、ロントン・サユール/Lontong Sayurが定番です。
ロントンというのは、バナナの葉で包んでボイルしたライスケーキで、
そこに野菜(=サユール)のココナッツミルク煮込みをかけたものがロントン・サユール。
このサユールもつまり、野菜のグライ、グライ・サユールなわけですね。。
ジャカルタなどで出会うロントン・サユールは、せいぜい玉子をのせるかどうか程度の選択肢しかないですが、
西スマトラで出会うロントン・グライ・サユールは、野菜の種類も様々なのです。

ロントン・グライ・パク Padang_West Sumatra, 2023

これはパダンで食べた、パク/Paku=シダの葉のグライをかけたロントン(画面左に見切れぎみ)。
シダの若い葉が刻んで煮込まれていて、柔らかくも滋味深く。
ちなみに、パダンはクルプックがピンクです。パダンといえば、ピンクのクルプック。かわいい。

グライ・パク Padang_West Sumatra, 2023

グライ・サユールいろいろ Padang_West Sumatra, 2023

この食堂は朝食に3種類のグライ・サユールを用意していました。
シダの葉の他、ジャックフルーツのと、インゲンの。
こうやってみると、同じグライ・サユールでも色が全然違いますね。
この野菜に限らず、あらゆるグライは、その素材に合わせて使うブンブの種類や配合を調整しています。
「グライ」というカテゴリーの幅の広さを感じますね。

ライスケーキはロントンだけでなく、カトゥペック/Katupekも。
ジャワだとクトゥパット/Ketupatと呼ばれますが、椰子の若い葉を編んだ中に生米を詰めて茹でたものです。

カトゥペック・グライ・パク Padang_West Sumatra, 2023

そんなカトゥペックの、シダの葉グライ。シダの葉のグライはさらっとした仕上がりが多い印象。

カトゥペック・グライ・サユール Padang_West Sumatra, 2023

これは、いろんな野菜のグライ。たまご乗せ。
注文した時に何かを聞かれて、よくわからないけど「うん」と答えたら、焼きそばがのってきました。
カーボロードか。おかげで、ライスケーキも野菜もよく見えません(笑)。

カトゥペック・グライ・サユール Padang_West Sumatra, 2023

若いジャックフルーツと、タケノコも入っていました。焼きそばは、なくてもいいです、正直。

と、野菜のグライを色々あげてみましたが、
そして、土地柄、野菜や山菜などがたくさん採れる地域ではあるのですが、
西スマトラのひとたち、あんまり野菜に興味がないようです。薄々それは感じていましたが。

イカン・バカール Padang_West Sumatra, 2023

この写真は、イカン・バカール/Ikan Bakar=焼き魚を食べに行った時のもの。
テーブルには、注文した大きなお魚が二つと、
頼んではいないけど出されたルンダン、フライドチキン、鶏のグライ、茹でたキャッサバの葉、唐辛子和えの茄子。
この茹でたキャッサバの葉は、パダン料理屋でもありますよね。最後の砦的な青野菜です。
(それがないと、茶色のグラデーションみたいなプレートになってしまいます)
4人で一緒に食事に行きましたが、わたし以外、キャッサバの葉にすら興味を示さず。
ひたすらお魚と、サンバル、あとは鶏のグライの汁だけをごはんにかけて黙々と食べていました。
(グライの汁は料金かかりません)

動物性タンパク質を好みがちですね、西スマトラの食卓は。
鶏や魚はもちろん、牛や水牛は、肉だけでなく内臓や皮まで工夫してしっかり美味しくいただきます。

ソト・パダン Padang_West Sumatra, 2023

西スマトラでは珍しくココナッツミルクを使っていない料理、ソト・パダン/Soto Padang。
ココナッツミルクは使っていませんが、スパイスはしっかり効かせて、
牛肉や、臭みを抜いた内臓などをじっくり煮込んだ美味しいスープです。カリカリの肺とかも入ってるの。

また、これもココナッツミルクは使ってない、サテ・パダン/Sate Padang。

サテ・パダン Padang_West Sumatra, 2023

通常、サテは鶏であれ牛であれヤギであれ、生肉を串にさして炭火で炙って調理するのですが、
サテ・パダンは、先にスパイスなどで柔らかくなるまで茹でるのだそうです。
使うのは、肉の部分以外に、臓物や、舌など。
茹で上がったら食べやすい大きさに切り、串刺しにして炭火で焼き、
そこに米粉でとろみをつけた、これまたスパイスフルな(カレーによく似た)ソースをかけて、
フライドオニオンをちらして、ライスケーキと一緒にいただきます。
スパイス使いは店によって変わりますが、唐辛子の辛さではなく胡椒の辛さを効かせた店が時々あり、
それがもうたまらなく食欲をそそります(思い出し身悶え)。

もひとつ牛肉(時に水牛もかな)料理で、デンデン・バトコッ/Dendeng Batokokというのがあります。
前の記事に載せた写真に写ってました。

パダン料理 Padang_West Sumatra, 2023

この右奥にある、唐辛子がまぶされたものが、デンデン・バトコッです。
これも、肉をブンブと一緒にまず茹でて調理するんだそうです。
柔らかく煮えたら薄く切り、そしてさらに繊維をほぐすようにとんとん叩き、そして油で揚げる。
この「とんとん叩く」ことを、ミナンカバウの言葉で「バトコッ」というのだそうです。
次に、粗挽きの唐辛子(赤か緑かは好みで)でサンバルを作り、肉の茹で汁と合わせて火を通し、
そこに、揚げておいた肉を戻して、しっとりした感じで仕上げる。
なんという手間!

という、西スマトラの肉料理。
もうたいがい長いのでここで終えようと思ったのですが、最後にもう一皿だけ、野菜に戻していいですか。
野菜好きなので、笑。

以前にも載せたことがありますが、ロントン・ピチャル/Lontong Pical。大好き。

ロントン・ピチャル Bukittinggi_West Sumatra, 2023

ロントンに茹でたいろんな野菜、シンコンチップス、ピンクのクルプックをのせ、ピーナッツソースをかけたもの。

茹で野菜 Bukittinggi_West Sumatra, 2023

キャベツはフレッシュで、あとは茹でたタケノコ、バナナの花、キャッサバの葉、シダの葉、かな。

茹でバナナの花 Bukittinggi_West Sumatra, 2023

バナナの花って普通はアクで色が悪くなってしまうのに、ここのはきれいなままで、
どうして?と聞いたら、ピサン・バトゥ/Pisang Batuという品種だと黒くならないのだと教えてくれました。
そういえば、バリでバナナの幹を料理に使った時も、バトゥが色良く仕上がると教えてもらったっけ。
それにしても、この大きな花を丸ごとゆがいてしまうというのが豪快ですよね。

古くからやっていそうなお店で、ずっとお店を守ってきたようなおばあちゃんが現役で接客してくれます。

ピチャル屋のおばあちゃん Bukittinggi_West Sumatra, 2023

いつかまた行く時まで、ご健在で。

ということで、とりあえずはここまで。
次回は、西スマトラ料理の魂、ルンダンの作り方を教わったので、それを。
あー、お腹すいた。




2023/12/02

西スマトラの食卓①

パダン料理 Padang_West Sumatra 2023


今年の、8月末から9月の頭にかけて、西スマトラに旅行に行っていました。
美味しい美味しい、西スマトラのごはんを食べに。そして、気づけば12月。今年の記事は今年のうちに。


西スマトラ州沿岸のパダン/Padangという街から、ブキティンギ/Bukittinggiという山の街にかけて。
パダン料理/Masakan Padangは、インドネシアごはんが好きな方ならすぐピンとくるかと思います。
インドネシア各地のみならず、世界各地で出会うことができる、
インドネシア料理の中では最もポピュラーな地域料理がパダン料理です。
白いごはんにスパイスフルな肉料理や魚料理、カレーのようなソース、そして唐辛子のサンバルがパダン料理の基本。
在インドネシアの外国人たちも、母国への一時帰国後インドネシアに戻ってきて最初に食べたいものとしてよく挙げます。

パダン料理 Jakarta_2023

かく言うわたしも、時々無性に食べたくて居ても立っても居られなくなります。
今も、写真を見返していて、本当につらい(笑)。

店先に料理を盛った皿を積み上げて陳列し、
店内に入ったお客さんのテーブルにもずらっと料理の皿を並べるのが圧巻のパダン料理です。

パダン料理店の店頭ディスプレイ Padang_West Sumatra 2023

パダン料理 Jakarta_2023

スパイスフル、と先に書きましたが、
インドネシアの中でもスマトラ島、特に西スマトラは、とりわけふんだんにスパイスを使います。
どれをどれだけ使うかは、料理によって、また作り手によって異なりますが、
コリアンダーシード、クミンシード、ナツメグ、クローブ、シナモン、胡椒、のようなドライスパイスや、
生姜、ニンニク、シャロット、タマリンド、ターメリック、ガランガル、カンディスなどのフレッシュスパイス、
そして、レモングラス、ターメリックの葉、サラムリーフ、コブミカンの葉などのハーブ類。
などが、西スマトラ料理の調味料として挙げられます。多分もっとあるけど(笑)。
そして、欠かせないのがココナッツミルクと唐辛子。これらを使わない西スマトラ料理はほぼありません。

市場の唐辛子とフレッシュスパイス売り Padang_West Sumatra 2023

この多彩なブンブ/Bumbu使いには歴史的・伝統的な背景が見られます。

西スマトラ沿岸は、古くから西方諸国との交易地として発展してきました。
約半年ごとに向きを変える東西の貿易風に助けられ、
西スマトラから現インド南部、アフリカを結ぶ船のルートはかなり早い時期から確立されており、
ポルトガルの記録にも、16世紀には西スマトラにグジャラートの船が来たとあるそうです。
とはいえ、ポルトガルが出てくるよりはるか以前からこの地域はインド商人との交易を持っていたわけで、
遡ること、13〜14世紀にはインド商人が既に西スマトラに来ていたのであろうと言われています。
スパイスをふんだんに使うインドとの交易が、この地での調理方法に大きく影響したのだというのが歴史的背景。
(当然ながらその当時は「インド」という名前の国はなかったわけですが、便宜的にこのまま)

そして、この西スマトラ地域に暮らすミナンカバウ人たちは、伝統的に遠方へと出稼ぎに出る文化があります。
ミナンカバウは母系社会。
母から娘へと家が継がれていく一方、男子たちは土地を離れて遠方へ働きに出ることが多いのです。
優秀な商売人としても知られるミナンカバウ人。地方へ出稼ぎに行き、そこで一旗挙げて故郷に錦を飾る、的な。
これが、インドネシア各地、世界各地にパダン料理屋がある理由でもあります。
で、その長距離を移動する際の携帯食として、日持ちするよう調理するという文化があり、
その保存料としてのスパイス、ブンブであったとも言われています。

市場のフレッシュスパイス Padang_West Sumatra 2023

素材という意味では、沿岸部から高地ににかけてという土地柄、植生はとても豊かな西スマトラです。
ココナッツ、米、もち米が実り、若いジャックフルーツやシダ、タケノコなども豊富に採れ、
タンパク源としては、海川で魚が獲れるの加えて、牛や水牛なども食用とされます。
ミナンカバウ人は厳格なイスラム教徒が多く、なので豚が食材とされることはありません。

市場の肉屋 Padang_West Sumatra 2023

市場の魚屋 Padang_West Sumatra 2023

西スマトラの料理に欠かせない素材の、そして地元でも豊富に採れるココナッツ。
料理におけるココナッツミルク使いもまた、インドの影響という説があります。

西スマトラと交易を行なっていたのは、インドも南の沿岸部の商人。
南インドは調理にココナッツミルクを多用します(北インドはヨーグルト)。
そのココナッツミルクで煮込む、という文化もまた西スマトラに流入したのではないかと言われているのです。

シダのココナッツミルク煮とライスケーキ Padang_West Sumatra 2023

実際、ココナッツの木だらけなのです。
飛行機でパダンの空港に着陸する際の眼下にもたくさんのココナッツ。

パダン上空 Padang_West Sumatra, 2023

民家の庭にも、沿岸部から高地へ向かう沿道にもたくさんのココナッツ。

ココナッツの木 Padang_West Sumatra 2023

庭に植えているのはもちろん、市場でも、ココナッツ専門店がしっかり。

ココナッツ売り Padang_West Sumatra 2023

希望する熟れ具合に合わせて実を選んでもらい、奥の機械で白い果肉を掻き出します。

ココナッツ売り Padang_West Sumatra 2023

果肉としても買えますし、そこに水を加えて絞ったココナッツミルクも買えます。
一番搾りの「濃いココナッツミルク」と、

濃いココナッツミルク Padang_West Sumatra 2023

二番搾りの「薄いココナッツミルク」。使い分けるのです。

薄いココナッツミルク Padang_West Sumatra 2023

ちなみに、料理にココナッツミルクを多用するのは、ここ西スマトラがダントツではありますが、
他は、マレー系の人々(北スマトラのデリ、ジャカルタのブタウィなども含む)は結構使いますね。
シンガポールやマレーシアのプラナカン料理もココナッツミルクでコクが出したものが多い気が。
また、中部ジャワでもココナッツミルクはよく使います。
一方で西ジャワはそれほどでもない。
これは西ジャワは山がちな地域が多く、植生としてココナッツが少ないというのがあるのだと思うのですが、
バリもココナッツは使いますが、ココナッツミルクは少ないかな。
インドネシア東部でもココナッツミルクを多用する地域はあまりありません。
北スラウェシでは、西スマトラ以上に一面のココナッツ林が広がりますが料理の中での利用はそれほど顕著ではなく。
(基本的に、乾燥させてココナッツオイルの原料として出荷される換金作物扱い)
この地域差は面白いですよね。いつかちゃんと調べてみます。

で、西スマトラのココナッツに戻って。
ココナッツの木って、すごく背が高いんですよね。真っ直ぐなので足場もよくなく、収穫が大変。
ということで、この↓、前を走ってるの。わかります?

ココナッツ収穫猿 Padang_West Sumatra 2023

ココナッツ収穫猿 Padang_West Sumatra 2023

バイクのサイドカー的リアカーに乗っているのが、お猿です。
バナナの収穫に猿を使うのは、西スマトラでは一般的なようで、きちんとそれ用の学校もあるのだそう(猿の)。
きちんとトレーニングをして、技術を身につけた後に売られて、
ココナッツ収穫業者+お猿のチームとして契約した農園に出向き、収穫量の何割という取り決めで働きます。
おりこう。とか言うと「プロを舐めんな」とか思われるのかな(猿に)。

一方、もう一つの欠かせない素材である唐辛子。

市場の唐辛子売り Padang_West Sumatra 2023

唐辛子はヨーロッパ人によって持ち込まれたので、使われ始めたのは16世紀以降。
インドの影響云々と比べると後発ですが、それでも、今じゃ唐辛子のない西スマトラ料理は考えられません。

西スマトラで主に使われるのは、細くて長いチャべ・クリティン/Cabai Keritingの赤く熟れたもの。
西ジャワなどでよく使われる小粒のチャべ・ラウィット/Cabai Rawit等、他の種類はほとんど使われません。
これを、石臼で細かくペースト状にすりつぶしたものが市場で売られているのです。

擦り唐辛子 Padang_West Sumatra 2023

ちなみに、他のブンブたちも単独で、もしくはブレンドされて、ペースト状になったものが売られています。
便利。

擦りブンブ Padang_West Sumatra 2023

この唐辛子ペーストをココナッツミルクに合わせて火にかけるところから、西スマトラの料理は始まるのです。
とはいえ、強烈に辛いかと言うと、そうでもないのが不思議なところ。
まあ、辛さの感じ方は個人差がありますし、添えられたサンバル/Sambalはもちろん辛いのですが、
料理全体は、唐辛子の辛味だけが突出することなく、いろんな風味が複雑に合わさり、
それら全てを、ココナッツミルクが奥行きを持ってまとめているのです。

ということで、西スマトラごはんの予備知識はそのくらいで、次回からは、お料理を詳しく。
ほんと、お腹空いてる時に見たら悶々としてしまうくらいの、お料理たちを詳しく。

この麻薬的な魅力はなんなんでしょうね。
旅行中にひたすら食べたので「当分食べなくていい」ってなるかと思いきやそんなことはなく、
戻ってきても、地元の美味しいパダン料理屋などに行ってはがっつり食べています。

パダン料理 Bandung_West Java, 2023

この写真だけでもうつらい。食べたい。