2023/03/19

ロンボクの食卓②

バナナの花 Lombok_West Nusa Tenggara, 2023
 
ということで、プレチン/Plecingをあれこれ作った前回→
今回は、それ以外の「唐辛子が効く」お料理を。

まず、前回プレチンにも使ったバナナの花を使ったひと皿。
ペララ・ジャントゥン・ピサン/Pelalah Jantung Pisangと呼ばれる、バナナの花のココナッツミルク煮込みです。

使うのは、バナナダイバーシティ・インドネシアの、かなりの広範囲で愛されているクポック/Kepok種の花。
大きなガクの部分は除き、花の部分を分けていきます。

バナナの花 Lombok_West Nusa Tenggara, 2023

花をひと掴み手に取り、先端(オレンジが濃い部分)の部分を反対の手の平でぐりぐりしてほぐし、
取り出しやすくなった中の雄花をぷちぷちと引っこ抜いていきます。こういう黙々とやる作業好き。

バナナの花 Lombok_West Nusa Tenggara, 2023

花のもう真ん中のあたりまできたら、ガクの部分もろともと、適当な大きさに切ってしまって大丈夫。

一方、味付け材料。

ペララのセット Lombok_West Nusa Tenggara, 2023

これがペララのセット。
乾燥の唐辛子が登場。これは、他の地域でもあまり見かけないのです。
インドネシアはほぼどの地域でも唐辛子を好んで料理に使いますが、乾燥のものを使う地域は非常に少ないのです。
なので、ちょっと「おお!」となりました。
小粒のラウィットではなく、大きな方の唐辛子を干したもの。
ロンボクでは、スビエ・ビデン/Sebie Bideng =Cabai Hitam=黒唐辛子、と呼ばれるそう。

市場の乾物売り Lombok_West Nusa Tenggara, 2023

材料を買いに行った市場でも、乾物売りの豆などに並んで乾燥唐辛子が売られていました。

ちなみに、右の上側、オレンジと紫のビニール袋に入っているレンガのようなものがトラシ。
ロンボクのトラシは美味しくて有名なのです。
以前料理を教えてもらったバリのおうちでも「うちのトラシはロンボク産」と言っていました。
魚醤など同様、エビを発酵させたペーストなので強烈なにおいではありますが、その旨味もまた強烈。
適量を使うと、味わいがぐっと底上げされます。

そして、その乾燥唐辛子に加えて、小さな唐辛子、ニンニク、キャンドルナッツ、もちろんトラシも。
それから、これもちょっと珍しいかな、ナガコショウも加わります。

ナガコショウ Lombok_West Nusa Tenggara, 2023

ナガコショウの中でも、ジャワナガコショウと呼ばれるもの。
これらの材料は全部、ブレンダーで滑らかにしておきます。

続いて、バナナの花の下茹で。

バナナの花(下茹で) Lombok_West Nusa Tenggara, 2023

アクが強いので、その苦味を除くのが下茹での目的。

それから、ココナッツミルクも準備します。
熟れたココナッツの果肉の部分をおろし、そこに水を加えてよく揉んで絞ったものがココナッツミルク。

ココナッツミルク Lombok_West Nusa Tenggara, 2023

たっぷりの油で滑らかにしておいたペララのセットを炒め、火が通って香りがたったところでココナッツミルク。

ペララ Lombok_West Nusa Tenggara, 2023

ペララ Lombok_West Nusa Tenggara, 2023

塩、砂糖、うま味調味料、なので味を整えて、下茹でしておいたバナナの花を加えます。

ペララ・ジャントゥン・ピサン Lombok_West Nusa Tenggara, 2023

ほどほどに水気が減ったあたりでできあがり。
歯応えのあるバナナの花にコクのあるソースがいい感じに絡みます。
これも、油、砂糖使いはもちろん、ココナッツミルクを使うことで唐辛子の辛味はだいぶマイルドに。

同じようにココナッツミルクと唐辛子の組み合わせをもう一品。クチチャン/Kecicang。

クチチャン Lombok_West Nusa Tenggara, 2023

クチチャンとは、トーチジンジャーのこと。材料の名前のまま。
料理名を聞いたら「クチチャンだねえ」との返答。トーチジンジャーといえばこの調理法、ということなのかな。
トーチジンジャーの香りが大好きなわたしは、このお料理は「ぜひ!」とリクエストしたのでした。

クチチャン下処理 Lombok_West Nusa Tenggara, 2023

買ってきたクチチャンの茎を、どんどんどんどん剥がしていき、真ん中の白くて柔らかい部分だけにします。
なんて贅沢!

クチチャン下処理 Lombok_West Nusa Tenggara, 2023

それをしゃしゃしゃしゃしゃと刻む。まな板も使わず。

クチチャン下処理 Lombok_West Nusa Tenggara, 2023

そして、水で揉む。アクだしの下処理ですね。

通常のクチチャンの場合、このトーチジンジャーだけを使うのだそうですが、
わたしの友人宅では、ここに叩いた牛肉を入れる贅沢バージョンにしているのだそう。
赤身の部分をたんたん叩いて、粗ミンチ状に。これは旨味ましましでしょう。

クチチャン下処理 Lombok_West Nusa Tenggara, 2023

そして、シャロットや大きい唐辛子の一部も、これまたまな板を使わずしゃしゃしゃしゃと切り、

クチチャン下処理 Lombok_West Nusa Tenggara, 2023

クチチャンのセット。

クチチャンのセット Lombok_West Nusa Tenggara, 2023

ざく切りの大きい唐辛子、小さい唐辛子、にんにく、トラシ、塩、砂糖、はまとめてブレンダーで滑らかに。

まずは、薄切りにした大きい唐辛子とシャロットを炒めます。もちろん、たっぷりの油で。

クチチャン Lombok_West Nusa Tenggara, 2023

クチチャン Lombok_West Nusa Tenggara, 2023

シャロットのふちがややカラッとしたかな、の頃合いで、滑らかにした材料を加えて混ぜ合わせます。

クチチャン Lombok_West Nusa Tenggara, 2023

クチチャン Lombok_West Nusa Tenggara, 2023

牛肉を入れてざっと炒め合わせ、さらに水分を絞ったトーチジンジャーを加えてさらに混ぜます。

お料理を教えてくれたお姉さん、材料を合わせる作業の時、必ず「ビッスミラー」と小さい声で言います。
なんだか美味しくなるためのおまじないのようで、わたしも真似していました。

クチチャン Lombok_West Nusa Tenggara, 2023

全体がいい塩梅に混ざったところで味を確認し、そしてココナッツミルク。

クチチャン Lombok_West Nusa Tenggara, 2023

ペララと比べて、こちらはココナッツミルクの量は控えめに。ペララより水気少なく仕上げます。

ということで、この日に作ったものを持ち帰っての友人宅での晩ごはん。

お料理教室仕上がり Lombok_West Nusa Tenggara, 2023

右上のタッパーから、時計回りで、
プレチン・コマック、クチチャン、焼き茄子のプレチン、ペララ・ジャントゥン・ピサン、バナナの花のプレチン。

お料理教室仕上がり Lombok_West Nusa Tenggara, 2023

盛り付け。
ご飯が進むのです。

あ、そうそう、ロンボクの、と言ってしまうと広すぎるか、ただ、この友人宅でいただいたお米が、
これまたすごく美味しいお米だったんですよ。
ローカル米なのですが、艶やかで、ぱさつかず、かと言ってベタつかず、くどくないみずみずしい甘みもあり。
なんか、端々でロンボクの地の力を見せられている気がしました。

実はこの前日にもお姉さんのお料理を分けていただいていたのですが、
その中から、フレッシュの唐辛子を使ったこちらのお料理も一緒にご紹介。

レラスック Lombok_West Nusa Tenggara, 2023

カチャン・パンジャン/Kacang Panjang=ジュウロクササゲを使った、レラスック/Lelasuq。
唐辛子、シャロット、トマトを刻んで、小さく切ったカチャン・パンジャンと混ぜ合わせたもの。
味付けは、トラシ、塩、砂糖、化学調味料、にコブミカン。

レラスック Lombok_West Nusa Tenggara, 2023

材料全部をわしわしっと混ぜ合わせたら出来上がり。
シンプルですが、辛味と旨味に生のジュウロクササゲの青臭さとコブミカンの香りが程よくマッチ。
歯応えの良さもあり、いくらでも食べられます。

わたし、これをベベルック/Beberuqと勘違いしていたのですが、
ベベルックは、メインの野菜以外をチョベなどで潰してあるものを言うのだそうです。
また、ベベルックはだいたいフレッシュの丸茄子。ジュウロクササゲはレラスックになるようです。

ベベルック Jakarta, 2023

ジャカルタのアヤム・タリワンによくついてくる、これがベベルック。
ちなみに、このベベルック、割いたチキンで作るのもあるらしく、それはそれで美味しいに違いない。

ロンボクごはん Lombok_West Nusa Tenggara, 2023

このプレートの右下がレラスック、左下がベベルックです。
ちなみに、レラスックの上にあるのが、前回の記事でブレブレだったキノコのプレチン(笑)。

いわゆるよそゆきの「ご馳走」ではなく、家庭料理を教えてもらえてたからというのもあるのですが、
ロンボクの野菜を使った料理はとても豊富。そして、その野菜がとても美味しいので感動します。
立派な火山を抱く島なので、土質がいいということもあるのでしょうね。
ということで、この↑プレートに乗ってるあと2つと、その他の野菜料理、そしてお肉料理については次回で。

バナナの花 Lombok_West Nusa Tenggara, 2023


2023/03/14

ロンボクの食卓①

お料理教室 Lombok_West Nusa Tenggara, 2023

ロンボク/Lombok島に行き、友人夫婦のお姉さん宅でお料理教室をしてもらってきました。
思うほど辛くなく、思う以上に野菜がたっぷりなロンボクのキッチンです。

まず、ロンボク島の位置ですね。
バリ島の東隣。東西に広がるインドネシアのちょうど真ん中あたりの島です。


ロンボク/Lombokとは、ジャワなどの言葉で「唐辛子」を意味します。
なので、ああどうりでロンボクのごはんは唐辛子たっぷりで辛いはずだ、などと思ってしまいがちですが、
実はそのLombokではなく。
ロンボク島に暮らすササック/Sasakの人たちの言葉で「真っ直ぐ」を意味するLomboqに由来するそうです。

とは言え。
ロンボクの料理にたくさん唐辛子が使われがちなのは間違いがありません。
今回は、いつも以上に「赤み」増しなキッチン。
唐辛子については、以前の記事→ をご参考に。

材料 Lombok_West Nusa Tenggara, 2023

ジャカルタなどでロンボク料理といえば、アヤム・タリワン/Ayam Taliwangとプレチン・カンクン/Plecing Kankung。

アヤム・タリワンとプレチン・カンクン Jakarta, 2023

確かに有名な料理ですが、じゃあそれ以外は?というと、なかなか出てこないのも事実。
けれどロンボク料理はその二つのみにあらず。
野菜をふんだんに使ったロンボクの家庭料理を色々教わってきました。

「のみにあらず」とか言いましたが、でもまあ、プレチンから始めましょうか。

プレチンのセット Lombok_West Nusa Tenggara, 2023

唐辛子大/Cabai Besar、唐辛子小/Cabai Rawit、トマト、ニンニク、トラシ/Terasi、砂糖、塩がプレチンセット。
唐辛子をしっかり使いつつ、火を吹くような辛さにしないコツの1つは、唐辛子の大と小の塩梅です。
写真は「辛さマイルド」を目指した比率。
大きい唐辛子の方が辛味は穏やかなので多めに、辛みがシャープな小さい唐辛子は控えめです。
そして、全体の味を立たせるために塩は当然必要ですが、砂糖もしっかり。忘れずに。
これが辛さを調整するコツの2つ目です。
辛味に対して砂糖なんて安直な。と思うかもしれませんが、甘味の奥行きはやはり最強のバランスです。

で、これをフレッシュなままチョベッ/Cobekやブレンダーで潰したらプレチンの基本は完成です。
シンプルです。
このソースと和えたあれやこれやを総して、プレチンと呼びます。

代表的なプレチンは、プレチン・カンクン/Kankung。カンクンは空芯菜のこと。
こちらは、ジャカルタのレストランのプレチン・カンクン。茹でた空芯菜ともやしです。

プレチン・カンクン Jakarta, 2023

そしてこちらは、ロンボクの友人宅で出してもらったプレチン・カンクン。

プレチン・カンクン Lombok_West Nusa Tenggara, 2023

揚げた豆腐や茹で卵も合わせ、ピーナッツソースでガドガド的にもどうぞ、というアレンジ。
ジャカルタだと、プレチンの上にはピーナッツが必ず乗っていますが、友人夫婦曰く「必須ではない」そう。

ちょっと脱線しますけど(でもどうしても書いておきたい)、
ロンボクの、というか島の中心地であるマタラム/Mataramの豆腐の美味しさはなかなかの驚きでした。
出来立ての、まだほんのり温かいのを用意してくれていたのですが、それをそのままを食べられるのです。
以前お豆腐の記事(→)でも書きましたが、
インドネシアの豆腐は酸味があるものが多く、買ってきたものを家庭で調味加熱して食べます。
生食が可能かどうかというより、酸味が優ってしまうので、塩味や油などでバランスをとりたくなるのです。
が、マタラムの豆腐は酸味がなく、何もつけず、ただそのままで豆の味が甘く感じられるのです。
あのお豆腐の秘密は一体なんなのか。いつか解明しに行きたいです。本当に美味しかった。
その美味しい豆腐をカリッと揚げてくれたこのプレチンお豆腐も、当然素晴らしく美味しかったのです。

閑話休題。
ロンボクは空芯菜が美味しいので有名です。

空芯菜 Lombok_West Nusa Tenggara, 2023

見て、この立派な空芯菜。
茎の太さが違います。そして、これが固くなくて、パキパキと美味しいのです。

なんでこんなに立派なの?と聞いたところ「んー、川に生えてるから?」との返答。
ロンボクの人にしてみたら、空芯菜っていうのはこういうもの、なんでしょうね。うらやましい。
この空芯菜を茹でて、そしてこの太い茎を縦に裂き、茹でたもやしと一緒に盛ってプレチンのソースをかける。
プレチン・カンクンの出来上がりです。
さっぱり瑞々しく、シャキッとした歯ごたえとすっきりした辛味、そしてじんわりくるトラシの旨味。
(ロンボクはトラシの産地としても有名です)
毎日食べてもいいかもしれない、と思うくらいに飽きのこないひと皿です。

ところが、プレチンはカンクンばかりではなかったのです。これが、今回の「目から鱗」のひとつ。
これまではプレチン・カンクンというひと続きの名前として認識していたのでした、わたし。
他の食材でも「プレチン」ができるという発想がありませんでした。プレチンって自由!

まず、やばいこれハマる、となったのは焼き茄子のプレチン/Plecing Terung Bakar。

焼き茄子のプレチン Lombok_West Nusa Tenggara, 2023

ジューシーでスモーキーな焼き茄子に、すっきりとしたフレッシュな唐辛子の辛味と旨味。
そもそも焼き茄子自体がとても好きなので、これはもう。ご飯泥棒です、まったく。

使った茄子は緑の茄子。
西ジャワでは紫の茄子の方が圧倒的に主流なのですが、ロンボクは両方あるようです。
緑の方が柔らかいって言いますよね。

緑の茄子 Lombok_West Nusa Tenggara, 2023

友人の旦那さんがこの緑の茄子の種を見つけてきてくれて(ほんとうに至れり尽くせり)、
自宅に戻った私は早速植えてみましたよ。育つといいなー。

そして、キノコのプレチン。
このキノコがまた。

ジャムル・ラロン Lombok_West Nusa Tenggara, 2023

この大きくてまんまるなキノコ、ジャムル・ラロン/Jamur Larongと呼ばれています。
ジャムルはキノコ、ラロンとは雨季の始めの夕方に一斉に地中から羽化して飛び立つ羽虫の一種。
その羽虫が羽化した地中から生えてくるのが、このキノコなのだそうです。驚き。
大きくて丸い傘に細くてすっとした軸を持つこのキノコ、いつでも採れるわけではないのだとか。
ロンボクではテンコン・ブラン/Tengkong Bulanと呼ばれていました。テンコン=キノコ、ブラン=月。
満月のキノコ、って素敵な名前ですよね。

程よい歯ごたえがありクセのない美味しさのこのジャムル・ラロンも、プレチンにしてもらいました。

プレチン・ジャムル・ラロン Lombok_West Nusa Tenggara, 2023

って、ブレてるの。しんじられない。泣く。
めっちゃ美味しかったんですよ。なのに。泣く。

気を取り直して、次のプレチン。バナナの花のプレチン。

プレチン・ジャントゥン・ピサン Lombok_West Nusa Tenggara, 2023

他の料理のために下準備をしていたバナナの花を、せっかくだからとプレチンにしたのでした。
バナナの花は、インドネシア語ではジャントゥン・ピサン/Jantung Pisang、バナナのハート(心臓)と言います。

写真上部に写っているオレンジ色、これは油のパックです。
唐辛子の辛さ調整のコツ3つ目がこれなのです。
辛味成分であるカプサイシンは、油分に溶ける性質があるんですよね。
なので、油と合わせることで、シャープな辛味は丸味を帯びたマイルドな辛味に変化するのです。
大きな唐辛子と小さな唐辛子の塩梅、勇気ある砂糖と油使い。これです。

プレチン・ジャントゥン・ピサン Lombok_West Nusa Tenggara, 2023

すごく赤いけど、思うほど辛くないのですよ。
艶めくバナナの花のプレチン、シャキッと茹でた歯ごたえと仕上げに絞ったコブミカンの風味が効いて美味です。

そしてもうひとつ、同じプレチンでも油で加熱調理したプレチン、プレチン・コマック/Plecing Komaq。
コマックという小粒の豆を使います。
ロンボクの言葉ではコマック・シオン・スプッ/Komaq Siong Sepuq(シオン=揚げる、スプッ=ドライ)。

炒めプレチンのセット Lombok_West Nusa Tenggara, 2023

ドライに仕上げるためか、唐辛子の辛味とのバランスは油に任せるからか、トマトはなしで。
唐辛子の大小とニンニク、トラシ。

コマックを揚げる Lombok_West Nusa Tenggara, 2023

まずは、一晩浸水した(下茹でもしてたかも)コマックを、油でじっくり揚げます。

炒めプレチン Lombok_West Nusa Tenggara, 2023

次にプレチンセットを潰して、もしくはブレンダーで滑らかにして、それをたっぷりの油で炒めます。
赤いソースの縁に油が見えますよね。勇気ある油使いです。油は味。控えめに、とか言わずきちんと適量使用で。

プレチン・コマック Lombok_West Nusa Tenggara, 2023

水分を飛ばしつつ、砂糖、塩、化学調味料などで味付けをしていきます。
味見をしながら塩と砂糖を加えて、お姉さんに「どうかな」とやると「砂糖が足らない」と言われました。
なので、自分的には「勇気ある砂糖使い!」と思って砂糖を追加。
なのに、再度味見したお姉さんに「まだ足りない!」と言われました。
実際、お姉さんの砂糖の加減で味がばっちり決まるんです。さすが。
勇気は思い切りです。

味が決まったら揚げたコマックを合わせ、しっかりドライになるまで加熱してできあがり。
もともと豆らーなので、こういう豆系の料理には目がないのです。常備したいくらいご飯によく合う副菜。

たくさんあったコマックは3回に分けて揚げたのですが、最後の1回はわたしが仕上がりを確認しました。
味見と言いながらつまみ食いしつつ、揚げ上がりの頃合いは判断できたと思ったのですが、
最後に合わせた段階で「カリッとしてない」と指摘されました(笑)。

コマックを揚げる Lombok_West Nusa Tenggara, 2023

本当にしっかりカリッとしてないと、プレチンと合わせた時にその水気を吸収してしまうのです。
で、なんだか中途半端な歯応えの、中途半端に硬い仕上がりになってしまうのでした。反省。

と、プレチン徒然だけで結構な長さになってしまいました。

ロンボクの市場 Lombok_West Nusa Tenggara, 2023

美味しい唐辛子料理のキッチン、まだまだありますが、ひとまずここまで。
続きます。





2022/09/14

森のバター(西カリマンタン)

テンカワン・オイル Lanjak_West Kalimantan, 2022

フードコンテストで調理中だったダヤックチームの食材に、棒状の油を見つけました。
手触り食感はまさにバター。森のバターです(アボカドではなく)。

このコンテストに先立って、地域の子供たちを対象にした食のワークショップが行われました。
その中で、カリマンタンの森でとれる油はなに?というクイズがありました。
まさかここで「サウィッ(オイル・パーム)」とは答えさせないだろうなと思いつつ、答えを待っていたら、
そして子供たち、特に村に住む子供たちは、なかなか答えられなかったのですが、
テンカワン・オイル/Minyak Tengkawangという聴きなれない名前が飛び出したのでした。
それが、この森のバターの正体。

テンカワンの実 Lanjak_West Kalimantan, 2022

森に生えるテンカワンという木の実の中身を圧搾してとる油で、
体温でとろけるこのバターは、昔からダヤックの人たちの間では調理用油として使われていたのだそうです。
(ダヤックの人たちはあまり油は使わないというのはその通りではあるのですが、まあ、時には)

以下、ざっと、聞いた話し。

テンカワンは13種類くらいある木で、カリマンタン、特に西カリマンタンに多く自生している。
スマトラにも2種くらいあったはず。
川沿いに生えることが多く、動物も魚もこの木の実が大好き。
水中に落下した実を魚が食し、その良質の油を接種した魚は脂ののりがよく美味しくなる。
ダヤックの人々の暮らしに根ざした木で、
畑で種を蒔くタイミングの目安として、テンカワンとリンクさせた時期表現がかつては使われていた。
捨てるところのない有用な樹木で、建材として優秀であったり、葉は染料になったりした。
1970〜80年代まではボゴール農科大学も定期的にリサーチを行い、その活用方法を探っていたが、
オイル・パームの栽培が普及して以降、そのリサーチも無くなった。
やや独特のにおいがある油で、収穫後に一度茹で、それを乾燥した後で圧搾することで改善、
食用の他にもコスメとしても使えるということで、現在商品を本格販売に向けて準備中。
インドネシアに医薬食品監督庁に登録申請も行っているが、認可にはもうしばらくかかりそう。
行政側の認定基準はパームオイルに基づいていて、もちろんパームと同じ用途はカバーできるが、
より栄養価も高いオイルとして、別途指標を設けて欲しいところ。

と。
なるほど。

テンカワン・オイル使用の商品 Lanjak_West Kalimantan, 2022

戻ってきてから調べました。テンカワンって、フタバガキだったんです。

ちょっと引用(『熱帯多雨林の植物誌 東南アジアの森のめぐみ』W・ヴィーヴァーズ-カーター、1986年、平凡社)
「マレーシアや大スンダ列島の低地多雨林は世界でもっとも背の高い多雨林だが、その特徴となっている高さをつくりだしているのがフタバガキ科の樹木である。根元は巨大で、しばしば板根をもち、枝を落としながら生育するので枝のでていない太い幹がはるか視界のかなたまで伸び、その上に特徴のあるカリフラワーのような形の樹冠を広げている。申し分のない形状と、材質がかたくてしかも軽く、大半の種のものは水に浮くということを結びつければ、なぜフタバガキ科の樹木が伐採人や材木商人にとっては理想に近い木なのか容易にわかるし、それゆえに評価がたいそう高いということもすぐに理解できる」

自分の中で繋がった感。

フタバガキは、東南アジアの森林の話題ではよく出てきます。
カリマンタンでは13種と言われましたが(その数字はまた何かしらの基準に基づいてのものなのでしょうが)、
実際にはもっと種類は多く、東南アジアも全域に分布しています。
樹液がバティックの蝋引きに使われたりもして、なにかと馴染みのある木。
木材は、いわゆるラワン材と呼ばれる南洋材で、使いでのある材としてよく売れるのだそう。
カリマンタン/ボルネオで森林を切り拓いてオイル・パーム畑にする際に、
まずそこで伐採した木材を売ってしまう訳ですが、その中でも換金制の高かったのがフタバガキと聞きます。

パーム畑だらけになり、森が減り、村の台所でも料理に使われるのがパームオイルになった今、
子供たちにはほとんど馴染みのない存在になってしまったわけですね。

テンカワン・オイル Lanjak_West Kalimantan, 2022

こうやって竹筒に入れられているんです、かわいいですよね。

このテンカワン・オイルを使った製品開発をしているひとたちは、
伝統的でありかつ成分的にもとても優れているテンカワンをもっと認知してもらおうと努めています。
すでにその数を減らしてしまっている植物であるわけですし、
今から植えて、実をつけるようになるのには数十年、その後も結実は数年単位で間があくというフタバガキ、
パームオイルに取って代わる存在にはなれないと思うのですが(パームは敵としては巨大すぎます)、
長く使われてきたものが消えないために、という努力としてとても大事なことだと思います。
また、少なくとも一部地域にとって、このテンカワン・オイルが現金収入の手段となればいいのにな、とも。

テンカワン・オイル Lanjak_West Kalimantan, 2022

今回の旅は、森の豊かさを実感する旅ではあったのですが、
一方でその森の側で暮らす村の人は「ここの暮らしは大変よ」と言います。それも事実。
日々の食を賄うに十分な豊かな森ではあっても、
人は「日々の食」以上のものを求めるわけで、それが現代社会の「豊かさ」でもあるんですよね。
その結果が、拡大するパーム畑でもある。
パームは絶対悪かというと、まあ善とは言い難いまでも、ひとつの手段であることは事実だと思います。
ただ、むやみやたらと森を切り開くのも違う、と認識しているのが今の時代であり、
そのあたりをどう采配するのか、若い知事でもあるカプアス・フルの行政には期待するのですが。
子供たちのワークショップの開会の際にスピーチをした村長さん(この方も若かった)が、
「伝統を守ることはとても大事だが、伝統を守ることはプリミティブな暮らしに戻るという意味ではない」
とおっしゃっていて、横でまったくその通りだよなあと思いました。
都会に暮らす人が「伝統を守る」と言うのと、
消え行きつつもその伝統的暮らしに身を置き続けている人たちにとっての「伝統を守る」は意味合いが違う。
なんてことも、徒然に考えていました。

そんな村での「現金収入」といえば、これも。

クラトムの葉 Lanjak_West Kalimantan, 2022

クラトムの葉/Daun Kratom。
道端や家家の軒先、庭などにやたらと干されていたんです、この葉っぱ。
聞けば、鎮痛効果だったりいろんな薬効があって、伝統薬として親しまれているんだそうです。
「でも、イリーガル」と言われて「え、ええ??」ってなったけど、汗。

クラトムの葉 Lanjak_West Kalimantan, 2022

調べてみたら、日本ではアヘンボクという別称もある植物らしく、薬物指定されているようです、汗x2。
インドネシアでも、モルヒネ以上の作用があるとか言われて注意喚起が出されていました。

土地のひとたちは体力つけるためとか、頭痛の時とかに普通に飲むよ、と言うのですが。
この写真を撮らせてくれたお家のお母さんは、
ずっと高血圧で悩まされていて、でも薬は飲みたくないからとクラトムを水で溶いて飲んでいたのだそう。
今はすっかりいいのよ、と笑っていました。

湖のほとりの村なので、雨季で水位が上がると家の床下(時には床上)まで水に浸ることもある地域。
そんな土地の庭に、長期間水に使っていても問題ないというこのクラトムは、適した作物なのでしょうね。

クラトムの木 Lanjak_West Kalimantan, 2022

そんなクラトムがこのコロナ禍で、なんとなくコロナに効く的な言われ方をして需要も増して、
(インドネシアの人たちは「薬」をあまり好まない傾向があり、ハーバルな選択肢があればそちらを選びがち)
村のひとたちも、自分たちで消費する以上の量を用意するようになったのだと思われます。
そういう意味での、現金収入。
彼らが伝統的に摂取している量と方法であれば、彼らが言うような効果があるのでしょうが、
容量を間違えたり、別の意図で使用されたりすることがあると危険なのだろうな、と思います。

あともう一つ、アラス/Arasの葉。の粉。
アラスという葉を乾かして粉砕したものをボトルに詰めて売っているのですが、
これは、ダヤックのひとたちが昔から石鹸のようにして体を洗うのに使っていたものなのだそうです。
「森から帰ってきて、なんか痒かったりすることあるじゃない?あれが消えるの」と言われました。
日常的に森から帰ってくるような暮らしではないのでよくわからないのですが、でも1本買ってきました。

アラスの葉 Lanjak_West Kalimantan, 2022

葉っぱのにおいのするスクラブ、みたいな。
アラス効果なのかスクラブ効果なのかわからないですが、すべっとした洗い上がりです。

ということで、西カリマンタン内陸の旅でした。
異文化ってこういうことだー、と実感した日々でした。
これまでカリマンタンって、インドネシアの他の地域と比べてどうにも縁遠い感じがあったのですが、
これを機会に、少しずつ知っていければいいなと思っています。