2025/11/02

アチェの食卓①

グライ・クルマ Aceh_North Sumatra_2025

アチェに行きました。
インドネシアの最西端に位置し、古くから西側との交易地として栄えた地。


そのアチェで、朝食に食べたのが写真の一皿。

アヒルのブンブ・プティ/Bumbu Putihと書かれていました。
プティは白という意味で(実際の見た目は茶色いですが)、
キャンドルナッツやニンニクなどを使い、赤い唐辛子やターメリックなどを使わないことを表しているのだと思います。
一口食べた瞬間、ああこれはもう南アジアの味じゃないか、と思いました。
馥郁と鼻に抜けるスパイスの香りとココナッツのコクが、クセの強いアヒルの肉の旨味とマッチしていて、感動的でした。

調べると、ドライハーブはシナモンや八角、カルダモン、コリアンダーシード、
そこにニンニク、キャンドルナッツ、グリーンチリを合わせて、カレーリーフなどのハーブで香りづけするのだとか。
そして、ブンブ・プティはグライ・クルマ/Gulai Kurmaという名もあるようです。
Gulaiは以前、西スマトラの記事でも書きましたが、ココナッツミルクとスパイスで煮込んだカレーのようなもの。
クルマは、なんだかインドのコルマ/Kormaを思わせて、やっぱり南アジアの雰囲気。

実際、アチェの料理はとても南アジアに近いと感じます。それも、スリランカや南インドの味に。
ドライスパイスに加えて、カレーリーフやパンダンリーフを多用することからくる印象だと思います。

カレーリーフ Aceh_North Sumatra_2025

位置的に見ても、歴史的に見ても、西側から多大な影響を受けてきた土地ですので、
料理の中に南アジアの気配を感じることは不思議ではありません。

とはいえアチェでは、マスタードシードはコリアンダーシードに、
タマリンドはアサム・スンティ/Asam Suntiと呼ばれるビリンビ(ナガバノゴレンシ)の塩漬けに、
そして、ダールはココナッツに、と置き換わりますが。

コリアンダーシード Aceh_North Sumatra_2025

アサム・スンティ Aceh_North Sumatra_2025

民家の庭先には、カレーの木とビリンビの木が植えられ、この二つがアチェの食卓に欠かせないのだと伺えます。
カレーリーフはアチェではテムルイ/Temuruiとも呼ばれます。
南アジアでは一般的なこのハーブも、インドネシア国内で多用するのはアチェくらいではないかと思います。

カレーの木  Aceh_North Sumatra_2025

ビリンビの木 Aceh_North Sumatra_2025

ビリンビについて少し触れておきますね。
緑の小さなこの果実は、スターフルーツの仲間。でも、すっっっっっごく酸っぱいのです。歯に染みるほど。
その酸味を生かし、インドネシアの他の地域でも、スープなどの酸味付けに使われることがあります。

ビリンビ Aceh_North Sumatra_2025

このビリンビを、天日干しと塩漬けを3日繰り返してできたのがアサム・スンティ。
あまりドライになっても美味しくないそうで、ほどよくしっとりしたのが好まれるそうです。

アサム・スンティ Aceh_North Sumatra_2025

朝ごはんを食べた帰り道で、ちょうどアサム・スンティを干しているのを見かけました。
手前から、1日目、2日目、3日目。だんだん色が変わっていくのがわかりますね。
(椰子の葉を編んだ敷物も素敵です)
出来上がりのアサム・スンティは、日本の昔ながらの酸っぱい梅干しによく似た味がします。

このアサム・スンティはアチェの味を構成する大事な要素の一つ。
酸味使いは限定的になりがちなインドネシアにあって、これほど幅広く酸味を活用する地域も珍しいです。

アチェ滞在中にとても気に入った一皿があります。
クア・プリエッ・ウ/Kuah Pliek Uと呼ばれる、野菜をたっぷり使ったスープです。

クア・プリエッ・ウ Aceh_North Sumatra_2025

クアはスープ/汁を意味し、プリエッ・ウはココナッツオイルの搾りかすを発酵させたものを意味します。
アチェの言葉で、ココナッツは「ウ」なんです。かわいいですよね。

プリエッ・ウ Aceh_North Sumatra_2025

このプリエッ・ウ、小さな小さなひとかけらを口に含むだけで、それはそれは強烈な味と香りが口腔に広がります。
ココナッツの油脂が持つ独特の香味と、発酵由来の酸味を帯びた旨味。
そして、芳香と異臭のギリギリのキワを攻めるような、インパクトのある香りなのです。
これが、アサム・スンティを含むその他のブンブやスパイス、そして柔らかく煮えた野菜と合わさることで、
なんとも優しく染み入る、味わい深いスープになるのです。

クア・プリエッ・ウ Aceh_North Sumatra_2025

朝ごはんでも食べられるような、
あるいは味噌汁的に、毎日の食卓にあってもいいんじゃないかというくらいの滋味な美味しさ。
あの強烈なプリエッ・ウが、と思うほどです。

アチェ料理の食堂に行った時、パダン料理の食堂のようにずらっと皿を並べて出してもらえました。

アチェ料理 Aceh_North Sumatra_2025

全体的に茶色いですが、ここは「茶色いは美味しい」の法則発動の場です。どれも本当に味わい深い。
アチェの料理は概ね、複雑で重層的な風味を持ちながらも、角がなくて優しい印象で、白いご飯がとの相性も抜群。
インド洋に向かう土地柄、そして訪れたのも海辺の街バンダ・アチェだったので、海産物が充実しています。

貝のグライ Aceh_North Sumatra_2025

この貝のグライにうっとり。小粒の貝なのですが、旨みが素晴らしかった。

そして、アヤム・ゴレン/Ayam Goreng(鶏のフライ)は、たっぷりのカレーリーフと共に揚げられています。

アヤム・ゴレン Aceh_North Sumatra_2025

カリカリの葉っぱの香りが、とにかく食欲をそそるのです。
アヤム・ゴレンはもう全部これでいいよ、と思うくらいに好きな味でした。

それからもうひとつ、アチェと言えば。

ミー・アチェ/Mie Aceh。

ミー・アチェ Aceh_North Sumatra_2025

ホット&スパイシーなソースが絡んだ麺に、カニ。
具材は、カニやエビ、シーフードミックス、そして牛肉から選べるのですが、
わたしは、このソースに海鮮の風味が合うと思っているので、そしてやっぱり美味しいしでカニを選びがちです。
初めてアチェに来た時に、泊まったホテルの前の屋台で人生初のミー・アチェを食べ、
その時に「カニ2杯入ってる」と感動したのですが、時を経てのこのミー・アチェも2杯入っていました。
オスとメス(卵あり)それぞれ。うふふ。

わたしの中で、アチェのごはんはもっと辛い印象だったのですが、今回行った限りではそうでもなく、
それよりも、このスパイスとココナッツの組み合わせに酸味が入ることで生まれる軽やかさに夢中でした。

アチェ料理 Aceh_North Sumatra_2025

写真を見返しただけでも、味を思い出してお腹が鳴りそうなアチェの料理。
そんなアチェの家庭料理を、地元のお母さんたちに習ってきた時のことを、次回に。