2019/12/20

モリンガ/Kelor

モリンガの葉をとるママ Alor_East Nusa Tenggara, 2019

モリンガです。インドネシア語では、ケロール/Kelor。
ミラクルツリーと言われる、地球上の可食植物の中で最も栄養価が高いと言われる、300の病を癒すと言われる、
とか、わたしがここで説明するまでもなく、広く誉め称えられているのであとはググってみてください。
な、モリンガです。

モリンガ Lembata_East Nusa Tenggara, 2019

モリンガの種 Lembata_East Nusa Tenggara, 2019

モリンガの花 Bandung_West Java, 2019

原産地は南アジアですが、広く熱帯地域に分布しており、
栄養補助食品として、化粧品の原料として、様々に使われている豆科の植物。
その種の莢の形状からドラムスティック・ツリーとも呼ばれます。
葉も、花も、根も、種も、いずれも食することができ、それぞれに高い栄養価をもつ木。
インドネシアでも、例えばジャカルタの健康食品売り場などでは乾燥粉末のカプセルやお茶などが売られ、
最近の健康意識の高まりと相まって、改めて、その価値を見直されています。

改めて。

そう、もともとモリンガ自体インドネシアでは普通に植えられていた植物。
わが家の近所にもあります(わが家の庭にもあったけど、ある時剪定を失敗して枯らせてしまった)。
栄養があるからとかそういうのではなく、当地ならではの用途があったモリンガ。

それは「憑き物落とし」。
まあ、こういう迷信は、広くインドネシア全土というより、ジャワだけとではないかという気もしますが。
特に亡くなった人に対し、埋葬前のお清めでモリンガの葉を用いて、
故人が生前まとっていた(かもしれない)呪術やら、マジックやらの効果を消して送り出すのだとか。
わが家のメイドさんも、お母さんが亡くなった時にモリンガの葉で沐浴させたらしく、
そのイメージのせいで「モリンガは食べたくない」と言います。

長患いで回復もせず亡くなるでもなく、という場合も「(死ねない)マジック」がかけられていると見なされ、
モリンガの葉で身体を撫で、マジックを消して安らかに逝かせてあげるという話しもあります。
また、憑き物を落とす効果は警察でも期待されているらしく、
追跡する悪者がまとっている銃弾除けの術(!)を無効化するとか、
催眠術による詐欺を行った容疑者の、その術を消す効果があるとか、
匿名のマディウム市(東ジャワ)警察の職員が語ったという記事があったりします(苦笑)。

そういう摩訶不思議な話しは嫌いではないし、インドネシアのある側面を表わしているとも思いますが、
ごはんについてのブログなので、ごはんの話しに戻しましょう。

モリンガの葉をとる Rote_East Nusa Tenggara, 2016

これまで見てきた中で、モリンガを一番日常的に食べていたのは、東ヌサトゥンガラ地域の人々な気がします。
それも、石灰質の土地で農作物の育ち難い島の人々。

モリンガは、とても強い、育てやすい植物なのです(わたしは枯らせたんですけど、それはそれ)。
幹を土にぐさっと刺しておくと、そこで根付いて育っていく。
垣根としてぐさぐさと刺されたモリンガの枝のいくつかが根付き葉を茂らせている姿は、
東ヌサトゥンガラ地域を旅しているとよく目にします。

モリンガの垣根 Lembata_East Nusa Tenggara, 2019

この地域の中でも、火山のある島や保水力のある土壌を有する島では、そうやって生えている植物という感じ。
でも、火山もなく土壌も薄い島では、それ以上の存在。モリンガは貴重な「野菜」です。

市場 Lembata_East Nusa Tenggara, 2019

市場 Adonara_East Nusa Tenggara, 2019

火山のある島の市場には、乾季であっても、つやつやで新鮮な葉野菜が並びます。
一方で、火山のない小島に立つ週に一度の市場では、葉野菜はモリンガだけ。

市場 Alor_East Nusa Tenggara, 2019

この市場は、アロール島の入り江のすぐ外にある小さな島の村。
村のひとたちは、小舟で渡った対岸であるアロール島に畑を持っています。
自分たちの暮らす島には畑はなく、せいぜいが庭先の唐辛子や、パパイヤ、バナナ、
そしてモリンガくらいが、海を渡らずとも採れる食用植物ではないでしょうか。

モリンガ Alor_East Nusa Tenggara, 2019

わたしが「モリンガのスープが食べたい」とお願いしたので、木に登って採ってくれているところ。
まだ若い、柔らかい葉を採るのよ、とお母さんが子どもたちに指示を出してくれました。

モリンガ Alor_East Nusa Tenggara, 2019

ごはんの材料です。

今年の旅行で訪れたこの村、偶然、数年前にも仕事で滞在したことがありました。
その時に作ってもらったモリンガのスープが、わたしの人生初モリンガ。
当時はそれがモリンガだとも知らず、でもインスタントの焼きそばと白ご飯、みたいな食事の中にあって、
とても貴重な緑の野菜で、そして食べたらなんだか元気になった気がしたのでした。

キッチン Alor_East Nusa Tenggara, 2019

お世話になったおうちのキッチン。
トップの写真のママのおうちです。

モリンガのスープは葉の部分だけを使います。

モリンガ Alor_East Nusa Tenggara, 2019

なので、まずは、葉をぷちぷちと取る作業から。小さい茎まで出来るだけ丁寧に取り除きます。
堅そうな葉っぱや、茎の部分は、待機しているヤギたちに。

モリンガを食べるヤギ Alor_East Nusa Tenggara, 2019

モリンガの食べ方は、基本的にスープ。他は、わたしはまだ見たことがありません。
そのスープも、塩と顆粒スープストック(オプショナル)のみで味付け、というくらいのシンプルさ。
ニンニクやシャロットを少し入れていることもあるかな。

モリンガスープ Alor_East Nusa Tenggara, 2019

葉が柔らかくなるまで煮込んだスープ。
やや辛味のある青さが美味しく、今でもやはり、食べるとなんだか元気になる気がします。

モリンガ Bandung_West Java, 2019

わが家のお隣さんから、モリンガの葉っぱを沢山もらったことがありました。
その辺に生えてはいても、バンドンの市場で売られているのを目にしたことはありません。
なので、貴重と言えば貴重な、モリンガの生葉。

柔らかい部分は、ママにならってスープに。

モリンガのスープ Bandung_West Java, 2019

ニンニク少しと塩で、トウモロコシと金時豆入り。

わたしの中でモリンガは、身体にいいのはもちろんですが、
それにもまして、親しみをもって東の島々を思い出す植物です。
通りすがりに見かけると「あ」と振り返って見てしまうくらいに。
カリカリに乾燥した島の青い空のイメージと共に思いだされる、素朴で沁みるスープの味なのです。

乾燥モリンガ Bandung_West Java, 2019

残りの堅そうな部分と花は、お茶用に乾燥させました。
緑みどりしい味がします。

モリンガ Rote_East Nusa Tenggara, 2016

この記事を書き始めて、写真を撮ったあとの種を持ち帰っていたことを思い出しました。
ちょうど雨季ですし、撒いてみます。

育ったらいいな。
今度は枯らさないようにしたいな。
枯れるなんて思わなかったんだよな。


2019/12/19

豆腐/Tahu ②

タフ・アチ Tegal_Central Java, 2019

ジャワ北岸のスープの話しのついでに、ジャワ北岸の豆腐料理をちょっと。
インドネシアの豆腐の詳細については、豆腐/Tahuの①を先に読んでいただければ。
今回は、ただひたすら「美味しかったよー」っていうことです。先に要約してしまえば。

に書いたように、インドネシアの中でもジャワ島はとりわけ豆腐の消費が多い地域です。
ある調査データでは、一人当たりの週の豆腐消費量(g)が多いのは、上から順に、
東ジャワ(270)、中ジャワ(180)、ジョグジャカルタ/西ジャワ(170)、バリ(160)、ジャカルタ(130)。
ちなみに、少ない地域は、
中部スラウェシ/西スラウェシ(60)、アチェ/東ヌサトゥンガラ(50)、北マルク(40)。
インドネシアの中でも早い時期に中国からの移民がみられたこと、
オランダ東インド会社による強制栽培制度時の貴重なタンパク源となったことなどが背景となり、
今でもジャワの人々は、食事に軽食におやつにと、豆腐を食べます。

まずは、ジャカルタ。
ジャカルタの人々の朝食もしくは昼食に好まれるのがクトプラッ/Ketoprak。

クトプラッ Jakarta, 2019

名前の由来が、Ketupat(ライスケーキ)+Toge(もやし)+Geprak(叩く)だと言われている通り、
ライスケーキに茹でたもやし、揚げ豆腐、刻みキュウリ、ビーフンを乗せてピーナッツソースをかけたもの。
(叩く、はピーナッツソースを作る際に石臼で叩き付けるようにする動作からでしょう)。

クトプラッ Jakarta, 2019

豆腐がメインな訳ではありませんが、とはいえ、豆腐のないクトプラッなんて、というくらいに大事な存在。

ピーナッツソースつながりで、中部ジャワのスマラン/Semarangで食べたタフ・ギンバル/Tahu Gimbal。

タフ・ギンバル Semarang_Central Java, 2019

インドネシア語でギンバルはドレッドヘアのことなんです。
なので「どのへんがドレット?」とタフ・ギンバル屋のおかあさんに聞いてみたところ、ドレッドは関係なく、
スマランのひとたちは、エビのかき揚げのことをギンバルと呼ぶのだそうです。

タフ・ギンバル Semarang_Central Java, 2019

殻付きでガリッと揚げられたエビと、揚げ豆腐、茹でキャベツにライスケーキとピーナッツソース。

タフ・ギンバル Semarang_Central Java, 2019

エビと豆腐という大陸らしい食材に、程よくチリを効かせたピーナッツソースというジャワらしい味の組み合わせ。
旨味と歯ごたえのエビに対し、ニュートラルな豆腐とキャベツの甘みがいい塩梅です。
豆腐の名を冠している割に豆腐が脇役な感もありますが、それでもこれはまた食べたいひと皿。


タフ・チャンプル Jakarta, 2019

豆腐の名を冠していながら豆腐が脇役つながりで、タフ・チャンプル/Tahu Campur。
これは、東ジャワのスラバヤ/Surabayaあたりが名物なようですね。食べたのはジャカルタだったのですが。

タフ・チャンプル Jakarta, 2019

揚げ豆腐は中がつるんとした、舌触りの優しいもの。
牛スジやたまご麺、茹でもやし、レタス、そして黄色く見えるのはキャッサバ芋のコロッケ。
このコロッケが甘くて美味しいんです。

タフ・チャンプル Jakarta, 2019

かかっているのは牛出汁ベースのスープで、そういうところも東ジャワっぽい気がします。
具だくさんで温まる軽めの晩ご飯、という感じのひと皿。

一方、おやつ枠の豆腐料理として、中部ジャワのテガル/Tegal名物のタフ・アチ/Tahu Aci。

タフ・アチ Tegal_Central Java, 2019

タフ・テガル/Tahu Tegal、タフ・クピン/Tahu Kuping (=耳、確かに耳っぽい)とも呼ばれるタフ・アチ。
アチはタピオカの澱粉のこと。澱粉を練ったものを豆腐の断面にはり付けて揚げています。

タフ・アチ Tegal_Central Java, 2019

こうやってはり付けるわけなんですが、なんで揚げた時にはずれちゃわないんだろう、と思ったりします。
粘着をよくするための細工があるでもないし。

でも、細工はなくてもコツはあるようで、
ここのお店、最初におかあさんがはり付けていったのを後からおばあちゃんがチェックして、
「これはダメ」と全部剥がしてはり直していました(笑)。

タフ・アチ Tegal_Central Java, 2019

おばあちゃんには敵わない。

タピオカ生地にはニンニクとニラなどが練り込まれています。
店の前では、刻んだニラがザルに広げられ、干されていました。ちょっと乾燥、くらいがいい様子。

タフ・アチ Tegal_Central Java, 2019

あとは、油で一気にジューーーッと揚げます。

タフ・アチ Tegal_Central Java, 2019

揚げたてが欲しくて、店先にあるのは無視していたわたし。

タフ・アチ Tegal_Central Java, 2019

だって、これ、絶対揚げたてが美味しいやつだもの。
澱粉生地のもちっとカリッとした歯ごたえと、厚揚げ部分のジューシーさのバランス。
ついつい手が伸びる、心憎いおやつ豆腐です。

そして最後が、西ジャワのチレボン/Cirebonのタフ・グジロッ/Tahu Gejrot。

タフ・グジロッ Cirebon_West Java, 2019

これもおやつ枠の豆腐料理。

青唐辛子やシャロットが見えますが、このタレ自体は「甘い」んです。
やや旨味を効かせたシロップとも言えそうな、甘いタレがボトルから注がれるその音が、
まるで「Jrot...Jrot...」と聞こえるから、タフ・グジロッと呼ばれているのだとか。
タレの甘さ、シャロットの香味、青唐辛子の爽やかでシャープな辛味と香りの不思議な組み合わせ。
それを、厚揚げというより厚めの油揚げという感じの豆腐がスポンジのように吸収しています。
これもなんかクセになる味なんですよね。

タフ・グジロッ Cirebon_West Java, 2019

ピーナッツソースをかけても、エビのかき揚げと合わせても負けないのは揚げ豆腐だからでしょうね。
インドネシアの豆腐自体がそもそもしっかりした風味がある上に、油を通すことでコクも出ます。
揚げ豆腐が主流なのは、当然保存のという要素が大きいとは思いますが、
食べ方もまた、その揚げた特性を生かしたものになっているのだなあと思います。
(素揚げ豆腐も大好き)