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ロンタルの木 Rote_East Nusa Tenggara, 2016 |
ここ数年のあいだ偏愛してきた木、ロンタル。満を持して(?)のご紹介です。
なんでこんなに惹かれるのかわからないのですが、ロンタルの木が大好きで、
今回の旅行先だったロテ島も、そもそも一番最初に行きたいと思ったのは「ロンタルがあるから」でした。
思い入れの分だけ長めの記事になりますので、お時間ある時にどうぞ(笑)。
さて、ロンタル。
英語ではPalmyra、日本語ではパルミラヤシもしくはオウギヤシと言われています。
原産は熱帯アフリカ、東南アジアからインドにかけて栽培されている椰子の一種です。
カンボジアのアンコールワット周辺でも、いっぱい目にしました。
遺跡と共にポストカードめいた風景を作り出している椰子の木、あれがロンタルです。
インドネシアでは東ヌサトゥンガラ及び南スラウェシに多く、
乾燥が強い土地でよく育つため、石灰質の島にも沢山植えられています。
逆に、湿度の高い森や山側ではあまり見かけず、
その辺りにはアレン/Arenというサトウヤシが多くなります(アレンのことは、また後日まとめますね)。
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ロンタルの森 Rote_East Nusa Tenggara, 2016 |
ロンタルは、ジャワからバリにかけてはシワラン/Siwalanとも呼ばれ、
インドネシア語のロンタルは、ジャワ語のRon(葉)+Tal(パルミラヤシ)から来ているのだとか。
ちなみに、Talはインド名でもあり、
恐らくはそちらが先でジャワに入って来たのが、その後インドネシア語化したのでしょう。
そのロンタル。今回訪れたロテ島や、その隣のサヴ島では「生命の木」とも言われ、
島の暮らしのあらゆる部分で、ロンタルの木が活用されています。
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黄色:サヴ 水色:ロテ 赤:クパン |
食べ物についてのブログですので、まずはその「食」における活用について。
ロンタルと言えば、砂糖、です。
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ロンタルの砂糖3種 |
パームシュガーですね。樹液を煮詰めた液糖、固形と粉末の3つのタイプがあります。
砂糖を作るためには、まずは樹液採取。
木のてっぺんにある花軸を削ぎ、そこから滴る樹液をバケツにため、日に2度(朝と夕)回収します。
高いもので樹高30mにもなるというロンタルの木ですが、その木のてっぺんまで登るのは男性の仕事。
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ロンタル Rote_East Nusa Tenggara, 2016 |
足場がついてるの、わかりますか?
この足場もまたロンタルの葉と葉軸を活用したものです。
人によりますが、一人前ともなれば30〜50本の木を日に2度ずつ毎日登るのだそうです。
かなりの重労働。
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樹液採取 Savu_East Nusa Tenggara, 2011 |
この写真はサヴ島で樹液採取の見学をさせてもらったときのもの。
比較的若い木で樹高もそれほど高くなかったので、下から見ることが出来ました。
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樹液採取 Savu_East Nusa Tenggara, 2011 |
おじさんが手で押さえているのが花軸を束ねたもの。この先端をナイフで削ぎ樹液が出やすくします。
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樹液採取 Savu_East Nusa Tenggara, 2011 |
削いだ花軸たちに樹液を受け止めるバケツ(これもまたロンタルの葉製)を被せ、
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樹液採取 Savu_East Nusa Tenggara, 2011 |
そのバケツにまたロンタルの葉で編んだバスケットをかぶせて仕込みは終了。
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樹液採取 Savu_East Nusa Tenggara, 2011 |
半日後にまた木にのぼり、回収します。
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ニラ Savu_East Nusa Tenggara, 2011 |
こうして採った樹液がニラ/Niraと呼ばれるもの。
うっすらと白濁し、微かに発泡味のある、甘い樹液です。
発泡しているのは発酵が始まっているから。少し乳酸風の味がするのもそのせいでしょう。
砂糖を作る場合は回収してそのまますぐに火にかけて煮詰めていくのですが、
ここで火にかけずに発酵が進んだものがトゥアック/Tuakと呼ばれるパームワイン。
更に発酵すると、お酢になります。
樹液を煮詰めていく作業は、今度は女性たちの仕事。
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かまど小屋 Rote_East Nusa Tenggara, 2016 |
庭の片隅から煙が上がっている家があれば、それは液糖を作っているしるし。
かまど小屋があります(小屋の屋根もまたロンタルの葉)。
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液糖のかまど Rote_East Nusa Tenggara, 2016 |
2穴のかまどの下には、ロンタルの葉軸の根元側を燃料として赤々と火が焚かれていました。
この時(12月末)は既に雨季に入っていたため、樹液収集の時期はほぼ終了。
最盛期と違い数本からのみ採っていたため、数日に渡ってその都度樹液を足しながら液糖作りをしていました。
その数本もそのうちに終了するのでしょうね。
樹液採取と液糖作りは基本的に乾季の間の仕事となります。
雨季になると雨水が混ざってしまうから、というのももちろんありますが、
それ以前に、雨で濡れた状態であの高い木に登るのは、あまりにも危険です。
なので、雨が降り始めてからの3〜4ヶ月間は砂糖作りはお休み、お米作りの季節になるのだそうです。
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液糖のかまど Rote_East Nusa Tenggara, 2016 |
そんなわけで、液糖作りにぎりぎり間に合った今回のロテ島訪問。
通りすがりながら、数件のお宅にお邪魔してかまどを見せてもらい、色々教えてもらった上に、
5Lのポリタンク1つ分を売ってもらいました。
液糖はそのまま、グラ・アイル/Gula Air(液糖)と呼ばれています。
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ロンタルの液糖 Rote_East Nusa Tenggara, 2016 |
ロンタルの液糖は、わたしが住んでいる西ジャワではまず手に入らない貴重品。
なので、大事にもって帰ってきましたよ、5L。
同じロンタルの液糖でも、ロテ島のものとサヴ島のものではまた違いがあります。
ちょうどクパンの友人がサヴの液糖も分けてくれたので食べ比べてみました。
味に関しては、恐らく樹液採取のタイミングだったりで差が出るでしょうし、
単純に島と島の違いとして比較することは出来ないと思うのですが、
サヴの方が粘度が高く、糸を引くくらいにとろっとしているのが特徴です。
対するロテの液糖は緩やかな蜂蜜、という感じです。
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ロテの液糖 |
こうして手に入れたロテの液糖の味とは。
蜂蜜のようでもあり、キャラメルのようでもあり、レモンシロップのようでもあり。
とても複雑な味なのです。
口に含んだ最初に感じるのは、キャラメルに近い若干塩気すらあるような味なのですが、
そのすぐ後を追うようにして、ロンタルの樹液でも感じた酸味が立ち上がってきて、爽やかな後味。
全く精製されていない、白砂糖の対極にあるような、色んな雑味が混ざったこの味が、わたしは大好きです。
この液糖を作っていたお家の奥さんとご主人は、自分たちも毎朝液糖を飲むのだそう。
身体にいいし、胃炎などはすぐ治るよ、とご主人。
このお家に限らず、ロテでは毎朝液糖を摂っている人はたくさんいるようです。
一方のサヴでは、米が育ち難い土地でもあることから、以前はロンタルの液糖が主食だったのだと聞きます。
今でも、米、トウモロコシに次ぐ代替主食の位置にあるようですし、
その昔、サヴを訪れたクック船長はそのロンタルの液糖の美味しさに滞在を延ばしたとかなんとか。
そんな液糖は、島内の市場などで売られているほか、ロテから船でスラウェシまで売りに行く人たちもいます。
また、ソピ/Sopiと呼ばれる地元の蒸留酒の原料として買い付けられる場合もあるそう。
ロンタルというのはなかなかに実利をもたらす農作物なのだと言います。
さて、その液糖から作られるのが、固形の砂糖と、粉末の砂糖。
固形の方は、グラ・レンペン/Gula Lempeng、粉末の方はグラ・スムット/Gula Semutと呼ばれます。
レンペンは平たい、スムットは蟻、という意味です。
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椰子の実の鉢 Kupang_East Nusa Tenggara, 2016 |
グラ・レンペンとグラ・スムットを作る際に使う椰子の実の鉢を、
クパンに住むロテ人のお家で見せてもらいました。
この鉢の中に液糖を入れ撹拌し、輪にしたロンタルの葉の枠に流し込んで固めたのがレンペン。
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レンペンの輪 Kupang_East Nusa Tenggara, 2016 |
旅の間、丸い板状になった砂糖を小さく割って時々食べていました。チョコレートのように。
暑さや移動でたまった疲れが癒されるような、しみじみと沁みていく美味しさなのです。
たまたまロテ島で一緒になったカナダ人女性にグラ・レンペンを一つ分けてあげたところ、早速味見をし、
「あら、メープルシュガーみたい」と言いました。
確かに、作っていく過程も含めて、似ているかもしれません。
さて、グラ・レンペン用に固い液状になったところから、
また更に撹拌を続け、すっかり固まったのを細かく粉末にしたのが、スムットとなります。
なんで「蟻」なのか。
蟻が巣を作る時に出す土のかたまりに似ているから、なんだそうです。
実は、このクパンのロテ人のお宅には、ロンタルのお酢をもらいに行ったのでした。
液糖にするために煮詰めず、採取したニラをそのまま置いておくと発酵が進み、最終的に酢になります。
その酢を少し分けてくださいな、とお邪魔したところ、
これまた5Lのポリタンクを「いいから全部持っていけ」と分けてくれました。気前のいいこと。
これまた西ジャワ的には貴重なものなので、ペットボトルに移して少し持ち帰ってきました。
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ロンタルの酢 |
色味は液糖と変わらないのですが、さらさらとした液状で、はっきりと発酵臭を感じます。
舐めてみると、なんとも丸みのある柔らかいお酢。
酸味の尖りがなく、ロンタルの甘さがふんわりと残っています。
ロンタルのお酢で魚を料理したりするんだよ、とは、ロテのお母さんの弁。
いつか、ロテのお母さんの所にホームステイして料理を教えてもらいたいものです。
さて、樹液とその加工物以外の可食部分と言えば、実ですね。
(新芽も食べるところがあると聞いたのですが、未確認なのです)
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ロンタルの実 Kupang_East Nusa Tenggara, 2016 |
小さな椰子の実のようでもありますが、割ると中からジェリー状の果肉が出てきます。
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ロンタルの実 Kupang_East Nusa Tenggara, 2016 |
微かな甘さと弾力のある食感が美味しいです。
さて、食材としてのロンタルを長々と書いてきましたが、
せっかく(?)なので、食材として以外のロンタルの活用についても駆け足で説明させてください。
「生命の木」と言われるだけのことはあり、捨てるところのない、その全てが活用されるのがロンタルなのです。
まずは、その葉。
樹液を煮詰めるかまど小屋の屋根もそうですが、乾燥させて屋根を葺くのに使われます。
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ロンタルの林の中のロンタルの家 Rote_East Nusa Tenggara, 2016 |
このお家は、壁までロンタル。回りもロンタルに囲まれていて、なんだかツワモノ感。
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ロンタルの葉のカゴたち Rote_East Nusa Tenggara, 2016 |
そして、カゴたち。同じ感じでゴザなどの敷物も編みます。
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ロンタルの葉 Savu_East Nusa Tenggara, 2011 |
では、葉を舟形にしたこれは何でしょう。
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製塩 Savu_East Nusa Tenggara, 2011 |
塩を作るのに使っていたのでした。
海水を注ぎ、水分を蒸発させて結晶化させます。
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塩 Savu_East Nusa Tenggara, 2011 |
塩を入れるバケツもロンタルの葉(ハイ/Haikと呼ばれます)。
その他、ロテの男性が民族衣装を着用する際に被る帽子もロンタルの葉から作られていたり、
ロテ〜ティモール島で使われるササンドという楽器もまた、ロンタルの葉を活用したものだったりします。
そもそもこのロンタルの葉というのは、硬くて丈夫。
その昔は文書を記す素材として使われていました。貝多羅葉と言われるものですね。
西ジャワ地方の慣習村のような所で見られる古文書も、ロンタルの葉が使われています。
また、バリ島は今でもお祝いの際に掲げる飾りなどにロンタルの葉を頻用し、
それ用の素材として、ロテの村から葉っぱをバリに出荷していたりもするのだそうです。
そうして葉の部分を使った、その残りの葉軸の部分を家の垣根に活用しているのをロテで沢山目にしました。
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葉軸の垣根 Rote_East Nusa Tenggara, 2016 |
この垣根にするために切りそろえた葉軸の根元の部分は、樹液を煮詰めるかまどの燃料です。
木そのものは、まっすぐに伸びた丈夫な建材としても使われます。
全ての部分が余すことなく活用されるロンタルの木。
東ヌサトゥンガラの乾いた島に生きる人たちにとって、生活に密着し共に生きていく植物なのです。
最後にもう一つ、おまけ。せっかく(??)なので、カンボジアのロンタル砂糖を。
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ロンタル砂糖 Siem Reap_Cambodia, 2014 |
アンコール遺跡の並ぶシェムレアップ郊外で、ロンタルの樹液を煮詰め型に入れて売っている一角がありました。
なにせ、ロンタル好きなものですから、そういうのは見過ごせず、立ち寄って見学。
(ミャンマーでもロンタルだ!と停止したことがあります)
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ロンタル砂糖 Siem Reap_Cambodia, 2014 |
煮詰めてだいぶかたくなったものを、やはりロンタルの葉で作った型に流し込んでいました。
輪の作り方は同じですが、カンボジアのものはだいぶ小さいですね。
これもいわゆる、グラ・レンペンです。この時も、旅行中時々この砂糖を齧っていました。
ということで、これで終わりにします。
ロンタル愛が溢れてしまうので、書きだしたらキリがない。
なんでこんなにロンタルが好きなのかわからない、と最初に書きましたが、
この木の、島の人々の暮らしに密着しているその感じが、なんとなく好きなのかもしれません。
共に生きていく植物としての、ロンタル。
すっと高く伸びて、今日もザワザワと風に葉を揺らしているのでしょう。
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ロンタルの木 Rote_East Nusa Tenggara, 2016 |