2023/12/03

西スマトラの食卓②

カパウ料理屋 Bukittinggi_West Sumatra, 2023

ということで、西スマトラの料理いろいろ。

西スマトラ地域の料理の基本はグライ/Gulai、そして有名なのはルンダン/Rendang。
いずれも肉や魚や野菜を、たくさんのスパイスを使いココナッツミルクで煮込んだものです。
グライは汁気が多く、ターメリックを含むために黄色味がかった、サラサラのカレーに近いもの。
一方、ルンダンは、ココナッツミルクの水分が飛ぶまでじっくりじっくり加熱した焦茶色のもの。

ルンダン Padang_West Sumatra, 2023

1784年にイギリスの東インド会社社員が残した記録の中に、すでにグライの記載があるそうです。
一方、ルンダンは、まずは調理方法として1827年にオランダ人の記録に登場し、
料理名としてのルンダンは20世紀に入ってから見られるようになったのだとか。
ルンダンについては、次回にじっくり。まずはグライから。

グライは西スマトラが発祥と言われていますが、現在はスマトラ各地からジャワにかけて広く愛されている料理。
西スマトラのものは、比較的しっかり煮込まれてコクのあるものが多く、煮込む素材は多種多様。
北スマトラのアチェでは、グライ・カンビン/Gulai Kambingというヤギ肉のグライが有名ですね。
これは、ロティ・チャナイ/Roti Canaiと一緒に食べられることが多いです。
ちょっと脱線しますが、ロティ・チャナイはスマトラ北部を始め、マレーシアやシンガポールでも食べられる、
潰した丸型の、幾つもの層ができているフラットブレッドです。悪くて美味しい系の。
その名がインド南部の街チェンナイ/Chennaiに由来するといわれるところからわかるように、
ロティ・チャナイもまた、インドから東南アジアに持ち込まれた食べ物の一つです。
カレー的なグライとロティ・チャナイを一緒に食べる、というのがすごく「らしい」ですよね。
北スマトラのアチェは地理的にも一番インドに近く、
インドおよびその西方のからのイスラムの影響をとても強く受けている土地です。

話しをグライに戻して。
一方で、ジャワのグライは、グレ/Guleと言われることも多く、これも多くはヤギ肉を煮込みます。
スマトラのものに比べると汁気が多くて、スープに近い印象ですね。

で、その西スマトラのグライ。
食堂の店先に並べられている、汁気のある物は基本どれも「グライ」と思っていいのではないかと思います。
パダン料理屋に行って、皿盛りで注文をしたことがある人はみなさん経験済みでしょうが、
最後、白ごはんにぴゃっと料理の汁だけをかけてくれるじゃないですか。あの、汁気の料理がグライ。
鶏のグライ、グライ・アヤム/Gulai Ayamなどは、定番中の定番ですね。
ただ、定番すぎて食べていなくて、写真がありません(涙)。

白身魚のグライ Padang_West Sumatra, 2023

これは、沿岸の街パダンで食べた白身魚(鯛)のグライ、グライ・カカップ/Gulai Kakap。
ぶりんぶりんに肉厚な切り身に、しっかり染み込むこっくりとしたソース。至福でした。

エビとシダのグライ Padang_West Sumatra, 2023

同じ店のエビとシダの葉のグライ、グライ・ウダン・パキス/Gulai Udang Pakis。
これはビスクですか?とうくらいしっかりエビの出汁のでたソースがシダの葉に絡み、最高。
思い出し目眩がする。

パダン料理 Padang_West Sumatra, 2023

白ごはんを白ごはんのまま食べる、ということが少ないインドネシアですが、
西スマトラはとりわけ、あらゆるものをごはんにかけて、味を染み込ませていただきます。
グライの汁も、もちろん。たっぷり白ごはんにかけて、しゃびしゃびさせて食べるのが正解。
素材の旨味たっぷりで、ココナッツミルクのコクがサンバルの辛味とバランスを取り、ごはん泥棒。

パダン料理 Padang_West Sumatra, 2023

このふた山の白ごはんも、最初に出された時に多すぎる!と思ったのにも関わらず、
結局、ひと山半は余裕でした。恐ろしや。
西スマトラのお米は美味しいのだとみんな言います。
どうりで、ごはん泥棒な料理ばかりがあるわけですよね。納得。

わたしたちは、西スマトラの料理を、全部まとめて「パダン料理」と呼びがちですが、
厳密には地域ごとに違っているのだそうです。
例えば、山の街ブキティンギでよく見かけるカパウ/Kapau料理も、カパウという村からのもの。
何が違うの?と聞くと、だいたいブンブが違うと答えられがちですが、具体的に何がどう違うのかはいまいち不明。
思うに、とにかく多彩なブンブを使う西スマトラの料理なので、地域どころか家庭ごとにブンブは違うでしょうし、
ブンブが違うというよりは、地域の植生の違いからくる素材や、その素材の味の違いではないかと。
ココナッツも、生えている地域や標高によって育つ品種と、その実から採れるココナッツミルクの風味が変わると言われますし。

で、カパウ料理。
ブキティンギの中心にある市場に出ているカパウ料理屋は圧巻です。

カパウ料理屋 Bukittinggi_West Sumatra, 2023

パダン料理屋が店前のディスプレイに皿を積み上げるスタイルなのに対して、
ここのカパウ料理屋は大鉢(ボウル)に入れた料理を店頭に積み上げるスタイル。
そしてその上から、長い柄杓で料理を取って、皿盛りにして出してくれるのです。
楽しい。そして、うまい。

この写真の中央に写っているのが、カパウ名物のグライ・タンブス/Gulai Tambusu。
牛の腸に豆腐と卵を合わせたタネを入れて、グライとして煮込んだものです。
(その右に写っているのが、鶏のグライですね)

そして、もうひとつカパウ名物が、その名もグライ・カパウ/Gulai Kapau。
野菜たっぷりのグライです。

グライ・カパウ Bukittinggi_West Sumatra, 2023

ジャックフルーツの若い実を煮込んだグライはパダン料理でも見かけるのですが、
カパウの場合、ジャックフルーツに加えて、キャベツ、そしてインゲンに煮たジュウロクササゲも入ります。
形はとどめつつ、程よくくたくたに煮込まれたこれが美味しいの。

カパウ料理屋 Bukittinggi_West Sumatra, 2023

この時は確か、ルンダンとグライ・カパウを頼んだはずなのですが、
どかっと乗ったグライ・カパウでルンダンが見えない。

カパウ料理 Bukittinggi_West Sumatra, 2023

本望です。

西スマトラの朝ご飯というと、ロントン・サユール/Lontong Sayurが定番です。
ロントンというのは、バナナの葉で包んでボイルしたライスケーキで、
そこに野菜(=サユール)のココナッツミルク煮込みをかけたものがロントン・サユール。
このサユールもつまり、野菜のグライ、グライ・サユールなわけですね。。
ジャカルタなどで出会うロントン・サユールは、せいぜい玉子をのせるかどうか程度の選択肢しかないですが、
西スマトラで出会うロントン・グライ・サユールは、野菜の種類も様々なのです。

ロントン・グライ・パク Padang_West Sumatra, 2023

これはパダンで食べた、パク/Paku=シダの葉のグライをかけたロントン(画面左に見切れぎみ)。
シダの若い葉が刻んで煮込まれていて、柔らかくも滋味深く。
ちなみに、パダンはクルプックがピンクです。パダンといえば、ピンクのクルプック。かわいい。

グライ・パク Padang_West Sumatra, 2023

グライ・サユールいろいろ Padang_West Sumatra, 2023

この食堂は朝食に3種類のグライ・サユールを用意していました。
シダの葉の他、ジャックフルーツのと、インゲンの。
こうやってみると、同じグライ・サユールでも色が全然違いますね。
この野菜に限らず、あらゆるグライは、その素材に合わせて使うブンブの種類や配合を調整しています。
「グライ」というカテゴリーの幅の広さを感じますね。

ライスケーキはロントンだけでなく、カトゥペック/Katupekも。
ジャワだとクトゥパット/Ketupatと呼ばれますが、椰子の若い葉を編んだ中に生米を詰めて茹でたものです。

カトゥペック・グライ・パク Padang_West Sumatra, 2023

そんなカトゥペックの、シダの葉グライ。シダの葉のグライはさらっとした仕上がりが多い印象。

カトゥペック・グライ・サユール Padang_West Sumatra, 2023

これは、いろんな野菜のグライ。たまご乗せ。
注文した時に何かを聞かれて、よくわからないけど「うん」と答えたら、焼きそばがのってきました。
カーボロードか。おかげで、ライスケーキも野菜もよく見えません(笑)。

カトゥペック・グライ・サユール Padang_West Sumatra, 2023

若いジャックフルーツと、タケノコも入っていました。焼きそばは、なくてもいいです、正直。

と、野菜のグライを色々あげてみましたが、
そして、土地柄、野菜や山菜などがたくさん採れる地域ではあるのですが、
西スマトラのひとたち、あんまり野菜に興味がないようです。薄々それは感じていましたが。

イカン・バカール Padang_West Sumatra, 2023

この写真は、イカン・バカール/Ikan Bakar=焼き魚を食べに行った時のもの。
テーブルには、注文した大きなお魚が二つと、
頼んではいないけど出されたルンダン、フライドチキン、鶏のグライ、茹でたキャッサバの葉、唐辛子和えの茄子。
この茹でたキャッサバの葉は、パダン料理屋でもありますよね。最後の砦的な青野菜です。
(それがないと、茶色のグラデーションみたいなプレートになってしまいます)
4人で一緒に食事に行きましたが、わたし以外、キャッサバの葉にすら興味を示さず。
ひたすらお魚と、サンバル、あとは鶏のグライの汁だけをごはんにかけて黙々と食べていました。
(グライの汁は料金かかりません)

動物性タンパク質を好みがちですね、西スマトラの食卓は。
鶏や魚はもちろん、牛や水牛は、肉だけでなく内臓や皮まで工夫してしっかり美味しくいただきます。

ソト・パダン Padang_West Sumatra, 2023

西スマトラでは珍しくココナッツミルクを使っていない料理、ソト・パダン/Soto Padang。
ココナッツミルクは使っていませんが、スパイスはしっかり効かせて、
牛肉や、臭みを抜いた内臓などをじっくり煮込んだ美味しいスープです。カリカリの肺とかも入ってるの。

また、これもココナッツミルクは使ってない、サテ・パダン/Sate Padang。

サテ・パダン Padang_West Sumatra, 2023

通常、サテは鶏であれ牛であれヤギであれ、生肉を串にさして炭火で炙って調理するのですが、
サテ・パダンは、先にスパイスなどで柔らかくなるまで茹でるのだそうです。
使うのは、肉の部分以外に、臓物や、舌など。
茹で上がったら食べやすい大きさに切り、串刺しにして炭火で焼き、
そこに米粉でとろみをつけた、これまたスパイスフルな(カレーによく似た)ソースをかけて、
フライドオニオンをちらして、ライスケーキと一緒にいただきます。
スパイス使いは店によって変わりますが、唐辛子の辛さではなく胡椒の辛さを効かせた店が時々あり、
それがもうたまらなく食欲をそそります(思い出し身悶え)。

もひとつ牛肉(時に水牛もかな)料理で、デンデン・バトコッ/Dendeng Batokokというのがあります。
前の記事に載せた写真に写ってました。

パダン料理 Padang_West Sumatra, 2023

この右奥にある、唐辛子がまぶされたものが、デンデン・バトコッです。
これも、肉をブンブと一緒にまず茹でて調理するんだそうです。
柔らかく煮えたら薄く切り、そしてさらに繊維をほぐすようにとんとん叩き、そして油で揚げる。
この「とんとん叩く」ことを、ミナンカバウの言葉で「バトコッ」というのだそうです。
次に、粗挽きの唐辛子(赤か緑かは好みで)でサンバルを作り、肉の茹で汁と合わせて火を通し、
そこに、揚げておいた肉を戻して、しっとりした感じで仕上げる。
なんという手間!

という、西スマトラの肉料理。
もうたいがい長いのでここで終えようと思ったのですが、最後にもう一皿だけ、野菜に戻していいですか。
野菜好きなので、笑。

以前にも載せたことがありますが、ロントン・ピチャル/Lontong Pical。大好き。

ロントン・ピチャル Bukittinggi_West Sumatra, 2023

ロントンに茹でたいろんな野菜、シンコンチップス、ピンクのクルプックをのせ、ピーナッツソースをかけたもの。

茹で野菜 Bukittinggi_West Sumatra, 2023

キャベツはフレッシュで、あとは茹でたタケノコ、バナナの花、キャッサバの葉、シダの葉、かな。

茹でバナナの花 Bukittinggi_West Sumatra, 2023

バナナの花って普通はアクで色が悪くなってしまうのに、ここのはきれいなままで、
どうして?と聞いたら、ピサン・バトゥ/Pisang Batuという品種だと黒くならないのだと教えてくれました。
そういえば、バリでバナナの幹を料理に使った時も、バトゥが色良く仕上がると教えてもらったっけ。
それにしても、この大きな花を丸ごとゆがいてしまうというのが豪快ですよね。

古くからやっていそうなお店で、ずっとお店を守ってきたようなおばあちゃんが現役で接客してくれます。

ピチャル屋のおばあちゃん Bukittinggi_West Sumatra, 2023

いつかまた行く時まで、ご健在で。

ということで、とりあえずはここまで。
次回は、西スマトラ料理の魂、ルンダンの作り方を教わったので、それを。
あー、お腹すいた。




2023/12/02

西スマトラの食卓①

パダン料理 Padang_West Sumatra 2023


今年の、8月末から9月の頭にかけて、西スマトラに旅行に行っていました。
美味しい美味しい、西スマトラのごはんを食べに。そして、気づけば12月。今年の記事は今年のうちに。


西スマトラ州沿岸のパダン/Padangという街から、ブキティンギ/Bukittinggiという山の街にかけて。
パダン料理/Masakan Padangは、インドネシアごはんが好きな方ならすぐピンとくるかと思います。
インドネシア各地のみならず、世界各地で出会うことができる、
インドネシア料理の中では最もポピュラーな地域料理がパダン料理です。
白いごはんにスパイスフルな肉料理や魚料理、カレーのようなソース、そして唐辛子のサンバルがパダン料理の基本。
在インドネシアの外国人たちも、母国への一時帰国後インドネシアに戻ってきて最初に食べたいものとしてよく挙げます。

パダン料理 Jakarta_2023

かく言うわたしも、時々無性に食べたくて居ても立っても居られなくなります。
今も、写真を見返していて、本当につらい(笑)。

店先に料理を盛った皿を積み上げて陳列し、
店内に入ったお客さんのテーブルにもずらっと料理の皿を並べるのが圧巻のパダン料理です。

パダン料理店の店頭ディスプレイ Padang_West Sumatra 2023

パダン料理 Jakarta_2023

スパイスフル、と先に書きましたが、
インドネシアの中でもスマトラ島、特に西スマトラは、とりわけふんだんにスパイスを使います。
どれをどれだけ使うかは、料理によって、また作り手によって異なりますが、
コリアンダーシード、クミンシード、ナツメグ、クローブ、シナモン、胡椒、のようなドライスパイスや、
生姜、ニンニク、シャロット、タマリンド、ターメリック、ガランガル、カンディスなどのフレッシュスパイス、
そして、レモングラス、ターメリックの葉、サラムリーフ、コブミカンの葉などのハーブ類。
などが、西スマトラ料理の調味料として挙げられます。多分もっとあるけど(笑)。
そして、欠かせないのがココナッツミルクと唐辛子。これらを使わない西スマトラ料理はほぼありません。

市場の唐辛子とフレッシュスパイス売り Padang_West Sumatra 2023

この多彩なブンブ/Bumbu使いには歴史的・伝統的な背景が見られます。

西スマトラ沿岸は、古くから西方諸国との交易地として発展してきました。
約半年ごとに向きを変える東西の貿易風に助けられ、
西スマトラから現インド南部、アフリカを結ぶ船のルートはかなり早い時期から確立されており、
ポルトガルの記録にも、16世紀には西スマトラにグジャラートの船が来たとあるそうです。
とはいえ、ポルトガルが出てくるよりはるか以前からこの地域はインド商人との交易を持っていたわけで、
遡ること、13〜14世紀にはインド商人が既に西スマトラに来ていたのであろうと言われています。
スパイスをふんだんに使うインドとの交易が、この地での調理方法に大きく影響したのだというのが歴史的背景。
(当然ながらその当時は「インド」という名前の国はなかったわけですが、便宜的にこのまま)

そして、この西スマトラ地域に暮らすミナンカバウ人たちは、伝統的に遠方へと出稼ぎに出る文化があります。
ミナンカバウは母系社会。
母から娘へと家が継がれていく一方、男子たちは土地を離れて遠方へ働きに出ることが多いのです。
優秀な商売人としても知られるミナンカバウ人。地方へ出稼ぎに行き、そこで一旗挙げて故郷に錦を飾る、的な。
これが、インドネシア各地、世界各地にパダン料理屋がある理由でもあります。
で、その長距離を移動する際の携帯食として、日持ちするよう調理するという文化があり、
その保存料としてのスパイス、ブンブであったとも言われています。

市場のフレッシュスパイス Padang_West Sumatra 2023

素材という意味では、沿岸部から高地ににかけてという土地柄、植生はとても豊かな西スマトラです。
ココナッツ、米、もち米が実り、若いジャックフルーツやシダ、タケノコなども豊富に採れ、
タンパク源としては、海川で魚が獲れるの加えて、牛や水牛なども食用とされます。
ミナンカバウ人は厳格なイスラム教徒が多く、なので豚が食材とされることはありません。

市場の肉屋 Padang_West Sumatra 2023

市場の魚屋 Padang_West Sumatra 2023

西スマトラの料理に欠かせない素材の、そして地元でも豊富に採れるココナッツ。
料理におけるココナッツミルク使いもまた、インドの影響という説があります。

西スマトラと交易を行なっていたのは、インドも南の沿岸部の商人。
南インドは調理にココナッツミルクを多用します(北インドはヨーグルト)。
そのココナッツミルクで煮込む、という文化もまた西スマトラに流入したのではないかと言われているのです。

シダのココナッツミルク煮とライスケーキ Padang_West Sumatra 2023

実際、ココナッツの木だらけなのです。
飛行機でパダンの空港に着陸する際の眼下にもたくさんのココナッツ。

パダン上空 Padang_West Sumatra, 2023

民家の庭にも、沿岸部から高地へ向かう沿道にもたくさんのココナッツ。

ココナッツの木 Padang_West Sumatra 2023

庭に植えているのはもちろん、市場でも、ココナッツ専門店がしっかり。

ココナッツ売り Padang_West Sumatra 2023

希望する熟れ具合に合わせて実を選んでもらい、奥の機械で白い果肉を掻き出します。

ココナッツ売り Padang_West Sumatra 2023

果肉としても買えますし、そこに水を加えて絞ったココナッツミルクも買えます。
一番搾りの「濃いココナッツミルク」と、

濃いココナッツミルク Padang_West Sumatra 2023

二番搾りの「薄いココナッツミルク」。使い分けるのです。

薄いココナッツミルク Padang_West Sumatra 2023

ちなみに、料理にココナッツミルクを多用するのは、ここ西スマトラがダントツではありますが、
他は、マレー系の人々(北スマトラのデリ、ジャカルタのブタウィなども含む)は結構使いますね。
シンガポールやマレーシアのプラナカン料理もココナッツミルクでコクが出したものが多い気が。
また、中部ジャワでもココナッツミルクはよく使います。
一方で西ジャワはそれほどでもない。
これは西ジャワは山がちな地域が多く、植生としてココナッツが少ないというのがあるのだと思うのですが、
バリもココナッツは使いますが、ココナッツミルクは少ないかな。
インドネシア東部でもココナッツミルクを多用する地域はあまりありません。
北スラウェシでは、西スマトラ以上に一面のココナッツ林が広がりますが料理の中での利用はそれほど顕著ではなく。
(基本的に、乾燥させてココナッツオイルの原料として出荷される換金作物扱い)
この地域差は面白いですよね。いつかちゃんと調べてみます。

で、西スマトラのココナッツに戻って。
ココナッツの木って、すごく背が高いんですよね。真っ直ぐなので足場もよくなく、収穫が大変。
ということで、この↓、前を走ってるの。わかります?

ココナッツ収穫猿 Padang_West Sumatra 2023

ココナッツ収穫猿 Padang_West Sumatra 2023

バイクのサイドカー的リアカーに乗っているのが、お猿です。
バナナの収穫に猿を使うのは、西スマトラでは一般的なようで、きちんとそれ用の学校もあるのだそう(猿の)。
きちんとトレーニングをして、技術を身につけた後に売られて、
ココナッツ収穫業者+お猿のチームとして契約した農園に出向き、収穫量の何割という取り決めで働きます。
おりこう。とか言うと「プロを舐めんな」とか思われるのかな(猿に)。

一方、もう一つの欠かせない素材である唐辛子。

市場の唐辛子売り Padang_West Sumatra 2023

唐辛子はヨーロッパ人によって持ち込まれたので、使われ始めたのは16世紀以降。
インドの影響云々と比べると後発ですが、それでも、今じゃ唐辛子のない西スマトラ料理は考えられません。

西スマトラで主に使われるのは、細くて長いチャべ・クリティン/Cabai Keritingの赤く熟れたもの。
西ジャワなどでよく使われる小粒のチャべ・ラウィット/Cabai Rawit等、他の種類はほとんど使われません。
これを、石臼で細かくペースト状にすりつぶしたものが市場で売られているのです。

擦り唐辛子 Padang_West Sumatra 2023

ちなみに、他のブンブたちも単独で、もしくはブレンドされて、ペースト状になったものが売られています。
便利。

擦りブンブ Padang_West Sumatra 2023

この唐辛子ペーストをココナッツミルクに合わせて火にかけるところから、西スマトラの料理は始まるのです。
とはいえ、強烈に辛いかと言うと、そうでもないのが不思議なところ。
まあ、辛さの感じ方は個人差がありますし、添えられたサンバル/Sambalはもちろん辛いのですが、
料理全体は、唐辛子の辛味だけが突出することなく、いろんな風味が複雑に合わさり、
それら全てを、ココナッツミルクが奥行きを持ってまとめているのです。

ということで、西スマトラごはんの予備知識はそのくらいで、次回からは、お料理を詳しく。
ほんと、お腹空いてる時に見たら悶々としてしまうくらいの、お料理たちを詳しく。

この麻薬的な魅力はなんなんでしょうね。
旅行中にひたすら食べたので「当分食べなくていい」ってなるかと思いきやそんなことはなく、
戻ってきても、地元の美味しいパダン料理屋などに行ってはがっつり食べています。

パダン料理 Bandung_West Java, 2023

この写真だけでもうつらい。食べたい。




2023/04/07

ロンボクの食卓③

 
アヤム・タリワン Lombok_West Nusa Tenggara, 2023

ということで、ロンボクのごはん、最終です。
ロンボクのごはんはアヤム・タリワン/Ayam Taliwangのみにあらず、と言いつつ、
やっぱり、アヤム・タリワン食べないと、ロンボクに来た感はないですよね。というくらいの名物料理です。

アヤム・タリワンの屋台 Lombok_West Nusa Tenggara, 2023

厳密には、タリワンというのはロンボクの東隣、スンバワ島の地域の名前なのです。
そのタリワンの人たちが移住してきたロンボクのマタラム市内の一地域、
そこで「タリワンのチキン」として売られ始めて定着したもののようです。

友人の夫さん曰く、ロンボクに限らず、インドネシアで「アヤム・タリワン」を名乗れるのはタリワン出身者のみ。
彼らは、味付けのどこかの段階でそっと裏に回り人目に触れないよう調合してくる秘伝のレシピがあるらしく、
それあってこそのアヤム・タリワンなのだそうです。
その秘伝がどういう調合なのかは、部外者なので知る由もなく。ただ、基本的な調味はそれほど複雑ではない印象。
ただ、それなのに、すごーーーく、美味しいんですよねえ。うふ。

アヤム・タリワン Lombok_West Nusa Tenggara, 2023

まず、下味をつけたチキンを下揚げします。

アヤム・タリワン Lombok_West Nusa Tenggara, 2023

そして、金槌で叩く。ちょっとびっくり。
肉を柔らかく味がしみやすくするために叩くのだそうです。

そして、焼き網に挟み、炭火で炙り焼きにします。

アヤム・タリワン Lombok_West Nusa Tenggara, 2023

頃合いに一度引き上げ、再び金槌でたたきます。
ちょっとやりたい。

そして、タレをかけて再び炭火の上に。

アヤム・タリワン Lombok_West Nusa Tenggara, 2023

じっくり焼きながら、さらにタレ。
ここでつけるタレは(赤く見えますが)基本的に辛味はほとんどないのです。
このままなら、アヤム・バカール・マドゥ/Ayam Bakar Madu(マドゥ=ハチミツ)と呼ばれます。

アヤム・タリワン Lombok_West Nusa Tenggara, 2023

甘みがあるタレをじっくり炙り、いい感じの焦げが出てきて焼き上がり。

タリワン、今までは鶏肉のものしかイメージがなかったのですが、お魚もあると知ってうきうき。
魚と鶏の両方を買ってもらって、友人宅での晩ごはんにいただきました。

イカン・バカール・タリワン Lombok_West Nusa Tenggara, 2023

こちらが魚のほう。上に乗ってる緑の粒は、絞った柑橘の種。
魚も鶏のように叩くの?と聞いたら「そんなことしたら身が崩れる、笑」と返ってきました。
そうよな。

タリワンのサンバル Lombok_West Nusa Tenggara, 2023

焼いたままの辛味のないタリワンに添えられるのが、すっごく辛いサンバルと、ほどほど辛いサンバル。
緑のは、前回の記事に書いた緑小茄子のベベルックです。これもしっかり辛い。
柑橘の風味+動物性蛋白質の旨味+香ばしく焦げた甘めのタレ+旨辛のサンバル+フレッシュ辛味のベベルック。
最高ですよ、そりゃあ。

そんな日の晩ごはんの献立。

ロンボクごはん Lombok_West Nusa Tenggara, 2023

青い容器に入ってる緑色のは、これまた前回のレラスック。
その隣の上にあるのがオラオラ/Orah Orahと呼ばれる青野菜のココナッツ煮。
ゼンマイ、四角豆、もやしなどと、唐辛子、トラシ、ニンニクで風味付け、ココナッツミルクで煮ます。
さっと調理されて、でも優しく美味しい。

オラオラ Lombok_West Nusa Tenggara, 2023

お料理教室をしてくれた義姉さんが調理したものを分けてもらったのでした。
ちょっと唐辛子の赤みが見えますが、辛味はほとんどなく、使っているココナッツミルクもさらっとした感じ。

そして、オラオラの下のスープはクラック・レブイ/Kelaq Lebui。

クラック・レブイ Lombok_West Nusa Tenggara, 2023

レブイと呼ばれる黒豆、コマック/Komaqと呼ばれる小さな豆(①の中でプレチンにしてます)
そこに空芯菜を足して、トマトで酸味、青ネギと唐辛子と、トラシと、レンクアス、ニンニクで風味を。
こういうシンプルな野菜料理、しみじみ美味しいです。
これも、義姉さん宅で作ってくれたのを持ち帰ったのでした。

クラック・レブイ Lombok_West Nusa Tenggara, 2023

ざっと材料を聞いていると、結構シンプルなんですよね、調味料は。
スパイスも控えめで、シャロットもジャワやバリでは必須ですが、ロンボク料理では使わないものも多い印象。

ただし、サテは別。
サテ・ルンビガ/Sate Rembigaと呼ばれるロンボクのサテはスパイス等でしっかり下味つけた刺激的な美味しさ。

サテ・ルンビガ Lombok_West Nusa Tenggara, 2023

基本的に肉は牛肉使用。
胡椒を効かせ、唐辛子、タマリンド、椰子糖、コリアンダーシード、ニンニクなど、で浸けダレを。
店によっては、このタレにパイナップルを使うところもあるようです。
肉の繊維を柔らかくしてくれるんでしょうね。

このたっぷりな赤いタレを纏ったお肉を、炭火でじゅうじゅう。

サテ・ルンビガ Lombok_West Nusa Tenggara, 2023

サテ・ルンビガ Lombok_West Nusa Tenggara, 2023

胡椒の刺激というのがたまりませんね。

レバー、つみれはさらにパンチのある辛味。
つみれの方は、サテ・プスット/Sate Pustと呼ばれます。

サテ・ルンビガ Lombok_West Nusa Tenggara, 2023

サテ・プスット Lombok_West Nusa Tenggara, 2023

で、このサテ屋さんで注文してもらった、スープがベバルン/Bebalung。

ベバルン Lombok_West Nusa Tenggara, 2023

深みがあるのにスッキリした、牛の肋かな?のスープ。
牛のスープ自体はインドネシア各地で決して珍しいものではないのですが、この滋味深い味わいは、なかなか。

材料は、ニンニクやシャロットに生姜やターメリックなども加え、
スパイスとしてはコリアンダーシードとホワイトペッパー。
それをじっくり煮込んでは、浮いてきた油を地道に取り除いていくのだそうです。
確かに、肉の旨味はしっかりしているものの脂っ気はほとんどありません。ああ、また食べたい。

ベバルン Lombok_West Nusa Tenggara, 2023

それから、友人宅で出してもらった他のおかずを、あとちょっと。

これ、本当に美味しくて感動だった。
ぺぺス・タイン・ラレ/Pepes Tain Lale。
ぺぺスはバナナの葉で包んだ蒸物の相性、タイン・ラレ=タイ・ミニャック=ココナッツオイルの搾りかす。
そう、ココナッツオイルを絞った後のココナッツの果肉部分を再利用しているのです。

ぺぺス・タイン・ラレ Lombok_West Nusa Tenggara, 2023

ココナッツオイルの搾りかすって、香ばしくてうっすら甘くて、美味しいんです。
それを料理に使っている。
じわーんとした甘みと、油分による味の奥行き。

ぺぺス・タイン・ラレ Lombok_West Nusa Tenggara, 2023

基本の調合は、ココナッツオイルの搾りかすに、緑の唐辛子とクマンギ/Kemangi(レモンバジル)。
それに、水茹でした魚をほぐして混ぜたもの(上)、と干しエビを混ぜたもの(下)。
ちゃちゃっと白ごはんと合わせて口に放り込むと、旨味や甘味で「ほー」となります。

リックリック・ケロール Lombok_West Nusa Tenggara, 2023

それからもう一つ。
モリンガ(=ケロール/Kelor)の葉と緑の小茄子をココナッツと煮込んだリックリック・ケロール/Lik Lik Kelor。
これはもうほんと、優しい味。毎日食べられる系。

モリンガは、わが家のような標高が高めな地域だと育ちにくいのでなかなか手に入りません。
でも、ロンボクをはじめ、標高の低い島々では、生垣のようにカジュアルに庭に植えられていて、
日々のご飯に役立つんですよね。羨ましいです。
モリンガも、ゼンマイも、空芯菜も、筍までも、その辺で採れるよ、と友人の夫さん。

ということで、ロンボクの食卓、3回で終了です。
今回は、とにかくお家でのごはんを満喫させてもらいました。
旅で訪れた先で、郷土料理はレストランで食べられますが、
その土地の家庭料理というのは、届きそうでなかなか届かない、あこがれのようなもの。
それをじっくり堪能させてくれた友人夫婦に、心からの感謝を。

ロンボクごはん Lombok_West Nusa Tenggara, 2023

お腹も心も、満ち足りました。