2018/04/23

もやし/Tauge (Toge)

もやし Bandung_West Java, 2018

もやし、お好きですか?
わたしは大好きです。

「もやしっ子」とか言う表現がありましたけど、あれ、失礼ですよね。
もやしは、美味しいし、栄養もちゃんとある。発芽した状態、つまりは生命に満ちあふれているんですから。

まあ、それはともかく。

インドネシア、特に、この西ジャワ地方ではもやしに出会う頻度が高いのです。
特に道ばたで売られているちょっとした軽食におけるもやしの存在感は、なかなかのもの。
インドネシア語でもやしは「タウゲ/Tauge(Taoge)」もしくは「トゲ /Toge」と呼ばれます。
この音の由来は「豆芽」の福建語読み、なのだそうです。
中華系の料理屋でもやし炒めなどがよくあるので、中国由来というのは、そうだろうなという感じ。

読んだ本によると、
数百年もしくはそれ以上前から、
華南地方と東南アジアを行き来していた貿易船には、常に大豆や緑豆などの豆が常備されていて、
それらを発芽させて生食することで、航海中のビタミン不足を防いでいたのだそうです。
欧州諸国の貿易船たちが、やはり航海中のビタミンを補う目的で、
寄港する沿岸部にレモンの木を植えて回っていたと聞いたことがありますが、もやしの方が話しが早いですね。
で、そういう由来だからなのか、東南アジアの特に沿岸地域では、もやしの生食文化が多く見られるのだとか。
とっさに思いついたのはベトナムですが、確かに生のもやしが麺の上に乗っていたりします。


もやし Bandung_West Java, 2018

インドネシアで食されるもやしは、基本的に緑豆もやしです。大豆もやしはそんなに多くは見かけません。
華人たちの食文化圏を別とした場合、もやし率が高いのは、西ジャワ>その他ジャワ地域>バリ、という印象。
あ、ロンボク名物の辛い空芯菜炒めにもやしがあることもありますね。だから、バリの東隣まで、かな。
ただ、これはあくまで印象です。もしかしたら、別の地域でもいっぱいあったのかもしれない。
でも、なにせもやしって、さりげなく美味しく存在する食材なので、認識していない場合も多い気がします。

西ジャワの朝ごはんの定番のひとつ、クパット・タフ/Kepat Tahu。


クパット・タフ屋台 Bandung_West Java, 2018

揚げたてジューシーなお豆腐とライスケーキにピーナッツソースをかけたものなのですが、
そこにも、もやしがたっぷり。


クパット・タフ屋台 Bandung_West Java, 2018

以前記事にした、ガドガド/Gado gadoのような、野菜のピーナッツソース和えには、もやしは必須ですし、
中部〜東ジャワでよく食べられる野菜とココナッツを和えた料理、ウラプ/Urapにももやしが使われます。

ウラップ Banyuwangi_East Java, 2017

また、ソト・クドゥス/Soto Kudusなどのスープのトッピングにも、もやし。

ソト・クドゥス Magelang_Central Java, 2017

東ジャワの黒いスープ、ラヲン/Rawonに使うもやしは、他と違って発芽した翌日のような、短いもの。


ラヲン Probolinggo_East Java, 2017

この短いもやし(というか、発芽緑豆)は、クチャンバ/Kecambahと呼ばれることも。
クチャンバは、もやし全体をさす場合もありますが、どちらかというとこの小さいもやしによく使われます。
それ自体が「芽/新芽」という意味の単語です。


クチャンバ Bandung_West Java, 2018

通常のもやしとはまた違う、カリカリとした歯ごたえがいいアクセントになるクチャンバ。
これがないと、ラヲンは物足りないものになります。

これらのもやしたちも、ほとんどは生、もしくはさっと火を通した状態で使われています。

では、もっと、もやしが主役の料理と言えば。

まずは西ジャワ州のバンドン界隈で見かけるのが、こちら。


ルンピア・バサ Bandung_West Java, 2017

ルンピア・バサ/Lumpia Basah。
クレープのような春巻き生地で、炒めたモヤシとヒカマをふんわりと包んだもの。
写真は、ちょうど真ん中を割り開いたところです。


ルンピア・バサ屋台 Bandung_West Java, 2018

これは炒り卵入りですが、他にコンビーフなど、色々具は増やせます。
ただ、メインはあくまでも「もやし」。


ルンピア・バサ屋台 Bandung_West Java, 2018

歯ごたえを残してさっと炒めたもやしのシャキシャキ感、たまりません。

ちなみに、ルンピアの語源は潤餅、これまた福建語由来になります。いわゆる、春巻きですよね。
マレー半島付近でポピア/Popiahと呼ばれるものと同じルーツだと思われます。
インドネシアで一般的にルンピアと言われるものは、もっと細巻きのもの。


ルンピア(揚げ) Jakarta, 2018

揚げたもの、フレッシュなもの、いずれもそこまでもやし度が高いわけでもなく、
バンドンとその周辺のルンピア・バサが特殊なようです。
中部ジャワのスマランという街がルンピアで有名なのですが、それもこの細巻きタイプ。
美味しいんですよ。そのうち、また食べに行きます。


ルンピア(揚げ) Jakarta, 2018

そして最後に、もやし食いとしての真打ちはこちら。

その名も、トゲ・ゴレン/Toge Goreng。
ジャカルタから少し山側に行った、もやしの産地としても知られるボゴール市の名物です。


トゲ・ゴレン Jakarta, 2018

まあ、これを食べたのは、ジャカルタですが(笑)。

オンチョム/Oncom、又はタウチョ/Taucoの発酵食品ならではの旨味を生かして、
そこにトマトなどと合わせたソースがかかっています。


トゲ・ゴレン Jakarta, 2018

たっぷりのもやしと、黄色いたまご麺、ワケギの葉少々、そしてライスケーキ、というシンプルな構成。
これがね、美味しいんですよ。もやしを食べる喜び(?)に満ち満ちた一皿です。

ただ、ジャカルタでもそれほど数多く見かけるわけでもなく、
バンドンなど、ちょっと離れた地域に来てしまうともうほとんど出会わない一皿でもあるのが残念。


トゲ・ゴレン屋台 Jakarta, 2018
見てください、屋台に用意されたこのもやしの量。

ちなみに、名前にゴレン/Goreng(=揚げる、炒める)とついていますが、実際には少量のお湯で茹でています。


トゲ・ゴレン屋台 Jakarta, 2018
で、じゃあどうして、トゲ・ゴレンと言われるようになったのか、気になって調べてみました。
そして出会った、驚くべき「トゲ・ゴレンの起源」。

トゲ・ゴレンは、ボゴールの地で華人の食文化と欧州の食文化が出会い生まれたものである、という説です。
華人の食文化というのは、もやし、麺、そしてタウチョは言うまでもなく、
明確な裏付けはまだないものの、オンチョムもまた華南由来ではないかと言われている食材であり、
なので、まあ疑う余地もないのですが、欧州とは。欧州の入る余地がどこにあるのか、と思うじゃないですか。

これ「スパゲッティ」に似せたもの、スパゲッティ×トマトソースのイメージ、なのだと言うのです。

えーーーーーー。

トゲ・ゴレンの原型となるものは、18世紀にはこの地域に華人によって持ち込まれていたそうで、
一方、イタリアでトマトソースのパスタが普及したのは、トマトが新大陸から持ち込まれた後の16世紀頃からで、
17世紀後半には、イタリア国外にも広まっていったと言われています。
なので、まあ、時系列的には可能な話しではあるのですが。

トマトソースのスパゲッティって。
えええーーーーー。

18世紀ですから、ジャワを含めたインドネシアはもうオランダ東インド会社の時代ですよね。
オランダ人がトマトソースのスパゲッティを食べたがったんでしょうかね?
ていうか、だったら、もやし、別にいらないんじゃないですかね?


トゲ・ゴレン屋台 Jakarta, 2018
まあ、そのトマトソースのスパゲッティ説の真偽はともかく(納得いってない)、
当初は華人たちの間で食されて、「トゲ・ミー/Toge Mi (Mi=麺)」と呼ばれていたものが、
徐々に現地のスンダ(西ジャワ地方の名称)人たちにも広がり、
彼らの間で「ゲチョ/Geco (=toGe + tauCo)」と言う名で親しまれるようになったのだそうです。
その後、この料理がボゴール名物として定着、
ジャカルタなどから来てこの料理を食べる観光客たちから「トゲ・ゴレン」と呼ばれるようになったのだとか。
どうして、ゴレンなのか。それは火を通す時に使っている鍋がフライパンみたいに見えるから。
つまり、見た目からくる勘違い。
実際、今でも現地のスンダ人は「ゲチョ」と呼ぶし、華人は「トゲ・ミー」と呼ぶのだと言います。

なるほど。

名称については、まあありがちですよね、こういう勘違いから定着してしまうのって。
でもなあ、スパゲッティ説がなあ。ええええええ。

今回は、
トゲ・ゴレンを食べて、その由来を調べて、スパゲッティ説にびっくりして、その勢いで書いた記事です。


もやし Bandung_West Java, 2018

シャキシャキと美味しい、インドネシアのもやし。
さ、今夜も、もやしを食べましょうかね。