2017/08/21

チョト・マカッサル/Coto Makassar

チョト Makassar_South Sulawesi, 2017

バンガイ諸島へ向かう途中で、南スラウェシのマカッサル(ウジュンパンダン)に立ち寄りました。
数時間の滞在ではあったのですが、マカッサルで時間があるとなったらならば、
なにをおいてもまずは、チョト/Coto を食べに行くのがわたしの決まりです。優先順位最上位。

以前、インドネシアのスープについて書いた際にもさっとご紹介したチョト。
牛の臓物を使った、マカッサル名物のスープです。

臓物をカットする Makassar_South Sulawesi, 2017

臓物というと苦手なひともいると思いますが、
このチョトで使うあらゆる部位の内臓は、丁寧に下処理をされているので臭みを感じることもほとんどなく、
むしろ、色んな食感を楽しめるという意味で、お肉だけで食べるのはもったいない気がするほどです。

コロン・ブッタ/Korong Buttaと呼ばれる素焼きの鍋で調理するのが伝統的なチョトの流儀なのだそう。
滋味深くも複雑なその味を生み出すのは、土地の言葉でAmpah patang puloと言われる40種のスパイス。
40種とは。
バワン・メラ、ニンニク、生姜、ピーナッツ、クミリ、ガランガル、コリアンダーシード、クミンシード、
シナモン、丁字、ナツメグ、メース、胡椒、砂糖、塩、赤唐辛子、青唐辛子、タマリンド、
レモングラス、コブミカンの葉、サラムの葉、ターメリックの葉、ネギ、セロリの葉、
そして、内臓を処理するのに石灰。とにかく「たくさん」なのでしょう。

このチョトは、なかなか自分で作ってみるのは大変な気がしますね。

で、きれいに下処理をして臭みを抜いた内臓と、若いパパイヤの実を使って柔らかくした牛肉を、
これらのスパイスと共にしっかりじっくり煮込んだ後に、小さく刻んでいきます。

臓物をカットする Makassar_South Sulawesi, 2017

オーダーする際に、例えばどこの部位は抜いて欲しいとか、肉だけにして欲しい、などの注文も可能です。
(わたしはいつも、全部混ぜにしてもらうのですが…笑)

そして、チョトと言えば、小さなお碗。

チョト Makassar_South Sulawesi, 2017

例えばどこか別の街で、レストランのメニューにあったからとチョトをオーダーしたとして、
そこで、大きなボウルになみなみと入ったものを持って来られたら、わたしはきっとがっかりしてしまいます。
チョトは「こんなに美味しいのにこんなに小さいお碗で、足りないかも…」と思ってしまうくらいがいいのです。

このお碗に、旨味ぎゅうぎゅうのスープを注いで、ネギの葉と揚げたバワン・メラと散らして、いただきます。

チョト Makassar_South Sulawesi, 2017

牛肉と内臓の旨味もちろんのこと、ピーナッツの風味がまた素晴らしく、食欲をそそります。
好みでライムを絞ったり、タウチョのサンバルを加えて味を調整して、もしくは途中で味変して楽しみます。

そして、このチョトと一緒に食べるのがクトゥパッ/Ketupatとブラス/Burasです。

クトゥパッ Makassar_South Sulawesi, 2017

クトゥパッ(マカッサルではカトゥパ/Katupa)は椰子の葉を編んだ中にお米を詰めて茹でたライスケーキ。
インドネシアだけでなく、フィリピンやマレーシアなどでも見られる調理法です。

この椰子の葉の真ん中に切れ込みがあるので、そこをぱかっと割って、ごはんを食べます。

クトゥパッ Makassar_South Sulawesi, 2017

ごはんを食べながらチョトを食べてもいいですし、チョトの中にごはんを入れてしまってもいい。
お好みの食べ方でどうぞ。

そしてもう一つはブラス。

ブラス Makassar_South Sulawesi, 2017

ブラスは、ココナッツライスです。
ココナッツミルクを使って炊いたごはんを、バナナの葉ですこし平たく包んで再び蒸したもの。

ブラス Makassar_South Sulawesi, 2017

旨味ライスケーキですね。こちらを齧りながら、チョトを食べるのもまたよいものです。

こうして、ごはんを食べつつ、お碗の中の具を楽しみ、スープを味わい、
ああどうしようなくなっちゃう、もっとたくさん食べたいのに、おかわりしようかな、とか思い始め、
それでも、最後までスープを飲み切る頃には、なんとなくちょうどいい腹具合になっています。
(とはいえ、3杯おかわりした日本からのお客さんもいましたけどね…笑)

さて、このチョトの始まり。

16世紀前半にはもうあったのではないかという説もあるようですが、実際にはまだよく分かっていない様子です。
サンバルにタウチョを使うあたり中国の影響が見えるとされ、そもそもインドネシアのソト等の汁物が、
17世紀に盛んだった中国からの移民とその影響から生まれたと言われていますので、
なので、チョトもその頃に生まれたのではないかなという気がします。
ただ、その当時でここまで複雑なスパイス使いをしていたのかどうか。
なんとなく、始めはもっとシンプルで、徐々に色んな文化を取り入れつつ、複雑化して行ったように思えたり。
とは言え、西洋との交易品であったナツメグや丁字などを使う辺りは、
古くから航海交易の中継地として栄えたマカッサルという土地柄を反映しているようで興味深いです。

チョト Makassar_South Sulawesi, 2017

マカッサルはチョトに限らず、色んな美味しいものがある土地なのです。
沿岸の街ですので、当然シーフードは美味しいですし、
牛肉使いの上手い民族なのか、牛ベースのスープはこのチョト以外にもまだあるのです。
また、交易地らしく華人たちの食文化もしっかり根付いているようです。
(マカッサルほど道ばたに豆乳売りのスタンドをみかける土地はなかなかない気がします)
なので、本当はもっと色々食べ歩きたいのです。
けれども何故か、いつもマカッサル滞在はごく短時間。
よって「まずはチョトを食べてから」という思考回路である以上、なかなかチョト以外にたどり着けません。
いつか、きちんと時間を割いて、マカッサル及び周辺の南スラウェシ巡りをしてみたいと思います。
(その時もきっと、まずはチョトを食べてから、となるだろうと自信をもって言えますが)


2017/08/20

バンガイ諸島のおやつ

パナダ Banggai Islands_Central Sulawesi, 2017

バンガイ諸島のおしまいに、ちょっとおまけのおやつをいくつか。

芋やバナナを揚げたものも立派なおやつですが、その他に、まず写真のパナダ/Panada。
町のお母さんのお姉さん(隣に住んでる)が作って売っているものです。
スラウェシ各地でよく食べられているものらしく、特に沿岸部では魚を使います。

パナダ Banggai Islands_Central Sulawesi, 2017

外がカリッと揚がったふかふかで微かに甘いパンの中に、魚のフレークが入っているのです。
お母さんのところで、たっぷりお昼を食べた直後だったので、最初は、
「揚げ物かー、重いなー、食べられるかなー」などと内心思っていたのですが、杞憂で(笑)。
この断面見ただけて、カリッとふかふかを思い出して、ほっぺたの内側がきゅーってなります。

もうひとつ、魚のフレークを具にした揚げ物を。

カンジョリ Banggai Islands_Central Sulawesi, 2017

カンジョリ/Kanjoliと呼ばれるこの揚げ菓子、島を移動する船の中で、行商のおばちゃんから買ったものです。
このバンガイ地域の名物らしく、
いつかの独立記念日か何かのイベントで一斉に大量にタンジョリを作り、国内記録を樹立、とかやったそうで。
国内記録と言っても、バンガイの郷土菓子なので、バンガイの記録=国内最高記録なんだと思うんですけどね。

カンジョリ Banggai Islands_Central Sulawesi, 2017

小さな俵型のこのカンジョリ、キャッサバの皮で魚のフレークを包んで揚げたものなのです。
キャッサバの澱粉質のお陰でもちもち。
これを、唐辛子と塩だけで作ったシンプルなダブダブ(サンバル)につけて食べるのですが、
止まらない、止まらない。揚げ物なのに、本当に危険なものばかり。
カンジョリは、その美味しさに、戻って来てから試しに作ってみたりしています。

そしてもうひとつ、さらにまた揚げ物なのですが、村のお母さんの手作りドーナツ。

アポロドーナツ Banggai Islands_Central Sulawesi, 2017

アポロ、とお父さんは言っていました。Apoloかもしれません。

発酵ドーナツかなと思わせる、弾力のある生地に絡めてあるのは、椰子砂糖。
素朴な甘さと、しっかりとした食べ応えで、朝ごはんに熱いお茶と一緒にいただくと最高。
このドーナツを、お母さんは自家製のココナッツオイルで揚げているのです。
インドネシアで一般的に揚げ油として市販されているのは、パームオイルがほとんどなのですが、
お母さんは、パームは油の後味がよくないからと、揚げ物にはココナッツオイルを使うのだそうです。
お陰で、胃にもたれることなく「もう一つ…」と食べられます(そればっかり)。

ということで、中部スラウェシのバンガイ諸島でお世話になったお母さんたちのごはんでした。

キッチン Banggai Islands_Central Sulawesi, 2017

そもそもこのバンガイ諸島というのは、事前に情報がほとんど見つからなかった地域なのです。
ガイドブックには載ってない、
インターネットで検索しても、英/インドネシア/日本いずれの言語でも漠然とした情報しか出てこない、
仕方ないので、現地に行って聞きながら旅をしようか、という具合で始まったのでした。
最寄りの街の空港に着いた段階では、具体的な地名ひとつ知らず、
港で船の時間を聞くにしても「どこに行くんだ?」と問われ「どこに行けるの?」と答える始末。

鮮魚 Banggai Islands_Central Sulawesi, 2017

そんな中で、出会ったひとから少しずつ情報をもらって、目指すべき島の目星をつけていった感じでした。

バンガイ島に着いて、島内を回りたいと流しのバイクタクシーのおじさんを宿の前で呼び止めたのが始まり。
おじさんがお使いものを届けに一旦家に戻った際に会った奥さんに、料理を教えてもらうことになり、
それが「町のお母さん」。
そのお母さんと市場に魚を買いにいった際、偶然に行き会った義理の家族というおじさんが、
「バンクルンという島の村におれの姉さんがいるから行ってみろ」と勧めてくれて、
携帯の電波すら届かないその村を(なので当然何の連絡も入れず)訪れて泊めてもらったのが、
「漁村のお母さん」の家でした。

唐辛子 Banggai Islands_Central Sulawesi, 2017

行き当たりばったり、流れに身を任せる感じで、縁がつながり出会えたお母さんたちのキッチンでした。

昨日も、町のお母さんから電話がかかって来ました。
「また来なさいねー、一緒にまたオニョッ(パペダ)食べようねー」と。
きっと、お母さんたちは、ことあるごとに、
「日本人に料理教えたのよ」「オニョッ作ってあげたのよ」と、ひとに語って聞かせているのだと思います。
微笑ましく、愛すべき、お母さんたち。

島猫 Banggai Islands_Central Sulawesi, 2017

食べ残したものもまだまだあります。いつかまた、お母さんたちに会いに、島に戻りたいなと思っています。

ということで、バンガイ諸島の食卓はここまで。
長々おつきあいありがとうございました。
町のお母さん、村のお母さん、美味しいごはんをお腹いっぱい、ごちそうさまでした。


2017/08/19

バンガイ諸島の食卓⑦

パペダ Banggai Islands_Central Sulawesi, 2017

さて今回は、芋類とはまた別の、もうひとつの主食枠の食べ物について。

パペダ/Papeda、って聞いたことありますか?
サゴヤシの澱粉から作る、糊状の食べ物なのです。
粘度の高い味のない葛湯、みたいな感じだというと想像つきますか(余計分からないですか、笑)。
インドネシアの中でも、スラウェシ、マルク、パプアあたりでしか食べられていないと思います。
そのパペダを町のお母さんが作ってくれました。

ですが、その前に、まずはサゴヤシの澱粉について。

サゴヤシ Banggai Islands_Central Sulawesi, 2017

サゴヤシはパプアニューギニアが原産と言われている椰子で、
スマトラ島からニューギニア島間に位置する、東南アジア島嶼部を中心に植えられています。
幹の中に大量の澱粉を含んでいるのが特徴で、
この澱粉が、米食以前の東インドネシア地域での主食のひとつとされていました。

スラウェシもサゴヤシが多く植えられている土地で、
バンガイ島の北側を回っていた際に、道ばたの水流近くで澱粉採取しているところに出くわしました。

サゴヤシ澱粉採取現場 Banggai Islands_Central Sulawesi, 2017

手前に転がっている丸木がサゴヤシの幹です。

サゴヤシ Banggai Islands_Central Sulawesi, 2017

真っ白。

この真っ白い、幹の内側部分を粉砕器に投入していきます。

粉砕器 Banggai Islands_Central Sulawesi, 2017

で、ここで砕かれたサゴヤシの繊維が出て来るところに、ひたすら水を流す。

サゴヤシ澱粉採取 Banggai Islands_Central Sulawesi, 2017

この水を流している部分の下に、この繊維に含まれていた澱粉質があつまっていく仕組みです。

サゴヤシ澱粉採集 Banggai Islands_Central Sulawesi, 2017

で、この澱粉質を、今度はわきの溜め池に流し込みます。

サゴヤシ澱粉採取 Banggai Islands_Central Sulawesi, 2017

その溜め池、たっぷり水を張っているように見えますが、水は徐々にその先に流れるようになっていて、
一番手前の大きなスペースは、ほとんどが沈殿した澱粉質なのです。

サゴヤシ澱粉採取 Banggai Islands_Central Sulawesi, 2017

手を入れると、ごくごく浅く張った水の下にたっぷり分厚く、澱粉が沈殿しています。

サゴヤシ澱粉 Banggai Islands_Central Sulawesi, 2017

この澱粉を更に乾燥させて、サゴ粉として東ジャワのスラバヤに出荷しているのだそうです。
その先、何になるの?と聞いてみましたが、
「さあなあ、もうサゴって名前じゃないものになってるかもなあ」という答え。
色々な加工品となって、販売されるのでしょう。

サゴヤシを使った食品というと、シノレや板状にして焼いたものなど、食事の際に食べるものの他、
キャッサバから作られるタピオカ同様、粒状になってデザートに使われるサゴパールなどもあります。

サゴパール Banggai Islands_Central Sulawesi, 2017

別の島で泊めてもらった村長さんの家にあったものなんですが、なんともクラシックなパッケージ(笑)。

サゴパール Banggai Islands_Central Sulawesi, 2017

食べ方などは、タピオカと同じだそうです。

そして、サゴヤシクッキーのバゲア/Bageaも、東インドネシアでよく目にします。大好物。

バゲア Bandung_West Java, 2017

このバゲアは、バンガイ諸島の帰りがけに、南スラウェシから買って帰って来たもの。
ボリっとした歯ごたえと、それでいてほわんと口の中でゆるくとろける感じが特徴の、素朴な焼き菓子です。

バゲアとバンケッ Sangir Island_North Sulawesi, 2015

一方こちらは、北スラウェシのサンギル島で買ったバゲアとバンケッ/Bangket。
棒状の方が、バゲア。
平たい方がバンケッで、こちらもサゴ澱粉を使って、スパイスなどを足した焼き菓子です。

もう一つ、サグ・レンペン/Sagu Lempengというのもあります。
サゴヤシの澱粉をかりっかりの板状に乾燥させたもの。

サグ・レンペン Wakatobi_Southeast Sulawesi, 2015

コーヒーや紅茶などに浸して、ふやかしながら食べるもので、カチカチに硬い、保存食のようなものでしょうね。

さて、そして、肝心のパペダです。

バンガイ諸島では、パペダはオニョッ/Onyopと呼ばれるのだそうです。
通常、汁気のものと一緒に食べられることが多いパペダ。
酸っぱい魚のスープを作った際に、一緒に用意してもらいました。初パペダ、ひとり静かに大興奮。

サゴ澱粉 Banggai Islands_Central Sulawesi, 2017

市場では、このおからみたいなモロモロの状態で売られています。

これを買って来て、まずは適量水を足して異物が入っていないかを漉して確認します。

サゴ澱粉 Banggai Islands_Central Sulawesi, 2017

キレイな状態になったサゴ澱粉。余分な水分は一旦捨てます。

サゴ澱粉 Banggai Islands_Central Sulawesi, 2017

ここからは、一気です。
(というか、パペダの準備はあっという間なのです)

撹拌作業がしやすいように、床にどんとボウルを置き、固まった澱粉を適当にほぐします。

パペダ調理 Banggai Islands_Central Sulawesi, 2017

で、そこに熱湯を適量注ぎます。

パペダ調理 Banggai Islands_Central Sulawesi, 2017

そして、すかさず、とにかく間髪入れずに、ぐるぐるぐるぐると撹拌していきます。

パペダ調理 Banggai Islands_Central Sulawesi, 2017

パペダ調理 Banggai Islands_Central Sulawesi, 2017

パペダ調理 Banggai Islands_Central Sulawesi, 2017

パペダ調理 Banggai Islands_Central Sulawesi, 2017

パペダ調理 Banggai Islands_Central Sulawesi, 2017

白濁していたのが、徐々につやのある半透明状になっていくの、お分かりいただけますか?
ぐるぐるぐるぐる、たぷたぷたぷたぷとかき混ぜて、均一な糊状になったら出来上がり。
熱々のうちにたべるのが美味しいので、大急ぎで食卓へ。

パペダ Banggai Islands_Central Sulawesi, 2017

お箸を刺して。

このお箸を両手に一本ずつもって、ぐるぐるぐるぐる!っとパペダを巻き取るのです。

パペダ Banggai Islands_Central Sulawesi, 2017

楽しいです、これ。お母さんに「やらせて!」とねだりました。

で、巻き取ったのを、ぽとんとスープに落とします。

パペダ Banggai Islands_Central Sulawesi, 2017

で、両手のお箸で一口大にちぎっていくのです。

パペダ Banggai Islands_Central Sulawesi, 2017

味のあるものではないんです。ただ、つるんとしたのどごしがなんともクセになる。
食べてはぐるぐる巻き取って、また食べて、ぐるぐる巻き取って。
お母さんは「ごはんも食べなさい」と言ってくれたのですが、
「米なんてジャワでも食べられます!」と、断固パペダ。わたしはかなり好きです、これ。

南スラウェシだと、このパペダは魚/鶏出汁にたっぷり野菜を入れたスープで食べるのだそうです。
また、北スラウェシでは、椰子砂糖を使って甘く仕上げ、小さな塊にココナッツをまぶして食べるのだとか。
オンゴル・オンゴル/Ongol-ongolと言われるこのスイーツ、ちょっと気になりますよね、いつか作ってみます。

パペダ Banggai Islands_Central Sulawesi, 2017

食べてみたいなあと思っていたものを食べられて大満足。
つるんとしたパペダは、小さい子からお年寄りまで、みんなの大好物なのだそうです。
「オニョッ作るの!」と、準備中からみんな待機。
出来上がりを、いそいそわいわい食べるのもまた楽しく。いい経験になりました。


2017/08/18

バンガイ諸島の食卓⑥

サランガル Banggai Islands_Central Sulawesi, 2017

島の食卓の、主食のお話を少し。

今でこそ、基本の主食は白米となっていますが、バンガイ諸島は元々稲作の難しい土地です。
一番大きい島の内陸に、ごくごくわずかな面積の水田を目にしましたが、到底地域を賄えるものではなく、
基本的に、米は地域外からの「輸入」となっています。

で、米食が一般化する以前のバンガイ地域のひとたちの主食はなんだったのか。
答えは「芋」なんですね。

ウビ・バンガイ Banggai Islands_Central Sulawesi, 2017

現代の食卓においても、芋はとても大事な存在。

キャッサバ、タロなども並ぶ市場ですが、その中で抜群の存在感を見せていたのがこの大きなずんぐりした芋。
ウビ・バンガイ/Ubi Banggaiと呼ばれる芋です。
バンガイ諸島でしか目にしない品種らしく、遠くマルク地方まで出荷されたりするのだそうです。

ウビ・バンガイ Banggai Islands_Central Sulawesi, 2017

丸みがあって、キャッサバやタロよりずっとなめらかな肌をした芋。

町のお母さんに、主食としてのウビ・バンガイ料理、サランガル/Salanggarを作ってもらいました。

ウビ・バンガイ Banggai Islands_Central Sulawesi, 2017

シャリシャリと外皮をむくと、真っ白で少しぬめりのある身が。
生で齧ってみたところ、ぬめりとシャキシャキした歯ごたえは長芋にも少し似た感じです。

皮を剥いたら、大きめに切り分けます。

ウビ・バンガイ Banggai Islands_Central Sulawesi, 2017

やっぱりまな板は使いません。というか、そもそもないんですけどね。

ウビ・バンガイとロカ・パウ Banggai Islands_Central Sulawesi, 2017

で、この日は、ウビ・バンガイと一緒に、ロカ・パウ/Loka Pauと呼ばれる青バナナも入れてくれました。

ロカ・パウもバンガイ地域特有の品種なのだそうで、青い状態で市場に並んでいました。
以前、バナナの話しでも書きましたが、とにかく、バナナの種類が多すぎるんです。
そして、みんな、バナナのことに細かすぎる(笑)。
あのバナナはどうだ、このバナナなはこうだ、それぞれ一家言持っているんですよ。
わたしにしたら「みんなだいたい同じ感じのバナナ!」なんですけどね。

ロカ・パウ Banggai Islands_Central Sulawesi, 2017

とは言え、バナナチップス以外で、青バナナを調理するところをみたことがなかったので、いい機会でした。

ロカ/Lokaとは、バンガイの言葉でバナナという意味なんだそうです。
加熱した青いロカ・パオは微かにバナナらしい酸味をもちつつ、確かに芋に似た存在になります。

ロカ・パウ Banggai Islands_Central Sulawesi, 2017

ということで、あとでおやつにする分も含めて2房買って来たのでした。

これもしっかりと皮を剥いて、食べやすい大きさに切ります。

ロカ・パウ Banggai Islands_Central Sulawesi, 2017

続いて、ココナッツミルクを準備。
たっぷり使います。

ココナッツミルク Banggai Islands_Central Sulawesi, 2017

熟れたココナッツの白い果肉を削り、そこに水を加えてよく揉み出したものがココナッツミルクです。

これを、さきほどのウビ・バンガイとロカ・パオに加え、砂糖適量と塩少々で煮込みます。

サランガル Banggai Islands_Central Sulawesi, 2017

ぶくぶく煮えてきて、アクが出てきますが、ええ、ここでもアクはとらずにそのままです。

サランガル Banggai Islands_Central Sulawesi, 2017

柔らかく煮える頃には、ブクブクしていたアクもどこかに消えて。というか、同化して。

サランガル Banggai Islands_Central Sulawesi, 2017

煮上がったウビ・バンガイは親芋のような感じ。
ココナッツミルクが程よく味に深みを出していて、美味しいです。
これに、魚のスープなどをかけていただきます。

村のお母さんは、サランガルではなく、単に塩水で煮たウビ・バンガイを出してくれました。

茹でウビ・バンガイ Banggai Islands_Central Sulawesi, 2017

これも、美味しいです。飽きがこない、いかにも主食にふさわしい食べ物ですね。

もう一つ、芋類を使った主食枠の食べ物として、シノレ/Sinoleというのがあります。
村のお母さんが作ってくれました。

シノレ Banggai Islands_Central Sulawesi, 2017

南スラウェシなどでシノレというと、サゴヤシの澱粉とココナッツを合わせたものを指すようですが、
ここバンガイ諸島では、キャッサバを使います。
バンガイの言葉で、シノレはソレ/Soleと呼ばれるそう。すり下ろす、という意味だそうです。

キャッサバをすり下ろして作るものとして、
以前、南東スラウェシの島々で食べられているカスアミについて書きましたが、
シノレは蒸すのではなく、鍋で炒るようにして火を通すのが特徴です。
キャッサバをすり下ろし、水分を絞って、一旦天日干しで乾燥させ、
その後、ココナッツと混ぜ合わせたら水適量を加えつつ、鉄鍋で火を通していきます。

シノレ Banggai Islands_Central Sulawesi, 2017 

お母さんのシノレには椰子砂糖が少し足してあり、ほんのりとした甘みと炒ってできる微かな焦げ味が美味。
これは、一度、自分の家でもつくってみたいなと思います。

ちなみに、先のカスアミですが、普通はあれこれ混ぜないようなのですが、
砕いた椰子砂糖を混ぜて作った「ククス/Kukus」と呼ばれるものもこの地域で目にしました。

さて、最後に、主食ではないですが、おやつ枠で。
揚げウビ・バンガイと、揚げロカ・パウ。

揚げウビ・バンガイ Banggai Islands_Central Sulawesi, 2017 

外側カリカリ、中ホクホク。ああこれは危険。

揚げウビ・バンガイ Banggai Islands_Central Sulawesi, 2017 

添えているのは、トラシを使ったダブダブ(バンガイではサンバル全般をダブダブと呼びます)
唐辛子、バワン・メラ、ニンニク、トマト、トラシを炒めて、塩を加えつつ潰していったもの。

そして、揚げロカ・パウ。
まず、皮を剥いたものを、適当な厚みにスライスします。

ロカ・パウ Banggai Islands_Central Sulawesi, 2017

3枚くらいですかね。

そして、油でじゅーーー。

揚げロカ・パウ Banggai Islands_Central Sulawesi, 2017

きつね色になるまで揚げていきます。
ちなみに、お母さんは「赤くなるまで」と言いました。表現も色いろ。

揚げロカ・パウ Banggai Islands_Central Sulawesi, 2017

赤く揚げ上がった青いロカ・パウ。

これにつけたダブダブ(サンバル)がまた美味しかったのです。
ピーナッツを使ったダブダブ・カチャン。

ダブダブ・カチャン Banggai Islands_Central Sulawesi, 2017

唐辛子、バワン・メラ、ニンニク、トマト、塩に、揚げピーナッツを加えてなめらかに潰します。

それを、油で炒めていきます。

ダブダブ・カチャン Banggai Islands_Central Sulawesi, 2017

じゅーーー。
水分が飛ぶまで、気長に。

ダブダブ・カチャン Banggai Islands_Central Sulawesi, 2017

ほら、美味しそう。

ダブダブ・カチャン Banggai Islands_Central Sulawesi, 2017

ホクホクの揚げロカ・パウに辛味の効いたダブダブ。止まらない、止まらない。

これもまた、自分で作ってみますね。

ウビ・バンガイは4玉ほど買って、バンドンのわが家に持ち帰ってきました。試しに植えてみます。
とりあえず、今夜はウビ・バンガイを入れた豚汁を作ってみるつもりでいるのです。